2019年03月24日更新

晩夏の聖処女

  • 難易度:★★★★★|
  • 人数:1人~3人|
  • プレイ時間:8時間以上(ボイスセッション)

▼あらすじ
探索者達は神父、刑事、記者だ。
3人とも秘密を抱えている。ある夏の終わり、シスター失踪事件を追う刑事は、神父と記者のいる教会へと向かう。
事件を解決するために。
いま、地獄の一週間が始まる。

▼レギュレーション
[舞台]
現代日本、秘匿ハンドアウト式
[推奨技能]
ある程度の戦闘技能、精神分析
[PL人数] 3人(タイマン改変可能)
[セッション時間]
ボイス:タイマン改変なら6時間~、3PLならばRP次第で10時間~

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pixiv版(加筆修正あり)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10768403

▼あらすじ
探索者達は神父、刑事、記者だ。
3人とも秘密を抱えている。ある夏の終わり、シスター失踪事件を追う刑事は、神父と記者のいる教会へと向かう。
事件を解決するために。
いま、地獄の一週間が始まる。

▼レギュレーション
[舞台]
現代日本、秘匿ハンドアウト式
[推奨技能]
ある程度の戦闘技能、精神分析
[PL人数] 3人(タイマン可能)
[セッション時間]
ボイス:タイマン改変なら6時間~、3PLならばRP次第で10時間~

▼シナリオを回すにあたり
このシナリオは、ハンドアウト(以下HO)形式となっている。各HOには表立った設定の他に秘匿情報があり、また、PLにも事前告知されない秘匿情報が進行によって出現する仕様となっている。
また、H・P・ラブクラフト著『ダンウィッチの怪異』、アーサー・マッケン著『パンの大神』などをモチーフとしており、つまり、邪神との性的交渉による懐妊及び出産が設定に含まれている。
そしてもうひとつ、選択肢によっては探索者同士が殺し合いをする可能性がある。所謂PvP要素があるということだ。
このシナリオを回す際には、時間経過と共に付加される秘匿情報があること、非常にセクシャルな表現やグロテスクな描写があることを周知する必要があるだろう。また、選択肢によって発生するPvPに対応できるプレイヤーが望ましい。

▼PL人数について
 秘匿HOシナリオであるが、タイマンシナリオとして回すことも可能である。その場合はPLの代わりにKPCを2人おいてプレイをする。
 タイマンプレイはどのHOでも使用可能であるが、最もKP難易度が低いのは刑事だろう。タイマン回しのコツは後述。

[シナリオ概要]
▼シナリオの概要
物語の中心にはシュブ=ニグラスを讃える集団“豊穣と繁栄の導き”がいる。四十年ほど前に設立した新興宗教団体というのが表向きだが、カルトである。
ただし銀の黄昏教団や佐比売党などのような大きく世界的なカルト集団ではなく、ごく小規模な集団であり、また、彼らは彼ら自身が讃える神の正しい名前さえ知らない。ただ茫漠と“新月の女神”や“母”と自身の神を呼び、豊穣を願い種の繁栄を願っている。
元々彼らはカルトと呼べるような大した集団ではなく、カリスマのある女性を教祖として崇拝し、細々と家族のように暮らす、共依存の集団だった。
事の発端は十五年前に彼らの教祖“浅尾マキ”が詐欺で訴えられ逮捕後自殺してしまったことから始まる。
集団はカルトの烙印を押されマスメディアに追われ、窮地に立たされた。信者は次々といなくなり、残されたのはほんの十人程度であった。彼らは教祖を失った悲しみに少しずつ狂っていき、教祖を奪った社会に逆恨みするようになっていった。彼らは最終的にこのような考えに至る。

『教祖を失ったのなら、教祖を作れば良い。だが、神だけでは人はついてこない。キリスト教のように、神と人間の間に生まれた“神の子”が必要だ』

彼らは自身の崇める神に似た存在を求めた。信者を甘言で少しずつ増やし資金を得るとともに、様々な魔導書や邪悪なる知識までも収集し始めた。その結果、辿り着いたのが『神と女性を交わらせて神の子を作る』という方法であった。
そして本編の2年程前に『シュブ=ニグラスの招来/退散』の秘術までに到達してしまった彼らは、すぐに神と女性を交わらせた。新月の晩に信者の親族を殺してシュブ=ニグラスの化身である男神パンを招来し、女性信者と交わらせ子を成そうとしたのだ。
しかしながら女性は発狂し、生まれた子どもも早産で、生命維持器官が機能しておらず、朝日が昇るとすぐに死んでしまった。
しかたなく彼らは“試行錯誤”することにした。魔術『門の創造』を手にして瞬間移動をし、女性をさらってきては、新月の晩の度に神と交わらせ続けた。
試行錯誤の結果、1年ほど前に聖職者の娘が3日程生きる神の子を生んだ。しかも、娘の周りにいた猫までも懐妊し、神の合いの子を産んだのだった。彼らは思いこんだ。シスターならば完全なる神の子を生めるのだ、と。それは全くの、偶然だったというのに。
彼らは新月の前にシスターを誘拐しては、神との交わりを続けた。そして本編半年前にシスター“庄子メアリ”を誘拐させ、神と交合させる。その結果は驚くものだった。メアリは半年も懐妊を継続させている。
きっと彼女こそ、神の子を産むに違いない。彼らは歓喜し、神の子の誕生を待ち望んでいた。
探索者達はシスター・メアリの失踪を解決する為に、事件の核心へと迫っていく。

1人はシスター・メアリを慕う神父、かつての神の子として。
1人は事件を追う刑事、愛する妹を奪われる者として。
1人は真実を追う記者、事件を暴き世界を救出する者として。

物語の幕が下りる時、探索者達は神の子を殺める共犯者となるか、創世記のアダムとイブとなるだろう。

[ハンドアウト表と裏]
▼ハンドアウト~表と裏と~
探索者達はそれぞれ互いの知らない情報を持っている。その情報は裏HOや秘匿情報としてシナリオ進行と共に付加されていく。情報を開示するか否か、どのタイミングで開示するかは、探索者達、個人の判断に任せられる。

【HO1 神父】中立なる立会人
▽表HO
あなたは心優しいキリスト教カトリックの神父である。あなたが家族のように慕うシスターが半年ほど前から失踪している。シスターの失踪は複数報告されており、事件性があると言われている。彼女たちとは知人である。
あなたの目的は、この街の人々を見守ることだ。
▼裏HO
あなたはかつて“神の子”と呼ばれており、生まれながらに奇跡の力を持っている。あなたのPOWは16以上であり、魔術『記憶を曇らせる』『治癒』が先天的に使用できる。何故使用できるかは分からない。分かりたくもない。神の子としての生活はあなたにとって苦痛そのものだったのだから。
あなたの本当の目的は、奇妙な事件の犠牲者をこれ以上出さないことだ。

【HO2 刑事】天秤となりし者
▽表HO
あなたは屈強な刑事である。あなたは街中を騒がせているシスター連続失踪事件を追っている。
あなたの目的は、事件の犯人を見つけ出し捕らえることだ。
▼裏HO
あなたは夏季休暇の最中であるが、どうにも気になる事件を調べてもいる。あなたは失踪事件のシスター全員と知り合いでありアリバイの無いPC1が犯人ではないかと疑っている。STRは18である。
あなたには年頃の妹がいる。妹は難病にかかり入院している。心優しい妹はシスター失踪事件を気に病んでいるようだった。
あなたの本当の目的は、妹の住むこの街の平和を維持することだ。

【HO2 記者】世界を救うペンであり剣
▽表HO
あなたは記者である。カトリックについて調べることを目的としてPC1に長期取材を申し込み、一つ屋根の下に住んでいる。
あなたの目的は世の中の真実を見つけることだ。
▼裏HO
あなたは黒蜥蜴。日本における神話的事象の解決を目的とする反神組織(邪悪なる神と敵対する組織)のメンバーである。
あなたのPOWは16以上であり、クトゥルフ神話技能が10%あり、また、秘匿成長技能として拳銃または日本刀の技能を70%持っている。更に魔術『暗黒の呪い』『肉体の保護』を使用することが出来る。クトゥルフ神話技能及び特殊成長技能を振る時は、その正体が明かされるまでシークレットダイスで振ること。
あなたはシスター連続失踪事件に目撃者がいないことから、人間の犯行でないのではないかと疑問視し、教会関係者に神話的生物がいるのではないかと探っている。
あなたの本当の目的は、邪悪なる存在の消去だ。

▼探索者の設定について
KPは自身の力量を図りつつ、シナリオを改変して構わない。シナリオを回す前に前述の本編前時系列を参考に、PLの相談を受けて各種HOの設定を煮込むことも勿論、自由である。PLがこのような設定にしたいと申し出た内容をシナリオに組み込めるようであれば、積極的に組み込むと良いだろう。
例えばHO1は教祖の浅尾と親戚かもしれないし、神の子として様々な人間に利用されており心に深い傷を負っているかもしれない。シスターに淡い恋心を抱いていてそれを隠していたかもしれない。
例えばHO2は刑事になる前に両親を殺害されており、家族は妹二人だけかもしれない。作中に出る知人の妻にかつて片思いをしていたが身を引いたのかもしれない。
例えばHO3は黒蜥蜴になる前はオカルティストな両親によって育てられていたかもしれない。黒蜥蜴のメンバーに命を救われたことがあるかもしれない。
KPはPLの意見を汲んでシナリオに適度な肉付けをし、セッションを楽しんでほしい。
ただし、各探索者は平等に楽しむべきであるし、セッション中に設定を付加するのは必要最低限にすべきである。そうしないと容易にシナリオのストーリーバランスは崩れてしまうだろう。

[本編時系列]
▼本編中時系列
以下は本編中の基本的な時系列である。しかしながら、物語の経過によっては自由に改変して構わない。
基本的に探索者達は教会を拠点とし、事件の調査をすることとなる。

▽1日目
PC2の知人の妻及び探索者がメアリの夢を見る。
小学校の校門の前で黒山羊の絵本を配る集団“豊穣と繁栄の導き”が現れる。
小学校の兎が懐妊している。
▽2日目
小学校の兎が件を産む。
PC2の妹の容態が悪化するがすぐに改善する。
▽3日目
一般市民が発狂して通り魔事件を起こす。まるで血の海のような凄惨な事件。
▽4日目
PC2の知人の妻が異常死体で発見される。お腹の中に黒山羊のような動物のバラバラ死体を詰め込まれ死んでいる。胎児がいなくなる。化物と戦闘となる。
▽5日目
集団“豊穣と繁栄の導き”が「もうすぐ神の子が生まれる」と車で街中を練り歩いている。チラシが街中にばらまかれる。お祭り騒ぎ。
▽6日目
PC2の妹が失踪する。また、妊娠していることが告知される。部屋には“豊穣と繁栄の導き”と書かれたボールペンが落ちており、病院で勤務する産婦人科医のものであると分かるが、産婦人科医も失踪している。
これらの流れから、最終的に集団のアジトを見つけ出し、乗り込めばクライマックスに移行する。

▼クライマックスの選択について
クライマックスではPC2の妹が完全なる神の子を産んで死んでいる。
探索者達は一見にして人間に見えるがあまりにも美しく完成されているように感じる“完全なる神の子”を前にして、どうするかを選択しなければならない。場合によっては争い合うこととなるかもしれない。
どちらにせよ、神の子が生き残ってしまった場合、神の子は『膿の母』の性質を持ち合わせている為、街中の人々が発狂し、女性たちは父の分からぬ子を懐妊する。それは次々と感染症のように被害を拡大させ、最終的には世界中の懐妊可能な女性が『邪悪なる神の子を宿す聖処女』となりうる。
当然、人類は滅亡する。
膿の母については、サプリメント『マレウスモンストロルム』の146頁を参照のこと。

▼刑事の特殊設定、奉仕ポイント
本シナリオではPC2の刑事のみ、奉仕ポイントが存在する。
メアリの子ども(パンの大神との交わりによって出来た胎児)は、膿の母のような力を携えている。事件が起こっている街の人々は事件と関係性を持つとメアリの子どもの影響を受け、本来ならば恐怖の対象であるべき邪神への崇拝が植え付けられていく。最終的にはネリの子、神の子の影響も受けることとなる。
具体的に言うと《POW×5》、つまり《幸運》と同じ値に失敗すると徐々に奉仕ポイントが蓄積されていき、そのポイントがクライマックスへ影響する。
クライマックスで奉仕ポイントを奉仕技能とし、成功し続ける限り、PC2は神の子を、叔父または叔母として、命がけで守ろうとしてしまう。
尚、このポイントがどういう意味を成すのかは刑事には秘匿とするとよいだろう。ただただクライマックスまで「ポイントを◎ポイント追加してください」と指示を出す。意味を明かすのは最後の場面である。

