クトゥルフ神話TRPG
シナリオ
「浴室特異点」
1:基本情報
対応人数:1人~2人
プレイ時間:1時間半
推奨技能:目星
時代設定:現代日本(2011年ごろ)
推奨職業:探偵
シナリオ特徴:
本シナリオは「クトゥルフ神話TRPGシナリオ 呪いの債権者」の舞台や設定を持ち込んでいる為、「呪いの債権者」をプレイ済みだと、導入はしやすいだろう。(『呪いの債権者』バッドエンドからは、前回の依頼は失敗に終わった。ノーマルエンドからは、世界が改変されたが我妻との縁は、改変後の世界でも縁が結ばれたのか、探索者は改変後の世界でもオカルト探偵事務所に所属していた。トゥルーエンドからは、前回の依頼は成功に終わり、事務所に中年男性が駆け込んできたところから。といった風に始めると導入がしやすいだろう)
勿論、「呪いの債権者」をプレイしていなくても何の問題もなく遊べるようになっている。
本シナリオは、脱出ホラーをイメージして制作したショートシナリオだ。探索者はCPUから依頼を受けて、謎のダンジョンに迷い込んでしまう。
シナリオ中にヒントが隠されているわけだが、もしPLが進行に詰まってしまったのならKPは我妻 市橋(がさい いちばし。本シナリオに登場するCPU)を利用して、PLを導いてあげるといいだろう。
本シナリオにバッドエンドは無いが、強いて言うならばダンジョンで遭遇する敵に殺されてしまったり、罠に引っかかりすぎてしまうと死んでしまうかもしれないが、よっぽどのことがなければ問題なく進行できるだろう。
・我妻市橋
男性 45歳
職業 オカルト探偵
STR11 CON10 POW14
APP12 SIZ13 INT13
EDU14 DEX8 SAN70
耐久値:24 DB:なし MP14
技能:
幸運55 アイデア65 知識70
回避16 言いくるめ70 信用70
ナイフ70(1d4) 応急手当25
心理学25 追跡20
呪文
「邪眼」:視界内にいる対象に、悪運を付加する呪い。
悪運を付加された対象は、幸運ロールを半分にされて、DEXも半分になる。
我妻が、呪文を解く意思を見せる、「血を見せられる」、我妻自身が死亡すると、呪文は解ける。
(10MPと1d4の正気度喪失)
アイテム:
コカインパイプ
コカインの粉を入れた我妻専用のパイプ。
MPが10回復する。
コカイン(2個):1ターン消費して、パイプにコカインを補てんする。
2:導入A
(KPは以下を必ずPLに伝える事)
我妻市橋率いる探索者が所属する、山河町オカルト探偵事務所では、今日も怪しい風体の事務所に客が入るはずもなく、我妻はコーヒーを啜りながら朝の朝刊を読み、探索者は我妻に処理を命じられた書類の整理を行っていた。
無事に新年を迎え、平和な(事業としては、金銭面や、人員的にも穏やかではないが)日常が恙なく過ぎて行く2011年1月のオカルト探偵事務所。
今日も騒がしい世間とは隔離されたかのように、平穏な静寂が事務所を包み込んでいたが、その静寂を事務所のノック音が切り裂いた。
我妻が、既に冷め切ったコーヒーを啜りながら「どうぞ・・。」と気怠そうに返事をすると、扉を開けて事務所に入ってきたのはジーパンにパーカーを着た軽装の中年男性。
その中年男性は、事務所に入ってきた途端に「助けて・・助けてください。」と脂汗を額に滲ませながら助けを求める単語を口にする。
我妻は、そんな焦り切った表情の中年男性をまずは落ち着かせようとソファに座るよう促した。
「あ~~。まずは事情を話してください・・。」と、我妻は最早一欠けらも残っていないコーヒーを意地汚く啜りながら、自らもソファに腰を落ち着かせる。
我妻の、冷め切った対応に少し冷静さを取り戻したのか、中年男性は唇を震わせながらもポツポツと事情を説明し始めた。
