是害坊
鬼童丸
「剣」を持った人物は新しく【業】をひとつ使用することができるようになる。
基本ルールブックp177「門決定表」にある通りである。
彼の乱より、魑魅魍魎の跋扈する魔都と化した平安京。
その乱の傷も癒えぬうち、新たな争いを持ち込まんとする者がいた。
名を鬼童丸。彼の酒呑童子の息子にして、力を振るう野盗にも近い鬼である。
彼の鬼は人を嫌う。とかく武士を嫌う。朝廷を嫌う。
そんな折、彼の乱において行方不明になっていたという一振りの剣の在処を検非違使どもが掴む。
彼らは従順な帝の式、是害坊を筆頭としてその場所へと向かった。
しかし、そこあったのは――。
剣と、その剣に胸を貫かれた鬼童丸の姿であった。
平安幻想夜話鵺鏡「わが置きし 剣の太刀や」
神代には、その剣を「天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)」と呼んだ。
初期因縁:是害坊[目障]
初期喪失:居場所(生様)
推奨分限:武士、野盗、惑師
目的:天叢雲剣を奪い取る。
あなたは朝廷に仕える検非違使、武士の一人である。
元は隊長の身分であり、それなりの地位が約束されていたはずだった。しかし、一度鬼童丸に急襲をかけた際、[PC乙]に敗北を喫してしまい、今では閑職だ。
この度、朝廷からの命令で、彼の乱で失われた天叢雲剣の奪還を命じられた。頭目には是害坊と呼ばれる式がついたが、なんでも横柄でこちらを馬鹿にしてくる。
それでも、己の居場所を守る為、あなたは必死に今の立場に食らいついた。――だが、それは過去のこと。
しかし、その剣の噂を聞いた瞬間、あなたは思いついてしまった。
この剣の力さえあれば、こんな奴に頭を下げる義理などない。自ら朝廷に献上するのもよいが、己の物として朝廷をけん制し、この世を謳歌するのもよいだろう。
そう、あの剣さえあれば。あの剣さえあれば。自分の居場所を作るのに苦労なんていらないのだから。
初期因縁:鬼童丸[仇敵]
初期喪失:真の力(血脈)
推奨分限:式、屍、影司
目標:鬼童丸の力を奪う。
あなたは昔、鬼童丸と友人であった。
しかし、ある時、たまたまねぐらにしていた洞窟の奥深くにあった剣を手にしてから、鬼童丸は変わってしまった。
まず、一番弱い仲間を殺した。
次に、二番目に弱い仲間を殺した。
殺して、殺して、今、鬼童丸と徒党を組んでいる者はほとんどいない。
もちろん止めようと思った。
だが、剣の力を手にした鬼童丸は冗談ではなく強い。
息を吐く間もなく敗北し、[PC丙]に助け出されたものの、本来の力が出せない状態になってしまった。
結局あなたは再び鬼童丸の部下に舞い戻り、いつか復讐の機会を狙っていた。
そして、今このときこそが好機である。
あの剣さえ、鬼童丸の手から奪いさえすれば、今のあなただって鬼童丸に勝てるのだが。
初期因縁:是害坊[欲望]
初期喪失:正気(魂魄)
推奨分限:大妖、娼妓、孤高
目的:是害坊を手に入れる。
あなたは是害坊の部下である。
そしてあなたは、是害坊に心酔している。
あなたはとあるきっかけで仲間(あるいは家族)であった[PC丁]を捨てて、是害坊の元へと走った。
そして熱心な働きによって、徐々に今の地位を得たのだ。そして今回は上司である是害坊と共に、検非違使を引き連れて剣の探索を命じられた。
今回もきっとうまくいくだろう。策謀、知略、そして力づく。是害坊のために裏で相当手を回してきたあなたがいるのだから。
だが、この剣、相当強大な力を持つという。
もし、この剣の力を使えば……あの是害坊を屈服させることができるのではないか。
そうすれば、あの是害坊を思いのままにできる。
それならば、とあなたは剣を手に入れるために行動を開始した。
初期因縁:鬼童丸[恩義]
初期喪失:片腕(血脈)
推奨分限:孤児、変化、畜生
目的:鬼童丸を助ける。
あなたは鬼童丸に助け出されたことがある。
都で悪事を働いていたあなたは、あやうく[PC甲]に捕らえられかけたことがあるのだ。
今思えば、何も見返りを求めず、わざわざ鬼童丸がそのようなことをするはずもないし、そのことも十二分に理解しているつもりだ。
