2024年11月08日更新

【CoC7th】失われた町にて

  • 難易度:★★|
  • 人数:2人~4人|
  • プレイ時間:4~5時間(ボイスセッション)

出口のない街で四面楚歌な状態から、そこに巣食う邪神をなんとかする、コテコテなクラシックシナリオです。 ※公式シナリオライクな書き方してます

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ストック

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0. あらすじ

遠方に出かけた探索者は、移動中に山中の街で事故にあい、バスが地面に飲み込まれる現象を目撃してしまう。
救出を待つことになった探索者だが、さらに街に住む人々は、探索者を助けるふりをして陰謀に巻き込んでいく。この街は死と退廃の神の治める死者の街であり、彼らは探索者を死者の仲間にしてしまおうとしたのだ!
探索者は街の謎を突き止め、閉ざされたこの街から一刻も早く脱出しなければならない。

1. はじめに

このシナリオは『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』のみでプレイ可能なシナリオだ。
本作は作りたての探索者3名ほどを想定したデザインであるが、探索者の中に既に別のシナリオをプレイしたことがあるキャラクターがいても構わない。
シナリオは街の調査をメインに進行する。探索者には「見知らぬ街から脱出する」という共通の動機が与えられるため、行動の理由に迷うことはないだろう。しかし、ほかのシナリオ同様、町の脱出のためには積極的な行動が必要であることには変わりない。

2. 探索者の創造

 探索者は何らかの理由で遠方へ向かうバスに乗車している。舞台が現代日本であれば仕事や旅行で高速バスに乗る、アメリカであればグレイハウンド等の長距離バスを利用している…などが考えられる。交通機関の発達した時代・場所であればどこでも構わない。また、シナリオが指定する日付はあるが、季節も問わない。
 本作では街の人間は神の手の者であり恐れを知らぬため、<威圧>をはじめ交渉にまつわる技能は効果を発揮しづらい。<目星>等の交渉に頼らない調査術や、<オカルト><医学>等の知識を使う技能、<近接格闘>などある程度の戦闘を行える技能などにポイントを割り振っておくのを薦める。

3. 背景

 本作の舞台である街は、奇妙な火の神・トゥールスチャが支配する死の街である。
探索者の住む国では、過去――およそ20年ほど前だろうか、とある田舎町で集団行方不明事件が起きている。その真相は、トゥールスチャを崇拝するカルティストの一員が、街にトゥールスチャを呼び寄せ、己と住民の死をおぞましい神へと捧げたのだ。死と腐敗と衰退を糧にして生きる彼の神は、捧げられた人々の死を啜り、人々の死体や土地にさらなる腐敗を醸成させる。一夜にして街の住人が全て死に絶えた異常事態を、政府は恐怖を伝播させないために隠匿。街は封鎖され、地図から消えた。
こうして誰も知らない死者の町が生まれた。しかし、この街の神は更なる死を求めていた。死者を求めたカルティストは近隣を通る高速バスに目を付け、バス会社を装って町にバスを誘い込み、乗客を襲うことにした。
探索者は不幸にも、このバスに乗り合わせてしまった乗客である。奇しくもこの日はトゥールスチャへの祈りがささげられ、神が降臨する日であった。キーパーは探索者が出かける日を、季節の節目――春分・夏至・秋分・冬至のいずれかに設定すること。

4.NPC


成田俊樹、狙われた乗客
STR 55 CON 45 SIZ 40 DEX 35 INT 80
APP 65 POW 40 EDU 50 正気度 30 耐久力 9
DB:0 ビルド:0 移動:9 MP:8
近接戦闘(格闘)25%(12/5)、ダメージ 1D3+DB
回避 25%(12/5)
技能:聞き耳 40%、経理 20%、説得 30%、手さばき 40%

このNPCは冒頭で錯乱し、その後住民の罠によって神に生贄として捧げられるNPCである。未知の現象と命の危機に脅え、すくみあがる可哀想な存在であることを意識して演じるとそれらしい。ただし彼の本来の役割はあくまでホラー映画における犠牲者であり、ヒロインである必要はない。彼の救出に固執させないよう、あくまで平凡な存在であること。

