「ねぇ、知ってる?自分のドッペルゲンガーを見た者は死ぬって言うでしょ?あれ、違うらしいの。本当は"ドッペルゲンガーが殺しに来る"んだって。」
このシナリオは“クトゥルフ神話”と“クトゥルフ2010”、“クトゥルフ2015”に対応したシナリオである。
1人向け、多くても2人用となっている。
シナリオの時代設定は現代の日本。学生用シナリオである。
舞台はとある学校であり、自由に決めて良い。
2人以上の探索者がいる場合は知り合いであることが望ましい。
推奨技能は聞き耳、準推奨として心理学。
探索者通う学校ではドッペルゲンガーに関する噂が流れている。
噂の内容はとある教師を複数の生徒が別々の場所で目撃した、というもの。誰かがドッペルゲンガーだと騒ぎ立て学校中に広まった。
そんな噂の最中、近頃学校を休み続けていた探索者の友人の目撃談が貴方の耳に入るだろう。
友人を追って夜の学校に向かう探索者は噂の真相を目撃することになる。
ドッペルゲンガーの正体はミ=ゴの作り出したクローンである。舞台である紅浦高等学校の地下はミ=ゴの目的である鉱石が豊富に取れる絶好の場所であり、人の集まるこの場所でどうにか穏便に採取したいミ=ゴはクローン製造による市民の入れ替えを画策している。こっそりとクローンを成り代わらせることで騒ぎにならないようにするのである。
もう一つの理由としてはこの地域には比較的犬を飼う家庭が多くそれに怯えていたりする。
このシナリオはタイムリミットがあり、日を追うごとに成り代わったクローンが増えていく。三日目の夜までに夜の体育館にたどり着かなかった場合は探索者のクローンに襲われ、殺害される。探索者には「教室に入ったとき貴方は違和感を感じた」「貴方の机には一通の手紙が入っている。内容は一言「殺す」と書いてある」等といって事態の進行を感じさせること。
とある高校に通う探索者はいつもの様に学校に向かうと友人である加藤夏樹からとある噂を聞かされる。
「なぁ、ドッペルゲンガーの噂知ってるか?」
彼の話す噂というのは、なんでも同じ時間帯に同じ人間を全く違う場所で目撃した生徒がいるらしい。それを誰かが面白半分にドッペルゲンガーだとまくし立た。ここまでなら大人に近い高校生達の間でそこまで流行るとは思えないのだが、なんと立て続けに目撃談が幾つも浮上したのである。噂は一気に信ぴょう性を増し、広がることとなった。
噂の出処や実際の目撃談については非常に曖昧であり、とても辿ることは出来ない。口を揃えて「友達の友達から聞いた話だ」と言うだろう。
しばらく加藤とそんな話をしていると、チャイムが鳴り教室には担任がやってくる。
担任は教室を見渡すと、「今日も休みが多いなぁ」とボヤくだろう。
朝のホームルームで担任が話す内容は以下の通り。
・旧校舎の工事が始まっているので立ち入り禁止であること。
・休んでいる生徒は『大谷 守(おおたに まもる)』『佐賀 大介(さが だいすけ)』『遠藤 沙也(えんどう さや)』の三人。前日は別の3人が休んでいた。
・風邪がどうやら流行っているので手洗いうがいは徹底すること。
・最近遅くまで残っている生徒がいるので早く下校すること。
ここから探索者は昼休み、放課後と行動できる。
行動に迷うようであれば、噂が耳に入ったことにしても良い。
・休んでいる生徒は他クラスにも多数存在している。ひとクラスに平均3~5人は休んでいる。理由は皆風邪であり不審に思う生徒もいる。
・ドッペルゲンガーの噂について生徒たちに尋ねると、全く知らない生徒が何人かいる。また【目星】や【心理学】を振ってもらうと、これらの生徒はその噂を聞いた瞬間から露骨に話を避けようとしているのが分かる。
・ドッペルゲンガー以外の噂話について聞くと「何だか最近体育館が妙に揺れる気がする」と教えてくれる。具体的には体育などで運動すると動きに合わせて微かだが揺れを感じる。
・図書室に行けばこのあたりで珍しい鉱石が取れるとの情報が得られる。