だが、この身に受けた恩義、一寸たりとも忘れるわけにはいかない。
そんな気持ちで力を蓄え、彼の鬼童丸と共に行動することをようやく許してもらった。
何人かいつの間にか仲間が消えていったが、あの鬼童丸の態度では致し方ないことだろう。
それに、人は少ない方がよい。あなたが、あなただけが鬼童丸を守れる、と分かってもらうためには仕方のないことである。
どのPCも目的がはっきりしているため、好きな道標を選ぶとよい。
※GM向け
各道標に他PCとの因縁を挿入している。これは、鵺鏡などにおいて関係性を促進する目的で挿入した。そのため、もしRPなどになれているPLでこの演目を遊ぶ場合、この部分を削除して自由に因縁や関係性を結んでもらうのもよいだろう。
帝、そして朝廷の忠実な式である是害坊。是害坊は任務に忠実に動こうとするだろう。但し、自分が表立って出る気はあまりない。
基本的には帝の権勢を振りかざし、言ってわからぬとなれば部下であるPC甲やPC丙をけしかけようとするだろう。自分はあくまで見ているだけである。
しかし、例えば是害坊が剣の類を手にしたとしたら状況は一変する。是害坊は昔の己を取り戻したと思い、自ら積極的に攻撃を仕掛けるだろう。
このときの是害坊があくまで朝廷側であるのか、それとも己の力で一派を築き上げるかはそのときの状況次第で選択するとよい。
酒呑童子の子でありながら、父に認められたい不良、というのが鬼童丸の主なアウトラインである。
鬼童丸は朝廷、特にその中でも武士を嫌うという背景があり、武士というだけで積極的に排除しようと動くはずだ。そうでなくても、邪魔をしようとする、また気に食わない、という理由でPCを攻撃することが多いだろう。また「鬼合」にある通り、「影司」の分限も持っているため、幻術を使用することも多い。
しかし、直情的かつ好意なども理解しないため、ただただ衝動に突き動かされて動くこともある。PC同士を分断したいとき、あるいは集合させたいときなどに、「鬼童丸の衝動」という理由をうまく利用するとよいだろう。
本演目は一本の剣を争う、比較的シンプルな演目である。途中で、GMや業の動きによって相対する相手を変更するなどメリハリを入れるとよいだろう。
また、途中で宝剣が二つあることが判明する。この部分は慣れていないGMであれば、あらかじめPLに話しておくとスムーズに演目が進行できるだろう。その場合は「条件を満たすと」などのように、登場タイミングは秘匿にしつつ、GM側で調整して登場させるのがよい。
西寺……(参考基本ルールブックp47)九条大路と西大宮大路の交わった近辺にある。
京都にある寺。火災がおきて1190年代に一度再建されたものの、その後荒廃してしまったという。
その広さ、大きさは対になっている東寺と同じと言われており、およそ250m×510mとなっている。この広さを活用するために、GMはマップを用意してセッションを行うのもよいのではないかと思うが、演目中に特に生かしたギミックを記述はしていない。
また、ここには東寺と同じ五重塔もあったといわれている。
建て替えこそあったものの、現在も栄えている東寺に比べ、現在は「西寺跡」と史跡のみ残っている。
天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)……
「三種の神器」のひとつ。その昔、スサノオノミコトが倒したヤマタノオロチの尾から出て来た剣。そののち、ヤマトタケルノミコトが、襲い来る火の手から身を守るために使用されたという。別名草薙剣。
本演目では使用するだけで力をもたらす剣、という設定が付与されている。
この剣をPCが手にした時、「神」の分限の業【地脈励起】が使用可能となる。
十挙剣(トツカノツルギ)……
その昔、スサノオノミコトがヤマタノオロチを討伐する際に使用した剣。こちらも使うだけで力をもたらす剣、という設定を付与している。
この剣をPCが手にした時、「刀匠」の分限の業【妖刀】が使用可能となる。
