2024年01月28日更新

芳気に溺るる

  • 難易度:★★|
  • 人数:1人~1人|
  • プレイ時間:1~2時間(ボイスセッション)

継続キャラでシナリオに行きたい、SANが足りない、でも「SAN回復にもクトゥルフの苛烈さがほしい」という時のためのシナリオ。重篤な後遺症を抱えるかもしれないので注意してください。

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ストック

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概要

[形式]クローズド
[推奨人数]1人
[所要時間]1~3時間
[推奨技能]なし(しいて言えば継続探索者)
[ロスト率]なし

《警告》
今後参加シナリオを制限しうる重篤な後遺症を患う可能性があります。
予定シナリオに行けなくなった等の責任はシナリオ制作者には取りかねます。

まとめ

ヴルトゥームの影響つきお花の香りに溺れてSANを補充していってね!
溺れれば溺れるほど正気じゃなくなっていくんだけどほんと「正気度」ってなんだっけね!?
まあいっか!精神的な潤いは得られるから!

というわけでダイス、というか技能は基本振りません。
SANを大量に回復するほど、後遺症が重くなり探索者の人格を歪めるSAN回復です。
どこまで回復するかはPLの見極め次第。どうぞ"心満たされるまで"。

真相

地球外生命、アイハイ族。
彼らの大半は温厚な種族だが、一部の者―――
ヴルトゥームを信奉する一派は、いつか宇宙を渡り新天地を神たるヴルトゥームとともに征服せんと企む。
その足がかりとして、地球に飛来した一体のアイハイ族の司祭が建てたのが花屋「estasi」だ。

花屋「estasi」は平時はただの花屋だが、店の奥に踏み込むと司祭が作り出した別次元の空間へ繋がっている。
その空間に散りばめられた花は、ヴルトゥームの化石花を研究して生み出されており、不完全ながらヴルトゥームへの信奉心を育む効果を持つ。
香りには高揚効果から転じて、疲弊した人間の精神を癒す効果があるのだが……
香りを吸いすぎれば、その中毒性はヴルトゥームへの渇望、ひいては信仰心となって哀れな犠牲者の人格に根を張るのだ。
こうして、アイハイ族の司祭は人間のヴルトゥーム信者を増やそうと企んでいる。

さて。この花屋の香りは、香りにのめり込む=信奉者の素質のある人間を引き寄せる。
苦しい日常や度重なる神話現象で心が弱っている探索者は、無意識のうちに花屋「estasi」へと足を運んでしまったのだった。

「心が弱っているときほど、怪しげな宗教などにハマりやすくなる」
なんて、よく言ったものだ。

※estasi(伊):恍惚
※エンディング2に出てくる医者もヴルトゥームの信者。まさにマッチポンプです。やったね。

シナリオ内での特殊処理について

事前準備

探索者視点で、以下の感情をどれくらい感じているか、どれくらいの興味を持っているかのランク付けをしてもらいます。
1~4まであるので、好きな数値を選んで記入してKPに提出してください。
数字が高いほど、興味が強い/抱いた感情が強い ことになります。

A,勇気/恐怖
B,安心感/安らぎ
C,充足/希望/空虚
D,悲しみ/絶望/孤独
E,攻撃性/憎しみ
F,愛(種類は問わない)/偏執
G,罪悪感/後悔/無念
H,正義感/道徳心
I,懐古/追想

※↑までをコピペしてPLにお渡しすると楽です。
※この数値はそれぞれの記号に対応する花の香りを嗅いだときのSAN回復量に繋がります。

特殊ステータス「陶酔レベル」について

「SANを3回復する(累積)」ごとに探索者はPOW×3を振ります。
失敗すると、このシナリオのみの特殊ステータス「陶酔レベル」が上昇します。
これが上がれば上がるほど、探索者はヴルトゥームの花の香に囚われたことになります。

(※累積:たとえば1回花を嗅いでSANが+2したあと、もう一回嗅いでSAN+2したとき、合計で+4となり3を超えるので、一回POWを振ることになります。面倒なので「回復量の合計が3の倍数に達するたびに振る」とか覚えておけばいいかと。)

陶酔レベル「3」から後遺症が発生し、また判定の難易度が上がって「POW×2」になります。
陶酔レベル「6」で後遺症が重症化し、判定の難易度が更に上がって「POW×1」になります。
また陶酔レベル「7」に達した時点で、自動的にエンディング2に入り、最も重い後遺症を抱えます。
陶酔レベルの存在自体は明かしても明かさなくてもいいですが、陶酔レベルいくつでイベントが起きるかは、必ず隠すようにしてください。