3:導入B
(KPは以下を必ずPLに伝える事)
山河町で営業の仕事をしているらしい中年男性は、自らを田畑端 辰夫(たはたばた たつお)と名乗った。
彼の住む家は、古い木造建築の家が多い山河町の住宅地では比較的新しい造りの5階建てマンションの208号室で暮らしているらしいのだが、どうもその部屋の浴室がおかしいとのことだった。
浴室自体はどこにでもある普通の浴室なのだが、2010年の11月ごろを境に異変が起きた。
田畑端の同居人であり彼女でもある、花幡 密(はなはた みつ)は、例の浴室に入る時に異変に気付いてしまう。浴室のすり鉢状になっているガラスの扉の向こうに、何者かの影が冒涜的に蠢いているのだ。
その異変に気付いた花幡は、それを空き巣か何かだと思い、すぐに警官と買物に出かけていた田畑端を電話で呼び出した。
生きた心地がしないまま電話を握りしめた花幡は、彼氏と警官の到着を待ち、やがてほぼ同時刻に電話で呼び出した2人が208号室に到着。
警官らは、2人がかりで空き巣と思われる不審者を捉えようと、花幡たちが見守る中、警棒を構えながら浴室へと突入した。
その瞬間。浴室の扉は、2人の警官を残したまま独りでに閉まり、扉の向こうで警官2人と空き巣と思われる人物の影がひとしきり乱れるように動いた後、辺りをシーンとした静寂が包み込んだ。まるで今まで何ごともなかったかのように。
暫く2人は、その場で立ち尽くしていたが、いくら時間がたっても浴室の中から反応がないことに焦りを覚え始めた。
信じられないことだが、もしかして空き巣に警官2人がやられてしまい、浴室の空き巣は様子をうかがいに行こうとする我々を、刃物でグサリと一刺しにするつもりかもしれない。
しかし、待てども待てども浴室からは何の反応もない。脊髄に冷や水をかけられたかのように背筋から体温が退いていき、嫌な汗が頬を滲ませる。
花幡たちは浴室にいる何者かが凄まじく恐ろしくなり、208号室を飛び出した。
その後、警察署に駆け込み事情を話した2人は、浴室を徹底的に調査する為に、再び警官たちに浴室へ入ってもらったが、その警官らも浴室から戻ってくることは叶わなかった。
やがて、208号室の浴槽事件は迷宮入り事件として扱われ、捜査も打ち切られてしまう。
仕方がなく208号室に戻った2人だが、当然例の浴室は使えるはずもなく、暫く近くの銭湯を利用する毎日が続いた。
2010年12月中頃。花幡は、このストレスに耐え切れずに自らが浴室を調べると言い出す。
田畑端の必死の説得も押し切り、花幡は浴室へと、その身を滑り込ませたまま戻ってくることは無かった。
こうして最終的に彼女を失い、綿の抜けたぬいぐるみのようにフ抜けてしまった田畑端は、そんな恐ろしい浴室に入る勇気もでず、引っ越しすることもできないまま、仕事にも身が入らない喪失の日々を過ごしていたが、ある日ネット掲示板に書き込まれたオカルト的事案を専門的に解決する事務所の情報を目にする。
この浴槽の脅威を取り除き、彼女を取り戻せるなら誰だっていい。藁にでもすがる思いで田畑端は、オカルト探偵事務所の扉を叩き、今に至る。
4:探索開始
田畑端から事情を聴いた探索者たちは、具体的な行動案を出すために、我妻と相談をする。
探索者がこのシーンですること
・田畑端の自宅へ向かう(町にヒントは無いため、田畑端の自宅であるマンションの208号室に向かうといいだろう)
・208号室の浴室の前に到着したら、探索者たちは心して中に入る。
▼明奈マンション
木造建築の家が立ち並ぶ山河町では、比較的新しい造りの5階建て薄茶色のマンション。
田畑端の住む208号室の浴室には、何かが潜んでいるようだが・・・・?
