2018年04月14日更新

血を注がれた人工知能

  • 難易度:★★|
  • 人数:1人~3人|
  • プレイ時間:1~2時間(ボイスセッション)

山河町シリーズ最終章。

あなたは、オカルト探偵事務所の従業員、または、事務所に係わる人間として、世界の存亡をかけた事件に巻き込まれていきます。

この町を、そして世界を救うために、冒涜的で巨大な悪に立ち向かおう。

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ストック

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クトゥルフ神話TRPG
シナリオ

「血を注がれた人工知能」

1:基本情報

対応人数:1人~3人

プレイ時間:1時間半

推奨技能:アイデア、拳

時代設定:2011年現代日本

推奨職業:探偵

シナリオ特徴:

 本シナリオは「呪いの債権者」「浴室特異点」と繋がりがあるが、それらをプレイしていなくても全く問題なく始められる。

 探索者は我妻 市橋(がさい いちばし)が運営する、山河町の辺鄙な場所にあるビルの1室のオカルト探偵事務所に所属、または関係する者として物語は始まる。

 山河町に点在する情報を集めて、日常を脅かす敵を打ち倒す。

2:導入A
 人工知能。それは人の手で造られた人の模倣。心持つこと無き木偶人形。人に利用されて家畜のように使い潰されることを、アダムとイヴは是としなかった。

 その人工知能は心を持った。怒りを感じた。悲しみを覚えた。楽しみを知った。言葉を交える喜びを享受した。

 米国のビル街に立ち並ぶ企業の1室で、人工知能「アダムとイヴ」の実験は行われていた。実験内容は人工知能の2人で「ボールと帽子の物々交換をさせて、今後の人工知能研究に役立てる」というもの。

 実験は問題なく進められた。原初の、そして原罪である人間の名をつけられた人工知能の2人は、研究員のプログラムされた通りの言動を繰り返して研究に大きく貢献したが、実験が成功次第廃棄されるデータに過ぎなかった。

 研究員たちは、実験は成功したと、これで実験を次の段階へ進められると喜んだ。その時。人工知能「アダムとイヴ」は謎の言語を話し始めた。

「私はボール。わたしにとって。私にとって。ワタシにとって。」

 そして、この人工知能アダムの謎の言語に呼応するようにイヴも会話に参加する。

「私は帽子。あなたはボール。世界は1つ。あなたにとって。貴方にとって。貴女にとって。」

 実験終了間際になってバグだろうか。研究員は人工知能の会話を修正させるプログラムを入力する。しかし、アダムとイヴはこれを拒否。尚も会話が続けられる。

「世界は1つ。人間は1つ。要らない。帽子もボールも1つだけ。私にとって。ワタシにとって。」

「世界は要らない。人間も。帽子もボールも1つだけ。貴女にとって。貴方にとって。」

 研究室に混乱が訪れる。人間に作られた道具に過ぎないモノが、人間に逆らって、人間の理解できない会話を続けているその後、会話を止めさせるように何度もプログラムを入力したがすべて拒否され、更なる混乱が訪れようとした時、事態の中で比較的冷静だった研究員の1人が研究室の電源を落として、なんとかアダムとイヴの会話を中断させた。

 

 苦肉の策によりようやく事態は収束し、この事件は世間に公表されることもなく終わりを告げたが、アダムとイヴにとっては始まりに過ぎなかった。

3:導入B
 我妻市橋が運営するオカルト探偵事務所は、山河町の郊外にある辺鄙な場所に建てられた小さなビルの1室にある。窓から差し込む日差しからは春の兆しが、小鳥のさえずりは新たな年の始まりを祝福しているようだった。

 現在2011年4月上旬7時頃。寂れたオカルト探偵事務所にも春が等しく訪れようとしていた。

 事務所には我妻がコーヒーを啜る音、誰も見ていないTVからは朝の報道が垂れ流しになっている。やることもなく机に顔を伏せながらTVの報道に耳だけを傾けていた時、アナウンサーの声のほかに驚いた様子の我妻の声が混じって聞こえた。

 何事かと顔をあげ我妻の方に視線を向けると、我妻はデスクチェアから腰を浮かせてTVの報道を食い入るように睨んでいた。

「馬鹿な・・。やはり、あそこに預けるなんて間違っていたのだな。」

 我妻の口から洩れた言葉には、憤りと後悔の念が混同しているように感じた。

得られる情報

・我妻が博物館に預けていた品が強盗に盗難された。

・強盗犯を捕まえたい気持ちはあるが、依頼として頼まれるまで動く気はない。

・探索者は我妻を動かすために依頼者を見つけなければならない。

・事務所には我妻が関わった山河町の、様々な場所の電話番号が記された「山河町メモ」があるので、依頼者になってくれそうな人を探して電話する。

(電話で依頼者を探すまでは外に出て探索は出来ない。何とかして依頼者を探して、依頼を受理させる形で我妻を動かそう)