ここでは鬼童丸とPC乙、PC丁が次の計画を練る場面である。特にこちらから指定はないが、何もなければ「天叢雲剣を使用し、検非違使を皆滅ぼす」という計画を乱雑な口調で提案するとよいだろう。
この時、鬼童丸は手に入れた天叢雲剣を物珍しそうな表情で、手遊びにいじっている。
二、三、会話を交わし、鬼童丸とPC乙、PC丁の関係を描写してもらうとよい。
簡単に関係性を示したら、部下(有象無象)が鬼童丸とPCたちの元に駆け寄ってくる。どうやら都から是害坊の一行が攻め入ってきたらしい。
※ここで鬼童丸が手にしている剣は、天叢雲剣でなく十挙剣である。
しかし、奪還を命じられた是害坊、はこれを天叢雲剣であると認識するだろう。
このことは、自信のないGMであれば、予めPLたちに教えておいてもよい。
平安京にある西寺。元は頼豪と呼ばれる鉄鼠の部下たちの根城となっていたが、今や彼らの姿はない。
今いるのはただ一匹の鬼。そしてその部下たち。
彼らは、外に出て、新たな戦利品を眺めていた。
その太刀、きらりと光る刀身には一寸の曇りもなく、しっかりと作られた柄には僅かの傷すらない。
そして、どことなく匂うのだ。この刀がどこか、妖しげな力を発している、と。
それは魅惑や魅了の類にも近く、手にしている鬼童丸は食い入るようにそれを見つめていた。
「…………」
ここでは是害坊とPC甲、PC丙が検非違使たちと共に天叢雲剣を求めて平安京の街を堂々と歩いている場面である。
この時点で剣は平安京の下の方、西寺にあるという情報を掴んでいる。
二、三、会話を交わし、是害坊とPC甲、PC丙の関係を描写してもらうとよい。
その後、一行は西寺へと辿り着く。
うららかな春の光が差し込むはずの空には、今は黒き暗雲が立ち込めている。
そんな中でも、京の都には整然とした隊列で一団が歩いていた。
検非違使。
彼の乱より前には、人々を守る為だったはずのそれらの先頭を率いているのは、一匹の天狗である。
その名を是害坊と言った。魔縁の世を統べる天皇の忠実な部下であり、智羅永寿と呼ばれた、高名な妖である。
「いやあ、それにしてもこれだけの駒があれば、此度の任務は容易いですねえ。……そうでしょう?」
ここでは鬼童丸側のPCが、是害坊側のPCを迎え撃つ場面である。
PC甲、PC丙が是害坊とともに現れ、それをPC乙、PC丁が門で待ち構える。邂逅した時点で、一つ目の判定。
ここで、だまし討ちしたい、隠れて忍び込みたいとの宣言があればそれを重視しても問題ないが、業の判定や二つ目、三つ目の判定のときにはうまく合流や交流ができるよう誘導できるとよい。
それぞれの因縁を確認しつつ、会話や戦闘を進めながら、二つ目、三つ目の判定を続けて行う。
基本的に登場させるNPCは是害坊のみに設定しているが、場面が滞ると感じたら、後述の【鬼道】に登場するように鬼童丸を途中から合流させるとよいだろう。
少し前までは仏の信徒が幾人も通り過ぎていたであろう西寺の門は、ただ朽ちていた。そのひどく陰鬱な門の前にずらりと立ち並ぶのは検非違使の一行。統率のとれた動きで、検非違使たちは門の中へと攻め入ろうとしていた。
「さあ、準備はいいですか。決して成果があるまで帰ってくるんじゃありませんよォ。私はともかく、あの皇后様がどう思うか、わかったもんじゃありませんからねエ」
是害坊がいざ、号令をかけようとしたその瞬間、一陣の風が吹く。検非違使たちは風圧に一瞬目を瞑る。それは本当に一瞬だった。しかし、目を開いたその時には門の前に二つの人影があった。PC乙、そしてPC丁である。
[血脈]→[生様]→[魂魄]
この場面では鬼童丸が登場する。
現れた鬼童丸はどこか様子がおかしく、胸元にはPC乙、PC丁が見たことのある剣が突き刺さっている。この剣により、鬼童丸の力は増し、ここまで検非違使の有象無象が残っているのであれば、それらを一蹴して力を見せつけるとよい。
鬼童丸の力は強力で、基本的には敵味方関係なく攻撃を加える。この場面では主に戦闘が主軸になるだろう。GMは【大妖】や【影司】などの【業】のRPを参考に攻撃を加えるとよい。
剣は途中で抜けてもよいし、PCに手にさせてもよい。。すると、PCにはこれが「天叢雲剣」ではないことが分かる。