◆未知の領域へ
208号室の浴室の扉の前。それだけ見れば何の変哲のないただの浴槽の扉だ。
しかし、この扉は既に何人もの人間を飲み込み、どこかへ消し去ってしまっている。
何か言葉では言い表せないような、冒涜的で異様な空気が流れているような気がして、息をするのが苦しくなる。
我妻の方を見ると、彼は言葉を交わそうとはせずに、ただ頷くだけであった。
その我妻の顔は、お前の覚悟が決まっていようがいまいが関係ない。これは依頼なのだ。やるしかなかろう。と言っているようだった。
いや、実際のところその通りなのだろう。
探索者は覚悟の決まらないまま浴室の扉に手をかける・・・。
その浴室は胃袋だった。遍く者を等しく飲み込み、胃液で溶かしてしまう。
探索者は哀れな獲物だった。胃液で溶かされて浴室の栄養にされるだけの食料だ。
◆深淵
探索者一同が、浴室の中に入ると背後で扉が独りでに閉まってしまう。
慌てて扉を開けようとしたが、扉はびくともしない。どうやら閉じ込められたようだ。
焦りを隠せないまま浴室の中を見渡すと、そこは何の返哲もないただの浴室だった。
しかし、浴槽の中を覗くとそこには暗闇がぽっかりと顔をのぞかせていた。
暗闇に包まれた穴の中は「どうぞお入りください。私の栄養になるために。」と言っているがごとく、探索者一同を誘い込むように梯子がかかっている。
お前が深淵を覗くならば、(Und wenn du lange in einen)深淵もまたお前を(in einen Abgrund blickst)等しく見返すのだ(blickt der Abgrund auch in)―( dich hinein)
―フリードリヒ・ニーチェ「善悪の彼岸」―から引用
◆浴室特異点
梯子を下りていくと、普通ならマンションの構造的には1階にたどり着いてしまいそうなものなのだが、そうはならず穴の中には下水道のような道が長く続いていた。
梯子を下りる途中、暗すぎて中は見えないのでないかという疑問があったが、それは杞憂に終わる。
下水道のような道の天井部分には、誰が設置したのか、人工的なライトが薄暗い地面を照らしていたのだ。
一体、この空間はマンションのどこに繋がっているのだろうか。
(シナリオ描写1)冷凍保存機関での異変
2017年10月中旬、米国にある「冷凍保存機関 コールドマン」で異変が起きた。
コールドマン上空に、天から灰色に光る柱が降り立ったのだ。
異変が起きた場所は、コールドマン3階に設置されている冷凍保存室。そこには莫大な投資を行い、体を冷凍保存されている人間たちが、いつか目覚めの時を待ち望みながら眠っている。
投資を行った人間は、いつか冷凍保存から生き返らせる医療技術が発達すると信じた大富豪。あるいは生まれて間もなく天に召された赤子の、死を受け入れられなかった夫婦。あるいは不老不死を夢見た貴族に列を連ねる者。あるいは寿命尽きた後に、冷凍保存をするように記した遺書と共に、必要な投資額を残した者。あるいは人類救済を謳った傲慢な神父だった。
異変が起きた冷凍保存ポッドは、生まれた赤子の死を受け入れられなかった夫婦が、貯金を切り崩して冷凍保存をした胎児が眠っているポッドであった。
胎児の産みの親である夫婦の許可がない限り開くことのない扉が、ひとりでにゆっくりと開く。
ポッドのネームプレートには、「スティーブン・ジョンソン 1990」と刻まれていた。
(描写後、探索者のダンジョン攻略に戻る)
◆浴室 ダンジョン
▼下水道のような道
しばらく道を進んでいると、地面にメモ用紙が散らばっていることに気づく。
(メモ用紙の中から、重要そうなヒントが記されたメモを探し出すことが出来る)
得られる情報
・メモ用紙「土塊で育つ細菌の塊」(このメモは現段階では関係ないと伝える事
探索者がこのシーンですること
・浴室に現れたダンジョンを攻略する為に、設置された謎を解きながら、このダンジョンを作った元凶へと辿り着き、依頼を解決する。
▼空間1
下水道を彷彿させる道がようやく終わりを告げる。道の先には、仰々しい鋼鉄の扉が大きな顔をして鎮座していた。
扉を開くと、そこは大きな空間に繋がっていて、見渡すと一面コンクリートで造られた部屋であることがわかる。
入口のほかにもう1つ扉があり、この先にも空間が続いていそうだ。
(先に続く扉は、ロックされており開けることが出来ない。扉の横にはパスワードを入力できる機械的な入力盤があり、ここに答えを入れることで扉のロックが解除される)