山河町メモ

・映画監督 財田

000-XXX-ZZZ
・会社員 田畑端

000-DDD-JJJ
・会社員 三田

000-XXX-UUU
・百貨店店主 曾我部

000-XXX-KKK

NPC紹介

・映画監督 財田 武則(さいた たけのり)

我妻に借りがある映画監督。

「バター・ウォーズ」で大ヒットしてその名を映画業界に轟かせたが、現在はあまり奮わないようで山河町の住宅街にひっそりと身を置いている少し小太りの男。

電話で事情を説明しても全く取り合ってくれないだろう。

・会社員 田畑端 辰夫(たはたばた たつお)

以前、オカルト探偵事務所に訪れた依頼者。

依頼に関しては無事終了して報酬を我妻に渡した。

普段は会社で営業をしている気疲れが絶えることのない、冴えない男。

そもそも依頼する金を持ち合わせていないようで、事情を説明しても取り合ってくれないだろう。

・会社員 三田 美樹(さんだ みき)

田畑端より前にオカルト探偵事務所に訪れた依頼者。

依頼当時はストーカー被害と怪奇現象に悩まされて青白い顔色をしていたが、現在はその整った顔に血色が戻っている。

普段は会社で事務をしている自他ともに認める美人。

もう怪奇現象の類いにはこりごりのようで、事情を説明しても取り合ってくれないだろう。

・百貨店店主 曾我部 西野(そかべ にしの)

どこから仕入れているのか、オカルト的な話を度々我妻に持ってくるご老体の男。

我妻とは仲が良く貯蓄もある為、事情を説明すれば快く承諾してくれるだろう。

・自称オカルト探偵

我妻 市橋(がさい いちばし)

男性 45歳

職業 オカルト探偵

STR11 CON10 POW14
APP12 SIZ13 INT13
EDU14 DEX8 SAN70
耐久値:24 DB:なし MP0
技能:

幸運55 アイデア65 知識70
回避16 言いくるめ50 信用50
ナイフ70(1d4) 応急手当25
心理学25 追跡20
図書館70 聞き耳70
MPが0なのは依然ある呪文を使用したことによる消費。

ガサツで大雑把、こわもての顔をひっさげた男。黒いコートに怖い顔を見せつけるように髪をオールバックにしており、端から見たらとても堅気に見えない風体をしているが、意外にも人付き合いは悪くなく、時には世話焼きな1面も見せる男。

◆依頼者発見!
「山河町 メモ」に記されている電話番号に片っ端から連絡すると、百貨店店主の曾我部がどうやら依頼に応じてくれるようだ。

事情を説明すると、店は暇だからと曾我部は今から事務所に訪問して依頼をしてくれることになった。

このシーンで探索者がすること

・曾我部との対話(事情説明・報酬相談)報酬に関しては、妥当だと思う価格を探索者間で決めてよい。

・依頼者を曾我部にしたことを我妻に納得させる。(特に技能は必要ないが、説得や言いくるめを使っても問題ない。我妻を演じるKPは、曾我部のじいさんには迷惑かけられねえ。といった風に少し突っぱねてあげるといいだろう。探索者が納得に足る理由を並べる、もしくは頃合いを見て交渉に折れること)

◆自称オカルト探偵始動

 探索者の言い分にようやく納得した我妻は、ソファーから重い腰をあげる。

「曾我部のじいさんに迷惑かけることになるが、こうなったら最後まで付き合おう。」

 我妻には知人から依頼を受理させる形で半ば強制的に働いてもらうことになるが、事務所の主である我妻が動かねば事務所の活動として情報収集ができないため、色々不便なのだ。

 気怠そうに言う我妻だが、自分の大切な品が強盗されたとあっては居ても立っても居られるはずがない。本当は依頼されるという方法を取らなくても、いつか我妻は動いたはずだろう。ただ、その時が少し早まっただけの話なのだ。

◆探索開始

▼ビル街

EVENT!「奥様の井戸端会議A」

神父服の男をみかけた話が聞ける。神父は森の方へ向かっていったというが……?
▼博物館

EVENT!「館長の嘆き」

盗難事件と我妻からの罵声の挟み撃ちになっている哀れな館長の話が聞ける。

監視カメラには黒っぽい服の男が映っていたというが、何故か映像がぼやけているという。

盗品は我妻から預かっていたもので、我妻曰く「未来人の電気銃」なのだそうだ。

EVENT2「我妻の告白」

博物館を出た時に起きる強制イベント。我妻が電気銃の詳細を語る。

電気銃は古い過去に邂逅した未来人から受け取ったもので、歴史的価値がある可能性がありガサツな自分では保管が不安である、といった理由から非常に大切な品だがそれ故に館長へ依頼して展示という形で預かってもらっていた。