休んでいる生徒達はクローンによる成り代わりが行われて間もない人々。人として社会に迎合していくために下準備をしている段階にある。ドッペルゲンガーの噂を語らない生徒は、既に成り代わられたあとのクローンそのものであり、自分らに不利になるこの噂については知らないフリをしている。体育館が妙に揺れるのは、その地下をミ=ゴが掘り進めている為、地盤が緩くなっているから。
放課後になると担任から遠藤沙也にプリントを届けるよう頼まれる。
遠藤の家と探索者の家は程近いことにしてしまうと楽である。加藤を一緒に誘った場合、嫌々ながら来るが、途中で姿を暗ますことになる。
遠藤沙也の家は一軒家で、小さな庭がついている。そこにある犬小屋では大型犬が落ち着かない様子でそわそわしているようだ。
遠藤はインターホンを押すと玄関までパジャマ姿で出てくるだろう。
その姿を見ると犬がやたらと吠え出す。明らかな敵意が遠藤沙也に向けられているのが素人目にも見て取れるだろう。遠藤は慌てた様子で探索者に要件を聞く。具合はどうかと訪ねられれば風邪気味だと嘘をつく。【目星】か【心理学】、【医学】で見破ることができる。
そこから家への帰り道、探索者は悲鳴を聞くことだろう。【聞き耳】ロールの必要も無い。
【アイデア】を振ってもらうと、それが加藤夏樹の声だと気がつく。
悲鳴の元に駆けつければ、人気のない路地で、加藤夏樹が加藤夏樹に首を締められ殺害される様子を目撃する。襲われている方は制服姿で、襲っている方は私服である。
生きている方の加藤夏樹は驚き焦る様子を見せ、おおよそ普通の人間とは思えない身体能力で、死体を抱えたまま急いでどこかへ消えてしまうだろう。
SANC 1/1d3
加藤夏樹はいつもと変わらず登校している。昨日の事を聞いてもなんのこと?とシラを切るだろう。
遠藤沙也を含めた一日目の欠席者は皆学校に来ているが、代わりに別のクラスメイトが3人程休んでいる。
クローン成り代わりを行った加藤がいきなり学校に現れたのは、探索者に目撃されたから。欠席という明らかに怪しい行為を取るよりは、翌日も出席することで少しでも疑念を晴らそうという彼なりの賭けである。目撃された時点で相当焦っている。
昼休みになると遠藤の親友である三浦華が声をかけてくる。
彼女は遠藤沙也のことをとても心配しており、前日プリントを届けた探索者に遠藤の様子を聞くだろう。
三浦華は昨夜10時頃、犬の散歩中に遠藤沙也が深夜の学校に入っていくのを目撃したと教えてくれる。
彼女はクローンではない。そのためドッペルゲンガーの噂についても話してくれる。
尚、探索者が夜の校舎に向かう際同行の提案をした場合は何とかして断らせること。塾がある、課題がある、等。
旧校舎は明かりがついていてドアが半開きの場所がある。警備はいない。(既にクローンに成り代わられているため)
3階建てだが2階の階段には防火シャッターが降りており、上がることができない。
掲示物が剥がされ、物寂しい廊下が続いている。各教室の扉には窓がついており、中が覗けるようになっている。どの教室も明かりがついているようだ。
【目星】で工事以外に人が立ち入っていないはずなのに、妙に掃除が行き届いていることに気がつく。
中には誰もいない。机や椅子が並んでいる。
【目星】でその置かれ方から、ついさっきまで人がいた様な雰囲気を感じる。PLから詳細に様子を聞かれれば目星無しでも描写していい。
黒板には授業の板書が残されている。内容は社会や道徳。人間社会について、学校という施設について詳しく書かれている。
机の中には、授業で使ったらしいノートが何冊かある。
【アイデア】ロールに成功すると、一人の先生が教えを説いているというより、大人数が議論して書いていったんじゃないかと想像できる。
ロッカーには加藤夏樹の死体が入っている。服装は下着姿であり、持ち物は何もない。
変わり果てた友人の死体を発見してしまった探索者はSANC。1/1d3