[魔術について]
▼魔術について
本シナリオには複数の魔術が出る。全て基本ルールブックに掲載されている魔術である。第六版とし、その頁数と目的を記載する。

▽治癒:p272
通り魔事件で被害者を救うことが出来る。クライマックスの戦闘のサポートが出来る。MP12と正気度ポイント1を代償に2D6ラウンド後に2D6分の耐久力を回復する。

▽記憶を曇らせる:p255
邪神の子どもを孕んでしまった女性の記憶を消し去り、発狂を抑える為。MP1D6と1D2正気度ポイントを代償に記憶を曇らせる。

▽暗黒の呪い:p250
クライマックスで完全なる神の子が成長してしまった時、最後に使うことで完全なる神の子を異界へと押しやることが出来る。しかしながらこれは本来複数人数で使うべき魔術である為、これを使った場合、この魔術を使ったPC3は場合によっては死亡する。

▽肉体の保護:p275
戦闘のサポート。PC2と敵対した際の物理攻撃からの保護。1D4正気度ポイントと任意のMPが必要。MP1ポイントにつき1D6の装甲を得る。発動まで5ラウンド(時間にして約1分)で効果は24時間。

▽門の創造:p289
次元を移動する門を作り出す。PC2がPC3と殺し合いをせず、妹及び完全なる神の子を連れて逃げる為の方法。ただし、逃げられたら必然的に世界は崩壊する。
門を作るのに、移動距離に応じたPOWを永久的に消費する。門を使用するのに門を作り出した際のPOWと同値のMPを消費する。
このシナリオで作られている門を使用する為に消費するMPは1である。

▼黒蜥蜴について
彼らはクトゥルフ神話TRPGにおいては非公式と公式の狭間にある。Edward Lipsett氏によって執筆され、サプリメント“デルタグリーン”のファンサイトによって補完、追記されている団体だ。サプリメントでの公開はアメリカでも叶わなかった。
設定としては『表向きは福沢諭吉協会という学術団体であり、フサン謎の七書などの魔術書をかなりの数保有している。その実、神格アマテラスとそれを率いる天狗(ビヤーキー)を排除するために生まれ、現在では邪神に敵対する組織である。トップは天皇(アマテラスの血族)で、非公的組織でありながら政治界、経済界、裏社会にコネクションを持つ。一方で内部抗争も激しく、多数の派閥に分かれている。中には極右とヤクザの絡んだカルト集団も存在する。』というものだ。サプリメントで販売できないわけである。
しかしながら設定は作者の好みなので本シナリオに出した。

▼シティについて
季節は夏。舞台となる街にマップは用意されていない。名前も、KPが好きに決めて構わない。ただし、海沿いの、人口は20万人程度の市である。イメージとしては、鎌倉市が最も近いだろう。
探索者達はこの街を自由に探索することが出来る。設定が決められている【教会】【病院】【知人の家】【小学校】【“豊穣と繁栄の導き”のアジト】など以外は好きに街を作って構わない。自由だ。
時間の進行も、KPが決めて構わない。

[NPC]

▼NPC
以下は全てKP情報である。KPは以下から物語の核心を出さずにPLへキャラクターの説明をすること。

▽シスター・メアリ
事件の被害者。カルト集団に誘拐された。
名前はKPが好きに設定して構わない。特になければ庄子メアリとする。“障子に目あり”である。またメアリとは『パンの大神』にてパンと交わり娘を出産する女性である。
慎ましく心優しい。PC1の家族のような存在。半年前に失踪。パンと交わり、完成に近い神の子を懐妊する。
ボランティアで小学校に行き子供たちへ聖書を読み聞かせる授業をするなど、地元に貢献し、それなりに顔が広い。
以前、信者から兎を貰ってくれないかと言われ、教会では飼えない為に、小学校に譲ったことがある。
クライマックスで教団の地下にて監禁されているのが発見される。発見時点で発狂している。

▽練(ネリ)
PC2の妹。事件の鍵となる人物。
名前はKPが好きに設定して構わない。特になければ、練(ネリ)という名前にしてほしい。パンの大神に出て来る神の娘“ヘレン”の愛称である。
メアリの子の影響でパンの夢を見て、夢の中でパンと交わり、処女ながら懐妊する。タイトルの『晩夏の聖処女』とは彼女のこと。
病気を患っており、彼女の病気は子宮の腫瘍である。腫瘍は広く複数あり、若い女性であるということも考慮されて化学療法や放射線治療が行われている。このことは秘匿ではなく、PC2が知りたいと望んだ時点でPC2に与えられる情報である。
性格はややブラコン或いはシスコンぎみだろう。PC2と仲の良い関係性を築けるよう、KPは彼女を素直で可愛らしい存在として演出すると良いだろう。
クライマックスで教団に誘拐され、完璧な神の子を出産する。生還しても精神は崩壊してしまうだろう。

▽知人
PC2の知人。
名前はKPの好きに設定して構わない。特になければ、平凡な名前を付けると良いだろう。
PC2が親しみを覚え、馴染みを感じるような性格に設定すると良いだろう。

▽知人の妻
PC2の知人の妻であり、妊娠している。メアリの子の影響を受けてしまい、彼女のお腹の中の子は怪物へと変質してしまう。結果、母の腹を食い破り出て来る。
どのような性格でも良いが、PC2が親しみを覚えるような性格が良いだろう。

▽主治医
PC2の妹ネリの主治医。カルトとは全く関係ない。若くして深刻な病を患う練の身を案じている、善良な人物。

▽信者たち
物語の様々な事件の元凶である集団“豊穣と繁栄の導き”の人々。正式な名前すら知らない黒山羊の神を信仰している。彼らの進行している神は“シュブ=ニグラス”及びその化身“パン”である。
教団を大きくすることに熱心で、とてもキラキラとした目で探索者達を見つめて来る。
教団員の中には産婦人科医がおり、PC2の妹ネリが入院する病院に勤務している。

[導入]
▼1.導入
夏の太陽が降り注ぐ海沿いの街。海の近くには小さな丘があり、その上に美しい教会がある。時刻は昼頃である。
蝉しぐれの中、教会に向かう一人の人物がいるPC2(以下、刑事)である。
ここで件の人物、刑事の表HOを出す。

▽刑事のHO
あなたは屈強な刑事である。あなたは街中を騒がせているシスター連続失踪事件を追っている。
あなたの目的は、事件の犯人を見つけ出し捕らえることだ。
ここで、以下の情報を出す。
▽共有情報
 シスター失踪事件。1年ほど前から街のシスターが誘拐される事件が起こっている。半年ほど前に7番目の質踪者が出て以来、事件はピタリと止んだ。誰一人見つかっていない。
今から行く教会は、最後の被害者であるシスター・メアリの住んでいた教会である。
事件の調査のために、刑事は教会へと向かうところだ。

一方、教会の中ではPC1(以下、神父)とPC3(以下、記者)が朝の仕事がひと段落して寛いでいる。ここで彼らのHOを出す。
▽神父のHO
あなたは心優しいキリスト教カトリックの神父である。あなたが家族のように慕うシスターが半年ほど前から失踪している。シスターの失踪は複数報告されており、事件性があると言われている。彼女たちとは知人である。
あなたの目的は、この街の人々を見守ることだ。

▽記者のHO
あなたは記者である。カトリックについて調べることを目的としてPC1に長期取材を申し込み、一つ屋根の下に住んでいる。
あなたの目的は世の中の真実を見つけることだ。

探索者3人の表HOを出したところで、場面を教会へと進める。探索者3人はここで合流することとなる。
一通りのRPを終えて、事件の話がひと段落した段階で、以下の情報を出す。

▼神父秘匿情報
シスターは家族のような存在だ。彼女がとても心配だ。刑事に協力したい。
▼刑事秘匿情報
被害者の共通の知り合いである神父が怪しいと署内で訴えたが、証拠が足りないと一蹴され相手にされなかった。調査を進めるのに、神父との協力関係が結べたならば有利に運ぶかもしれない。調査と言って、同行してもらえないだろうか。もし神父が犯人であった場合、尻尾も掴みやすいかもしれない。
▼記者秘匿情報
シスター連続失踪事件はあなたの所属する反神団体“黒蜥蜴”の追っている事件で、あなたはその調査をしている。記者と偽って。目撃者がいないことから、人間の犯行でないのではないかと疑問視し、教会関係者に神話的生物がいるのではないかと探っている。あなたの本当の目的は、邪悪なる存在の消去。刑事と協力関係を築けたら有利にことが運ぶのではないか。協力したい。
▼KP情報
秘匿情報を提示したら、KPは『以上より、あなた方は協力者です。あなた方はシスター失踪事件を解決しなければなりません。あなた方の倫理に反するまで』と宣言する。

[1日目]

▼1日目

以降から探索が始まる。
探索の拠点は教会となることを探索者に宣言すること。

▽共有情報
 ニュースなどを調べれば、事件は1年ほど前から起こっていると分かる。7人の20~40代のシスターが失踪している。
▼神父秘匿情報
メアリはこの教会で一緒に住んでいた。彼女は買い物に出かけたきり、帰ってこない。半年前のことだ。彼女は清らかな心の優しい女性だった。丘のふもとの小学校で聖書の読み聞かせに行くなどして、街でも評判だった。
他のシスターとも知り合いだが、特に親しくなく、情報らしい情報は無い。
▼刑事秘匿情報
事件の共通点は殆どない。シスターであること、目撃者がいないこと、そして全員が神父の知り合いであることくらいだ。
▼記者秘匿情報
事件の目撃者はいない。そればかりか、監視カメラにも写っていない。被害者は忽然と消えた。一般人の犯行ではない。

▽メアリの部屋を調べる
教会にあるメアリの部屋を調べることも出来るだろう。メアリの部屋はごく普通の女性の部屋だ。
シンプルながら所々に花柄があしらわれ、慎ましい女性らしさに好感を覚える。
床は魔法陣のような絵柄が描かれており、どこか神秘的だ。
▼神父秘匿情報
魔法陣のような絵柄はいつからあるのか、記憶には無い。
同じ作りの部屋はいくつかあるが、このような絵柄はこの部屋だけなので、メアリの趣味かもしれない。

暫くすると、刑事のスマートフォンに電話がかかって来る。出ると、知人からである。
▼刑事秘匿情報
刑事は電話を取るので、勿論問題なく聞ける。
神父と記者がこの話を聞くには《聞き耳》に成功する必要がある。
「相談がある。実は最近、嫁が奇妙な夢を見るようになった。同じ女性が現れるんだ。なんでお前に相談したかと言うと、その女性が、どうやら半年前に失踪したシスターらしいんだ。」
「嫁はさ、霊感があるみたいなんだよね。なんだろう、直感?昔から勘が良いくてさ。今ちょうど妊娠してるんだよね。妊娠すると更に霊感が強くなるって言うだろ。事件と関係あるかなって。予知夢とか、千里眼、みたいな……」
「どんな夢かって言うと、ちょっと言いづらいんだけど、シスターが、すごいカッコいい男の人と、その、やっちゃう夢だってさ。で、シスターは大きいお腹を抱えてて……妊娠してるんだって」
知人はある程度話をすると、「ごめん。変な話をしたな。忘れてくれよ」と、電話を切る。

[1日目シティ探索]
▽シティ探索へ
探索者たちはこれからどうするべきかと考え、街へ調査に出るかもしれない。
街へ行くには教会のある丘を下って行くこととなる。教会のある丘のふもとには小学校があり、必ず小学校の前を通ることになる。

▽小学校
街へ出る為に小学校の前を通ると、校門の前で何かを配っている男女がいる。
真夏だというのに、きりっとしたスーツ姿の男女は、探索者に目を留めると、キラキラした瞳で「これをどうぞ」と、小冊子を渡してくる。
そこには“豊穣と繁栄の導き”というタイトルと、いらすとやのような黒山羊の絵が描かれている。小冊子は絵本となっており、『黒山羊に似た神様“新月の女神”が世界を7日間で作り、祈りを捧げる人々に実りある麦畑を与え、見守っている』というもの。
彼らは曇りのない瞳と満面の笑みで「是非広めて下さい!」というばかりだ。
やがて教師がやって来て、「またアンタたちか!」と彼らを追い払う。彼らはバタバタと立ち去ってしまう。

▼記者秘匿情報
小冊子に目を通した後、《クトゥルフ神話技能》を振って成功すれば『シュブ=ニグラス。豊穣の地母神、謎に包まれた、しかしながら邪悪な神だ。彼女に似ている』と思う。
SANC 0/1

