2022年06月03日更新

【儀典:ドグラ・マグラ】

  • 難易度:★★★|
  • 人数:1人~1人|
  • プレイ時間:2~3時間(テキストセッション)

夢野久作御大の名作、「ドグラ・マグラ」をパク……オマージュにして、インセインシナリオを作りました。
一人用、最大5サイクルの特殊型です。

 プレイ人数 : 1人用
 シナリオタイプ ; 特殊型
 サイクル : 最大で5サイクル (最短で2サイクル)
 シーン表 : なし
 特殊ルール : 狂気の枚数は5枚ではじめる

ちょっとなれた人向けな「メタ」なインセインシナリオです。

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【シナリオ概要】
 
 PCは、古本屋にあった「儀典:ドグラマグラ」という本を買い読んだ所、本の世界に引き込まれてしまいます。
 「儀典:ドグラマグラ」は「魔術的な領域」を作り出す本で、読んだ人間の記憶を奪う本だったのです。
 
 儀典:ドグラ・マグラの力によって意図的に「クレ・ソウイチロウ」という人物の過去を与えられたPCは「自分をPCだと」という自我を持ち続けるのか。それとも「過去」に惑い「クレ・ソウイチロウである」と思いこむのか、「儀典:ドグラ・マグラ」はテストをしているのです。
 
 儀典:ドグラ・マグラの力により「本の中の精神病棟」が一室に押し込められたPCは、自分であった記憶はあるものの、その部屋では「クレ・ソウイチロウ」の記憶や容姿が与えられます。
 はたしてPC無事に自我をとりもどし、この悪魔の実験室から抜け出せるのか。
 自己に気付き、本の中から脱出するのがPCの目的である。
  
【概要(おまけ長いバージョン)】
 
 「スギヤマ」と呼ばれる男がいた。
 彼は「自分」というものを自我の中に追い求め、惑い、とうとう自己の本質のこたえを見いだせる事がないまま死に至った。
 
 彼の著書は「ドグラ・マグラ」と呼ばれ、今も「読むと気が狂う本」といううたい文句で一般書店に流通している。
 そして、その本は「奇書」の一つとして、今でも多くの探偵小説ファンが読みあさり、それぞれの解釈を得て「スギヤマ」の求める本質を追究していた。
 
 そして、いつしかその追究は故人である「スギヤマ」の意識を越えて、一つの意志をもって動き出す。
 自分とは何か、自己とは、自我とは何か……そういった「問題」を提起するために。
 
 かくして故人の意志をはなれ「ドグラ・マグラ」という奇書は一定の意志をもち、一定の人格をもつよう変化していく。意識をもった奇書は「スギヤマ」が求めた「本質」をテストするための領域を作り出し、まるで罠をはるように本へ擬態して獲物を待ちはじめた。
 
 スギヤマが追い求めた「自己」というもの。
 それは「己」の中にあるのか、それとも「過去」にあるものか……意識か現実か……あらゆるものを入り交じった「奇書の実験場」それがこの場所「儀典:ドグラマグラ」である。
 
 儀典:ドグラ・マグラを開いたPCは、そこから本の世界に入り、目覚めた時はすでに病院にいる。
 
 収容された病院(儀典:ドグラマグラの世界)では「PC=クレ・ソウイチロウという人物」である……そう思わす仕掛けがいくつも施されている。
 
 奇書は自分を手に取った人物の記憶を消し、新しい記憶(クレ・ソウイチロウの記憶)を植え付けて 「それでもなお、人は自分でいられるか」 というのをテストしている。
 
 記憶がない事も、偽の記憶が作られているのもすべてドグラマグラの実験である。
 これは、奇書の産みの親であるスギヤマ自身、長らく有名な父親の息子との生を与えられ、彼は父親の道具であったのでは……そう思っていた劣等感からの実験でもあった。
 
 人の自我は他者に与えられるものである。
 奇書はそう信じており、だからこそ、自分のように与えられた役職に人生も人格も「なっていく」のは当然と考えている。
 同時にそんな束縛から人が逃れるようにも願っている。
 