思い出を含む一部の記憶が欠落しているクローン達は、オリジナルに成り代わり社会で暮らす為、互いの譲歩を共有したり議論したりすることで学び合っている。オリジナルの記憶をある程度は記憶を保持しているとはいえ、生まれたて同然のクローン達は上手く生きる術を知らない。成り代わりから数日学校を休むのも、オリジナルの人間関係を上手く把握するためである。ロッカーに加藤夏樹の死体があるのは、焦ったクローンがその処理をまだ終えていない為。制服などの身ぐるみはクローンに奪われている。
こちらにも人はいない。
黒板には何かが書かれていたが、消された跡がある。
ロッカーには何も入っていない。
机からは三浦華と名前が書かれた日記を見つけることができる。
内容は以下の通り。
7月15日
私の名前は三浦華という。それ以外の何者でもなく、唯一の存在だと思いたかった。あのデカブツに私は生み出された。生きる目的もアイツの為だけにある。こんなの絶対におかしい。社会の授業で人間は皆平等だと教えてもらった。だけど彼女は生まれつき自由で、私はその逆だ。嘘っぱちじゃないか。
7月16日
昨日の話をそれとなく他の人にも話したら、親には逆らっちゃ駄目だ、おかしいのはお前だと笑われた。ムカついた。私は彼女が羨ましいけれど、殺すなんて間違っていると思う。
7月17日
私はアイツを殺すことにした。殺すべきなのは彼女じゃなくてアイツなんだ。体育館で何やってるのか知らないけど、私はこんなやつに従いたくない。見た感じはそんなに強くないと思う。私なら勝てる。アイツがいなくなれば、みんなも気がつくと思うんだ。
三浦華に賛同するクローンは数名いた。しかしミ=ゴに歯向かいボタン一つで塵にされた様子をみて、完全に戦意を失っている。三浦華のクローンが死んだのはセッション開始一日前の夜である。
窓から覗くと何人か人が寝ているのが見える。
他にも談笑している人や本を読んでいる人もいるだろう。さながら学校の休み時間のように見える。
そしてそれは皆、貴方の学校の生徒であることが分かる。中にはクラスメイトもいるだろう。
中に入っても真っ先に敵意を向けられることはない。それは探索者と探索者クローンの区別がついていない為だ。しかし不審な行動を取ったり、クローンについて問いただすような真似やドッペルゲンガーの噂を口にすると途端に疑われ始める。
クローンとしてはそぐわない発言行動をした場合NPCに成功値20で【心理学】ロールを行わせる。怪しまれてしまった場合は組み付きによる捕獲行動を行うだろう。これはオリジナルはそのクローンが直接手を下すべきだ、というクローン達の考えによるものである。その場で逃げ出せた場合は追ってこない。代わりに探索者クローンが凶弾され、オリジナル殺害に向けて行動を開始する。
一階と概ね同じ。
探索者が二階に上がった時点で【聞き耳】ロールを行う。成功した場合、一階から足音が聞こえることに気がつくだろう。
この足音は探索者クローンのものである。自分と何一つ変わらない容姿を持つ人間に出くわした探索者は不気味さを覚えるだろう。SANC。0/1d3+2
ここで探索者が狂気に陥った場合、探索者クローンに80の値で【精神分析】ロールを行う。これはクローンに対しての警戒を解かせる意味合いがある。
《探索者クローン》
能力値はSIZ,APPを除いて探索者の+3の値。
精神分析 80%
応急手当 80%
他好きな技能を持たせて構わない。
「落ち着いてくれ。私は君の敵じゃない」
クローンの台詞は探索者の口調に合わせて一人称二人称を変更すると良い。
話す内容は以下の通り
・自分たちはクローンである
・怪物に命を握られている。助けて欲しい
会話の途中で足音が上がってくることに気がつくだろう。
「二人で居るところを見られるとマズイな。話はここまでだ。私は先に行っている」
そう言うなり探索者クローンは窓から飛び降りて去っていく。
探索者はどこかの部屋に入れば見つかることはない。開いた窓を不審がって一階に向かうことだろう。
目に付くのは巨大な冷蔵庫。調理が行われた痕跡もいくつか残っている。
冷蔵庫の中身は大量の食材である。
成り代わりを済ませていないクローン達は、主にここで食事をとっている。この旧校舎は彼らの拠点であり、生活場所である。
そこは貴方の知る理科室のイメージとはかけ離れた光景が広がっている。