名もなきカルティスト、忌まわしき遺体
STR 65 CON 80 SIZ 60 DEX 25 INT 80
APP 5 POW 90 EDU 70 正気度 0 耐久力 14
DB:+1d4 ビルド:1 移動:8 MP:12
近接戦闘(ナイフ)30%(15/6)、ダメージ 1D4+1+DB
回避 15%(7/3)
呪文:トゥールスチャの招来、蛇皮の外套、ほかキーパーが適切だと感じた呪文
正気度消失:フードの下を見た場合0/1d8

このエネミーの正気度喪失は、住民=ゾンビのものと同一として扱い、慣れルールを適用する。

街にトゥールスチャを招来し、死の蔓延る街を生んだ元凶。カルト教団に入信し、ネクロノミコンの写本を受け取ったあと、街で招来の儀式を行いトゥールスチャを呼び寄せた。その後、街の人間と自らの生命をトゥールスチャに捧げ、死と退廃の街を作り上げた。現在の彼らは既に死体であり、トゥールスチャの魔術的な力によりゾンビとして活動しているが、外見から不信感を持たれぬように生前の姿での《蛇皮の外套》をかけている。

5.シナリオの導入

シナリオは、雨の日に探索者が高速バスに乗っているところから始まる。
高速バスで遠方に向かう途中、運転手がバス会社と交信を行う。どうやら通行予定の道が土砂崩れでふさがったらしく、別のルートを通って目的地に向かうように誘導されていく。
これは実はカルティストによる偽の通信なのだが、探索者たちは現状それを知る手段もなく、運転手は会社の通信と信じ切っているため、どうすることもできない。
バスは山道に入っていき、しばらくすると小さな町が行く手に現れる。寂れた田舎町のようで、町の中をバスで走行していても、人通りは全くない。雨音と鳥のさえずりのみが耳に届く。
そして町の中心部に入った時、突如地面が揺れる。地割れが発生し、地面に空いた穴にバスの後輪が飲み込まれていく。探索者は運よく衝撃で窓を突き破り車外に放り出されるが、探索者はただ呆然と、バスが地面に開いたひび割れにバスが吸い込まれていくのを見ていることしかできない。探索者は<跳躍>に失敗すると、耐久力に1のダメージを受ける。
地割れは意思を持ったように広がり、バスと逃げ遅れた乗員を飲み込んでいく。悲鳴がこだます中、探索者は頬に熱風が当たるのに気が付くだろう。熱風は地割れの中から吹き上げており、地中からマグマが迫っているかのように地面が赤熱し、草木が燃え上がっていく。
命の危機と、人々が地中に引きずり込まれ焼き殺されていくに直面した探索者は、1/1d6の正気度ポイントを失う。
そしてバスが地中に完全に飲み込まれると、そこには探索者と、命からがら逃げだしたわずかな乗客と、熱風を噴き上げる穴のみが残される。穴を覗き込むのは高熱にさらされて大火傷を負う危険があることを、キーパーは忠告する。
生存した乗客のひとり、成田は泣き喚きながら住宅街のほうに逃げていく。探索者も、これ以上ここに留まる用事がなければ、共に向かうのがいいだろう。

6.通信の遮断

 この時点で、奇妙な地割れについてインターネットで検索したいと思ったり、外部へ助けを求める電話を掛けたいと思うプレイヤーもいるだろう。その場合、携帯電話を確認した時点で、この街が深い山の中にあり電波が届かないことに気づく。
 電波を使わない機能――例えばライト、カメラ等は、電池が稼働している限りは問題なく使用できる。