導入 / 中央の部屋

あなたはある日の昼下がり、食事か買い出しか散歩か、何かの用事で市街地を歩いていた。
最近色々なことがあったせいか、今日はどうにも気分が優れない。
少し喧騒を避けようと閑静な脇道へと入り、しばらく歩いたところで、ふとあなたは足を止める。
道端にあった花屋が、なぜか妙に気にかかり、あなたはそのまま無意識のうちに店内に入ってしまった。

... ふっと目を開ける。
気がつけばあなたは、月夜の下、広大な草原のような場所に立っていた。
いつの間にこんな場所に迷い込んだのだろう?
花屋に入ったところであなたの記憶は途切れている。
周囲の光景に、今の所危険などは感じられないが……それでも、妙な場所に連れ込まれた動揺は少なからずあるだろう。
SANチェック(0/1)

草原はよく見ればドーム状の空間になっていて、ドームの端にはいくつもの扉が並んでいる。
扉を数えるなら、大きな扉が一つ、小さい扉が九つある。
あなたが目を覚ました場所、草原の中央には、メッセージカードが落ちている。

※ここで探索開始。

・メッセージカード

*アロマセラピー XXX*

花の香が体や心に効いて
様々な不調を治してくれます。
この店では心に効く花を
各種取り揃えております。
どうぞ心満たされるまで。

裏を見ても何も描いていない。
XXXの部分は、あなたに読めない文字が書いてある。

・大きい扉
Exitと刻まれている。
扉に手をかけるなら、存外あっさりと扉は開き、その先は眩しい光に包まれていて見えない。
扉に入れば、この場所に戻ってこれる保証はないだろう。

※この扉をくぐるなら、エンディング1へと移るので、十分やることやれたか確認してください。

・小さい扉
どれも同じ木の扉だ。
メタ視点でA~Iまでの番号を振ってあるので、入る時はどの番号に入るかを尋ねること。

探索:A~Iの部屋の描写

・初回描写
扉を開くと、目の前が鮮やかな色合に満たされる。
ぱちくりと目を瞬かせて前を見れば、部屋の中は一色に統一され……いや。壁一面、床一面、天井までを覆うように撒かれた大量の花びらのせいで、そう見えるだけらしい。
部屋の真ん中を見れば、アンティークの机が一つ置いてあり、その上には花びらを浮かべた液体の入った瓶や、カゴいっぱいに盛られた花がある。

※籠の中身やその他の花びらの花の種類は、部屋の番号に対応した花一種類です。下のリストを参考に描写してください。

花の種類

A,勇気/恐怖
 >キンレンカ/ナスタチウム:黄色い小さな花。側に寄れば、控えめながらすっとする香りがあなたを包む。
B,安心感/安らぎ
 >クリスマスローズ:白い花弁が見える。この花は葉に毒を持つというが、葉は丁寧に切り取ってあるようだ。
C,充足/希望/空虚
 >アザレア:白く小さな花がある。華やかな甘い香りが、心に入り込んで隙間を満たしてくれるようだ。
D,悲しみ/絶望/孤独
 >リンドウ:青く開いた花があなたを出迎えた。……香りのしにくい花のはずなのだが、中心から妙に甘ったるい香りがする。
E,攻撃性/憎しみ
 >グラジオラス:カラフルな花に添え、剣のように長く伸びた葉が飾り付けてある。花のいくつかからは強い香りが漂い、燻る感情を鎮め満たした。
F,愛(種類は問わない)/偏執
 >バラ:もはや親しみさえ覚える独特の形と鮮やかな色、そして茎のトゲが目に入る。古くからそれは愛情を表す花とも言われていただろう。
G,罪悪感/後悔/無念
 >ネモフィラ:青が視界を埋め尽くす。小さな花から甘い香りが薄く漂った。胸を締め付けるような何かを忘れさせるように。
H,正義感/道徳心
 >ルドベキア:一瞬ヒマワリに見まごうような黄色い花が見えたが、よく見れば違うようだ。それでも花はしなやかに、しゃんと開いている。
I,懐古/追想
 >シオン:ふるき物語にもうたわれた、淡い紫の花だ。ほのかに感じる香りが、古く暖かな記憶を呼び覚ますように思う。

※花言葉(公開しなくてもOK)
*ナスタチウム(愛国心/勝利/困難に打ち克つ)
*クリスマスローズ(私の不安をやわらげて/慰め)
*白のアザレア(あなたに愛されて幸せ/充足)
*リンドウ(悲しんでいるあなたを愛する/正義/誠実)
*グラジオラス(密会/用心/思い出/忘却/勝利) ※グラジオラスの名の由来は「剣」
*バラ(愛/美、ほか色により様々な愛の言葉を持つ)
*ネモフィラ(どこでも成功/可憐/あなたを許す)
*ルドベキア(正義/公平/あなたを見つめる)
*シオン(追憶/君を忘れない/遠方にある人を思う)