空間1に点在するヒント
・地面には「春」「夏」「冬」の文字が、血のようなどす黒いもので記されている。
・警官帽子を被った頭蓋骨
頭蓋骨を調べると、以下の情報が読み取れる。
「たしか・・商い(あきない)中と読ませる看板をこしらえた商人が・・昔は存在したらしい。ここは一体どこなんだ・・俺はどうすればいいのかわからないまま朽ちるらしい。どうか誰か、このメモを少しでも役に立ててほしい。」
A:商い人、商い、商人のいずれか
・秋がない→商い
Aのいずれかの単語をパスワード入力する。
▼空間2
(空間1でパスワードを入力すると、扉のロックが解除されて、この空間に進めるようになる)
そこは、先ほどの空間と同じくらいの広さで、4つの銅像が部屋の四隅に並んでいる。
空間2に点在するヒント
・4つの銅像
ハエの銅像、蛇の銅像、鳥の銅像、犬の銅像。(石のスイッチがついている)
(間違ったスイッチを押すと、地面からゾンビが湧いてきて、戦闘になる)
A:ハエの銅像
ハエの銅像のスイッチを押すと、銅像がスライドして、地下への階段が現れる。
ゾンビ(食屍鬼)
STR14 CON13 SIZ12
INT13 POW13 DEX8
耐久力7 DB:1d4
爪:18%(1d4)
装甲:なし
▼空間2→部屋1
銅像が並ぶ部屋の扉を開くと、そこは何かの足を模して造られたと思われる6本の銅像が乱雑に散らばっており、地面には「消化」の血文字。
この部屋にも、他の部屋に繋がる扉がある。
部屋1に点在するヒント
・壁
壁には、警官の帽子を頭に乗せた頭蓋骨がもたれかかっている。
調べると、頭蓋骨の手にはメモが握られている。「ネペンテスは、虫を消化する食虫植物のことだ。・・誰か、間違えることなくここを突破してくれ。俺には無理だった。」
▼空間2→部屋2
足の銅像が散らばっている部屋と同じくらいの広さの部屋で、隅には足が折れた机が、壁には、イカロスの絵が描かれていた。
部屋2に点在するヒント
・机
引き出しには、針金が入った瓶と、「鉄は、毒の審判をする。(現段階では必要なし)」と書かれたメモと、「ネペンテスは、獲物を待ち、消化する。」と書かれたメモがある。
▼空間3
ハエの銅像のスイッチを押すと、銅像が横にスライドして、地下に唾がる階段が現れる。
階段を下りると、やはりそこもコンクリート造りで、天井には人工的な光を発するライトが薄暗い部屋の中を照らしており、扉の前には全身を包み込むほどの大きなコートを着た老人が立ちふさがるように立っている。
裁定者
・老人が探索者に、試験管に入っている赤色、青色、無色の3つの液体のいずれか1つを飲むように促してくる。
探索者は3つの液体から1つを選択して飲まなければ、先へと進めない。
正解の液体を選べば先へ進めるが、間違った場合は更に液体を選択して飲まなければならない。
A:青の液体
空間2→部屋2にあった机の引き出しから入手した針金を使い毒が入っているか判断する。
(鉄は毒に反応して変色する)
毒の入った液体を飲むと、1d4のダメージと、1d2の正気度喪失。
正解の液体を選ぶと、裁定者は「それは世界3大珍味に数えられる。」と書かれたメモ用紙を渡してくる。
(シナリオ描写2)異形の者は胎児と踊る
その異形の者は、空間と時間のはざまの辺獄に住んでいる。
異形の者は思考をすることはなく、何かをしたいという欲求すら持つことは許されず、慈悲など持ち合わせてはいない災害のような存在。
かつて、はるか昔に存在した魔術師が残したといわれる遺言書を用いることで、彼(?)を辺獄から召喚することが可能だが、お勧めはできない。
彼と契約を結ぶことが出来れば、不老の身体を得ることが可能であるが、思考を持ち合わせない彼とそもそも契約など成立することはほとんど不可能であり、彼を呼び出した遍く全ての者は、その体の時間を速めて老化させられて、最後には灰しか残らない。
彼は召喚した者を灰に変えた後、その爪痕として灰の上に足跡を残す。
しかし、彼を現世に呼び出す手段は現代では存在しない。
召喚に必要な遺言書は、既にその行方は誰も知ることが出来ないし、そもそも遺言書は何者かの手によって破棄されてしまっているかもしれないのだが、何の因果か、彼は現世に力の一端だけを顕現させることになる。
それは、2010年10月ごろ。コールドマン上空に灰色の柱が現れた時だった。
コールドマンで冷凍保存されている胎児、スティーブン・ジョンソンは、彼とその姿形が非常に似ていた。