7.公民館にて

 もし成田とともに住宅街に向かっているなら、成田が家の戸を叩き住民に助けを求める。中から出てきた住民は事情を聴くと、成田と探索者をひとまず落ち着ける場所へと誘導してくれるという。成田と一緒に行動していない場合も、街のどこかで探索者の姿が目撃され、住民が家から出てきて声をかけてくるだろう。
 この時<INT>や<医学>などで、住民の体格が不健康なほどに細いことに違和感を覚えるかもしれない。また、住民は探索者や成田に触れようとしない。この住民は動く死体であり、肌の冷たさを探索者に悟られてはならないからだ。無理矢理に触ろうとすれば、暴漢だと疑われて逃げてしまうだろう。その後の街での探索者の印象は少し悪くなるかもしれない。
 住民は探索者と、もしいれば成田を連れ、街の公民館へと向かう。公民館では町の案内図があり、主要な施設が確認できるだろう。これはこの後の探索箇所候補になるため、メモ等で渡せるようにしておくとよい。
・図書館
・展望台
・交番
 また、町のはずれには廃倉庫がある。危険なため近寄らないように注意書きがされている。ここは地下の礼拝堂への入口となるが、その存在を知らないうちは立ち入る用向きはないだろう。
 地図上では徒歩での脱出経路も確認できる。町の外れは急斜面が多く、安全に町の外に出るには町から伸びる数本の道路を歩くしかない。
 住民は「外の人に連絡して迎えに来てもらうので、しばらく待っていてほしい。時間がかかるので街を見て回ってもいい」と探索者に伝える。成田はひどく取り乱しているため、公民館で休憩させるという。迎えが来たら公民館に戻るよう言伝をする。外へ向かうといいだろう。
 誘導を行った住民は成田や探索者の見たものに対して反応が薄いが、それは表面的には起きた出来事に懐疑的だから…といったように見せるといいだろう。実際は主犯の一味なのだが、あたかも「熱を吹く地割れが現れてバスを飲み込んだという大事件に対して現実味がない」といった態度で流してしまうのがいいかもしれない。<心理学>があれば、住民が地割れに対してあえて無関心な態度を取っていることに気付けるかもしれない。
住民は探索者たちを地底の神の生贄に捧げるため、儀式の準備が整った頃に探索者に公民館に戻らせようとする。町民すべての人手があるとはいえ、抵抗を抑えるために1人ずつ捕えようとする。そのため動く余裕のある探索者を一時的に外に出し、逃げる気力も失った乗客から先に拘束しようとするのだ。
なお、公民館は住民が死んだ当時と内装が変化していないため、何かこの街に関する資料を探せば、パンフレットなどが見つかるだろう。ひなびた冊子に対して<目星>に成功すれば、日付の記載から内容が20年近く更新されていないことに気づくだろう。片田舎ではままあることかもしれないが、実際は20年前に更新を担っていた住民が死亡しているからだ。

8.図書館

 山間にある街のため新書が入ることもほとんどなく、古い小説や辞書などが並んでいる。あまり人は入っていないのだろう、埃っぽさが目立つ図書館だ。適当に本を読んでいれば暇潰しにはなるだろうが、探索者がこの街の真実に近づき、無事に脱出したいのであれば、<目星>で違和感のある書物を見つけ出す必要がある。この書物に偶然気付ける<幸運>でも構わない。
 書物は随分と表紙が色あせて傷んでいるが、その割には最近取り出されたかのように埃を払われている。表題はない。中を読むとほとんどは未知の言語で書かれているが、あるページに読めるメモ書きが挟まっている。

―――――――――――――――――――――――――――――
遠き宇宙の果てに眠る偉大なる神のしもべ
忌まわしき鮮緑の焔は大地に根差し
死と腐敗を吸い上げて爛爛と光なき地を照らす
焔は生命あるものを喰らいその生命を奪い取る
犠牲者は在るべきだった若き人生
或いは老後の一片を失うこととなるだろう
―――――――――――――――――――――――――――――

これはアザトースに仕える神であるトゥールスチャを呼び寄せたカルティストのもので、訳文はトゥールスチャについて書かれたものだ。神の真実や呪文について多く記されたこの本をじっくりと研究すれば、トゥールスチャを召喚する手段を得るかもしれない。しかし、この街にとどまる間は悠長に研究している時間はない。

9.展望台

街の景色を一望できるとの触れ込みがある展望台は、登れば山間の街の地形を把握するのに役に立つだろう。上に登って見回してみるならば、街は片側を山中の急斜面に沿って広がっており、反対側はうっそうとした森に囲まれているとわかる。街を徒歩で出るには、平坦な道路に沿って歩かないと危険だろう。
町を見回しながら<目星><INT>などに成功すれば、町から出るための道路に人が大勢集まっているのが目に留まるだろう。それも一か所ではなく、すべての道路に対して人が集まっているようだ。
これはバスを足止めしたあと、乗っていた人間を逃がすまいと、住民たちが町の出入り口を塞いでいるのだ。もし展望台を降りて住民に事情を聴きに行くならば、「雨で土砂崩れが起きたらしく、どこで起きたか調べている。なので封鎖している」とごまかされてしまう。

