■導入

その夜、探索者は酔っぱらっていた。
後輩の「山田」から久しぶりに誘いがかかり、共に飲んでいたのだ。
「今どんな仕事やってるんすか？」「へー、すごいですね！」「こっちは全然だめだめですよー……」
お互いに近況を語りあい、楽しく酒を飲んで、ほろ酔い気分で店を出た。
帰るために駅へ行かなければ。探索者は横断歩道の青を確認し、踏み出した。
　
――キキ―――ッ！！
そんな探索者に、信号無視の車が突っ込んできた。
車のフロントは探索者の身体を跳ね上げ、内臓に致死ダメージを与えた。
周囲が息を呑む。スマホで撮影する者までいる。
山田が駆け寄って来る。探索者の名を叫んでいる。
意味が、わからなかった。しかし、ひとつだけわかったことがあった。自分は、助からない。
粉砕された骨と、潰された臓器の痛みが今更襲ってくる。苦痛の中、探索者は意識を手放した。死んだ。
　
一瞬あと。ほろ酔いの山田と一緒に店を出るところから、物語は始まる。
　
※NPC「山田」は基本的に同性が良いでしょう。
　男性探索者の場合は「山田ヒロ」
　女性探索者の場合は「山田カナ」という名前がデフォルトですが
　KPの好きに変えて下さい。
　
　

■あらすじ＆真相

探索者は後輩と飲んだ（未成年の探索者なら、お茶した）帰り道で事故にあい、死亡します。
しかし一瞬後、店を出るところからリスタートします。
それから、避けられない理不尽な「死」が幾度も探索者を襲います。
　
実は舞台は夢の中です。
探索者の後輩は夢を司る神話生物ヒプノスと契約しており
探索者に永遠の悪夢を与えるづけることでヒプノスへの生贄にし、自らの欲望を叶えようとしています。
　
これに気づき、後輩を殺すか、
問い詰めて自滅させ、ヒプノスに「契約者失格」と判断させるかすれば、この呪いは後輩に跳ね返ります。
　
探索者は死と同時に襲い来る厳しい正気度判定をクリアし、無事に目覚めることができるでしょうか？

■■■シナリオ序盤

「早く横断歩道渡っちゃいましょうよ、信号変わっちゃいますよ」
と急かす山田をごまかして横断歩道を渡らないでいると、先ほど見た光景のとおりに横断歩道に車が突っ込んできます。
幸い、怪我人はなさそうでした。
尚、山田の言う通り横断歩道を渡ると、また車に轢かれ、1度目のSANcが発生します。
　
　

■■■シナリオの進行

探索者はどう慎重に行動しても「死ぬ」ことになり、そのたびにSANcを重ねます。
そして、探索者が既にわかっている「死」を回避しても、違った形で、回避不可能な「死」が探索者を襲います。
探索者は繰り返される死によって発狂する前に、真相にたどりつき、また、この悪夢から脱出しなければいけません。
探索者の要求する技能ロールへの基本的な情報は以下です。
　
　
〇目星：
このシナリオでは特に使いどころがありません。
KPが、目星で出せる情報があると判断した場合、ふさわしい情報を出してください。
　
〇聞き耳：
探索者が死を回避したシーンで山田がそばにいた場合にこの技能が使われた場合、山田が舌打ちするのが聞こえます。
　
〇説得、言いくるめ：
山田の企みを理解していない状態で成功しても、効果はありません。
山田は説得に応じたふりをして、また探索者を殺そうとします。
山田の企みを完全に理解した上で説得をすると、山田は「なんでだ！！　なんで気づいた！！」と絶叫し、その場から逃げ出そうとします。
そして、その先で何らかの事故にあい死亡します。グッドエンドへ移行してください。
　
〇心理学
山田に対する心理学が成功した場合、山田が探索者の死を喜んでいること、心配は演技であることがわかります。
　
ただ、物語序盤では山田の心はヒプノスに護られています。心理学の「半分」の値で判定してください。
ヒプノスの護りにより、本来ならば成功するはずの値で失敗した場合
「一瞬山田の表情がうまくつかめなくなった。何かにさえぎられたように」等、邪魔が入ったことを伝えてください。
　
探索者の死が重なると山田は欲を出し、ヒプノスの護りは薄くなっていきます。
２～３回の死のあとに、再度心理学が（今度は本来の値で）振れることをPLに伝えてください。
その時点で強く山田を疑ったり、説得系の技能に成功していれば、判定値に+20のボーナスを与えてください。
　
〇オカルト、図書館
成功した場合、「苦痛を餌にする神話生物、ヒプノス。繰り返されるあなたの苦痛はそいつに美味しく頂かれている」
ということがわかります。
神話生物の存在の認識やオカルトへの興味がないと出ない情報なので、そんな探索者が「図書館」技能で振った場合には判定値にマイナスを与えて下さい。
　
〇回避：
「初見で」落ちてきた鉄骨を避ける、突進してきた通り魔を避けるなどの行動は、このシナリオでは不可能です。
予め知っていれば、判定無しで避けることができます。
よって「回避」技能は基本的に使えない旨を探索者に伝えてください。
　
　