もしも教師に声をかけ、謎の男女について尋ねれば、教師は彼らについて、「最近、市内でよく布教活動をしている“豊穣と繁栄の導き”という宗教団体だ」「子どもにも布教活動をするので困っている」といったことを話すだろう。
それ以上尋ねても教師は情報を持っていない。

▽共有情報:豊穣と繁栄の導きについて
豊穣の繁栄と導きについてインターネットなどで検索すると、以下の情報が出る。
新興宗教団体“豊穣と繁栄の導き”は、浅尾マキという女性を教祖として四十年ほど前に設立された。非常に活気ある団体であったが、十五年前に“浅尾マキ”が詐欺で訴えられ逮捕後自殺してしまってからは、カルトの烙印を押されマスメディアに追われることとなる。
一時は解散も危ぶまれたが、少しずつ信者を増やし、以前ほどでは無いものの、それなりに活動をしてはいるようである。

[イベ小学校の兎]
■EVENT:小学校の兎たち
小学校を立ち去ろうとすると、真っ黒に日焼けした子供達が神父を呼び止める。「神父先生! 神父先生!」と、子供達は慕うような目を神父に向ける。
▼神父秘匿情報
神父の知り合いの子どもたちで、シスターメアリから聖書のことなどを学んだこともある子どもたちである。

彼らは「神父先生! メアリ先生から頂いた兎ちゃんがね、お腹が大きくなってきたの。きっと、赤ちゃんよ」という。
しかしながら神父は疑問に思う。

▼神父秘匿情報
兎は以前、信者が「生まれたけれども飼えない」と教会に連れてきたもので、シスター・メアリが小学校へ譲ったという経緯がある。
その兎が妊娠したということだろう。
だがおかしい。
兎はメスだけでオスはいない。3匹ともメスだ。
SANC 0/1

神父が上記の情報を共有すれば、ウサギ小屋に行くかもしれない。
▽ウサギ小屋にて
一畳ほどの大きさに、1mほどの高さの立派なウサギ小屋。
ウサギ小屋には確かに、お腹の大きな個体が1匹だけいる。ウサギに触れようとすると、探索者達に噛みつこうとして、かなりナイーブな状態となっていると分かる。

[1日目その他の探索箇所]
▽他の教会
シスター・メアリ以外の被害者の所属していた教会も尋ねることが出来る。シスター・メアリ以外に6人の被害者がおり、教会も6つある。
教会関係者に被害者について尋ねても「敬虔なシスターでした」という情報しかない。人物像としての共通点はシスターであるというのみである。
もしシスター・メアリの部屋にあった魔法陣のような絵柄を探した場合、6つある教会の内、2つの教会に同じようなものを見つけるだろう。その絵柄について教会関係者に尋ねても「いつの間にこんなものが?」と首を傾げるばかりだ。
▼KP情報
魔法陣を《オカルト》などで調べても、情報は出てこない。《クトゥルフ神話技能》成功で、魔術『門の創造』だとは分かる。

▽知人の家
 知人の家に行っても、留守にしている。情報らしい情報はない。

▽病院
刑事がお見舞いに行こうとするかもしれない。その場合は妹ネリがいる。ネリはとても嬉しそうに迎え入れるだろう。
ネリにシスターについて尋ねれば、「テレビで見たけど、見つかってないんでしょう? 早く見つかると良いね」と言う。
病院で妹と接触したことを契機にネリは何の病気だったろうかと刑事のPLが疑問を持ち、KPに尋ねるかもしれない。
その場合は以下の秘匿情報を出す。
▼刑事秘匿情報
ネリの病気は子宮の腫瘍である。腫瘍は広く複数分布しており、血管や神経とも近しい為、手術をするとなると子宮全摘出が望ましい状況だ。しかしながら若い女性であるということも考慮されて子宮の摘出は避けられ、化学療法や放射線治療が行われている。
彼女の病気は3か月前に判明したものだ。
SANC 0/1

主治医に病状を聞いた場合、「進行も増悪もしていません。でも、治るように全力を尽くしますから」と答えるだろう。

▽豊穣と繁栄の導きの家
宗教団体『豊穣と繁栄の導き』の拠点について調べるならば、小学校で配られていた小冊子やインターネットに情報が載っており、拠点は市内にあると分かる。
行ってみると、ちょっとした公民館程度の大きさの建物があり、信者たちがにこやかに過ごしている。
交渉すれば問題なく中に入ることも出来る。
そこには、広々としたカトリック教会に似た礼拝堂と祭壇がある。しかしながら飾られているのは黒山羊の頭、人間の身体を持つ木彫りの置物である。
彼らの神について尋ねると「両性具有の神でありますが、我々は“新月の女神”や“母”と呼んでいます。人々を“豊穣と繁栄”に導いてくれる母神であり、飢饉や災害も無く作物が実り、人々が繁栄していくことを祈っています」と答える。
教祖について尋ねれば、教祖は既に亡くなっており、信者たちは細々と支えあっているという。
探索者達が一言二言話をすると、信者たちは探索者達を勧誘し始める。
「マーベラス! 私共の神に興味がありますか?」
「是非、我々と共に母と祈りましょう。まずはこちらの壺を買っていただけませんか? これには教祖様が付けた代々の糠が入っております。家庭菜園をして頂き、野菜を糠に付けて食べることで、とても健康になれるのです。お値段は今なら20万円ほどです」
「壺は小さいサイズもございます」
「入会したなら今なら最初の1か月は無料! 来月から月々3万円になります。1年以降は月々2万円です」
「ミサに参加しませんか? 参加してくださいますよね。マーベラス! ミサ、ミサ入りまーす!!」
など、非常に熱心な勧誘を行う。
尚、それ以上の情報はない。

一通りの探索を終えると、時刻は夜になっていることだろう。

▼1日目の夜
その夜、探索者達は奇妙な夢を見ることとなる。

▽共有情報:夢
その夜、探索者は奇妙な夢を見た。
気付くと探索者は白いワンピースを着た女性となっていた。
傍には祭壇のようなものがある。とても暗い。ろうそくの炎しか、光源が無い。周囲はどこか、かび臭い。
暗がりに誰かが立っている。見やると、とても整った顔立ちの麗しい男性がいる。緩やかなウェーブの黒髪に、褐色の肌、逞しい長身。視線が吸い寄せられるような、艶のある、蠱惑的な男性だ。
男性には奇妙なことに、小さく丸い、山羊の角のようなものが生えている。しかしながらそんな奇妙さは、男性の魅力を前にして些細な事だった。
心臓が早鐘のように打つ。こんな思いは初めてだ。胸が苦しい。顔が熱い。
男性が口づけをしてきた。頭が白む。その手が体に触れる。触れられた先から、痺れるようだ。
闇に落ちるようだった。
次に探索者は、狭い部屋にいた。腹のあたりがずしりと重くなった。腹へと視線を落とすと、腹が膨らんでいた。妊娠していると、一瞬で理解した。
驚いて周囲を見渡すと、鏡が目に留まった。そこに映るのは探索者では無かった。シスター・メアリ、その人だった。
メアリは、ニタリと、笑った。

探索者達は夢から飛び起きる。
《強制:アイディア》ロールに成功すれば、知人の妻が見た夢と同じだと、直感する。ここで《強制:POW×5》のロールを行う。成功した場合は激しい恐怖を感じる。
SANC 0/1D3
失敗した場合は、恐怖と共に正気度ポイント《1/1+1D3》を失う他に、確かな快楽を感じる。以下の描写を加える。
『与えられたのは筆舌しがたいほどの快楽だった。体は動かず、なすがまま、蕩けていくようだった。目覚めた今も、男性に与えられた快楽の余韻が、疼くように残っている』

刑事は邪神とメアリの交わりを見て快楽を得たため、奉仕ポイントを10得る。
また、神父のみ秘匿情報『バフォメット』が与えられる。

▼神父秘匿情報:バフォメット
夢の男性は山羊の角を持つ美男子だった。
山羊の角をもつ神がいる。バフォメットだ。バフォメットは悪魔で、享楽的で陰惨な黒ミサを司る。黒山羊の頭、人間の身体を持つ。女性の乳房と、しかしながら男根を持ち、両性具有とされる。
起源は判明していないが、11世紀にはキリスト教に於いて異教の神として記されている。ギリシャ神話の牧神パーンを異教のものとして悪魔化させたものではないかと言われている。また、似たような姿を持つ堕天使アザゼルとも繋がりがあるとされるが、よく分かっていない。

[newpage]
[chapter:2日目]
▼2日目
朝になると、しんしんと雨が降っている。夏の暑さが冷やされて、僅かに過ごしやすい。
探索者達が合流した場合、同じ夢を見たということに気付くかもしれない。その場合はSANC《0/1》を行うこと。

▽知人の家
探索者達は知人の家にいくかもしれない。一般的なマンションには、知人の妻がいるだろう。
探索者達はここで《強制:POW×5》を振り、成功したら彼女をごく普通に感じる。失敗した場合、妻は妊婦だというのにどこか艶っぽく、非常に魅力的だと感じる。刑事が失敗した場合は奉仕ポイントが5加算される。
妻から夢の話を聞くと、毎晩同様の夢を見ていることが分かる。夢を見始めたのは3か月ほど前からだとも分かるだろう。
もしここで《心理学》に成功すれば、妻が夢を楽しみにしていることを察する。夢のことを語る彼女の頬は紅潮し、瞳は潤んでいる。
お腹の子どもについて尋ねれば、妊娠して5カ月目であると答える。
踏み込んで男性経験について聞くには《信用》や《言いくるめ》に成功する必要があるだろう。成功すれば「夫が初めてです」と恥ずかしそうに答える。

▽夢について調べる
インターネットや図書館などで夢について調べることも出来る。その場合は《図書館》で振る。《図書館》は1回につき4時間かかる。つまり失敗しても、4時間の時間をかければ何度でも挑戦できる。
成功すると、次の情報が得られる。

▽成功情報①:パンの大神
似たような存在の出る書物がある。それはパンの大神と呼ばれる小説に出て来る神である。
『パンの大神』(パンのおおかみ)は、アーサー・マッケンの怪奇小説である。
医師の父に脳手術を受けた娘がパンの神と交感し、発狂し死ぬ。死の間際、娘は女児を産み落とす。
この女児は次々と周囲に恐るべき災難や事件を呼び寄せる。彼女の周りでは男児が発狂し、友人は自殺した。
やがて彼女は美しい女性に育ち、世界の各地で男性と性的関係を結んでは破滅させていく。
被害者の友人である紳士は友人の死を訝しみ、同時に起こっていた紳士連続自殺事件を調査し、ついに件の女性を見つけ出す。
紳士は女性を死に追いやり物語は幕を閉じる。
パンの大神のモチーフはギリシャ神話の神である牧神パンである。
上半身は人間の男性で、下半身は毛むくじゃらで足は蹄、山羊のような角を持つ。
踊りと音楽が趣味で、遊び好きで好色。

▽成功情報②:牧神パーン
ギリシャ神話にパーンという神がある。パーンは山羊の足と2本の角を持ち、生まれながら髭をたくわえていた。母親はこの異形の子を見て、子どもを捨て去った。
父ヘルメスは困りはて、その子供を兎の皮にくるみ、オリンポスの山に連れて行き神々に紹介した。
すべての神々は興味を示し、喜んだ。このようにこの不思議な子供は全ての神をなぐさめたので、パーン(全て)と呼ばれた。
後にパン(bread)と意味を重ね「養育するもの」から、家畜や山羊の神とされるようになった。
パーンは昼寝好きであった。安眠を妨げられるとパーンは怒り狂った。その怒りは波及し、羊たちをも狂わせ、羊飼いたちは恐怖におののいた。これが後に“パニック”の語源となる。
パニックとは勿論、災害や恐慌などが起こった時に群衆が引き起こす混乱状態のことである。
パーンはこのように恐怖を広める要素を持つが、一方で音楽に秀で、享楽的で好色な神である。ニンフを追い回し、性的関係を多く結んだと言われる。
パーンの誘惑を断ったニンフもいた。パーンは怒り狂い、羊飼いを扇動して彼女の何もかもを奪い、声だけにしてしまう。彼女は山彦と言う、他人の言葉を繰り返すだけの存在となった。
彼女の名はエコー。彼女は今日の、山彦、こだま、反響のルーツである。

▽神の子について調べる
この段階でこの情報を引き出そうという探索者は殆どいないが、もしも『神の子』という単語で情報を探したならば、ネット上に以下のような情報を得る。
▽共有情報:神の子
霊能力ブームの折りに、探索者達の住む街に『神の子』と呼ばれる子供がいたという噂があった。その子供は人を癒したり、人の記憶を消す奇跡の力を持っていたという。