いくつかの棚や机がある。ここまでは至って普通であるが、部屋の奥には今までに見た事が無い仰々しい機械が幾つも並んでいて、そのそばに大きなカプセルが置いてある。
この部屋だけはほかの部屋と比べて明かりがやけに薄暗い。
その中には赤ん坊が浮かんでおり、あまりの異質さ不気味さに恐怖を覚えた貴方はSANC。0/1d3
棚には実験器具などが立ち並んでいる。 【目星】ロールを行うと、成功で乾電池を発見することができるだろう。失敗しても「棚の扉が半開きになっている」等と言って乾電池を見つけさせること。
ここではクローンの製造が行われている。
発見出来る乾電池は攻略の要、と見せかけてガラクタである。いいところで電池が切れたりするかもしれない。
本棚が並び、机がひとつ置いてある。
本棚といっても本は新校舎の図書室に移されているようなのでろくに残っていない。
机の上にはメモが置いてある。
引き出しには懐中電灯が手に入る。電池は入っていない
三浦華はミ=ゴに立ち向かったけれど、アイツのもつ端末みたいなものであっという間に消されてしまった。僕らがアイツに歯向かうなんて無理な話だったんだ。
どうやらアイツは夜にしか活動しない。アイツがいる体育館もいつも真っ暗だし暗いとこが好きなのかもしれない。これは僕の予想だけど、きっと光に弱いんだ。だけど僕にはもう反抗する時間も気力も勇気もないから誰かに託そうと思う。
三浦華と共にミ=ゴに立ち向かったクローンの手記である。
懐中電灯は後の戦闘で重要なアイテムとなるので取得させること。
扉の前には探索者クローンがいる。
話によるとミ=ゴは体育館の電気盤を遮るように鎮座しており電灯をつけるためには囮が必要であるらしい。
「貴方が隙を作ってくれれば端末を奪える筈だ」
体育館に入ると、ドアの音に反応したのか耳障りな羽音がこちらに迫ってくる。エビにも似た巨大な甲虫が貴方の前に姿を現すだろう。今まで見たことのない巨大な生物と出くわした貴方はSANC。0/1d6
学校で入手した懐中電灯は幸運判定で電池が切れてしまう。
懐中電灯を当てることで1ラウンドの間気を逸らすことが可能。
体育館の電気盤までは3ラウンドかかる。
無事3ラウンド耐え抜き電気をつけることが出来れば、ミ=ゴは呻き声をあげて、端末を探索者の足元に落とすだろう。
苦しむミ=ゴとクローンとの戦闘になる。
ろくに動くことができないようだが、それでも電気銃による攻撃を行ってくるだろう。
クローンは強化人間であり、ナイフを用いていとも容易くミ=ゴを殺す。
ミ=ゴを倒せば最後の分岐になる。
探索者はクローンを殺すか生かすか選択することになる。
クローンを殺す場合→ED1
クローンを生かす場合→ED2
ED1
貴方がスイッチを押すと、クローンはギュッと心臓を押さえる。息が上がりボタボタと汗を垂らすだろう。そして、貴方に向かってポツリと呟く。
「ありがとう。これで自由になれる」
最期にニコリと笑い、クローンは砂のように消え去ってしまうだろう。
その後、ドッペルゲンガーを目撃したと言う話は途絶え、噂は次第に消えていくだろう。クローンに成り代わられた人物たちもオリジナルを演じながら生きていく。貴方は元の日常に帰ることになる。
ノーマルエンドSAN値回復1d6
ED2
「それが答えか」
ぽつりとクローンは呟く。
「私のオリジナルが貴方で本当に良かったよ」
そしてクローンは自分の胸にナイフを突き立てる。苦しみながらも言うだろう。
「同じ人間は二人も生きていてはいけない。クローンは所詮クローンで幸福にはなれない。でも貴方が優しい人間でよかった」
最期にニコリと笑い、クローンは砂のように消え去ってしまうだろう。
その後、ドッペルゲンガーを目撃したと言う話は途絶え、噂は次第に消えていくだろう。クローンに成り代わられた人物たちもオリジナルを演じながら生きていく。貴方は元の日常に帰ることになる。
トゥルーエンドSAN値回復1d10
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