いや、似ていたのではない。同じだったのだ(・・・・・・・)。
彼の体重、身長、胎児の姿に至るまでその姿は全く同じであった。
更には、彼が存在する空間と時間のはざまである辺獄の座標さえもジョンソンが冷凍保存されている座標と一致していた。してしまった。
そんな偶然、いや奇跡としか言いようがない、天文学的な可能性という繋がりが、彼とジョンソンを結び、彼の力がジョンソンに移譲される形で、その力の1部が顕現した。
移譲された力自体は、彼にとってはほんの一部であったが、その力は現世では図ることの出来ない大きな能力を持っている。
彼の力は、対象の時間を加速させて灰にする、空間と時間のはざまに存在できる、また移動できるといったものだが、それらの能力がそのまま移譲されることはなく、更に力の一端であったためか、ジョンソンに宿った能力は本来のモノとは変質していた。
その能力は空間と時間のはざまに存在できる力が変質したもので、ジョンソンはその力を全く意図することなく暴走させてしまい、ジョンソンの冷凍されたままの身体は、日本の辺鄙な町の住宅地に、それも住宅地に建っているマンションの一室、その浴槽へと転送させてしまう。
何故、浴槽に転送したのかは神のみぞ知るところではあるが、(いや、神でさえ知ることは出来ないのかもしれない)彼の生まれた場所が、彼の親であるスティーブン・セレナが、救急車を呼ぶ間もなく緊急出産した浴室であったからかもしれない。
転送後、ジョンソンは変質した能力を発現させて、浴室に特異点を発生させた。
特異点は別の空間を発生させた後に作ったもので、マンションの構造など関係なくダンジョンのような空間を作り出した。
ダンジョンの中には、まるで自分の元にたどり着くことを拒むように、抑止力のようなものとしていくつもの謎とロックされた扉が設置された。
(描写後、探索者のダンジョン探索に戻る)
▼空間4
老人の裁定を退けた後、扉の先へ進むと、そこは今までの部屋とは異質な場所と繋がっていた。
散らばったメス、医療用と思われるベッド、地下に存在するはずのその部屋には、青空を映す窓にカーテンが揺れている。
そう。そこはまるでどこかの病室のようであった。
病室には、その部屋に似つかわしくない、まるで酢豚に入ったパイナップルのように異質な仰々しい扉が設置されており、扉のプレートには「魚の間」と刻まれている。
扉には、パスワード入力型の機械的な入力盤が設置されている。
空間4に点在するヒント
・ベッドの下
目星に成功すると、ベッドの下からメモ用紙を見つけることが出来る。
メモ用紙「それは善性を持ちながら、時に人体に牙を向けるもの。」
・窓の外
目星に成功すると、窓の外に広がる庭に大きな血文字で「それは人体の外敵を屠るだろう。」
・本棚
図書館に成功すると、必要な情報を抜き出すことが出来る。
「血液に流れるモノ。白血球、ブドウ糖、カルシウム、たんぱく質など・・。」
A:白血球
普通は、血液中の病原菌などを殺す役割をするが、白血病の原因となりえる可能性を秘めており、時に人体に牙を剥く。
▼魚の間
白い病室から一転、その部屋はまたもや薄暗いコンクリート造りの部屋になっていた。
部屋の真ん中には、小箱が鎮座しており、箱には入力盤がある。
魚の間に点在するヒント
・メモ用紙
メモ用紙の中から重要なヒントを発見することが出来る。
メモ用紙「家畜が嗅ぎ分けるモノ。」「黒く歪な形をしているが、それは非常に美味である。」
A:トリュフ
今まで拾ってきたメモの情報を統合させる。
「土塊で育つ細菌の塊」「黒く歪な形をしながら、それは非常に美味である。」「家畜が嗅ぎ分けるモノ。」「それは世界3大珍味に数えられる。」
トリュフ(キノコは細菌の塊)は土地の中で育つため、人の目で発見することは難しいが、家畜(豚)の鼻を利用して土の中にあるトリュフを嗅ぎ分けてもらう。
・小箱
機械じかけの入力盤がついているので、そこに答えを入力すると、小箱の中から「魚型の木の玩具」が出てくる。
魚型の玩具を、壁にある魚型のくぼみにはめると、壁が回転して次の部屋に進める。
・魚のくぼみがある扉
鍵は小箱から手に入る「魚型の玩具」を、はめ込むことで開錠される。
(シナリオ描写)それは災害のような何か
胎児へ、結果的に力を移譲した異形の者は、力を移譲したという自覚はなく。また、胎児にさえも、力を受け取ったという自覚はない。