[ネリの発熱]
■EVENT:ネリの発熱
暫くすると、刑事のスマートフォンに連絡が入る。
発信先は病院である。出ると看護師から「PC2の妹(以下ネリとする)が朝から高熱を出している。病状の説明をしたいので来て欲しい」と告げられる。
病院に行くと、ネリは発熱してぐったりと休んでいる。主治医から説明があり、熱は下がってきたものの特殊な薬剤を使う方が良いだろうという話があり、薬剤の同意書を渡される。
同意書にはアレルギーが起こる可能性とその対応などが記されている。目を通せばごく一般的な同意書であり、署名をすると薬剤が使えると分かる。刑事は署名をすることとなるだろう。
その際に、主治医からボールペンを渡される。渡されたボールペンには黒山羊の小さなフィギュアがついており、“豊穣と繁栄の導き”と刻まれている。
ボールペンについて尋ねても主治医は「そこら辺に置いてあったので…」と答えるだろう。実際、主治医は何も知らない。
 発熱の原因について尋ねた場合は「熱源を探るために検査をしたい。検査をしてみないと分からない」と答える。

▼刑事秘匿情報
病院に行ったことを契機に、妹のネリは何の病気だったろうかと刑事のPLが疑問を持ち、KPに尋ねるかもしれない。
その場合は以下の秘匿情報を出す。
ネリの病気は子宮の腫瘍である。腫瘍は広く複数分布しており、血管や神経とも近しい為、手術をするとなると子宮全摘出が望ましい状況だ。しかしながら若い女性であるということも考慮されて子宮の摘出は避けられ、化学療法や放射線治療が行われている。
彼女の病気は3か月前に判明したものだ。
SANC 0/1

[2日目イベ:ウサギの赤ちゃん]
■EVENT:ウサギ小屋の赤ちゃん
神父が小学校に行くか、教会に行くと起こるイベント。
そこには子どもたちがおり、呼び止められる。
「先生に言えなくて。神父さんなら分かるかもって……」と、言いながら、子どもたちが泣きじゃくっている。
話を聞くと、ウサギ小屋の兎が赤ちゃんを産んだが、様子がおかしいのだという。
ウサギ小屋を覗いてみると、藁の上は血まみれである。3匹いるうちの2匹の兎は端で丸まって震えており、奥には、1匹の兎が、下半身を真っ赤に染めている。兎は、何かに乳を与えている。赤ん坊だろうか。
しかし、よく見ると、明らかに兎ではない。
手のひらほどの大きさのそれには毛がひとつも生えておらず、一見して肉塊のようである。赤い血や白い膜のようなもので表皮はヌラヌラと不気味な光を浮かべており、四肢には蹄があり、胴体はぶよぶよと波打っている。
また、その頭部には小さく丸い角があり、兎の頭部はなく、代わりに人間の顔があった。髭を蓄えた、男の顔である。
SANC刑事・記者 0/1D6
神父 1/1+1D6

それは弱弱しく兎の乳を吸っている。だが、やがて乳から離れると、「オウマレニナリマス、オウマレニナリマス……」と鳴いて腹を上に向ける。ハッ、ハッ、と苦しそうに呼吸をしていたが、上下する胸も痙攣のようで、数秒の後に、その息を止める。
奇怪な生き物は、探索者達の前でそうして目の前で事切れる。
そして、瞬く間に、黒い霧となって消えてしまう。
探索者達はここで《強制:アイディア》を振る。成功すれば、“人面犬”や“くだん”を思い出すだろう。どちらも災いの前に生まれる怪物である。
刑事はここで《強制:POW×5》のロールを行う。失敗すると「悍ましい、怖気の走る化物だ。だけど何故だろう、どこか心惹かれてしまう。腹のあたりがズキズキと疼く」と感じる。奉仕ポイントが5加算される。
更に、KPは記者に秘匿情報を送る。

▼記者秘匿情報
記者には分かる。これは“人面犬”や“くだん”と呼ばれる怪物だ。災いの前に生まれてくると言われている。
日本で最初に出現したは1800年代である。疫病の前兆であったという。このような人間と怪物の混ざり物は多くある。ケンタウロス、ミノタウロス、バフォメット、パーン……。
この街で確かに、何かが起ころうとしている。そして恐らく、この機になって次々と起こっていることから、神父か刑事に関わり続けることで真実に近づけるかもしれない。彼らは、恐らく邪悪な運命の舞台にいるのだ。

〔2日目の他探索箇所]
▽豊穣と繁栄の導きの家
探索者達の中にはボールペンについて“豊穣と繁栄の導き”の信者たちに尋ねようとするかもしれない。
拠点に行きボールペンについて尋ねると、彼らは「マーベラス! それは私共が雨の日も風の日も街中で配った素晴らしいボールペン。貴方がたは私共の紙に興味がおありなのですね!」と言って、感激した様子でグイグイと勧誘をしてくるだろう。
もしも病院に信者がいるのか尋ねた場合、信者たちは一瞬押し黙り視線を交わした後「それは個人情報ですから! お応えできかねますね! いやー残念です。どうです? 入団されますか?」とはぐらかす。
それ以上の情報はない。

▽KP情報:入団を希望したら?
豊穣の繁栄と導きの家に入団を希望すると、信者たちは喜んで探索者達の個人情報を引き出そうとする。様々な契約書や同意書を持ってきて署名させようとする。
契約書には「母の為に月々3万円支払うこと」「ミサは毎週日曜日ある。全員参加。休んだ場合は罰金1万円」などとある。
署名すると「では、審査しますので、一週間ほどお待ちください!」と話す。よって、病院にいる信者についての情報は引き出せない。

▼3日目
目覚める前に刑事は何か得体のしれない夢を見る。しかしながら目覚めた時にはそれを覚えていない。ただ酷く、胸がざわつき、身体がぎこちない。《POW×5》ロールを行い、失敗したら奉仕ポイントを5追加する。
▽病院
病院に行けば、ネリは解熱剤により体調が改善している。
ネリにボールペンのことを尋ねても「可愛いね」としか答えない。
ネリに夢について尋ねると「なんのこと?」と首を傾げるだろう。だが《心理学》に成功すれば、ネリが何かを隠していると分かる。

▽KP情報:ネリの秘密
ネリは既に何度かパンの大神との交合を行っている。
しかしながら彼女にとってそれは、刑事(兄または姉と似た人物)と行為に及ぶ夢であり、当然のことながらひた隠しにする。兄弟にも言えないネリの秘匿情報である。
夢の情報を何度もしつこく聞いた場合、ネリは顔を赤くさせながら「なに? どうしてそんなこと聞くの?」と怒ったり、泣いたりするだろう。
尚、彼女の子宮の中には既に、パンの大神との子が急速に育ちつつある。それは小さな腫瘍だと思われている状況だ。

病院のスタッフなどにボールペンの詳細を聞き回っても「さぁ? 誰のでしょうか?」と首を傾げるばかりで有効な情報は得られない。

▽小学校
学校に行けば、ウサギ小屋には何も入っていない。子どもたちに尋ねれば「兎さんは病気になったんだって」と答える。
教師に尋ねれば「実は今朝、共食いをしているのが発見されました。3匹とも、死んでいたのです。餌を与えていたので、空腹ではないはずです。原因が分からなくて。子どもたちにはひとまず、内緒にしてください」と言われる。
SANC 0/1

▽化物について調べる
化物について調べるには《図書館》となる。成功すれば怪奇本『異種との交わり』という本を発見する。
この本の著書は“オカルト作家兼研究家・岡ルート”という人物のようだ。
▽成功情報:異種との交わり
件、ケンタウロス、ミノタウロス、パーン、バホメット、アザゼル。人間と獣が混ざったような姿の存在はこの世に多くある。人間と獣、人間と神が交合することは珍しくはない。
だが、別種の混合は現実的ではない。何故なら卵子は透明帯という蛋白質の層で守られており、異種の精子と交ることは無いからだ。透明帯を除去しても、細胞分裂の過程で死んでしまう。
しかし、別種が交合して子を成すことは実際には稀ながらある。異種配合の例として、ラバはロバとラマ、ライガーはライオンとトラの混血である。これらはとても近しい遺伝子をもった種族であるからだ。
では人間の場合はどうか。獣姦によって子を成したケースはない。人間の近種がいない為だ。人間、ホモ・サピエンスは近しい種族との土地の奪い合いに勝ち、繁栄して来た。近種は絶滅してしまったのである。
しかしながら絶滅の前には、交わりがあった。ネアンデルタール人だ。我々、ホモサピエンスには僅かにネアンデルタール人の遺伝子が混じっていると近年、分かってきた。ネアンデルタール人の遺伝子は、東アジアの人々に多く交っているのだという。
もしも、人間と近しく自身を変異させることが出来る存在がいるのなら、人間と交わり子を成すこともあるかもしれない。夢物語であろうが。
……夢物語であってくれ。

[通り魔事件]
■EVENT:通り魔事件
昼頃になると、探索者達はつんざくような悲鳴を聞くこととなる。教会でも、街中でも何でも良い。血まみれの人が探索者の傍に駆け込んでくる。
「警察! 誰か警察を呼んでください! 包丁を持って男が暴れまわっているんです!」と訴える。
行ってみると、包丁を持った男が返り血で衣服を真っ赤にして立っている。発狂しているらしくウヒウヒと不気味に笑っている。
辺りは血の海で、10名程の老若男女が切り付けられた様子で呻いている。
男が襲い掛かって来る。

▼狂った男
STR16 CON13 SIZ9 INT12 POW8 DEX7
耐久12 DB1D4
こぶし50% ダメージ1D6+DB(包丁を使用している為)

男を無力化して改めて周囲をみれば、殆どが軽症のようだが、たった1人、重症の男性がいる。背中を何度も刺されたらしい男性は父親のようで、傍で家族らしき女性と子どもが泣き叫んでいる。
SANC 0/1D3

▼治癒を使う
もしかしたらこの場面で神父は魔術『治癒』を使いたいと宣言するかもしれない。その場合は、神父に秘匿情報を投げる。

▼神父秘匿情報
あなたは“神の子”と呼ばれていた。
幾度となくその不思議な力を様々なカルト団体に狙われてきた。幼い頃、誘拐もされたことがある。治癒を使うことを強要され、意識を失ったり、幻覚を見るようになったこともある。今の教会に入り、シスター・メアリと共に過ごし、漸く手に入れた平穏を、あなたは失うかもしれない。
この力を表に見せるのは危険だ。
だがしかし、目の前の男性を救うには、この方法しかないだろう。

それでも使用すると宣言した場合、神父の裏HOが公開となる。治癒を使った場合、MP12と正気度1を減少させる。男性の傷は見る見るうちに塞がっていくだろう。
この奇妙な魔術を見た“刑事”のみSANC《0/1》を行う。
奇跡を見たのは母親と子ども、そして探索者達だけである。母子は目の当たりにしたことをきょとんと見つめるばかりだ。

パトカー、救急車がやって来て、現場がより慌ただしくなる。
「野次馬は下がって!」と、探索者達は端の方へと追いやられることだろう。

刑事はここで《強制:アイディア》を振る。成功すれば、昔、この街で“神の子”“奇跡の子”などと騒がれた子どもがいたことを思い出すだろう。
成功の可否に関わらず、神父の裏HOを共有情報として公開する。記者には秘匿情報を投げる。
▽神父の裏HO公開
神父はかつて“神の子”と呼ばれていた。生まれながらに奇跡の力を持っている。神父のPOWは16以上であり、魔術『記憶を曇らせる』『治癒』が先天的に使用できる。何故使用できるかは分からない。
神父の本当の目的は、奇妙な事件の犠牲者をこれ以上出さないことだ。

▼記者秘匿情報
神父はかつて“神の子”と呼ばれた能力者であることを、黒蜥蜴から教わりあなたも知っている。
彼は反神組織のあなたにとって、監視対象のひとつである。恐らく今回のシスター失踪事件に彼は関与していないだろうと、直感的にあなたは察する。

ある程度のRPが終わった後、刑事のみ秘匿情報を流す。それは次のようなものだ。

▼刑事秘匿情報
あなたへ同僚からメールで連絡が入る。それは以下のようなものだ。
「通り魔事件の近くにいただろ。
休暇中なのに災難だったな。大丈夫だったか?
後々ニュースで出ると思うから伝えるけど、通り魔事件は2件同時に起こってる。
原因はまだ調査中だけど…集団愉快犯の犯行なのか、それとも薬物か、正直予想が出来ていない。
気を付けてくれよ。
事件については、みんな頭を抱えてるよ。多分俺は徹夜だろうな。
休みが終わったら、休んだ分、しっかり働いてもらうからな!
お前の次、俺が夏休みなんだから、遊び疲れてボンヤリ出勤してくるとか、無しだからな!」
SANC 0/1