10.交番

この田舎町で事件が起きることなどほぼなく、暇を持て余した警察官がひとり勤務している。今日は探索者が遭遇したバス事故があるため、珍しく仕事をしているのだという。彼は最初に会った住民と同じく手足は妙に細いが、手袋や制服で巧妙に隠している。
救助について尋ねれば、険しい山間部なので移動用の車両の到着が遅れていると話される。もちろんこれは嘘であり、実際には外部への連絡はしていないため、待っていても車両は到着しない。

11.この街の本性

探索者がある程度この街の様子を見終えた頃、最初に話した住民が探索者を探し、接触してくる。彼はそろそろ救助の車両が到着するので、公民館に戻って待機するようにと告げる。しかしこれは住民の嘘であり、公民館に待機している大勢の他の住民とともに、一人ずつ探索者を拘束するための罠だ。
素直に従うにしても、疑うにしても、直ぐにこの嘘は見つかってしまうだろう。甲高い悲鳴が探索者の耳に届き、4,5人の男に拘束された人影――公民館に残っていた成田が、地割れのあった方角に連れ去られるのを目撃するからだ。「助けてくれると言ってたのに!!嘘つき!!」と彼は住民たちを罵りながら、力ずくで引きずられていくだろう。
それを見ながらも目の前の住民は、悲鳴を無視するかのように探索者を誘導しようとする。この時点でプレイヤーもこの街の住民の後ろ暗さに気づくだろう。探索者は急ぎ住民の誘導を振り切り、身を隠さなければならない。住民の行動は緩慢なので、逃げ出すのは容易だ。
連れ去られる成田を助ける場合は、ゾンビ5体との対抗ロールが発生する。または戦闘で撃破しても構わないが、人数的にはこちらが不利であることをプレイヤーに伝えること。
住民は『新クトゥルフ神話TRPG』335ページ掲載「ゾンビ」として扱う。このパートに至った後は、住民は探索者に触れられることをためらわなくなるため、何らかのきっかけで探索者が触れた場合、その肌の冷たさから彼らが死人だと気づいてしまい、0/1d8の正気度ポイントを消失する。また攻撃を加えた場合、傷口から徐々に偽装が剥げて本来の乾ききった死体の姿をあらわにするため、その他の目撃者にも同様の正気度喪失を与える。
もし救出に成功したら、乗客は心から探索者に礼を述べ、逃げ道を探しに雨の街へ消えていく。プレイヤーが引き止めたいと提案してきた場合や、プレイヤー人数が2人以下の場合は同行させて構わない。

12.死者の街からの脱出

住民の本性を見た後、プレイヤーは街から一刻も早く脱出する必要性を感じるだろう。
しかし逃げ出した探索者は、住人が家から出て、探索者を探すために街を闊歩し始めていることに気づくだろう。逃げ場は徐々に少なくなっていく。絶望的な状況を察してしまった探索者は、1d2/1d4+1の正気度を喪失する。
さらに、町を脱出するために町の出口である道路へ向かうと、そこには本性を現した住民たちがひしめいており、道路を封鎖している。探索者は別の脱出経路を探すことになるだろう。
プレイヤーの中にはここを力づくで突破する考えを持つ者がいるかもしれないが、その場合は3d10人の住民と戦闘になると伝えること。万一にでも全員を倒すことができれば、その道が手薄な間に突破すれば下山が可能だ。
住民は探索者を複数人で押さえつけ、町の中央にある地割れへ探索者を引きずっていって投げ込むだろう。そうなれば、探索者はトゥールスチャの死の炎に焼かれて急速に老化し、やがて枯れはてて燃えつき死亡する。
かなりの危険が伴うが、道路が通ってない場所から下って森の中に身を隠し、脱出することも不可能ではない。幸運にも<登攀>が得意な探索者であれば、崖を下って森へと降りることができる。この時失敗すると崖から転落し、10mほど崖を転がり落ちて3d6のダメージを負う。無事に降りられたら身を隠しながら進み、<ナビゲート>に二度成功すれば、道を見失わずに下山は可能だろう。見失えば待っているものは遭難による衰弱との戦いだ。
下山さえすれば、携帯電話の電波を使用することができる。まだ電池が残っていれば、電話なり、GPSを使うなりして、無事に真っ当な街へ戻ることができるだろう。