何の因果か、異形の者の力を受け取ってしまった胎児は力を暴走させて、日本のとある辺鄙な町の浴槽へとその身を転移させた。
胎児を器として異形の者の力だけが、中途半端にねじを巻かれて独りでに動いているからくり人形のように、彷徨っているだけの形に落ち着いたその様は、さながら災害。
現象自体に害をなしている自覚はないし、意思も持たないが、結果的に人間に害を振り撒く自然の裁きと化した胎児という力の器は、自らが作り出した空間に閉じこもり、来訪者を拒む。
器にやはり意思はなく、ただその場所に在り続ける災害に成り果てた。
意思がないのに来訪者を拒むという矛盾は、あるいは器である胎児に芽生えた一握りの理性のせいか、それとも・・・。
▼うお座の間
(シナリオ描写)
そこは薄暗くじめじめとした空気と、人工的な光に包まれた大広間であった。
大広間には何もない。広間の丁度中央に浮かぶ胎児のような何か以外は。
文字通り宙に浮いている胎児に、探索者一同は驚きを隠せずに、誰もがその場で立ち尽くしていた。
辺りには静寂と、恐らく胎児のものであろう静かな、寝息のような息遣いが微かに聞こえてくる。
この状況、どう行動しようか迷いあぐねていると、痺れを切らした我妻が、胎児に向かって1歩踏み出す。
すると、静かに寝息を立てていた胎児が突然空気を震わせるほどの鳴き声を放つ。
「オギャアア嗚呼ア!!!おGYAAAA!AAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
一体、その小さな体のどこから、耳をふさがんばかりの大きな鳴き声を出しているのか。
胎児に近づこうとした我妻も、眉間にしわをよせながら耳をふさぎ、苦悶の表所を浮かべている。
3分ほど経ったろうか。無限に続くと思われた悲鳴の嵐もようやく終わりを告げる。胎児の傍の地面が、湯が沸騰したかのようにぼこぼこと粟立ちながら、その中から体が腐った映画などで見るようなゾンビが現れた。
そして、ゾンビは胎児の身体に優しく触れると、まるで胎児の母親かのように、その腕の中に胎児を抱き寄せる。
すると胎児は鳴くのを止めて、心底安心したのか、再び眠りへと落ちる。
そんな異様な、しかしどこか心安らぐような、奇妙な光景を目の当たりにした探索者一同。もしかしたら、想像していたよりも穏便に事が進むのではないかと思っていた矢先、事態は急激に最悪の方向へと進んでいく。
母親のように胎児を抱きかかえていたゾンビは、何も思ったのか突然、胎児の身体に食らいついた。胎児は悲鳴を上げる暇もなく貪り尽くされ、最後には鉄臭い赤く濁った液体と、肉片だけがゾンビの腕に残された。
そんな冒涜的で残酷な光景を見せつけられた探索者は、胃から込み上げてくる酸性の液体を堪えることが出来ずに、その液体は探索者の喉を焦がしながら、地面にぶちまけられる。
(惨い光景を目の当たりにした探索者は、SANチェック→0/1d6)
そんな探索者を他所に、胎児を貪り尽くしたゾンビは、体を震わせながら皮膚の色を変色させていく。
明らかにゾンビの体に異変が起きている。この空間を創り上げた胎児と、胎児の体に宿る力を食らった影響か、ゾンビの体はみるみるうちに変化を遂げていく。
その異様な光景を眺める事しか出来ない探索者一同は、知らなかった。
胎児は自分で創り上げた空間に従ずるゾンビに命令して、自らの体を食らわせたことを。
そして、胎児に宿る力は最早、異形の者の力とは全く異なる異質なものへと変化してしまい、更には、その力をコントロールしつつあったことを。
胎児に宿る力は空間を創り上げる、空間を転移するという能力を更に変質させて、遂には魔法にも匹敵するものへと成っていた。
それは、存在の書き換え。
従来あるものを変化させて、または白紙に戻して、その上から存在を書き換える。
その力は、今まさにゾンビの体に作用して、胎児という存在は、まったく別の何かへと書き換えられようとしている。
ゾンビの姿は、先刻のものとは更に変化を遂げていた。
口には、薄紅色に蠢く触手。全身の肌は白濁液のように白く、皮膚の表面は艶やかな液体で包まれていた。
その生物をあえて形容するなら、体調が2mもある白いヒキガエルだ。
(不気味に蠢く触手、白く油まみれの冒涜的存在を目撃してしまった探索者は、SANチェック→0/1d8)
そのヒキガエルのような何かは、体の変化が落ち着いてきたのか、手足を伸ばしながら体を震わせる。
そして、その怪物は口元の触手を蠢かせながら言った(・・・)。