[chapter:3日目イベ:鍋]
■EVENT:真夏の鍋パーティ
このイベントは挿入してもしなくても構わない。
事情聴取を終えた刑事のところに知人から電話がかかってくる。
それは「実家から大量に肉が届いて鍋にしようと思うが来ないか? よかったら友達を誘って来てもよいし……」という誘いである。
行ってみると、知人とその妻が笑顔で招いてくれる。
知人は身重な妻を気遣いつつ、鍋の準備をしている。
鍋パーティの最中、知人は「なんだか疲れた顔をしているな。大丈夫か?」「夏だから無理するとすぐ体に来るからな。無理は禁物だぞ」など探索者達を気遣うだろう。
鍋パーティを終えて立ち去ろうとすると、知人の妻が玄関先まで出て「待って。良かったらこれも持っていってください。夫の実家の名産なの。とても美味しいんです」と、スイカをくれる。
そして「赤ちゃんが産まれたら、是非遊びに来てください」と微笑み、知人と共に見送ってくれる。

▽ニュース
探索者達は教会や自宅に戻り、それぞれの夜を過ごすこととなるだろう。
テレビでは当然、探索者達が目の当たりにした通り魔事件が報じられている。その報道は、次のようなものだ。
『本日夕方頃、通り魔事件が発生しました。事件は同時に別の場所で2件起こっており、警察によると原因は不明、調査中とのことです。重軽症は19人にのぼり……』
神父と記者は同様の事件がもう1件起こっていたことに驚くようであれば、SANC《0/1d3》を行う。
通り魔事件について情報を得ようとしても、現状は混乱をきたしており、真っ当な情報が得られない。

[4日目]
▼4日目
目覚める前に刑事は何か得体のしれない夢を見る。
しかしながら目覚めた時にはそれを覚えていない。ただ酷く、胸がざわつき、身体がぎこちない。《POW×5》ロールを行い、失敗したら奉仕ポイントを5追加する。

探索者達は通り魔事件について引き続き調べようとするかもしれない。その場合は、街での調査の前に次のような情報を様々なメディアから得るだろう。

▽共有情報:ふたつの事件について
①事件は同じ市内の別の場所で起こった。
②犯人に共通点は全くない。また、犯人に犯行理由もなく、周囲の人々は「何故あの人が?」と首を傾げている。
③もしも神父が治癒の魔術を使っていた場合は、死亡した者はいない。使っていなければ1名死亡となる。
④警察は現在、薬物の線で捜査を進めている。

▽豊穣と繁栄の導きの家
行ってみると、前庭に幾つもの灯篭が立てられている。信者たちは黒い服を着て泣いているようだ。
尋ねると「我々の大切な同志の子が昨晩、亡くなってしまったのです。赤ん坊を腹に宿していたのですが、その赤ん坊が早産で、亡くなってしまったのです。同志はあまりのことに寝込んでしまいました。同志の代わりに我々が泣かねば」と言って、おいおい泣き出す。
同志の名を尋ねても「密葬ですので、これ以上はご遠慮ください」と言って、門扉を硬く閉じてしまう。

▽KP情報:死んだのは誰?
死んだのはシスターメアリとパンの大神との間に出来た子である。生まれてきてすぐに、息を止めてしまった、と思われている。
 しかしながら本当は仮死状態に陥っているだけで、死んではいない。3日後に復活し、この家の人々を全員虐殺することとなる。

[異常死]
■EVENT:異常死
刑事のスマートフォンが突然鳴りだす。
出ると「助けてくれ、助けてくれ」という知人の涙ながらの声が聞こえる。詳しく話を聞こうとしても混乱しているようで、何を言いたいのかさっぱり分からない。
探索者達が知人の家に行くと、玄関の扉の鍵はかかっていない。《聞き耳》に成功すれば、中から啜り泣きが聞こえる。
中に入ってみると、ツンと鉄臭い、生臭い匂いが鼻につく。刑事は、これは殺人現場と似たような匂いだと感じるはずだ。
進んでみると、リビングで知人が何かに縋りついて泣いている。その周囲は血だまりが出来ており、激しい悪臭が部屋に漂っている。
よく見れば、知人が縋りついているのは知人の妻であり、妻は苦悶の表情で目をカッと見開いて事切れている。
妻の腹部はつぶれたトマトのように中身をさらけ出し、また、腹部からは何か棒状のものが4本、突き出ている。
SANC 1/1D4+1

ここで《アイディア》《医学》《目星》などで妻の腹部をよく観察してみると、妻の腹の中から突き出た棒状のものは獣の四肢であると分かる。蹄がある。小さく丸い角がある。独特な目玉がある。山羊。黒山羊をバラバラに引きちぎったような死骸が腹部に詰め込まれているのだった。
異常死体であると気付き、SANC《1/1D4+1》を更に行う。
知人に声を掛ければ「帰ってきたら、妻がこんな状態で……。子どもが……胎児がいないんだ……」と呟き、そのまま意識を失ってしまう。
探索者達は警察や消防に連絡することとなるだろう。
が、その前に、それは動き出す。

▼化物との戦闘
妻の腹の中にいた獣の四肢が動きだす。
そして腹部を引きちぎり、水音を立てながら、立ち上がる。バラバラがった身体は触手でつなぎ留められている。
その化物は探索者を細長い瞳孔で捉えると、ケラケラと笑い襲い掛かって来る。

▼不完全な幼い黒山羊
STR15 CON13 SIZ3 INT10 POW13
DEX4 移動5 耐久13
触肢80% ダメージ2d3

▼戦闘を終え
探索者達が化物を殺すと、化物は塵となって消えてしまう。
その後、警察に通報するなどして、そのまま警察署で事情聴取を受けることとなる。
しかしながらあまりにも異常な事件であることや探索者達に動機などがないこと、エントランスの監視カメラに探索者達が犯行時間には映っていないことなどから、すぐに解放されることとなる。
とは言っても、解放される頃には真夜中になっていることだろう。

▽KP情報:化物の正体
知人の妻の腹部に詰め込まれたかのように見える黒山羊の死骸が、胎児であった。彼女が夢の中でパンの大神と交わった影響で元々妊娠していた胎児も化物へと急激に変貌してしまった。
しかしながら不完全で、母である知人の妻の腹を引き裂いて生まれると、仮死状態に陥ったのだった。

事情聴取を終えた探索者達にそれぞれ、秘匿情報を流す。

▼神父秘匿情報
 あなたの頭に、様々な神々や悪魔の情報が過る。ギリシャの牧神パーンは性に奔放で享楽的であり、故に禁欲的なカトリックにおいては不埒な存在の代表格であった。パーンは山羊の半神半人である。
山羊と言えば。羊は神を信仰する者を表すが、山羊は神に敵対する者、善を拒む者を表すという。その一方で贖罪の贄とされることもあった。旧約聖書の記述で、古代ユダヤでは贖罪の日にクジで選んだ二頭の山羊を生贄に捧げたというものがある。1頭はその場で神ヤハウェのために殺され、もう一頭は民衆の罪を背負い荒野に放たれる。生贄や身代わりと言う意味のスケープゴートの語源だ。
果たしてこの事件の裏には、本当に悪魔がいるとでもいうのだろうか。街の人々は生贄にされようとしているのか。
▼刑事秘匿情報
知人の妻の事件についての事情聴取後のことだ。あなたは同僚から、あまりに異常な事件のため、一旦の報道規制を敷くこととなったと告げられた。
▼記者秘匿情報
 あなたに所属する黒蜥蜴から一方通行のメッセージがくる。それは『記者の調査する街で怪異の進行が予見される。注意されたし。人を集め次第、そちらへと向かう。調査を進め、場合においては悪魔祓いを』というものだ。あなたは状況によっては怪異と戦闘することとなるだろうと、決意するかもしれない。

[5日目]

▼5日目
目覚める前に刑事は先日と同じく、何か得体のしれない夢を見る。しかしながら目覚めた時にはそれを覚えていない。ただドキドキと、胸が高鳴っている。
《POW×5》ロールを行い、失敗したら奉仕ポイントを5追加する。
▽知人について
知人はネリの入院する病院と同じ病院の、精神科に入院している。心神喪失状態で、近親者以外面会謝絶となっている。事件に関する話が出来るような状態ではない。

▽ニュースについて
通り魔事件について調べても続報は無い。
また、知人の妻の事件に関しては全く報じられていない。
刑事と記者はアイディアを振らずとも思いつくが、あまりに異常性のある事件に関しては報道規制がかけられるケースは多い。
今回の事件は報道規制がかけられているのだと、すぐさま判断できるだろう。

▽小学校
小学校に行くと、クラブ活動中の子供達がこのような歌を歌っている。
『いあ いあ いあいあいあ かみのこ いあいあ もりの くろやぎ きたる!』
その歌は1度耳にすると離れない、絶妙なテンポを持っている。
歌について尋ねると「今日の朝に、街で聞いたんだよ。面白い歌だよね。いあいあいあ……!」と答える。

[街の異常]
■EVENT:街の異常
街に出たらまず《強制:聞き耳》を行う。
成功すると、やけに街で言い争っている人々が多いことに気付くだろう。それは店先での些細なクレームであったり、男女の犬も食わない喧嘩である。しかしながら、いつもよりも多く、言い争う声が聞こえるように思える。
街の様子が変であることに気付いて、探索者達は困惑するかもしれない。そんな探索者の目の前を何かが駆け抜けていく。
それは、真っ赤なワインを体に浴びながら走り回る、全裸の若い男女の集団だ。彼らはキャアキャアと奇声をあげながら電柱に登ったり、街の中だというのに抱き合ったりしている。
それを、交番勤務らしき警察官が自転車で追い回し「やめなさい! やめなさい!」と声を荒げている。
明らかに、街が異常である。
この時《強制:アイディア》に成功すると「まるでパニック映画のようだ」と思う。
SANC 0/1D3
探索者達が街の異様な状況に困惑や恐怖などを感じていると、ビラが足元にヒラリと舞い降りる。
手にして見やると『神の子は死んだ。しかしもうすぐ新たなる神の子が生まれる』と書かれている。
周囲を見渡せば、“豊穣と繁栄の導き”と書かれたトラックが、やけに明るいポップミュージックを流しながらゆっくりと走行し、荷台から信者たちが踊りながらビラを撒いている。
音楽は、このような歌詞だ。
『いあ いあ いあいあいあ かみのこ いあいあ もりの くろやぎ きたる!』
その歌は1度耳にすると離れない、絶妙なテンポを持っている。
気付くと、道行く子どもたちが足を止めて、その歌を面白がり、キャアキャアと騒ぎながら歌っている。まるでお祭りでも楽しむように。子供達の楽しげな様子をお年寄りが足を止めて微笑まし気に見つめている。

信者たちに声をかけると、彼らは赤ワインを探索者に勧めながら「もうすぐ神の子がお生まれになるのです」と顔を紅潮させている。
神の子について尋ねても「じきにお判りになります」としか答えず、彼らは有頂天である。
もしも彼らの拠点に行っても、同じように酒盛りをしているだけで、詳細は教えてはくれない。

▽KP情報:新たなる神の子
シスターメアリの子は死んでしまったものの、この時には実は妹の妊娠が判明している。それが“豊穣と繁栄の導き”に所属する産婦人科医の耳に入り、集団に伝えられたのだ。
それで集団は新たな神の子が生まれるのだと狂喜乱舞している。

▽KP情報:精神分析をする
もしも暴れる人々に《精神分析》などを行った場合は「一体何をしていたんだ?」とキョトンとする。
まるで何も覚えていないかのように。

▽病院にて
病院に行ってみると、ネリがぐったりとしている。朝から吐き気が止まらないのだという。しかしながら、精神面では問題様子で、いつもどおりの受け答えをするだろう。
医療スタッフに様子を尋ねると「今、治療中ですので」と、早々に話を打ち切ってしまう。

▽KP情報:吐き気の正体
今朝、病院では定期的な検査としてネリに腹部CTを取っていた。驚くことに腫瘍と共に胎児のようなものが映っていた為に幾つかの追加検査をした所、妊娠が発覚している状態だ。
しかしながらずっと入院しており男性の影はおらず、父親が定かではない。あまりにも事が事なので、妊娠をしていなくとも妊娠の結果が出たり、腫瘍が胎児のような形をとるようなことがあるのかと、産婦人科に話を持っていっている途中である。
その為、検査中として情報は秘匿されている段階である。