■■■山田の行動

なんとか探索者を殺そうとしています。
そして、自分は何も知らないふりをし続けます。
以下、サンプル台詞です。
　
「早く横断歩道渡っちゃいましょうよ、信号変わっちゃいますよ（と、突っ込んでくる車への誘導）」
「あっちの道から行きましょうか？（と、落ちてくる鉄骨や通り魔がひそむ道への誘導）」
「雨降りそうですよ！（探索者を焦らせるための発言。なお、夢の中なので本当に雨が降ってきます）」
「（探索者が死を回避した場合）あっぶな……！　今立ち止まってなかったら死んでたかもしれませんね！（演技）」
「なんだか嫌な予感がしますね……早く帰りましょう」
　
　

■■■死亡後の正気度判定について

死亡回数が増えるにつれ、正気度判定が厳しくなっていきます。
具体的には
「1d4/1d6」→「1d6/1d10」→「1d8/1d12」→「1d10/1d20」→「1d20/1d100」→「1d100固定」です。
他のシナリオに比べ非常に厳しい判定にしているので、KPは様子を見て判定を緩めても構いません。
これは、「これ以上死んだら本格的にまずい」と思わせるための処置です。
　
正気度判定に失敗し、一時的狂気（=アイデア判定成功）を発症したなら、以下のようにヒプノスの存在を匂わせてください。
「苦痛を餌にする存在がいる。繰り返されるあなたの苦痛はそいつに美味しく頂かれている。そしてあなたが目をつけられた理由があるはずだ……具体的なことまではわからないけれども。これが思いついた瞬間、あなたは圧倒的な何か、巨大で邪悪な存在からの視線を感じ、ぞくりとする。」
※ヒプノスの存在が既出情報ならば、後半「視線を感じる」部分のみを引用してください。
　
長期的狂気に陥ってしまうと、多くの場合謎解きが困難になるでしょう。
これ以上の探索が不可能だとKPが判断した場合、探索者はヒプノスの玩具として悪夢を与え続けられます。
バッドエンドへ進んでください。
　
正気度をすべて失った場合、バッドエンドへ進んでください。
　
　

■■■死のバリエーション

探索者がとった行動によって、柔軟に殺してください。
以下は、死亡シチュエーションのサンプルです。
　
①通り魔
駅に向かおうとする探索者に、突進してくる人がいます。
あなたは一瞬、何が起こったのかわかりませんでした。
ドッという衝撃のあとに感じたのは、熱。気が付くと、あなたは胸を刺され、血を拭きあげていました
急速に失われる体温。山田の悲鳴。自分を刺した通り魔のいやらしい顔……
こんな顔を最後に見たくなかった。あなたの意識はそう思うと同時に、闇に堕ちていく。
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　
②鉄骨
探索者の頭の上から、鉄骨が降って来た。
工事中の現場の横を通った、それだけのことだった。
探索者の頭に鉄骨が直撃する。頭蓋骨は脆い陶器のように割れ、中身……脳髄が飛び散る。
探索者が最期に見た光景は何だったのだろう？
「先輩！！」この山田の絶叫すら、キミの耳には既に届かない。
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　
③心中
タクシーならば、安全に駅に送ってくれるだろう。
少し、ほっとした。
しかしその次の瞬間、後悔することになる。
タクシーの運転手が低い声でしゃべりだす。
「お客さん……悪いね。決めてたんだ。次に乗ってくれる人が、一緒に死んでくれる人だって。私はねえ……子供を病気で失って……先日妻に自殺されて……ひひっ……それでもひとりで死ぬのは寂しいんだよお！！」
運転手は、探索者が静止する前に力いっぱいアクセルを踏んだ。
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　
④テロ
ド―――ン！！！！　と　背後の居酒屋が爆発する。
「テロ？　テロだ！！」「やばい！！」そんな通行人の声が、探索者の耳に聞こえてくる。
背面を焼けこがし、四肢を血で染めた探索者は思う。
あ、これは助からない
そして、死ぬのってこんなに苦しいんだ……
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　
⑤麻薬常用者
「来るな、来るなぁ！！」
ひとめで分かった。運転手は、麻薬常用者だった。
口から泡を吹き、麻薬特有のバッドトリップ状態。目の焦点が定まっていない。
やれやれ……と思って彼をなだめようとした瞬間、彼はあなたの胸に銃を押し付けた。
　
制止する時間は無かった。
あなたは発砲された弾丸に貫かれた。
それは確実に心臓を射抜き……
　
「先輩！！！」
　
山田の絶叫が、耳に残った。
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　
⑥落雷
ぽつ……ぽつ、ぽつぽつぽつ……ザーーー
天気はあっという間に雷雨にかわった。
通り雨……？　と思って空を見上げた、その瞬間だった。
すさまじい衝撃と、目を焼く光線があなたを襲う。雷だ。
あまりの轟音で耳も聞こえなくなる。電気ショックで四肢は動かない。
何も、できない。指一本も、動かせない。強烈な感電とは、このようなものなのか。
心臓が止まった数秒後に、あなたは死んだ。
　
……一瞬あと。シーンは、山田と一緒に店を出るところだ。
自分が死ぬあまりに生々しい、痛覚を伴う幻覚を見た探索者は、（死亡回数に応じた）SANチェックです。
　