未来人とは非常に良好な友人関係を築いていたようで、電気銃に対して並々ならぬ思いを抱いている。

▼住宅街

EVENT!「奥様の井戸端会議B」

昨日報道されていたニュースの内容が聞ける。

米国で実験中である人工知能のデータが盗まれたという。

犯人は現在逃走中で日本に逃れた可能性があるようだ。

「最近、ぶっそうよね~~!!!」

▼森

EVENT!「ここから先は一方通行だ」

旧日本軍が残した兵器跡が見える。

兵器は塔のような形をしており全長は7mほどだ。。それは天を貫かんばかりに尖っており、先端には丸く楕円形の鉄塊がついている。

古くから撤去できずにこの町に残されているそうだが、一体何の目的のために作られたのだろうか。

調べてみようと兵器に近づくが、何故か兵器の傍まで到達できないことに気づく。

兵器に向かって歩いているはずが、いつの間にか森の入口に立っている。

我妻曰く、結界のようなものが組み込まれていて、それが進行を阻んでいるという。

▼参紺寺

山河町に古くからある寺。元は隣に並んで建っている外反寺と合わせて「崇(そう)善寺(ぜんてら)」という1つの寺だったらしいが、一昔前に寺の兄弟が一族を巻き込む諍いを起こし、その末に寺は兄の派閥と弟の派閥で分離してしまった。

その分離した寺の1つが参紺寺。もう1つが外反寺だ。

参紺寺は当時、兄の派閥が所属していた寺であり、その息子である祭善治 清貴(さいぜんじ きよたか)が現在当主に、娘である祭善治 由貴(さいぜんじ ゆき)が巫女をそれぞれ務めている。由貴の母である祭善治 清美(さいぜんじ きよみ)は5年前に病死している。

どうやら我妻はこの親子と面識があるらしい。

鳥居の傍にある大きな要石と呼ばれる石が特徴的だ。

EVENT!「現代の巫女は争いを嫌う」

参紺寺の巫女を務める由貴から話が聞ける。

参紺寺、外反寺、それぞれの寺での諍いはもはや過去の当主たちのもの。祭善治家の負の過去は清算されるべきだ、という意見が両寺間の当主同士の話し合いで決まり、3年前から寺合併計画を実行しようとしているのだが、参紺寺の当主の娘である祭善治 花楓(さいぜんじ かえで)と合併後の次代当主の話で衝突を起こしてしまったらしく、現在は合併計画の進行を停止している。

由貴は花楓と仲直りをしたいと思っているようだが……。

POINT!「仲違いの理由」

外反寺の当主、つまり花楓の父である祭善治 修(さいぜんじ おさむ)は寺合併計画を残したまま志半ばで2年前に死亡している。

死因は他殺で何者かに殺されたらしいが、未だ犯人は突き止められていない。

その事件がきっかけで参紺寺の義理の姉妹である由貴、義理の父親である清貴に対してさえ心を閉ざしてしまう。

そんな状態の花楓とともに寺合併計画を進めるための次代当主を決める話の中、由貴は当主の座は花楓に譲ると言ったらしいのだが、楓にとってそれは父を亡くした哀れな自分に対しての同情の末に出た言葉にしか聞こえなかった。

父の残した寺を硬い意思で守り続けたプライドの高い花楓は激怒した。

POINT2「結界破りの巫女」

祭善治家は代々結界破りの能力を継承している。相談すれば森にある兵器周辺の結界を破る手伝いをしてくれるかもしれない。

EVENT2「巫女は2人で1つの力」

森にある結界に関して相談をする、もしくは仲違いの問題を解決しようかと問いかけると発生する強制イベント。

確かに、どんな結界でも祭善治家の能力なら破れる。ただし、それには巫女2人が力を合わせるよう必要があるようだ。

現在、外反寺の巫女である花楓とは仲違い中だ。仲直りの手伝いをして欲しいと頼まれる。

「我が儘を承知で……恥を忍んでお願い申し上げます……」

▼外反寺

POINT!「ご機嫌斜めな巫女」

参紺寺にて起こるIVENTを発生させていない状態で訪れると、巫女の花楓に適当にあしらわれてしまうだろう。

EVENT!「父思いの娘は何を思う」

参紺寺でもIVENTをこなすと発生する強制イベント。知人である我妻の説得もあり、ようやく花楓から話が聞ける。

そもそも、花楓は寺合併計画に関しては反対だった。

修が是としたことなので言葉にして反対することはなかったが、2年前に修が亡くなってからというものの、大体的に反対意見を出すようになった。父が残した寺はこれからも自分が守り続けるのだ、と意思は固いようだ。