慌ただしく、その日も過ぎていくことだろう。

[6日目]
▼6日目
探索者達は就寝時、奇妙な夢を見る。それは次のような夢だ。

▽共通情報:ネリの夢
その夜、探索者は奇妙な夢を見た。
気付くと探索者は白いワンピースを着ていた。胸の膨らみもあり、女性だ。しかしながら、シスターメアリではないと直感的に分かる。
周囲を見渡せば、先日の夢と同じく、傍には祭壇のようなものがある。かび臭く、蝋燭の火しか光源が無い薄闇の中で、だが探索者は胸を高鳴らせている。誰かを待ち望んでいるのだ。
希望にこたえて、暗がりに誰かが立った。小鳥でもいるかのように胸が騒めき、血潮が一瞬で熱を帯びる。深い闇のような髪、褐色の肌、吸い寄せられるような漆黒の瞳、魅力的な微笑み、小さく丸い山羊のような角。姿かたちは僅かに異なるものの。それは、まがうことなく××××(PC2:刑事の名前)に思えた。
胸が苦しいほどに高鳴る。同時に、敬愛や安堵が溢れる。その腕が伸びて、魅力的に感じてしまうその指がこちらの手を取り、指と指が怪しく絡まった。
ゆっくりと引き寄せられ、抱きしめられる。その感触に、直感的に探索者は、この経験は初めてではない、1度や2度のことではない。そう思うことだろう。抗えないほどに、恋をしているのだと、愛しているのだと。
かといえば純粋な思慕だけではない。確かに、性的欲求がある。燃えるような熱と、疼きと、渇きが。
少しずつ近づく双眸。そのふたつの黒に、探索者が映る。いや。そこにいるのは、当然のことながら探索者では無い。
そこにいるのはそう、シスターメアリでも、知人の妻でもない。
ネリだ。

探索者達は飛び起きることだろう。
SANC 0/1D3
また、刑事は更にSANC《0/1D3》を追加し、《POW×5》ロールも行い、それぞれ失敗したら奉仕ポイントを5追加する。

[ネリの失踪]
■EVENT:ネリの失踪
刑事は飛び起きたと同時に、物音がすることに気付く。電話の音である。
発信元は病院である。刑事が電話に出ると、このように告げられる。

▽共有情報
ネリが病室からいなくなった。

▽病院にて
病院に行くと、まず病院の入り口には複数の救急車が並んでいることに気付くだろう。何か大きな事故でもあったのだろうか、院内も俄かに慌ただしい。
ネリの入院している病棟に行くと、主治医が頭を下げ、ネリが病室からいなくなった経緯を説明する。

▽共有情報
①明け方に看護師が見回りをしたところ、ネリが病衣室にいないことに気付いた。
②院内を探し回ったが見当たらない為、早朝ではあったが刑事に連絡をした。
③夜間帯の病棟は施錠されており、中に入るにはカードキーが必要となる。しかし、一般病棟なので、出るときは自動ドアが開き、簡単に出ることが出来る。
④しかし、出入り口はナースステーションの前で、患者は誰も出ていないはずである。
⑤ネリは妊娠している可能性がある。

ネリの妊娠について尋ねれば、主治医は以下のように話す。
「子宮にある腫瘍が、先日のCTでまるで人間の胎児のような形をしていました。尿検査でも妊娠反応がありました。
しかし男性の影は無く、ましては入院患者です。胎児のサイズとしては妊娠第11週、つまり3か月くらいです。3週間前のCTにはそのような形は写っていません。医学的にありえないので、妊娠ではないはず考えにくいと思われました。
ですので、産婦人科医に意見を聞いている最中でした。
報告が遅れて申し訳ありません」
主治医は頭を下げるばかりだ。

▼病室を調べる
探索者達は、ネリの部屋で手がかりを探すかもしれない。探してみると、ネリのものではないモノがひとつだけ見つかる。それは、黒山羊のフィギュアがついた“豊穣と繁栄の導き”と書かれたボールペンである。
このボールペンについて院内で尋ね回ると「産婦人科医の門徒礼(もんと・れい)先生のボールペンですね。きっと診察の時に落としたのでしょう」と、スタッフが答える。

[地獄の始まり]
■EVENT:地獄の始まり
探索者達が病院から、或いは合流して繁栄の導きの家へと向かおうとするところで、キーンという耳鳴りが襲う。
全身を前触れなく、形容しがたい底しれない恐怖感が襲う。
SANC 0/1D3
また、全身を痒みが襲う。見やると、探索者達の体中のところどころに潰瘍のような傷が出来、血の混じった黄色い汁がにじみ出ている。
SANC 0/1
何が起こったのかと探索者達は行動を始めようとするかもしれない、が、遮るように目の前にいたスタッフの1人が突然、奇妙なことを言い始める。
「いあいあいあいあいあ かみのこ いあいあ もりの くろやぎ きたる! かみのこ! かみのこ! おわします!! もうすぐ! もうすぐ! こんばんにでも!!」
そしてケラケラと腹を抱えて笑い出し、床に這いつくばり始める。
SANC 0/1
狂ったスタッフを他のスタッフが声をかけ、介抱する。
ここで探索者達は《強制;聞き耳》を行う。成功すれば、外でも同じような声が聞こえる。

▽KP情報:秩序の崩壊
もしここで刑事が警察署に電話をしても、なかなか通じない。ようやく通じたかと思った電話からは「いあいあいあ…」と言いながらケタケタ笑う同僚の声が聞こえるだけである。

[パレード]
■EVENT:狂気のパレード
外に出ると、ギラギラと燃える太陽とともに、そこには夜がある。満点の星がさめざめと輝き、オーロラが七色のカーテンのようにたなびいている。
太陽の燃える夜空の下、街では様々な奇妙な現象が起こっている。

右を見れば、あの妙に耳に残る音楽を歌いながら裸になって踊る人々がおり、左を見れば、まるで暴動でも起こすかのように石やバッドで街中の窓を破壊しては笑っている人々がいる。
正面からは、即席の神輿のようなものを担いでは、パレードの如く踊り狂う、仮装衣装を着た集団が見える。その目は焦点が定まらず、精神が破綻しているのは素人目にも明らかである。
狂った人々の一部は、公然の場所だというのに猥褻で卑猥な行為に励んでいる。互いの体に噛みついて、まるで共食いのように咀嚼しあう者たちもいる。熱されたアスファルトで裸足の足が焼け付き、酷い悪臭を放っている。
遠くから、バーン、バーン、と、何かが叩きつけられるような轟音が響く。見やれば、高層ビルの屋上から、人々が1人、また1人と自ら飛び降り、地面に叩きつけられている。

阿鼻叫喚の狂喜乱舞。悪夢のごとき乱痴気騒ぎに明け暮れる狂人たちの間を、正気を保った人々が、泣きわめきながら、怒声をあげながら、逃げ回ったり、食い止めようとしたり、右往左往している。皆、全身に散在する、膿んだ傷を掻きむしりながら。

混乱を極めるその中を“豊穣と繁栄の導き”と書かれたトラックが、ビラを配りながらゆっくりと走行していく。スピーカーから大音量で流れるのはやはり、あの音楽だ。
「いあ いあ いあいあいあ かみのこ いあいあ もりの くろ やぎ! きたる! きたる! お生まれになります!」
異様な光景、異常な惨劇、或いは悲劇か、喜劇か。
SANC 2/1D8
ここで記者に秘匿情報を投げる。

▼記者秘匿情報
明らかにこの街の異様な状況と“豊穣と繁栄の導き”には繋がりがある。この事態は邪悪なる存在の影響によるものだろう。一刻を争う。
もし記者がこの場面で《クトゥルフ神話技能》を振りたいと宣言し、成功すれば、以下のことも思い浮かぶ。
>シュブ=ニグラスについて
邪悪なる豊穣の神。泡立つ巨大な雲のような塊であったり、黒い触手を持っていたり、不定形である。山羊のような蹄を持っているという記録もある邪神。時に人間と子を成すこともあるという。
>パンの大神について
パンの大神についての情報を記者が所有していた場合、地祇のように思う。
もしかしてパンの大神という物語は実際あったことをモチーフにしているのかもしれない。パンの大神がシュブ=ニグラスの化身であるなら、シスターメアリとネリは邪神と交合したのではないか。彼女たちがもし妊娠をしていたとしたら、夢の中にあるはずの邪神、その血族がこの世に顕在することとなるのではないか。

▽KP情報:集団幻覚
夜空の様子は幻覚である。実際にそこには夜空は無いが、産まれた完璧なる神の子の影響を受けて、街の人々は集団幻覚をみている。この街に入った時点で同様の幻覚を見る。
《精神分析》をすれば、夜空は日中へと戻る。だが、街の悪夢はそのままだ。

[透明の化物]
■EVENT:透明の化物
探索者達が状況に戸惑っていると、“豊穣と繁栄の導き”のトラックが突然目の前でひしゃげる。まるで透明で巨大な象に車体を押しつぶされたかのように。
探索者達はここで《強制:聞き耳》または《強制:目星》を行う。成功すると、透明で目には見えないが、空間が歪んで見える。まるで不純物ひとつない水で出来た巨大な塊がそこにあるかのようだ。
「ホウホウホウ……」というフクロウのような泣き声が辺りに木霊する。

次の瞬間、目の前でトラックがまるで玩具のように何かに振り回され始めた。中にいた“豊穣と繁栄の導き”の信者たちが攪拌され、ただの血や肉へと化していく。トラックはひときわ大きく空へと持ち上げられると、探索者達の方へと投げ落とされる。
ここで探索者達は《回避》または《DEX×2ロール》を行う。成功すれば回避できる。失敗した場合、砕け散った車体の破片の一部が探索者に突き刺さり、1D3のダメージを負う。
トラックが再び、持ち上げられる。

が、それを遮るように、何かが天空から飛来してくる。
コウモリのような翼、クジラのような皮膚、緩やかな曲線の角、醜い手足を持つ、のっぺらぼうの不気味な、悪魔のような化物が、何匹もやってきて、透明な何かにしがみつき、押さえつけようとしている。
神父と刑事は SANC 0/1D6

■EVENT:戦いの幕開け
悪魔のような化物の足を掴んで、1人の女性が空から降りて来る。
黒いスーツに身を包んだその彼女は「大丈夫か、××(記者の名前)!」と記者の名前を言いながら、駆け寄って来る。
ここで記者に秘匿情報を投げる。
▼記者秘匿情報
彼女は黒蜥蜴のエージェントだ。多数の魔術を有している。彼女が従えたのは夜鬼である。

女性は「この街は非常事態宣言が布告された。すぐにエージェントが集まる。街は封鎖された。ここは私がなんとかする」と言うと、記者に武器を投げ渡す。

▽KP情報:記者の武器
投げ渡される記者の武器は秘匿成長技能により変化する。所持している技能が拳銃ならば39口径リボルバー(ダメージ1D10、基本射程15m、1R2回攻撃、装弾数6、耐久力10、故障ナンバー00)、日本刀なら勿論、日本刀(ダメージ1D10、DB、基本射程タッチ、1R1回攻撃、耐久力20、故障ナンバーなし)である。

投げ渡された武器を記者が受け取った瞬間、信者の血と内臓に染められた触手が記者へと伸びる。記者は自動成功で触手を拳銃で弾き飛ばすか、剣で寸断する。
女性は「行け、××(記者の名前)。事態の収束を最優先して行動してくれ。頼んだぞ」と言って、すぐさま化物と戦闘態勢に入るだろう。

▽KP情報:化物との戦闘について
この怪物はメアリの子である。もしここで探索者達が怪物と戦闘をすると宣言した場合、黒い仔山羊(基本ルールブックp177)が相手となるが、避けさせるべきだろう。
尚、SANCが少ないのは探索者達が狂気に慣れてきた為とする。難易度をあげるなら、SANCを盛り込んでよい。

▽KP情報:化物との戦闘について
記者が怪物相手に《暗黒の呪い》を使いたいと宣言した場合、それは複数人数で行う魔術である為に、場合によっては死ぬだろうと説明して良い。

[豊穣と繁栄の末]
▼豊穣と繁栄の末
探索者達は事態を収束させる為、“豊穣と繁栄の導きの家”へと向かうこととなるだろう。
▽礼拝堂の入り口にて
向かってみると門扉が開け放たれている。
中へと進むと、建物の入り口、木で出来た大きな両開きの扉が無残にも粉砕されている。中からは鮮血が水たまりのように広がり、滴っている。
近づくと探索者達の目の前、扉を眼前にして重なり合うように死んだ人々の死体の山が目に飛び込む。全員が、身体のどこかしらに拳大ほどの穴を開けている。腹部、手足、頭。中には首が無い者までいる。2、30人はいるだろうか。
扉の内側には血で染まった手形や爪で掻きむしったような跡がある。多くが這いつくばって逃げてきたのだろう、血だまりと、線状の血痕が床を湿らせている。生臭い内臓の匂いと鉄の匂い、人体から仄かに漂う温い熱。
虐殺とはまさに、このことであろう。
SANC 0/1D6
▽礼拝堂
死体の山を踏み越えて中に入ると、礼拝堂らしき空間が広がっている。
死体をよく調べると、映画などで黒魔術師が着るような長い漆黒のマントを羽織った人物も複数人いる。また、ワンピース姿のやけにやつれた女性も何人かいる。
刑事は《アイディア》に成功すれば、行方不明で捜索願が入っている女性に似ていると思うだろう。
周辺を調べると、血の跡は礼拝堂の特定の場所から始まっていることに気付く。
ちょうど祭壇の下、布地で隠された場所に、地下へと通じる入り口がある。