・花に近づく
籠に盛られた花の上にカードがあり、「鼻に近づけて香りをお楽しみください」とある。
液体の入った瓶には「花見シロップ」というラベルがある。見れば側に水やお酒、炭酸水やハチミツなどがあり、飲み物にして楽しめるようだ。
(※アザレアのように毒のある花の場合は花見シロップはありません。中毒、ダメ、ゼッタイ。)

・花の香や液体を摂取する
花の香は、あなたの脳内にふわりと入り込んだ。
感情が甘い香りに撫でられるのを感じる。それが苦い気分なら収まるかもしれないし、歓迎すべき感情なら増幅するだろう。

事前情報を確認し、対応する番号にふった「ランクの数字」を確認します。
その後、1d(ランク数)+1のSANを回復します。
(※たとえば「A」に興味ランク3をつけた探索者が、「A」のナスタチウムの香りを摂取した場合は、1d3+1のSAN回復。
「F」に興味ランク1をつけた探索者が、「F」のバラを摂取した場合は、1+1=2のSAN回復。)

同じ花を何回でも嗅ぐことができ、嗅ぐたびにSAN回復ダイスを振る。
(※もっとも、そのたびにPOWロールが入りますが。)

・二部屋目以降の描写を簡単にしたい場合
この部屋も、先程とは違う花の花弁やアロマに満たされているようだ。
さて、どうしようか。

陶酔レベルによる描写

・陶酔レベル1
花の香が身体に入り込む。
確かにこれは心身に働きかけて、和らげる効果があると実感する。
もう少し身を預けたくなるような、あるいは……

・陶酔レベル2
香りに段々とあなたはほだされていく。
……心地よさに目を瞑るあなたは、ふと妙な予感をぼんやりと感じた。
まるでそれを手放したくなくなるような、あるいはつい探してしまうような……こういうのを何といっただろうか。
<アイデア/2>をふる。
成功すれば、これが「中毒」「依存」にハマるときの感覚ではないか、と気がつくだろう。

・陶酔レベル3
香りに癒やされるうち、改めて、花とは良いものだと深く実感する。
これほど愛らしいそれを、花を嫌いになる人間など、そうそうおるまい。
……今まで、そんなこと意識したことはなかった。
そのような事実に、あなたははた、と気づいた。この感情の正体は、一体……。

(※ここからPOW判定がPOW×2になります。)

・陶酔レベル5
ずぶずぶと、柔らかな香りに身を沈めていく。
とても心地よい。どんどん深く、何もかも忘れるくらいに、浸っていたい。
……頭の隅で、小さく警鐘が鳴った。
<アイデア>をふる。(PLから宣言があれば、<医学>などでの代用も可能。)
成功すると、この香りに溺れていくことへの危機感ではないかと気づく。
引き返すなら、今のうちだと考えるかもしれない。

・陶酔レベル6
頭がぼうっとし、あなたは多幸感に満たされている。
もっと、もっと欲しい。全てを放り出して溺れてしまえば、ああ、どんなにか……。
そう渇望する自分の隣で、声を枯らしてあなたを止めようとする自分の姿が、ちらついた。
「これ以上溺れたら、どうなってしまうかわからない」と……。

(※ここからPOW判定がPOW×1になります。)

・陶酔レベル7
(※自動的にエンディング2の描写に移る。)

エンディング1:出口の扉を開き、外に出た場合

扉をくぐったあなたは、強い光に包まれて一瞬、目がくらんだ。
数秒後、まぶたに当たる光が弱まるのを感じて目を開けば、そこはあなたの知る町並みだ。
空を見ればまだ明るい。どうやら、あの不思議な空間からは戻ってきたらしい。

(※陶酔レベル3~6の探索者のみ追加描写)
ふと、後ろを振り返ると、あなたの出てきた花屋があった。
そこに咲く花に目を奪われ、無意識のうちに一本を手に取り、あなたはその花を買っていた。
何に使うでもない。ただ、その花を抱くと奇妙な充足感が心を満たすのだ。
街を歩く間、愛おしい甘き香りがふわりとあなたの鼻孔をくすぐっていた。
(※ここまで)

かくして、あなたはまた日常へと帰っていく。
その先には、あなたがまだ知らぬ怪異が、口を開いて待っているのかもしれない。

おめでとうございます。シナリオクリアです。

エンディング2:陶酔レベルが「7」に到達した場合

花の香があなたを誘う。
抗おうという気持ちも、警鐘も、痛みも苦しみも絶望も全て全て全て、柔らかく包んで蕩かしていく。
ああ、もっとだ。もっとほしい、もっと溺れたい、もっともっともっと、ああ、何もかも忘れるくらいに、甘く、甘く甘くもっと甘く甘くもっと甘くもっと甘くもっともっと甘くもっと甘く甘く――――――

薄れる意識の果てに、何かが見える。
それはあなたにとって艶やかで、神々しいとも感じる、大きな、おおきな........