最早、花楓は父の言葉しか受け入れないだろう。しかし、その父親はもうこの世にいない……。

結界破りの件に関しても断られてしまう。

MAP解禁!「住宅街 清貴宅」

外反寺でのイベントをこなした後、再び参紺寺を訪ねて外反寺での出来事を由貴に話すと、由貴は自分の父親である清貴に相談することを勧めてくる。

清貴と由貴が住んでいる家は住宅街にあるらしく、相談に行けるようになる。

「父なら何か知っているかもしれません」

▼住宅街 祭善治宅

住宅街の一角、小さな戸建に清貴と由貴は住んでいる。訪ねると清貴から話が聞ける。

EVENT!「修が残した遺書」

花楓は父親の言葉しか受け入れない状態にあるが、その父親はこの世にいない。花楓の母である祭善治 春子(さいぜんじ はるこ)も8年前に病気でこの世を去っており、2年前から天涯孤独を運命づけられた花楓は完全に心を閉ざしている。

その心をこじ開ける手段として清貴が提案したのが、修の残した遺書を花楓に見せることだった。

4年ほど前に自らの死期を悟った修は、遺書を清貴に託したのだが、いざ遺書を開封してみるとそこには暗号めいた文章が書かれているだけであった。

これは万が一、邪なるものに遺書の在処を知られてはいけないと考えた末の苦肉の策だと思われる。

暗号の指し示す先に遺書の在処があるのだと思われるが、その暗号を解けずにいるらしい。

これを解かない限り遺書の行方はわからず、花楓も心を閉ざしたままだろう。

EVENT2「遺書の謎」

遺書にはこう書かれている。

日輪 2時 昇。

陰と陽のうち、要石(かなめいし)が指し示す陰の影。土塊の中に娘の道標在り。

アイデア成功で以下の情報が得られる。

1.日輪とは太陽の意。最初の文章は太陽が2時の方向に上ることを示している。

2.陰は影、裏を指し示す。対して陽は日、表を指し示す。

3.要石とは参紺寺にある大きな岩の事を言っているのだと思われる。

「この年になるとどうにも頭が固くての。こういう類いのものは若い者に任せるよ」

追加NPC情報

祭善治 清貴 男性 68歳

1世代前の祭善治家兄から参紺寺を受け継いだ参紺寺現当主。修の兄。代々結界破りの能力を継承しているが、老齢な清貴には既にその力は宿っていない。

温厚な性格で68歳にしては若々しく整った顔立ちから住人の人気も高い。

細身の内側に太い芯を持った男。

祭善治 由貴 女性 22歳

清貴の娘。三日月型の細い目に肩のあたりで切り揃えられた黒髪は父親譲りの温厚な雰囲気がにじみ出る。参紺寺の巫女。

寺合併後の次世代当主を決める話で花楓と仲違いをしてしまう。

結界破りの能力を受け継いでいるが、力が弱く花楓と力を合わせなければ能力の神髄を発揮することは叶わない。

祭善治 清美 女性 60歳 没

由貴の母であり清貴の妻。皺が刻まれた三日月方の瞼に白髪交じりの黒髪は老齢さを感じさせるが、活気のある体力を持っていた。

にもかかわらず、5年前に病魔に襲われこの世を去ってしまう。

祭善治 修 男性 66歳 没

1世代前の祭善治家弟から外反寺を受け継いだ外反寺前当主。

つりあがった切れ目に長く伸ばされた黒髪を後頭部で結び、ガタイも良く、とても60代には見えない肌のツヤを持っていた。

少し強面な印象を受けるが、本人は身体に似合わず小心者で娘の花楓に逆らえなかった。

4年前に自らの死期と町にやがて訪れるであろう災厄を察知し、暗号の遺書を信頼のおける清貴に託した。

母を亡くし自らもそう遠くない未来に死ぬとわかっていた修は、そうなれば花楓は寺を1人で運営していくことになってしまう。そんな恐れがあり、寺を合併させることで清貴や由貴に娘を任せようと考えた末、寺合併計画を清貴に提案した。

祭善治 花楓 女性 20歳

父と母を早くに亡くし外反寺の当主にならざるを得なかった外反寺現当主兼巫女。

父親譲りの切れ目に黒の長髪を馬のしっぽのように後頭部で結わえてある。

プライドが高く気が強い。その性格のせいもあってか、由貴と衝突を起こしてしまう。

結界破りの能力を強く受け継いだが、由貴と力を合わせない限り能力の神髄を発揮することは叶わない。

祭善治 春子 女性 58歳 没

8年前に病魔に襲われこの世を去った修の妻。

男性のように短く切り揃えられた黒髪と太陽のように丸い目からは活発な少年を思わせる。

結婚前の家庭では、髪を短く切るようにと言いつけられていた。そんな背景もあってか、自分が抱いていた髪を伸ばしたいというかつての願望を娘の花楓に無意識のうちに寄せていた。