▽KP情報:虐殺の背景
メアリの子は産まれた後に、監禁室、監視室、書庫、隠れた礼拝堂へ行き、隠れた礼拝堂で信者たちを襲った。
信者たちは台形の魔法陣で《門の創造》を用いて地上の礼拝堂へと逃げたものの、メアリの子は感覚的に呪文を用いて地上へと上がり、遂に礼拝堂で信者たちを惨殺し、そして外の人々を襲い始めた。
メアリの子は“パニック”を引き起こす力、つまり人間達を錯乱させる力も持っている。

地下室に入るなり鼻を突くのは、すえた血の匂いとカビの匂いである。
冷蔵庫のようにひんやりとした空気。コンクリートがむき出しになった無機質な印象を与える地下室。光源も天井からぽつぽつと電球が垂れ下がっているだけの簡素なものだ。
床はリノリウムで出来ている。血がこびりついている。丁度、左手の扉から廊下の向こうへと血の跡が続いている。
降りてみて最初に目に入るのは左右の部屋だろう。奥は廊下のようだ。突き当りはT字のように左右に道が分かれている。

[分娩室]
▽分娩室
階段を下りてすぐ右にある部屋。
入ってみると、血の匂いの他に、獣のような、腐った水のような、生臭い匂いが漂っている。手前にはテーブルと、奥には椅子のようなもの、棚がある。
▼テーブル
テーブルの上には乱雑に手術器具らしきものが置かれている。どれも血のりで汚れており、酷く不潔な印象がある。
▼椅子のようなもの
どうやら分娩台のようだ。座れば股の部分が大きく開くようになっている。座席には血の他に、短い毛のようなものが付着している。
手すり部分は握りしめたのか引っ掻いたのか、ボロボロになっている。「助けて」と血文字で幾つか書かれている。更に調べると、小さく「きもちいい」「もっとほしい ください」「わたしが ママ よ」という血文字もある。剥がれた爪が付着している。明らかにこれを書いた者は正気ではない。
SANC 0/1D3
付着した短い毛について《医学》や《生物学》などで調べると、恐らく黒山羊の毛だろうと分かる。
▼棚
棚には大小のホルマリンの瓶がある。中には何か、肉の塊のようなものや、動物の胎児のようなものが漂っており、それぞれ、『第0週』『第2週』などと書かれたラベルが貼ってある。そして、カルテのようなものも見つけるだろう。

▽共有情報:カルテ
カルテには様々な女性の写真と詳細なプロフィールが書かれている。多くに“母子ともに死亡”という判が押されている。幾つかを読むと、こうある。
「21歳女性。●●大学3年生。信者××の次女。新月の晩に母と交わる。発狂。ずっと泣いたり笑ったりと、激しい感情失禁。やはり神との交合に人間の女は耐えられない。予定通り懐妊する。が、すぐに流れてしまった」
「39歳女性。信者△△の元妻。新月ではない晩に母と交わるか試すが、母とは別のモノと交わってしまった。スライム状の出来損ないを産む。やはり、新月の晩でないと。次の新月の晩に再び母との交合を試みる。が、その前に自殺」
「35歳女性。異教のシスター。新月の晩に母と交わる。予定通り発狂するが希死念慮はない。問題なく懐妊。素晴らしい。もう2週間も神の子が腹に宿っている。異教とはいえ、シスターの純潔さが母に喜ばれるのだろうか。聖母マリア様、といったところか。シスターをもう何人か調達予定」
「母と交合していないのに、妊娠した。夢の中に母が現れ、抱かれたという。まるで感染したかのようだ。神との交合は、懐妊は、感染する?」
SANC 0/1D3

[監視室]
▽監視室
階段を下りてすぐ左手にある部屋。
床には血の跡がある。入ってみると、ベット、テレビ、机、奥の方に牢屋のようなものがある。
床を良く調べると、ここで誰かが襲われ、廊下へと血が続いていると分かる。
▼ベッド、テレビ、机
ごく一般的な家具だ。食べかけのコンビニ弁当が置かれており、どこか生活感がある。誰かがここに寝泊まりしていたのだろうか。
机の上に血の付いたノートが開いて置いてある。
机の下には何か描かれている。

▽共有情報:ノート
表紙には『聖母メアリ』と書かれている。
「メアリ様のお腹は順調に膨らんでいる。今日も彼女は歌を歌っている。子守歌だ」
「メアリ様からお声を受けた。母と交合なされてから貪欲だ。しかしながら、メアリ様と一夜を過ごした者で平静でいられた者は誰一人いない。皆、何故かおかしくなってしまう」
「メアリ様のお腹を触らせてもらった。メアリ様は、男の子よ。そして女の子なの。と話された。どういう意味だろう」
「メアリ様がもうすぐ生まれると話された。報告しなければ」
「メアリ様のお子様は黒山羊によく似ておられた。しかし、すぐに亡くなられてしまった。皆、悲しみに暮れている。微笑んでいるのは、メアリ様だけ。生きていると微笑んで、ずっと抱きかかえておられる」
「新しい神の子を宿した女が来た。メアリ様の方が聖母にふさわしいのに」
 最後の一文は「復活された! まるで神の子のように! すぐに報告する」であるが、その頁には血がこびりついている。

▼机の下
どうやら、魔法陣のようだ。何度も書き直した形跡がある。
もしもメアリの部屋を探索しており床の魔法陣に気付いていた場合、《アイディア》に成功すると、同じ魔法陣だと気付くだろう。

▽KP情報
これは《門の創造》の為の魔法陣で、外界と結ばれている。ここで魔法陣を何度も書いては消し、書いては消しをして、様々な場所に行っては、女性を誘拐していた。

▼牢屋のようなもの
鉄格子で奥の部屋(監禁部屋)と区切られている。
鉄格子の入り口部分はまるで熱した飴細工のように、ひしゃげている。
覗いてみると、布団や女性ものの下着、ワンピースなどが置かれている。どれも汚れたり、破れたりしている。
誰か、いる。

▽監禁室
中に入ると、最も奥の隅の方に、蹲る血まみれの女性がいる。裸で、薄い布切れを纏って震えている。
声を掛ければ、酷くやつれ頬がこけている。しかし口元に笑みをたたえている。
神父に秘匿情報を投げる。

▼神父秘匿情報
間違いない、シスター・メアリだ。
SANC 0/1D3

[シスターメアリの発狂]
■EVENT:シスターの発狂
シスター・メアリは微笑んでいる。下半身は真っ赤で、血の混じった透明な液体が床には広がっている。話しかけても「ふふふ」と笑うだけだ。
しかしながらどこか、聖母のようにも感じる。刑事は《POW×5》ロールを行い、失敗したら奉仕ポイントを5追加する。
《精神分析》に成功すると、彼女は一時的に正気に戻る。すると突然絶叫し、探索者に掴みかかる。
「殺して! 私を殺して! あんなことをしてしまった。あんなものを産んでしまった。殺して! 殺して! 殺して!」と。
そのまま何もせずにいると、彼女はやがて自身を包んでいた布切れで自害を試みる。
更に進行すると自害を達成するか、金切り声をあげて倒れ込み、突然死する。
 精神分析をせずにいると、彼女は自殺をしない。

▽KP情報
彼女は不可思議な存在と交わった記憶がある。それは夢であったような美しい存在ではなく、禍々しき化物である。その為に彼女は発狂したのだ。
シスター・メアリに精神分析をかけると彼女は自身の出来事を自覚して自殺衝動に襲われる。彼女を助ける為には、神父の魔術《記憶を曇らせる》を行わなければならない。悪夢のような記憶を彼女から消し去るのだ。
《記憶を曇らせる》は1D6MPと1D2正気度ポイントを使用する。
使用すると、メアリはその場に倒れ込み、スヤスヤと眠る。
尚、ここで魔力を使ってしまう場合、ネリの救出の可能性は更に下がる。

[門の部屋]
▽門の部屋・書庫
廊下の血の跡を辿っていくと、右奥に扉がある。開くと、広々とした書庫となっている。奥の方には少し開いた空間がある。
書庫を調べると、1冊の本が仰々しくケースに入れられて展示されている。
妙に禍々しい、茶色い皮をつぎはぎして作った本だ。傍には説明の書かれたカードが飾られている。
そこには、“エイボンの書及び屍食経典議写し”とある。

また、表紙には『教祖を失ったのなら、教祖を作れば良い。だが、神だけでは人はついてこない。キリスト教のように、神と人間の間に生まれた“神の子”が必要なのである。我々の母は我々を憂いておられる。必ずや交わりは実を結び、完璧なる御子を下さる』という一文がある。

▽共有情報
十数ページしかないが、完全に理解するには2、3日はかかりそうだ。
しかしながら記載している魔術を使うのならば、本を開きながらなら使うことが出来るだろう。
どちらにせよ、読む者は正気度を《1D4/1D8》喪失する。クトゥルフ神話技能を3得る。
得られる魔術は《千匹の仔をはらみし森の黒山羊の招来/退散》《森の仔山羊の召喚/従属》《門の創造》である。
《千匹の仔をはらみし森の黒山羊の招来/退散》《森の仔山羊の召喚/従属》には、新月の時にしかかけることが出来ない、とある。
《門の創造》は空間移動に用いる、とある。
▽KP情報
千匹の仔をはらみし森の黒山羊:シュブ=ニグラスのこと。それぞれ、p262参照のこと。門の創造は後述。

記者が本を読んだ場合は秘匿情報を投げる。
▼記者秘匿情報
この文章を読むことで、今は新月の夜ではないことから、完全なる神の子をこの世からなくすには《暗黒の呪い》を使用しなければならないと分かる。
尚、暗黒の呪いを使用すると、この魔術を使った記者は場合によって死亡する。何故なら、本来は複数人で発動させる強力な魔術である為だ。
SANC 0/1D3

書庫の奥には、奇妙な魔法陣のようなものがある。血痕はこの中央で止まっている。

▽KP情報
隠された礼拝堂へ移動するには、《門の創造》でこの魔法陣を活性化させ、使用する必要がある。コストは正気度ポイント1と、MP1である。
しかしながら実は、壁を壊すという方法もある。

[完璧なる神の子]
▼完璧なる神の子
探索者達が書庫の魔法陣で魔術《門の創造》を使用すると、隠された礼拝堂へと移動することが出来る。
▽隠された礼拝堂
隠された礼拝堂に行くと、そこは薄ぼんやりとして暗い。
光源らしきものは床に無造作に転がる沢山の電気式ランプだけだ。
台形の形をした魔法陣が床には刻まれており、魔法陣の中には更に多くの魔法陣が刻まれている。《門の創造》の魔法陣も多く描かれているが、床一面が血だらけでよく見えない。
奥には祭壇があるようだ。
祭壇の手前には台座があり、誰かが横たわっている。どこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
ここで《強制:アイディア》に成功すると、夢で見た場所だと思い至るだろう。

■EVENT:ネリの生死
台座に近づくと、台座の上にはネリが横たわっている。その体は温かいが、事切れている。白いワンピース姿だが、その下半身は真っ赤に染まっており、台座から床へと血が滴っている。
神父・記者 SANC 1/1D4+1
刑事 1/1D6+1

▽KP情報
もしも探索者達がEVENT戦いの幕開けからセッションリアルタイムで1時間以内にここへ到着しているのならば、ネリは虫の息であるものの生きていても良い。
その場合は神父に秘匿情報として《治癒》の使用を行えば救うことが出来ると伝える。
なお、《治癒》が間に合ったとしてもこのシーンでは失血が多すぎて目覚める様子はない。
すぐさま赤ん坊の声を強調し、クライマックス『決断の時』へと移行すること。