...1d10を振り、現在SANに足してください。


は、と目を覚ます。
あなたは小ぢんまりとした病室で、白いベッドに横たわっていた。
診察に訪れた医者に尋ねれば、あの花屋では時折花の香りに当てられて倒れるお客様がいるそうで、その際はいつもここで休ませているそうだ。
診察の後、異常がないと告げられたあなたは、花屋からの詫びの品だというドライフラワーを受け取り、日常へと戻るだろう。

だが、あなたは覚えている。
幻影の果てに見た花園を、楽園を。
あなたは覚えている。
夢の彼方に鎮座まします、"我らが"華の女神の存在を。

忘れようにも忘れられない、忘れようとも思わない、あの強烈でひどく魅力的なあの御姿を、もう一度目に収められたら……。
そのために何ができるだろうかと、あなたはあの日以来考え込むようになるだろう。
価値観が大きく大きく歪んだことさえも気づけないまま、あなたの日常はこれからも廻るのだ。
次の怪異に触れる、その時までは。

おめでとうございます。シナリオクリアです。

報酬・後遺症

報酬なし(シナリオ内で獲得したSAN回復をそのままお持ち帰りください)

☆陶酔レベルに応じた後遺症の獲得

・0~2
後遺症なし

・3~5
「花への関心・嗜好性」
道端の花に目をやる、家に花を飾る、他人に花を贈るなど……
花に関心のなかった者でも、日常に花を取り入れたり、花へ関心を向けるようになる。
花への固執ではなく単純に嗜好が少し変わる程度で、生活や探索への影響はほぼない。
花にトラウマを持つ者でも、好きでもないのになぜか花に目が行くようになってしまう。
(※トラウマが軽快するわけではない。)

・6
「花・芳香への依存」
草花やその香りに対して中毒性を覚え、また草花に対しての強い興味関心や好意を持つ。
(※花の香りに包まれないと落ち着かない、部屋を草花で飾り立てる、疲れると草花に埋もれて休む、など、嗜好の方向性はPLに一任する。)
周囲から見ても明らかに人格の変化が判別できるだろう。
シナリオ内でも草花に好意的な選択を選びやすくなる。
とはいえ理性で抑えつけて我慢することもまだ可能な範囲であり、PLの意思やシナリオ誘導に反する行動は慎むことができる。
また、花にトラウマを持つ探索者なら、花への好意とトラウマに挟まれて葛藤することが増えるだろう。

※ここまでの範囲の後遺症では、ヴルトゥームやヴルトゥーム信仰の存在を認知しない。

・エンディング2に到達(陶酔レベル7)
「クトゥルフ神話技能+8」
「ヴルトゥーム信仰」
探索者はヴルトゥームの存在を認知する。
ヴルトゥームや草花に対して、信奉心や偏執的な愛を注ぐようになる。
また、ヴルトゥームの意思へ反する行為に強い抵抗感を持つ。

※この後遺症を持ち帰った場合、ヴルトゥーム関連のシナリオで生還にたどり着けなくなる可能性があります。
確認を取ること自体が一種のネタバレになるかもしれませんが、この後遺症は必ずシートに記載し、特に複数人卓ではトラブル防止のため、必ずKPに事前確認を取るようお願いします。

改変案

陶酔レベルの上げ方について、
・ダイスを振らせるSANの量を調整する
・花を嗅いだ回数を数えて、何回かごとに追加でPOWを振らせる
・強い関心を持つ感情の花を嗅ぐとPOWを追加で振らせる(興味ランク3以上)
・POWを振ると明かさず1d100を振る指示だけする
などの改変で難易度調整ができます。他にもなんかエモい処理方法があれば採用して構いません。
とはいえあんまり処理を増やすとKPが大変なので、自分ができる範囲でやってください。

(※POWの倍率を上げるのは、よっぽどSANに困った探索者相手じゃない限り、あんまりオススメしません。×3と×4の間に結構な確率の隔たりがあるので、一気に難易度が下がります。たぶんSAN30以上回復とか持ち帰る人が出ます。)

ソロプレイにしたのは、単純に事前準備と数値の管理が面倒と思われるから、および
「ひとりでいれば香りにのめり込む探索者を止める人がいなくなる」
という意地悪作者の企みによるものです。
そのあたり踏まえて複数人でもいいとお考えのKPさんがいれば、複数人卓として回しても構いません。
花言葉が近いものや、事前情報に対応する花であれば、花の差し替えも存分に行ってくださって構いません。

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