鬼童丸の登場で一つ目の判定、二つ目、三つ目の判定は続けざまに行うとよい。
この道の最後までに剣を一度奪わせるとよいだろう。
「おう、テメーら。何ちんたらしてんだ、あ?」
その時、天を裂くような怒号が轟く。そちらを見れば、そこには粗末な身なりの鬼、鬼童丸の姿があった。
しかし、普段様子を知っているPC乙、PC丁だけでなく、PC甲、PC丙にもわかるだろう。鬼童丸の身体から、異常ともいえるほどの気が放たれていることに。
そして異様なものがもう一つ。その胸に、一振りの剣が突き刺さっているのだ。その剣が鬼童丸の力を無理やりに引き出していることに、この場にいる誰もが気付くだろう。
「ヘッ、ま、いいや。俺の力で、アンタらまとめてふっとばしてやるぜ!」
鬼童丸がそう叫んだ、その時。一瞬で辺りの気配が変わる。妖気が辺りを満たし、人に属するあらゆる存在、そして是害坊は身震いする。
その凍りついた様子を一瞥して、鬼童丸は口元を歪める。
「――魔界之極。これからこの場所は、俺の領域だぜ!」
[生様]→[魂魄]→[血脈]
ここではこの道終了時にあまり表に出ていないNPC(想定では是害坊)が実際の「天叢雲剣」を手にする。もし、どちらのNPCも表に出ずっぱりであれば、自然と五重塔の一番上が光り、という描写を入れて、その存在を示す。
ここで「天叢雲剣」を手に入れたNPCはそれ相応の力を得る。NPC自体が力を持つのは当然のこと、空から八つの首を持つ龍を呼ぶ、雨を降らせる、などの有象無象の召喚を行ってもよい。
もちろんそれはPC側が剣を持ったときも適用される。
PCたちの手元にあるであろう剣――「十挙剣」ももちろん使用することが可能である。こちらも「天叢雲剣」に匹敵する宝剣であることには代わりない。どのような強化が与えられるかは、PC側に考えてもらってもよいだろう。
一つ目の判定は、是害坊が「天叢雲剣」を掴んで、掲げた瞬間。剣の争奪戦を繰り広げながら、二つ目、三つ目の判定を行う。
「あった……ありましたよオ!」
近くにある五重塔。その中から、悲鳴にも近い声が聞こえる。
大して時を経ずに、是害坊は悠々とした足取りで塔から現れる。
「これでもう、ワタシは誰にも見下されることはなくなる。そう、この力、この力さえあれば!」
是害坊が宝剣、「天叢雲剣」を空に掲げると、鬱々と流れる鵺の暗雲の内から雷鳴が光り、轟く。そして、雲の切れ間から、ごう、という音を立てて蛇の首が姿を現した。
その数――計八つ。
「ヒヒッ。神代の妖まで操れるとは、なんと素晴らしい!」
恍惚とした目で是害坊は空を仰いだ。
[魂魄]→[血脈]→[生様]
この道では事態の収束に向かう。基本ルールブックにあるように、前の三つ目の道で終えても構わない。
この部分はGM、PLともに話し合って決めるとよい。
主な話し合う部分としては、
・「天叢雲剣」「十挙剣」それぞれの所有者の決定。
・NPC、PCの生存、死亡の決定。
・PC同士の因縁の解消。
などが挙げられる。
[血脈]→[生様]→[魂魄]
最後の道で話し合った結果を元に演出を加えていくことになるだろう。恐らく、どの展開でも西寺は荒廃した更地になる可能性は考えておきたい。
本演目は次なる演目に関して特に考えられていない。ただし、「天叢雲剣」「十挙剣」を持ち帰ったPCを他卓で使用し、かつそれらの物品を所持した状態で持ち込むときは、必ずGMに確認すること。
Wikipedia-西寺
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%AF%BA
『西寺は存在した! ~何故、東寺は栄え、西寺は衰退したのか~』京都トリビア× Trivia in Kyoto
http://www.cyber-world.jp.net/saiji/
『新版 古事記』 訳注 中村啓信 角川ソフィア文庫 平成21年
『刀語 第七話 悪刀・鐚』 西尾維新 講談社 2007年
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