 そんな狂気の実験場・ドグラマグラの思惑を乗り越え、元の世界に戻るのがPCの本当の目的である。
  
【導入フェイズ】
 
 巻頭歌

 胎児よ 胎児よ 何故躍る
 母親の心がわかって おそろしいのか
  
 ブーーー………ン。
 何処かで大時計の鳴る音がする。
 あなたが気付いた時に、白い部屋にいた。
 
 白いベッドに消毒薬のにおい。
 そして鉄格子のはめられた窓。
 
 ……どうやらここは病院のようだ。
 
 「あなた」は病院に行くような怪我も病気も、今はしてないはずだが……。
 
 隣の部屋からはか細い声で「おにいさま」「おにいさま」と幾度も呼ぶ女性の声が聞こえる。
 
 部屋の片隅には黒い外套をまとい、やたらと長い前髪を伸ばしっぱなしにした蒼白の男が一人、安普請の椅子が上に座っている。
 古いスクラップブックに視線をおとし、こちらに気付く様子もなく本に目を落としている。
 時々「なるほど、つまり」「そうか……」そんな風に呟いていた。
 
 暫くそうしていると、「あなた」に気付いたように顔をあげた。
 スギヤマは自己紹介をすると、「あなた」が現在、記憶喪失の疑いがあるという事を説明し、室内を調べるように促す。
 「お前の、記録は全てこの部屋にある」「そう」「この部屋にはPCの罪全てが記憶されている」と伝え、あなたに室内を調べるよう促すのだった。
 
 ※ このシーンが終わったら HO:スギヤマ博士 を出す事 ※
 ※ このシーンが終わったらPCのHOが現在のものから、PC-2 へと変更になる ※
  
<室内の様子>
 
 室内は、カーテンもベッドも白一色で統一された個室である。

 窓は一つだけ。
 曇りガラスで鉄格子が取り付けられた厳重なものだ。

 車の排気音のような雑音は一切なく時々鳥の声などが聞こえる事からここが郊外の静かな場所なのは解る。
 
 スギヤマ博士は、ベッドから離れた所にある事務机の前にこしかけている。
 
 白い部屋のなか、白髪まじりの髪を伸ばしっぱなしにし前髪が長めの痩せぎすのスギヤマ博士はあたかも死神が腰掛けているような風にも思える。
 (スギヤマ博士は黒いスーツに黒いネクタイと喪服のような格好にすり切れた白衣を羽織っている)
 
 事務机にはファイルがいくつか。
 それと、電子カルテをやりとりするためか、パソコンが置かれている。
 (スギヤマ博士いわく、外部のデータにはつながっておらず、内部のカルテと大学付属図書館の本のデータ、新聞のデータが見られるだけという)
 
 部屋の片隅には「収容者たちの作品」とかかれたガラスケースに、この病院に収容されている患者がつくった作品であろう展示物が置かれている。
 (スギヤマ博士いわく、この部屋は少しばかり広く、元々個室ではなく患者たちが集まるレクルームだったが、誰も集まらないので個室にした)
 
 ※ ハンドアウト「スクラップブック」「カルテ」を開示する ※
 
 隣の部屋からは、女性がか細い声でこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。
 「お兄さま」と呼ぶ声は、PCの縁者らしい。
 
 ※ ハンドアウト 「隣室からの声」 を開示する ※
 
 部屋の様子を説明したら、メインフェイズに入る。
 
 ※導入が終わってから開示されるハンドアウトは 「スギヤマ博士」「スクラップブック」「カルテ」「隣室からの声」 の4種類になる※
  
【マスターシーン】
 

<扉>
 (条件:1サイクル目終了後)
 
 室内を調べるPCをよそに、スギヤマ博士はゆっくり立ち上がる。
 
 「サァテ……少しばかし用事がある。キミはこの部屋を自由に見てまわるといい。だが、決して外に出てはいけないよ」
 「欲しいものがあるなら私が代用してかってこよう。見たいものがあるなら、可能な限り私がもってきてやろう」
 「だから決して」
 「外に出てはいけないよ」

 スギヤマ博士はそう言うと、扉から外に出ていく。
 
 扉は、突然あなたの前に姿を現したような……さっきまでそこに無かったはずなとも思えるが、ずっと以前からそこにあったようにも思える。

 扉はまるで誘うように音をたて、ゆっくりと閉じていった。
 
 ※このサイクル終了後、ハンドアウト「スギヤマ博士」を調べる事は出来なくなる。(居場所を得る事は出来るが、外にいるため彼との戦闘は「外に出る」とみなされる)
 ※このサイクル終了後、スギヤマ博士がいなくなるので、スギヤマ博士の調査は出来なくなる。
  
<チャカポコチャカポコ>
 (条件:2サイクル終了後)
 