13. 廃倉庫に隠された秘密

住民たちから身を隠し、プレイヤーが今後の方針について頭を悩ませ始めたころに、キーパーはイベントを発生させる。探索者はふと、立ち入り禁止になっていた廃倉庫の周りには、住民が寄り付かないことに気づく。彼らに捕まらないために、廃倉庫に逃げ込むことになるだろう。
倉庫の鍵は壊れており扉は呆気なく開く。中はかび臭く、工事用の道具や農具などが雑多に詰められている。電気は通っておらず、明かりは探索者が持つライトか、窓から差し込むわずかな光だけとなる。
倉庫の中を見ていると、物資の陰に隠すように小さな作業スペースがある。段ボール箱を机代わりにしたスペースには、黄ばんだ紙束が積み重ねてある。
この紙束は<図書館>技能で迅速に読み解くことができる。失敗しても内容を読み取ることは可能だが、読み終わった時に倉庫の入口から勢いよく殴打する音が聞こえ、慌てて移動せざるを得なくなるだろう。入口を見れば様子のおかしい住民が群がっており、探索者は奥に逃げるしかなくなる。

―――――――――――――――――――――――――――――
この世は或る神の夢であり、それは宇宙の果てで眠るという。数多の神がその神のために日夜踊りと音楽を捧げ、それが神の眠りを紡ぐと。
初めは私も信じていなかった。だが男たちは人間の技術ではあり得ぬ現象を幾つも私に見せた。生命さえもよみがえらせた。
彼らが持つ書物、ネクロノミコンには、恐ろしきこの世界の真実が眠っていたのだ。
(中略)
全ての松明に明かりを灯す。ネクロノミコンに記されし、祈りの言葉を唱える。本を掲げ祈りをささげる。
その時だ。赤熱した空気が吹き抜け大地は割れた。その合間から濃い緑色を帯びた炎が吹き上がり、天を突いた。地下に作られた祭壇の天井を焦がし、炎はただじっと私のことを見つめている。
声が聞こえる。数多の死を捧げよと。

神は実在したのだ。私は神に相まみえた。
この世が神のものであれば、私は喜んで神にこの命を捧げよう。
私が神の炎を守る番人となる。

この街の人間も共に黄泉へ連れて行こう。
我ら皆、等しく神の使徒として、神が地を去るその日までお仕えするのだ。
死を超越した人類として永遠に。
―――――――――――――――――――――――――――――

紙束を読んだ探索者は文面と筆跡の乱れから、これを書いた人間が異常な精神状態であることを感じ取り、空恐ろしくなるだろう。0/1d2の正気度ポイントを喪失する。
また作業スペースから離れて見回せば、倉庫の奥に不自然にコンテナを積み上げた個所を発見できる。コンテナをどければ地面にハッチがあり、開くと広大な地下空間を発見する。梯子が伸び、そこから螺旋階段が地の底まで続いているだろう。
<オカルト>に成功すれば、この光景が1920年代に出版されたホラー小説『魔宴』の内容に似ていることに気づく。作中ではこの先におぞましい神がいたことも思い出せるだろう。
地下に降りる前に、もしも周囲が静かなうちであれば、倉庫を探すことで身を守るための武器――農具や工具などが見つかるかもしれないし、救急箱が見つかるかもしれない。キーパーはプレイヤーに道具が欲しいと提案されたら、適切な技能を使うよう指示すること。

14.地下の祭壇

地下深くへと下ると、階段の先に岩を掘削して広げたような空洞がある。階段や空洞には松明が点されておりほのかに明るくなっている。明かりを頼りに進むと、やがて一つの部屋にたどり着くだろう。
そこは山の中に掘られた巨大な空洞で、荒削りの柱が大地の重みを支えている。露出した岩肌を縫うように空間が広がり、吹き抜けのようになった広々とした円形の広間が姿を現すだろう。そしてその中央にある圧倒的な気配に、探索者は視線を奪われるだろう。
その焔は鮮やかな緑色を纏い、空洞を緑青の明かりで満たしている。ぱちぱちと爆ぜる火の粉からは奇妙なことに熱を感じず、むしろ寒々しいまでの冷気が肌を冷やしていく。
死の炎・トゥールスチャを目撃した探索者は、1d3/1d20の正気度ポイントを失う。しかし狂気に陥るとしても、この後のクライマックスから逃げ出してしまったり、行動不能になってしまってはプレイヤーとしては興醒めだろう。キーパーはプレイヤーと相談し、「炎に偏執し、何をしても排除しようとする」など、異常でありながら脅威に抗える形の狂気となるよう調整するとよい。
炎と邂逅し圧倒されていると、探索者に声をかけるものがいる。その男は目深にフードをかぶっており顔は見えないが、ローブに隠れた手足の輪郭がやせ細っているのがわかる。男はここを守護するカルティスト(のゾンビ)であり、「君たちもこの素晴らしき神のもたらす永遠の死と祝福を受け取るといい!」と炎へその身を捧げるよう要求する。拒否すれば彼は自ら探索者を殺し、その亡骸をトゥールスチャに捧げようとするだろう。