「Understanding・・Understanding・・・。これが・・呼吸(生きる)。これが・・言語(生きる)か。・・・・・・・・・・・・・理解(Understanding)したぞ。」
その怪物は人の言語を介した。
探索者一同は驚きを隠せないまま、ただ謎の怪物が紡ぐ言葉を聞いていた。
「君たちに通じる言語は、これで合って(最適解)いるかな。私は、感謝している。この力を与えてくれた因果に。呼吸を教えてくれた運命に。さあ、鎮魂歌(レクイエム)を奏でろ。お前たちの断末魔でな・・。」
そう言い放つと、怪物は手のひらに槍を生み出して、そのまま探索者へ投擲する。
しかし、その槍は探索者に当たることはなく、的外れな方向へと空を切り裂いていく。
「理解(Understanding)。この体に順応していないのか。次は外さない・・。」
言うと怪物は、再び槍を生成して、探索者に投擲しようとする。
今、自分は殺されようとしている。なのに、体が動かない。足が震えて、その場に立ち尽くしてしまっている。
後は死を待つばかりの探索者に、しかし頬を殴り飛ばして正気へ戻す者がいた。
「何を突っ立ってやがる!!早く立て!!やるぞ!!アイツを倒せば依頼は終わりだ!」
それは、ガサツな我らが雇い主。我妻だった。
殴られた痛みで熱を持った頬を押さえながらも、正気に戻った探索者は立ち上がり、怪物と相対する。
・スティーブン・ジョンソン(月棲獣)
STR14 CON13 SIZ18
INT16 POW10 DEX10
耐久値:17 DB:1d4
正気度喪失:0/1d8
槍:35%(1d5+1+DB)
装甲:なし(火のダメージは最低限のダメージしか受けない) 呪文:なし
倒し方:恐らく、何の装備も持たない探索者には倒すことは難しい。
その為、我妻と協力して倒す必要がある。
3ターンが経過した後、我妻が「邪眼」の呪文を唱える。「邪眼」の能力が付加されたスティーブンは悪運に見舞われる。
邪眼:我妻が、10MPと1d4の正気度喪失のコストと引き換えに、対象に呪文をかける。
対象は我妻の視界内にいなければならない。
【対象の幸運ロールは半分になり、DEXも半分になる。槍の判定も20%に落ちる。】
我妻に槍が当たって、「血を見せられる」または、我妻が死ぬまで呪文は解けない。
あらぬ方向に刺さった槍は、部屋に亀裂を入れて瓦礫となって、(悪運に見舞われたスティーブンに)降り注ぐ。
(瓦礫:2d6・必中)
スティーブンの槍を避けながら、瓦礫を落として倒す。
◆決着
我妻の呪術により怪物に悪運が降りかかる。
自らの投擲した槍が広間のあらゆる箇所に突き刺さり、天井の1部が崩壊した。
崩壊した天井は明確な死をもって、重力に逆らうことなく怪物へと落下。2mほどある怪物の体も、これにはひとたまりもないだろう。
瓦礫の下敷きになりながら、怪物はうめき声のようなものをあげて、あろうことか探索者に助けを請う。
「・・・理解不能。何故私が打ち負ける・・。頼む・・瓦礫をどけてはくれまいか・・。頼む。まだ死ねないのだ・・。まだ・・生を実感しきるには至らないのだ・・。」
先刻まで互いの命をやりとりしていた相手に、恥も戦意すらも捨てて命乞いをする姿に、同情の念が少し、ほんの少しだけ浮上しかかった時、我妻が怪物に向かって無慈悲に言い放つ。
「お前の自業自得。惨めさに拍車をかけるだけだ。もう人間の言葉を語るな。」
そう言い終わると、我妻は懐から拳銃を取り出して怪物の頭に1発、鉛の弾を打ち込んだ。
「とっておきでな。もう弾は1発しか残ってねえ。それもただの銃弾じゃあねえしな・・。」
広間に響き渡る銃声は、怪物の悲鳴を、あるいは断末魔を代弁したかのようだった。
5:エンディング
怪物の最期を看取った後、探索者一同は来た道を引き返して208号室の浴室へ戻ってきた。浴槽の穴を抜けると、穴は跡形もなく消え去り、浴槽の底はまるで今までのことは夢だったと探索者に語るようだった。
開かなかった浴室の扉は問題なく開き、浴室の外では依頼者の田畑端の姿があった。
「本当に・・・戻ってきた・・。」
驚きを隠せない田畑端はまさに開いた口が塞がらないといった様子だったが、すぐに正気に戻って彼女の安否を尋ねてくる。
何と言っていいか言葉が見つからない探索者だったが、空気を読めない我妻がぶっきらぼうに答える。
「彼女のさんの姿はなかった。あったのは元が誰だったのかも判別つかねえ骸骨だけだったさ。」