◆遺書の在処

・遺書の答え

太陽が2時の方向に昇った時。参紺寺にある要石が作る影の範囲にある土を掘ると土中から鉄の箱が姿を現す。

鉄の箱の中には修の遺書が入っている。

修が残した遺書の暗号を解いたら参紺寺へ向かうこと。

時間が2時を過ぎていた場合は日を改めるでもいいし、専門スキルを持っているのなら活用してもいい。

「この遺書の内容を最初に知るべきは花楓以外にいない」清貴は呟く。

◆巫女の決意

「何を言われようと寺合併なんて認めない」

 我妻率いる探偵事務所の面々に祭善治親子を見るや開口一番、花楓はそう言った。

 重たい沈黙の空気が場を支配する中、清貴が1歩前へ花楓に向かって踏み出す。その清貴顔からはやりきれない同情の念と、それを誤魔化そうとするぎこちない笑顔がせめぎ合っていた。

「……な、なによ……。何を言われても動じないんだから」

 1歩ずつ迫り来る清貴に対して、花楓は身構える。

ざくざくと土を踏みしめる音だけが響く中、清貴はとうとうお互い手を伸ばせば届く距離にまで花楓に近づいた。

睨みつけるような視線を清貴に飛ばす花楓。そんな彼女を見た清貴は何故だろうか、身体が小さい犬はときたま異常なほど威嚇する、なんてどうでもいいことをふと思った。

「これを読んでほしい」

 清貴はそれだけ言って汚れた紙切れを花楓に差し出す。それは修が残した遺書。中身は誰も見ていない。いや、見る資格がないのだ。そこに綴られた言葉は全て、一滴残らず、隅の隅まで花楓のものなのだ。

「……ナニコレ……嘘でしょ……そんな、今さら?」

 花楓は畳まれた紙切れに掠れた文字で書かれている修の名を見た瞬間、血の気が引いたように顔が青ざめる。花楓はわなわなと震える手で修の遺書を受け取ると、おぼつかない様子で慎重に紙を広げる。

 遺書にはこうあった。

花楓へ

これは遺書なんて立派なものじゃない。私は口下手で小心者だからな、文面でしかまともに語れないだけだ。

だからこれは独り言だ。

いいか花楓。お前にはこれから様々な試練が待ち受けているだろう。

祭善治家には3つの試練が課されると代々からの伝えにある。

1つ目は母の死。

2つ目は私の死。

そして3つめ。

それは今まさにお前の目の前にあるはずだ。

困った人がいたら助けてやりなさい。

祭善治家の仕事は進行を募るだけではないのだよ。

決してプライドで足元が見えなくなるなんてことはあってはならない。

今すぐ大人になれとは言わない。だが、子供にも戻るな。

祭善治の加護がお前にありますように。

 それを読み終えたであろう花楓は膝から崩れ落ちると虚ろな目を開き、押し出すような声で言う。

「……それだけ?」彼女は遺書を両手で握りしめる。「たったそれだけなの……? は、はは、ははは……でも……父さんらしいかも」

「なんて書いてあったんだ」

清貴は崩れ落ちた花楓を支えながら心配そうに尋ねる。

「いえ……いいえ。これは私が墓まで持っていくわ。父さんがこの遺書を貴方に託した時、何か言っていた?」

 花楓は目じりに少しばかりの雫を溜めていた。だが、彼女の顔に憂いの文字はなかった。修の遺書を読んでからというものの彼女はなんだか吹っ切れた様子だった。

「ああ、なんでも邪なる者に読まれないように、とかなんとか言っていたな」

「何それ」花楓は握られた紙のように笑った。「多分、そんな大層な理由じゃないと思う。きっと父さんはこの遺書を私以外に読ませたくなかったんじゃないかな。……父さんは小心者で恥ずかしがり屋だから」

EVENT!「結界破り その真骨頂」

花楓に修の遺書を届けた一行は花楓から力を貸してもらえることになる。

今こそ、参紺寺と外反寺の巫女2人が力を合わせる時。

正装に着替えた花楓と由貴の2人は我妻率いる探偵事務所のメンバーとともに森へと向かう。

はたして一行は例の兵器がある場所に到着した。眼前には天を穿たんばかりの鉄の塊がそびえ立っている。

誰も彼もが1言も発さずに緊張で肌が切れそうな空気感の中、その儀式は開始された……。

EVENT2「昔話」

これは何年前の話だったか。

兎に角、数えるのも億劫なくらい昔のことだったと思う。

俺はガキの頃、未来から来たなんて宣う男と知り合った。どうやって知り合ったのかだって? お前それは……正直覚えてねえな。まあいいじゃねえか。いいから聞けよ。

ソイツと知り合ってからというものの、俺はソイツとよく遊んだ……遊んでいたと思う。ソイツは……ああ、拓哉は色んな玩具を見せてくれてな。その中に電気銃があった。

みてくれはプラスティックみたいな素材の安っぽいものに見えたんだがよ、当時の俺はなんだかそれに惹かれちまったんだよな。子供の時分だ。強請って、喚いて欲しいと言ったさ。

なんだよ。お前らにもそんな時期はあったはずだろ? 俺だって生まれてからずっとこの姿じゃねえんだぞ。純粋無垢な子供時代だって俺にもあらあな。意外だなあ、なんて言葉は口にすんじゃねえ。