※これ以外に楽しい死に方があれば積極的に取り入れてください。
　ただ「飲んでいた酒に毒が入っていた」等の、シナリオ開始前に起因する死に方は非推奨です。
　シナリオ開始前に死因があると、PLが死を回避する努力ができない為です。

■エンディング

だいたい3～４回死んだあたりで既に山田が犯人だとばれているかと思います。
ヒプノスは「手の内がばれた契約者」を失格とみなし、探索者が山田を追い詰めれば見放します。
また、探索者の機転で山田を殺した場合も同様です。
このシナリオに「ノーマルエンド」はありません。
　

■■■グッドエンド「山田を殺す」

探索者が咄嗟の機転で山田を殺した場合（突っ込んできた車に向かって押し出す、通り魔の盾にするなど）
山田は「たす、けて……　しぬのが　こんなに、苦しいなんて……」と言い残して絶命します。
　
そして探索者は夢から目覚めます。
NPCによる解説を入れてもいいでしょう。
『山田はキミの永遠の悪夢を代償に神話生物と契約し、それに失敗した。いまごろ、キミの代わりに永遠の悪夢を味わっている。山田を見つけても、殺してはいけない。それはヒプノスから餌を奪うことになり、今度こそキミは終わる』
『忘れろ』
　
また、夢の中で失ったすべてのSAN値を回復してください。
　
※山田が探索者を餌食に選んだ理由は、できれば探索者の経歴の中から捏造するのが良いですが、無い場合は「たまたま、叶えたい野望があった」で構いません。
　
　

■■■グッドエンド「山田の陰謀に気づき、すべて暴露する」

探索者が山田の策略に気づき、すべて山田に叩きつけた場合、山田はその場から逃げ出します。
そしてヒプノスから見放され、死ぬことになります。（突っ込んできた車に轢かれる、落雷による死など）
山田は「たす、けて……　しぬのが　こんなに、苦しいなんて……」と言い残して絶命します。
　
そして探索者は夢から目覚めます。
NPCによる解説を入れてもいいでしょう。
『山田はキミの永遠の悪夢を代償に神話生物と契約し、それに失敗した。いまごろ、キミの代わりに永遠の悪夢を味わっている。山田を見つけても、殺してはいけない。それはヒプノスから餌を奪うことになり、今度こそキミは終わる』
『忘れろ』
　
また、夢の中で失ったすべてのSAN値を回復してください。
　
※山田が探索者を餌食に選んだ理由は、できれば探索者の経歴の中から捏造するのが良いですが、無い場合は「たまたま、叶えたい野望があった」で構いません。
　
　

■■■バッドエンド

山田が犯人だとわからないまま、または感づいてはいるけれども行動にうつさないまま
正気度をすべて失うか、長期的狂気によりこれ以上の探索が不可能になった場合、バッドエンドです。
　
探索者はヒプノスが飽きるまで、ヒプノスの玩具となり、悪夢を見続けるでしょう。
そして山田は、願いを叶えることになります。
　
　

■■■それ以外

このシナリオでは山田を救済する方法はありません。
よって、山田を動かすときはでなるべく「嫌な奴」寄りで演じるのが良いでしょう。
（ＰＬレベルで嫌な思いをさせることのないよう気をつけてください）
　
KPは、状況に応じて山田から不穏な台詞を吐かせたり、慌てさせたりして、「山田が犯人である」ことを早め（2～3回目の死）に示唆するようにしてください。
「犯人であることがわかった山田をどうするか」PCが判断することが、このシナリオのキモになっています。

■シナリオの取り扱いについて

※このシナリオは動画化フリーです。シナリオをそのまま遊んで頂いた場合はもちろん、一部改変しての動画化もご自由にどうぞ。その場合、コメント欄にてご一報頂けると幸いです。

※プレイ目的以外での本文のコピー・転載はご遠慮ください。

以上