 チャカポコチャカポコ……チャカポコチャカポコ……。
 奇妙な歌が、窓から聞こえる。
 
 いや、音は部屋から?
 いや、音は……。
 
 音は、自分の中から聞こえる。
 このチャカポコを言ってるのは、自分だ。今自分が、チャカポコチャカポコ歌っている。
 
 自分の意志に反して、勝手に身体が動いてしまったようだ。
 一体、何がおこっているのだろうか。
 
 非常な状態で恐怖の限界に達したキミは <<情動>>分野の<<驚き>>で恐怖判定を行う。
 
 戸惑うPCに、スギヤマの声がする。
 「クレ・ソウイチロウは。よく、そうやって一人でうたってたよ」
 気付けば椅子にはスギヤマ博士が座っていた。
 扉が開いた気配はなかったが、うなされていて気付かなかったのだろう。
 
 身体の中のチャカポコは消える。
 だがその心には、いい知れない何かが渦巻いていた……。
  
<続・チャカポコチャカポコ>
 (条件:2~4サイクル終了後)
 
 身体の中で、またチャカポコチャカポコと音が聞こえる。
 非常な状態でも、もう心が動く事はない。
 クレ・ソウイチロウにはそれが当然の毎日だったのだろうか。
 
 <<情動>>分野のランダム技能で、恐怖判定を行う。(ランダムはGMが決定する)
 
 ※基本的に、この病室に留まっていればいるほど、恐怖判定が多くなります。
  
【クライマックスフェイズ】
 
<胎動>
 (条件 : 5サイクル経過する、あるいは扉から脱出する)
 
 扉の向こうはまるで、あなたを誘うような廊下が延びている。
 その廊下を進んだ先に、あなたは何処かで見たような姿をした、男と遭遇する。

 それは鏡で、鏡には「クレ・ソウイチロウ」とおぼしき男がうつっていた。
 (それまで、PCに「クレ・ソウイチロウ」の情報がなかったとしても、明らかに鏡の姿はPCの設定した姿とは異なっている)
 
 鏡を見るあなたに、誰かが話しかけてくる。
 
 「キミが殺したんだ」
 「PCは、キミが殺した」
 
 振り返ると、あなたの眼前には頭を斧で割られた、PCが立っていた……。
 
 「キミは、私(一人称は、PCのキャラクターに準じて変更してください)を殺して、斧で頭をわり、首を落としてわたしの臓物を食らった」
 「そうして、キミは私になろうとした」
 「私を殺して、私の名前や人生まで奪おうとした」
 「私はキミを許さない、クレ・ソウイチロウ。キミを、許さない」
 
 あなた夢でも見ているのかと錯覚する。
 <<怪異>>分野の<<夢>>で恐怖判定を行い、戦闘を開始する。
 
 戦闘のデータに関して、「PC」は「PCのもった技能や特技をまるっきり同じもの」をもっている。
 (狂気やアイテムは所持していない)
 
 この戦闘は3ターンで終了する。
 
 この戦闘に勝っても特に勝利報酬はない。
 (秘密なども、あくまでPCの秘密がわかるだけ)
 
 戦闘が終わると倒れた敵(PC)が。
 戦闘に負けて倒されると、勝った敵(PC)が。
 戦闘から脱落して逃げ出る、あるいはターン終了で戦闘が終わるとPCの背に敵(PC)が、それぞれ問いかけてくる。
 
 「さぁ」「キミは一体誰だ」
 「キミの名前は?」

 この時こたえた名前によって、後日談に変化がある。
 この空間から脱出するには、PCは「自分が最初に設定したPCの名前」をこたえられた時のみになる。
  
<後日談:君の名は>
 (条件 : PCが「君の名前は?」の問いかけに対して、当初設定したPCの名前をこたえる)
 
 気付いた時、PCは本を読んだままうたた寝していた事に気付く。
 部屋は、自分の部屋でもうあの窮屈な病院ではない。

 読んでいたはずの「正気を失う」という本は消えている。
 PCは無事に日常に戻る事が出来た。

 もし、PCが「クレ・アヤ」と何かしらの感情を結んでいたら、彼女に似た友人がそばによりそっていてもいい。
 PCが「スギヤマ博士」と何かしらの感情を結んでいたのなら、PCとスギヤマ博士を知り合いにしてもよい。

 また、PCがスギヤマ博士やクレ・アヤを殺していたら、ニュースなのでスギヤマ博士、あるいはクレ・アヤが殺された、というしらせを聞く。

  
<後日談:時計の音>
 (条件 : PCが「君の名前は?」この質問に、当初設定していたPCの名前を答えなかった場合)
 