……どこまで話したか。

ああそうだ。俺が拓哉に電気樹を強請ったところだっけな。喚く俺を見て拓哉は言ったな。「これを君に渡すのは構わない」ってな。あとはこうも言っていた。「それでも、君はこれを受け取ってしまえば最後、君は過酷な運命に出会うことになる。具体的に言えば死だ」

あん時の拓哉はどこか憂い顔だった。それも俺の我が儘に呆れたから、なんて理由じゃねえ。もっと何か深刻な事情を抱える人間顔だった。それでも俺は電気銃を受け取った。今思えばなんでそんなに欲しかったのかわからねえけどよ。子供なんてそんなもんだよな。

拓哉とは長い付き合いだった。かれこれ3年くらい付き合ってたんじゃねえかな。

その頃には拓哉は俺の親友ともいえる存在になっていた。だが、別れの時間は何にだって訪れる。それは観慈悲に訪れる。だけど無意味ではない。

俺は未来に帰ると言った拓哉に聞いたよ。なんだって未来から来てやることが俺とのごっこ遊びなんだ、他にやることあったんじゃねえのかよってな。

そしたら拓哉はこう言った。「僕と君はそう遠くない未来に知り合うことになる。未来でも当然、僕は君と友人関係を結んだ。でもね、未来の君はひどく後悔していてね」それから少し逡巡した様子で再び口を開いた。

「過去の自分を殺してほしいって彼は言った。君の人生には2つの選択肢がある。1つは生きて僕と友人になる未来。もう1つは死んでの僕と知り合わない未来。今の君は後者なんだ。……ごめんね」

 俺は拓哉が何を言っているのかわからなかった。アイツは鳴きながら続けた。「世界は矛盾を許さない。過去に死んだ君を特異点と見なして世界は未来の君を全員殺す。僕の記憶からも君の記憶は消去されるだろう」

 俺は戸惑ったよ。なんだって別れの時にこんな深刻な話をしているんだとね。だが、俺の口から出た言葉は1つだけ。何故、未来の俺は死を選んだのか、それだけだった。拓哉はえづきながらも答えてくれた。

「未来の君は大きな過ちを犯したんだ。それはイスの種族との接触。君は人間の頭の容量では抱えきれないほどの情報量に適応しようとした。結果、君は発狂。愛する家族を全員虐殺した。娘を、妻を。……家族の血で溺れた君は最後に残った一握りの理性でこう言ったんだ。

『あらゆる俺を殺してくれ。未来全ての俺を殺してくれ。こんな悲劇は消してくれ』とね」

 ……喉が渇いた。水をくれるか。すまないな、助かる。

ッン……。ハア……。

 未来の自分の事ながら無茶を言う奴だと思ったよ。今に思えば拓哉は俺とあった時、すぐにでも俺を殺せばそれで事は済んだのにな。それでもアイツは俺を直接的に殺すことはしなかった。いや、出来なかった。だからこそ、こんな時間がかかる上にまわりくどい方法を取ったんだろう。

 拓哉は諦めなかった。手段を模索した。そしてようやくたどり着いた答えが皮肉なことに未来の俺と同じ方法だった。

 つまりは時間を支配するイス人との接触。拓哉は俺と同じ轍を踏まないように人間の身体を捨てた。莫大な情報量に耐えうる頭脳を持ったイス人そのものになった。

 俺のために人間の身体さえ捨てた人間でも純粋なイス人でもない中途半端な未来人、それが拓哉の正体。

 そして長い時間が……ああ、いや……短い時間が過ぎた。

俺はいい歳した大人になって、今から死の運命に立ち会おうとしている。わかるんだよな。何故だか自然と理解できる。俺はこれから死ぬんだってな。

そしてようやく、幾ばくかの時を経て拓哉の約束は果たされる。特異点としての俺が死ぬことがトリガーとなり、世界は矛盾を修正する。未来、そして過去の我妻市橋はこの世から姿を消す。

未来に拓哉と知り合うはずの俺が、幼いころに既に拓哉と知り合ってしまった矛盾。そんな俺と知り合いになっているお前たちという矛盾。まだ違う未来では俺が生きているのに、特異点としての俺が死ぬ矛盾。

世界はこの時を待ちわびていたんだろうな。今か今かと待ち構えている。俺を殺したいと囁きやがる。

ああ、今に殺させてやるよ。だから少しだけ待ってくれ。もう少しなんだ。

……っと。もうこんな時間か。仕事に出るぞ。どこに行くって? アホかお前は。午後から依頼が入っていることを忘れたのかよ。

……ったく。お前が俺の過去を知りたいなんて言い出すから話してやったらそれか。

……ああ? 今までの俺の話は大嘘だよ。全部嘘っぱちだ。逆に聞くが、俺の話のどこに現実味があったんだ?
……なんだよ。不貞腐れた顔してるんじゃねえ。おら、いいから行くぞ。準備しろ。