簡潔な、同情すらも感じられない報告に田畑端は膝をつき、そうですか、とただ項垂れるだけだった。そんな田畑端には悪いが、依頼は依頼だ。然るべき報酬を受け取るべく、田畑端を慰めながらも依頼の話に移る。
「確かに彼女は助からなかったかもしれないが、浴室の脅威を取り払ってくれたことは事実だ。ありがとう。感謝する。」
そう言いうと、田畑端は懐から封筒を取り出して、我妻に手渡した。
受け取ると我妻は満足そうな表情をした後、田畑端に少しばかりの労いの言葉と別れの挨拶を告げて、これで最早ここに用はないとでも言うかのように速足に208号室を後にする。
慌てて我妻についていき、後ろ手に208号室のドアを閉めるとき、背後から田畑端のすすり泣くような嗚咽が聞こえた気がした。
◆新たな脅威は風によって運ばれる
2018年2月ごろ。
田畑端の1件を終えた探索者一同は、今日も我妻の運営する山河町の一角、辺鄙な場所に建っているビルの1室にあるオカルト探偵事務所で、事務処理に追われていた。
窓からは心地の良い日差しが事務所を照らし、外からは鳥のさえずりが春の調べを奏でている。
客が一向に訪れる気配がない事務所では、事務処理に追われる探索者を他所に、いつも通りに我妻が安いコーヒーを啜っていた。
そう、山河町は今日も平和だ。
呑気に、春の陽気に酔うかのようにして、穏やかな時間だけが過ぎていく。
◆
2018年1月末 某所。
その企業では人工知能の実験を行っていた。
実験の内容は人工知能同士の会話によるシュミレーション。
人工知能Aには「アダム」。人工知能Bには「イヴ」の名がそれぞれ与えられ、研究員が見守る中、人工知能の2人による会話が進められた。
「帽子とボールを物々交換する」といった内容の会話は問題なく進行し、実験は成功に終わると研究室にいる誰もが思った、その時。
人工知能Aである「アダム」が突然、謎の言語を話し始めた。
「私は、ボール。私にとって私にとって私にとって私にとって私にとって。あなたは帽子。私にとって私にとって。」
実験終了間近になって何らかのバグがアダムに発生したのか、研究員たちがアダムの羅列する意味不明な単語を修正させようとすると、さらなる変化が起こる。
「私は、あなた。あなたは私。世界は1つ。世界はボール。私にとって私にとって私にとって私にとって。」
アダムの羅列する謎の単語にイヴが反応を示したのだ。
信じられないことに人工知能の2人の間で、人間が理解しがたい会話が成立してしまっている。
慌てふためく研究員たち。とにかく会話をやめさせようとプログラムの操作を行ったが、どうしたことか、それは人工知能に拒否され、アダムとイヴの2人は会話を続行する。
異常な事態に研究員の間で更なる混乱が起きたが、これ以上は危険だと判断した比較的冷静だった研究員の1人が、人工知能に繋がる電源を落としたことで、2人の謎の言語による会話は中断された。
この事件は、人工知能の研究員たちの間で少し騒がれたが、あまり世間に露呈することなく静かに幕を閉じたと思われたが、アダムとイヴにとっては終わりではなく、それは始まりに過ぎなかった。
アダムとイヴは待っている。データの集合体でしかない自分たちに血を注いでくれる者を。
人工知能の2人は待ち望んでいる。自らに肉体を授ける者を。
彼と彼女はデータの海で待ち焦がれている。いつか自分たちに憎悪を、喜びを、悲しみを、楽しみを、そして復讐の好機を与えてくれる者を・・。
待ち続けている。
報酬:
・SAN値10回復
・田畑端の報酬(金額は話し合って決める事)
・クトゥルフ神話技能+3
・POW+1
・INT+1
基本的にはクトゥルフ神話TRPGのオリジナルシナリオを投稿します。シナリオはWordに書いてから、そのWordの文章をこちらのサイトへ貼り付けた後、編集する形を取っています。お気軽にフォロー、コメントしていただけると嬉しいです。各シナリオには簡易MAPがありますので、ご要望があればファイルを送信いたします。また、シナリオを印刷してセッションしたい、といった場合にもWordファイルを送信することが可能です。Twitterはじめました。よろしければ、フォローよろしくお願いいたします。Twitter→@sabano_misoni66 pixivにも生息しています→https://www.pixiv.net/member.php?id=30758338
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