[chapter:祭壇にて]
▽祭壇にて
台座の奥、祭壇の前に、赤ん坊がおり、泣いている。
赤ん坊は血と羊水にまみれ、裸で、へその緒が付いた状態の、男の子だ。
しかし何よりも特筆すべきは、その頭部であった。山羊のような小さく丸まった角に、とがった耳、そして何より、愛くるしかった。
その赤ん坊は、完璧に見える。あまりにも美しく、探索者達はこんなにも美しく、完璧な赤ん坊を見たことがないと思う。また、直感的に、人ではないと思い至る。
神の子である、と。
また刑事はこう思うだろう。ネリに似ている、と。この子は自分の甥っこなのだと。妹が命がけで産んだ、血を分けた肉親なのだと。
刑事は《POW×5》ロールを行い、失敗したら奉仕ポイントを5+1D20追加する。

▽共有情報:戦闘の開始
ここからは特殊戦闘、ターン制の行動となる。
6ターン、行動が可能である。1ターン数十秒程度である。会話を長々とする時間はない。
7ターン目に、世界がどうなるかは、探索者達の選択次第だ。

[決断の時]
■EVENT:決断の時
特殊な戦闘となる。戦闘の前に最後の情報をあげる。
これは全て、公開情報である。

▽共有情報:戦闘の開始
7ターン後には完璧な赤ん坊は完璧な神の子へと成長を遂げる。成長しきったならば、完璧な神の子は世界を滅ぼすだろう。
あなた方は協力者だった。あなた方はシスター失踪事件の裏に隠された真実に辿り着いた。
さぁ、行動してください。さぁ、ダイスを振ってください。
あなた方の倫理の思うままに。

▽神父へ
あなたは中立な立場にいる。刑事に味方しても、記者に味方しても構わない。

▽刑事へ
あなたの目の前にはあなたの甥がいる。それだけがあなたにとっての事実だ。あなたは甥を選んでもいいし、世界を選んでも構わない。逃げようが、殺そうが、自由だ。
ただし、奉仕ポイントに左右される。これまで換算した奉仕ポイントを奉仕技能として計算する。その技能値で1D100を振り、成功し続ける限りは甥を守ろうとするだろう。命がけで。

▽記者へ
あなたは邪悪なる存在から世界を守る団体“黒蜥蜴”のメンバーだ。この世界を守るためには、この完璧なる赤ん坊を殺すか、この世界から魔術によって退散させるしかない。もしそれを邪魔するものがいたら、それもまた、あなたの使命にとっては排除対象であろう。

▽KP情報
完璧な赤ん坊が誕生したら、実質の全員ロストが確定する。しかしながら、そんなことはこのシナリオにとって些細なことである。
奉仕ポイントは《精神分析》《言いくるめ》《説得》を行うことによって一時的に下げることも可能だろう。マイナス補正はKPに任せる。刑事が逃げ出すことを選択するならば、ヒントとして台形の中の《門の創造》の幾つかを適当に選び、逃げ出すことは可能であると伝えても良い。DEX対抗なども使用しつつ処理する。
記者が魔術でこの事態を収束させるというならば《暗黒の呪い》が使えることをヒントとして与えてよい。ただし、複数人数で使用する魔術である為、《幸運マイナス60》に失敗すれば死ぬと伝えること。

[chapter:クライマックス]
▽共有情報:完璧なる神の子の成長
完璧なる神の子は成長しきるまで非常にか弱い存在である。無垢なる心で探索者達に接し、状況によっては事態に怯えるかもしれない。DEXも耐久力も1と低い。よって、完璧なる神の子は最後に行動する。

開始前、愛くるしく微笑んでいる。
1R:ハイハイを始め、やがて歩き始める。
2R:簡単な言葉を話す。「××ちゃん(刑事の名前)」
3R:人間でいうと6歳くらい。愛らしく微笑み、刑事に甘えようとする。
4R:人間でいうと10歳くらい。徐々に乳房が大きくなり、両性具有のようだ。裸が恥ずかしいといった様子を見せる。
5R:14歳くらい。「××おじさんのお友達の〇〇さん(神父の名前)と、△△さん!(記者の名前)」「みんな仲良し。一緒に遊ぼう」といい、神父や記者にも話しかける。
6R:18歳くらい。とても美しく、妖艶である。豊かな乳房と男根があり、蠱惑的に微笑む。これが最後のターンとなる。
7R:新たな創世記の始まり。完全なる神の子は敵意ある存在を見つめる。敵意ある存在は見つめられた瞬間に目、鼻、口、耳、体中の穴と言う穴から大量の血を流し、死亡する。HO3記者が生殖能のある女性の場合、瞬く間に腹が膨らんでいき、身体中の穴から血を流し死亡、その後に股ぐらから触手をもった臓物のような異形が這い出てくる。
エンディング『創世記』へ。

▽KP情報:神の子の殺害
神の子の殺害は、普通の子供を殺す感触と全く変わらないだろう。成長に合わせて遺体も残る。本当に殺すべきだったのかどうかは、その遺体だけでは探索者達には分からないだろう。

▽KP情報:暗黒の呪い
完璧なる神の子を異界に追いやることが出来る。
もし記者が《暗黒の呪い》を発動してこれを実行する場合、1D6の正気度ポイントを喪失、POWを消費する。
POW1につき10%ずつ成功率があがる。つまりPOW10で100%の成功となる。
光の粒が完璧なる神の子を包み、一気に燃え上がる。火が消えると、その場に神に子はいない。
その後、《幸運マイナス60》を振り、失敗した場合に記者は死亡する。突然ごとんと倒れ込み、そのまま眠ったように死ぬ。

[ED創世記]
▼エンディング『創世記』
完璧なる神の子が生き残った或いは異界に飛ばされなかった場合のエンディング。

生き残った探索者は赤ん坊と共に地上へと上がる。ちょうど、小高い丘の上、教会の前だ。
小高い丘から見下ろせる地上は、まるで大地震でも起こったかのようだった。黒煙と火を上げながら街が黒く焦げていく。ビル程に大きく育った黒山羊が、平和だった世界を蹄で押しつぶし、砕きながら、人々を美味しそうに屠っている。
命が器を破壊され、翻弄され、洪水のように攪拌され、ひとつになろうとしている。赤い赤い、母なる海となる。

その様を眺めていると、探索者の手を、完璧な神の子が握った。
そして左の乳房に探索者の手を導く。柔らかな感触と共に、心音と熱が、指先から伝わる。

「××(探索者の名前)と一緒で嬉しい。これからもずっと、一緒にいてくれる? 家族を作りましょう。」とうるんだ瞳で見つめ、探索者に口づける。

産めよ、増えよ、地に満ちよ。
地の全ての異形と空の全ての異形は、地を這う全ての異形と海の全ての異形と共に、繁栄せよ。あなたたちに祝福あれ。
探索者の手に今、創世記は委ねられた。

クリア報酬:新たなる創世記

[ED夏の終わり]
▼エンディング『夏の終わり』
完璧なる神の子を殺すエンディング。

夏が終わろうとしている。入道雲がどこかへ流れ去り、蝉しぐれはいつの間にか尽きて、気温は僅かに下がり、木々は紅葉に染まり始めた。
探索者達は墓の前にいる(ネリが死んでいればネリの墓或いはネリの墓。ネリが死んでいなければ完璧な神の子の墓或いは知人の妻の墓。死亡した探索者がいれば、探索者の墓)。
手を合わせながら、あの日を思った。
完璧なる神の子が消えた時に、人々は平静を取り戻した。黒蜥蜴の組織の魔術なのか、人々は殆ど覚えていないようだった。
人々の曖昧にされた記憶は塗り替えられて、あの悪夢は、大規模な爆発事故と地盤沈下へと変えられてしまった。
探索者でさえも、あの時の出来事は、悪夢なのではないかと思ってしまうほど、街は日常を取り戻しつつある。

(ここで一通り、RPをして良い。ひと段落した段階で、次の描写へと移行する)

探索者達は墓参りを終えて、ゆっくりと歩き出した。
夏が終わる。
夏が終わる。
夏が終わる。
夏はもう、終わる。

不意に耳鳴りがした。甲高い音か耳の奥で重なり、不協和音が脳に響く。その旋律に、覚えがある。
夏が終わろうとも、秋が来ようとも、記憶はもう心臓に沁みついてしまった。この鼓動がついえる日まで、悪夢は続くのだ。

クリア報酬:クトゥルフ神話技能5%
正気度ポイント回復5+1d10

[裏ED・タイマン回しのコツ]

▼エンディング後
ネリは生きていても正気度がゼロである。彼女の正気を取り戻す為には魔術《記憶を曇らせる》を使用しなければならないだろう。子宮は損傷してしまい、全摘出となる。病気自体は治癒するが、出産することは望めないだろう。

▼タイマン回しのコツ
冒頭で記載の通り、晩夏の聖処女は秘匿シナリオであるがHO2人をKPCとして置くことで残りのHOを1PLがプレイする、つまりタイマンが可能である。
最も簡単に回せるのは刑事だ。
刑事をタイマンで回すと“NPCである妹”との関係性がとても深まる。これまでに何度かHO刑事にてタイマンを回したが、PLは二人とも病気の妹のところへ毎日お見舞いに行くという行動をしている。 お見舞いを優先する場合はKPCを情報収集に動かすことで、情報の穴埋めも出来、さくさくと進むだろう。
また、妹との交流が深まることによって、クライマックスでは妹がいなくなったことに狼狽するRPをしてくれ、結果的に無駄な探索をせず、時間制限をクリアして妹が助かるエンディングを迎える可能性が高い。
の最大のポイントは、KPCとの合流の方法である。合流をして三人行動をすべきイベントはクライマックスのほか、通り魔事件、知人の妻死亡イベントの三点だ。その三点はKPCから「情報がある」と連絡させて合流するか、三人行動のタイミングでイベントを発生させると良いだろう。 妹失踪のクライマックスでは夢のシーンの後に「心配で来た」と病院にてバッタリと会わせると合流できる。
ネリが生き残ることもあり、刑事は自ら神の子を殺める可能性が高い。 神の子は愛らしくすると良いだろう。殺してもなお穏やかな表情で愛くるしく描写すれば「本当に殺して良かったのか。この子に罪はなかったのでは?」と疑問を残す。するとエンディングが整いやすい。

▼裏エンディング
勿論、物語の真相に早々と辿り着き、シスター失踪事件を解決することは可能であろう。
それは、街であらゆる事件が起こる前に“豊穣と繁栄の導き”をカルト集団だと見抜き、強制的に“豊穣と繁栄の導きの家”を探索した場合だ。
例えば“豊穣と繁栄の導きの家”に不法侵入して無理やり地下への入り口を見つけたり、刑事が『豊穣と繁栄の導きの家でシスターが軟禁されているのを見た』などの偽情報を流して警察を動員して強制的に調べ上げるなどの方法を取るといった行動をする。
勿論、出目さえ良ければトントンと入り口を見つけ、実際に監禁されているであろうシスターを見つけることが出来る。
地下では奇怪な魔術が秘められているが、記者が“黒蜥蜴”であるので、事件は表沙汰にはならず、密やかな終焉を迎えることだろう。

しかしながら、セッションが始まる冒頭の時点で、シスターもネリも邪神の子どもを孕んでいる。
また、ネリの妊娠が発覚すると、刑事が男性だった場合、ネリは「これはお兄ちゃんの子どもなの」と発言する。
覚えのない妊娠に、ネリの精神は崩壊してしまい、兄と愛し合ったと思い込むようになるのだ。
刑事が社会的にどのような扱いを受けるかは、セッション中にKPとPL間で話し合い、まとめると良いだろう。
ともあれ結局は、やがて邪神の子どもが生まれてしまう。

シスターは知人の妻のように腹が割れて死に、街は突然現れた黒山羊の化物に混乱状態へと落とされる。その数日後にはネリが完璧なる神の子を産むだろう。

完璧なる神の子の思念によって、神の子の半径32キロにいる人々は次々と正気を失い、潰瘍性の傷が全身に出来、発狂した末に自殺し、或いは愚者へと変わり、元々悪意に染まるものは平然と公共の場で殺人を犯し、女たちは禍々しい存在を妊娠する。
悪夢のパンデミックは忽ち世界に拡散していき、数日で人類は絶滅するかもしれない。
だが、その未来を語る必要も無いだろう。そんな世界で人類が生きていられるだろうか。

もし、KPがこのシナリオを平等に取り扱うならば、このエンディングへの可能性は大いにあるだろう。

もしも探索者達が尚も人類の希望を諦めないとするのならば、黒蜥蜴はドリームランドに自分たちの拠点を持っている。
ドリームランドに導かれ、地球を邪神から奪う為に、人間達の長い戦いが始まるだろう。
打ち勝てるかどうかは、このシナリオでは語られない。
全ては、神のみぞ知ることである。

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クトゥルフ神話TRPGを主に「オンセンsns」さんでやっております。 基本的には物語の中身はシリアスだけど、救いのあるものが好きです。 宜しくお願い致します。