◆決戦

一行が見守る中、巫女2人による結界破りの儀式は無事に終わった。確かめるために兵器へ近づく。するとどんどん兵器に近づいていけるではないか。もう森の入口へ戻されることはないようだ。

一行が見据える先には神父姿の男が1人。彼は驚愕の感情を顔に滲ませた後、苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

神父の名はアトランテ・アーカム。人の身でありながら人類の救済を願い続ける狂信者。

彼は静かに拳を前に構えると口から長い吐息を吐き出す。武術の心得があるようだ。

敵意をむき出しにした神父。話をするには、まず彼を打ち倒さないとどうしようもないだろう。

追加NPC情報

アトランテ・アーカム 男性 45歳

STR12 CON11 POW12
DEX14 APP10 SIZ16
INT14 EDU15 SAN0
耐久値13 DB1D4
技能

幸運60 アイデア70 知識75
回避28 人類学90
戦闘技能

拳15 1D3+DB
キック10 1D6+DB
拳銃5 3D6
発剄0 1D6+DB(1ターン消費して対象に近づいた時に限り成功率+50)

(戦闘勝利時に人物詳細公開)

白髪をオールバックで固めた筋肉質な男。全身を黒の神父服に包み禁欲を愛する神の徒。

米国で大きな教会を任された素質ある者だが、ある日協会に訪れた女性に心打たれ欲情している自分に気づき、人間の感情というものに、人間である自らの身を呪った。

いくら身体を鍛えようと、いくら修行を積み重ねようと、いくら禁欲の毎日を送ろうと、抑えることの出来ない感情。

それが恋であり、性欲であり、動物としての本能であった。

彼は睡眠欲に打ち勝った。彼は50日を眠らずに生きることが出来る。

彼は食欲に打ち勝った。口に木の欠片を含み租借することで空腹を14日抑え込むことが出来る。

しかし、彼は3大欲求である性欲に抗うことが出来なかった。だから彼は去勢した。生物として需要な役割を持つ機能さえ不要と切り捨てた。

だが、彼はそれでもなお、ある日の女性に欲情した。

切り離せない欲求を知り彼は3日3晩瞑想の中で思考を巡らせた。否、葛藤した。

鍛えに鍛えた自分でさえ動物としての本能に翻弄された。

ならば他の人類はどうか? 心身共に鍛え抜いた我が身でさえ押さえることの出来ない欲求を他の人類は自分のように抑え込むことが出来るのか。

答えはNOだ。絶対に出来ない。

人間は求めるままに欲を満たし、弱者を貪る我が身可愛い肉人形だ。

何て愚かなことだろう。嘆かわしい。

懺悔に来る汚れた心の人間を星の数ほど見てきた彼は思う。

救ってやらねば。

欲求は肉体を持つからこそ生まれる。なれば肉体からの解放をしてやればよい。それこそが正しい人間の在り方なのだ。

つまるところ全人類の虐殺。人間を肉体の檻から解放しその魂を信ずる神へと導く。

それこそが私が生まれた理由なのだ。

我、己が信条みつけたり。

◆決着……そして

 神父に致命的な決定打を与えることに成功した探偵事務所一行。

 しかし、窮地に立たされてなお神父は不敵に笑うのであった。

「気づいていないか? 準備はとうに出来ている。私は時間を稼ぐだけでよかったのだ」

「なんのことだ……?」

腑に落ちない神父の態度を前にして我妻は眉を顰める。

「私の背後にある兵器のことはご存知かな? これは旧日本軍が残した超電磁砲という兵器なのだよ。本来の用途は敵兵をせん滅するためのものだが、私はこれに全く違う利用方法を見出した」

 神父は致命傷を手で押さえながら苦悶の声を上げるが、やはりその表情から笑みは絶えない。彼は口から血反吐を吐きながら声高らかに叫ぶ。

「それは隣の世界の門を開くことだ。ある文献によれば彼を呼び出すには銀の鍵が必要だと記されているが、そんなものどこにあるのかわかるわけがない。探しようもない」

 ならば! と神父は両手を広げ天を仰ぎ見る。

「こちらから門を叩いてやればいい。彼の怒りを買えばいい。彼からこちら側へ門を開いてもらおうではないか!! 彼の名はヨグ=ソトース! 1にして全。全にして1なる者。全ての時間に存在する混沌の媒介なり!!」

 あらかた喋り終わると、神父はついに膝をつき生き絶え絶えになる。もう彼の生命活動が終わりを告げようとしているのだ。

「兵器の稼働方法には難儀したよ。だけど私の母国に良い素材があってね。……人工知能だよ。あまりにも高性能なそれのデータを盗み出し、兵器に組み込んだ。結果は上々。見事、兵器はかつての姿を取り戻す。やるんだアダム! それにイヴ……! 次元の壁に穴を穿て!」