 PCが、自分を「クレ・ソウイチロウ」だと思っていた。
 あるいは、他の全く別人の名前をいった、そもそもPCが誰の名前も答えられなかった場合、自己を取り戻せなかったものとして、こちらのエンディングになる。
  
 ヴーーーーーーン……。
 ベッドの上にいる「あなた」の脳裏に、クレ・ソウイチロウの影が踊る。

 あぁ、クレ・ソウイチロウ……。
 そう思っているうちに、時計の音が止まる。

 静寂の後、病室の中、あなたは気付くだろう。
 これまでの事はすべてこの病室のなかでみた、自分自身の夢だったのだ、と。

 そしてまた、全てを忘れた自分は自分を求めて思考の渦に飲み込まれていくのだ……。
 
 この時にPCが「スギヤマ博士」や「クレ・アヤ」の名前を言えば、PCはスギヤマ博士、あるいはクレ・アヤとして物語に組み込まれる。
 
 スギヤマ博士やクレ・アヤを殺していても、このエンディングだと復活している。
  
<後日談:現実>
 (条件 : PCが、名前を問われ「PLの名前」をこたえた時のエンディング)

 GMは、「PCは自分がPLのつくりだしたキャラクターである事に気付いた」という事を告げてください。
 PCをどうするかは、PLに一任してください。
 PLの判断で、PCは次のシナリオをまつか、そのまま破棄されます。
 この時「物語」としてのPCの後日談は特にありません。
 
 ※ その他、とんでもない名前をいうようなPCがいたら、それはそれで対応させたら面白いような気がします。
  
【その他追記】
 
・プレイ上の注意

 この作品は性質上、「PC」を「クレ・ソウイチロウ」と思いこませる必要があります。
 臨場感を出すため、PCの名前は「あなた」で統一するのをおすすめします。
 これは、「PCは自我こそあるが自分はない」というシナリオ上の伏線でもあります。
 
・NPCと戦闘

 スギヤマ博士、及びクレ・アヤは特別な能力は持ちません。
 1点でもダメージを与えれば、死んでしまいます。
 PCがスギヤマ博士、及びクレ・アヤとの戦闘を望んだ場合、戦闘シーンなどの処理はなくクレ・アヤを殺す事が出来ます。
 スギヤマ博士、及びクレ・アヤの殺害は、室内にいる時だけです。
 

・ゾーキング

 部屋には患者の展示品などがおかれている。
 ハナクソで創られた仏像やら、カチューシャかわいや別れの辛さとしか書かれてない大学ノートに混じって、「※※※※※※」という名前の書物を見付ける。
 なぜかその書物の文字は、読めるはずなのに意味がわからない。(その書物はドグラ・マグラと書かれている)
 この書物については、スギヤマ博士にきいても、彼が説明しているのに言っている意味がよくわからなく、聞こえ、辛うじて「精神病の男がかき上げた超大作の小説」という部分だけが読みとれた。
 この本について、PCは何を調べても文字を認識する事が出来ないのでわからない。

 もし、PCが設定にない部分(日付や場所など)を問いかけてきたら、スギヤマ博士はそれを説明するものの「※※※※」と聞こえ「言葉として認識できるが理解はできない」と処理してください。

 チャカポコ、チャカポコの歌はスギヤマ博士曰く「もう死んだ他の患者が歌っていた、精神病院にぶち込まれた自分の哀れを慰める歌」と説明します。

 「※※※※」の発音は「ほにゃらら」や「ピー(奇声音)」、「ずんどこべろんちょ」などで、オフセッションの時は頑張って表現してね!
 
【恐怖】

 恐怖は5枚、好きなのを選んで下さい。
 もし迷ったら……。

 闇からの祝福 / 広がる恐怖 / 盲目 / パニック / 恐怖症
 を、とりあえずオススメです。
  

【おまけ】

 クレ・ソウイチロウは 「呉想一郎」
 クレ・アヤは 「呉綾」 が漢字です。
 スギヤマ博士は 「杉山泰道(直樹)」 です。(お察し)
  

【Q&A】

Q.チャカポコって何?
A.原作、ドグラ・マグラでも一番読むのがキツいと思われる箇所です。
 
Q.ドグラ・マグラを知らなくても遊べる?
A.知らないプレイヤーさんがやったけど、とりあえず遊べました。
 
Q.このシナリオを動画とかリプレイにしていいかな?
A.特に許可なくやってもいいよ、ありがとう!
 
Q.パクリ?
A.おおおおお、オマージュですよ!?!?!?

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酸素をすって二酸化炭素を吐き出すマシーン。ビールが主食。

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