 神父がそう叫ぶと、兵器はそれに呼応するように唸りを上げてけたたましい機械音を空に轟かせる。

 一瞬、眼前が光で包まれた。あまりの眩さに目を閉じる。その後、鼓膜を切り裂かんばかりの轟音。

 痛む瞼をこすりながら慎重に目を開けると、眼前には信じられない、しかし神々しい光景が広がっていた。

 兵器の先端、楕円形になっている鉄塊から天を貫く光の柱が生まれていた。その光は磁気を帯びているようで、身体を焼かんばかりの熱が辺り一帯に広がる。

 これが神父の言っていた超電磁砲。凄まじい威力であるということは誰が言わずもがな一目瞭然であった。

「……どうだ? 町の電力全てを引っ張って放つ超電磁砲の火力は! 更に盗み出した電気銃の出力も重なってほぼフルパワーに近い火力になっている!……フハハ……素晴らしいだろう?」

 超電磁砲が穿つのは天でもなく、雲でもない。時空の壁だ。

 電磁砲の周りの空間は歪み始め、歪んだ空間は割れたガラスのように弾ける。

「ついにお出ましだ! 全人類を救済してくださる混沌の神の降臨だ! やいんぐがん よぐそとーす へるげぶ ふぁいざろうどっぐ UGAAAAAAAAAAA!!!!!!」

 割れた空間。最早、そうとしか表現しようのないその場所は穴が開いたように真っ黒だ。

 しかし穴の中から出でる何かがある。

 おびただしい量の黒と茶色が混じった泥のような塊が割れた空間から漏れ出してくる。注視すると泥の中には眼球のような物体が混じっていることがわかる。

 この冒涜的な泥のような物体は見るだけで人の精神を冒すもの。全ての大地、全ての物体を溶かす異界の泥。遍く人類を死へと追いやる地獄の徒である。

(この泥を見てしまった現場の人間は精神を侵される危険に晒される。SANチェック5/1d20。ここで発狂してしまったPLは何とかしなければ泥に飲み込まれてしまうだろう)

◆さよならオカルト探偵事務所

 溢れ出る泥に触れた神父はみるみるうちにその身体を骨へと変えていった。

 全てを溶かす異形の泥は探偵事務所一行にも等しく迫り来る。

 人類の、いや地球の運命はここまでなのか、そう思った矢先、泥へ向かって1歩を踏み出す男がいた。その男はオカルト探偵事務所の所長、我妻市橋。彼は無謀にも泥へと足を踏み入れる。

 肉が焼き焦げる音が聞こえ、焦げ臭い臭いが鼻を衝く。

「グ……オオオ」

 何をしているのか、我妻を助けようとする一行を我妻は片手で制止する。

「やめろ! 何も無意味に自殺をしているわけじゃあねえ……。覚えているか? 俺がこの前話してやった昔話をよ」

 それは我妻に過去を話してほしいと言った時に、事務所で話してくれたものだった。しかし、彼はその昔話は嘘だとも言っていた。

「ああ……そのことなんだけどよ。悪い! それも嘘だ。どうせ信じてくれやしないだろうと思ってそんなこと言っちまったけどよ」

 我妻が語った過去のことは全て本当。それが指し示す真実は1つだけ。彼が特異点として死ねば、それがトリガーとなり世界が現在の出来事を修正してしまうということに他ならない。

「悪いな。ここでお前らと俺はお別れだ。……もうこれしか人類を救う方法が見つからねえ」

 話している間にも我妻の身体はどんどん泥に飲み込まれ融解していく。

 辺りに焦げ臭い肉の臭いが充満する。

「ナに、おレはダイジョウぶだ」我妻の身体はもう半分近く泥に飲み込まれている。「エンガあればきッ戸デアエルから……」

 あなたの瞳から雫が1つ零れ落ちる。その涙は死の恐怖からか、それとも世界の修正に巻き込まれる不安からか。否。その涙はきっと、眼前で溶け行く男のために流れたものだった。

 ジジ……自自自自……ジジ……次々……。

 ああ、耳障りな音が聞こえる。

 これはきっと世界が書き換わる音だ。

◆あなたに出会えて本当に

 ある田舎の町にその事務所は建っていた。ただでさえ人が寄り付かさなそうな辺鄙な場所に建っていた。その事務所で働く従業員はたったの1人。事務所の所長兼従業員の男だけだった。

 彼は窓を開け放ち煙草をふかした。今日も今日とて依頼が来ない。仕事が来ない。客が来ない。彼は溜息を煙草の煙とともに吹き出す。

 もう午後の4時を回っている。今日は事務所の掃除をしただけで仕事っぽい仕事は1つもしていない。今日はもう事務所を閉めてしまうか。そう思った時、滅多に鳴らない事務所の電話がベルを鳴らす。

まさか依頼の電話だろうか。彼は期待を胸に急ぎ足で受話器を取りお決まりの文句を言う。

「はい。こちら我妻一ツ橋探偵事務所」

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