15.炎の神との戦闘

逃げようとしても、この時点で侵入に気づかれているため、住民が倉庫の敷地の入口をふさぐように押し寄せている。この状況を切り抜けるには神を退け、道をふさぐ死体の住民たちを全て屍に戻すしかない。
しかし、もしまともにトゥールスチャと対峙しても、神に接近すればその炎に焦がされ3d6の耐久力を失うことになる。炎の神に対抗するためには、祭壇を崩落させて生き埋めにしてしまうのが最も確実だ。
空洞を見回し、<目星><INT><*爆破>等の適切な技能に成功すれば、空間の入り口付近にダイナマイトがいくらか保管してあるのが確認できる。これを5本の石柱に仕掛け、入口付近から着火すれば、柱を崩して祭壇を破壊することができる。キーパーは神にダイナマイトを投げて無駄にせぬよう、ダイナマイトの使用目的を明示してしまって構わない。
しかし当然、祭壇を守るためにカルティストが妨害をしてくるだろう。トゥールスチャは人間同士の諍いに興味を持たず、接近さえしなければ攻撃を行ってくることはないため、カルティストを無力化さえすればダイナマイトの設置は邪魔されることなく行える。
しかし探索者が攻撃を行ってトゥールスチャを刺激したり、誤って、あるいは狂気に陥って中途半端に破壊活動を行う(柱の1本だけを壊すなど)と、彼の神は探索者を敵性生物と認識し、1ラウンドに1回火の玉による攻撃を行う。これに当たってしまうと犠牲者は急速に年を取ってしまう。探索者は神を刺激せぬよう、慎重に事を進めなければならない。火の玉攻撃の詳細については『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』P325を参照すること。
またもし神を刺激することなく祭壇を破壊することができても、探索者は脱出時に<幸運>または<DEX>の2倍でロールを行う。失敗すると、怒れる神の最後の一撃の標的となってしまい、<回避>を迫られるだろう。成功するか、2倍にして技能値が100以上であった場合は、最後の一撃は降り注ぐ岩に阻まれて探索者に届くことはない。
祭壇を破壊すると、地鳴りのような声とともに神は地中に封じられ、地下施設は崩落していく。探索者はその場に残っていれば即座の死が待っており、脱出を余儀なくされるだろう。
全員が階段を登り切れば、最後の大揺れとともに地下祭壇は完全に崩壊する。ハッチの下は根元から折れた階段と、土くれや岩の塊が埋め尽くすだけとなっている。

16.死者の街からの生還

地上に戻ってみると、街にいた住民はすべて動かぬ骸となり、道に転がっている。倉庫の入口は開くようになり、町の出口を封鎖していた住民も物言わぬ躯となって倒れているため、探索者は道路を辿って街を脱出することができる。地質学や山へ詳しい探索者、記憶力のいい探索者などは、外を見れば山の峰が陥没して地形が変動しているのがわかるかもしれない。
しばらく歩いて山を下りれば、消息を絶ったバスを探しに来た捜索隊が、探索者を発見して保護する。探索者は冷え切った体を車両の中で温めながら、ようやく陰惨な街から脱出できたのだと安堵するだろう。
後日、ニュースでは探索者がいた山は、大雨による地盤沈下が原因で大崩落を起こしたといったニュースで報道されるだろう。バスに乗っていた犠牲者は、崩落に巻き込まれて行方不明になったものとして、懸命な捜索が行われる。しかし見つかるのは全身を黒く焦がされ、加齢により皺だらけとなった異様な死体のみだろう。

17.セッション後について

無事に死者の街から脱出できた探索者は、1d4ポイントの正気度を獲得する。さらに、地下に現れた神を退散し、死者の街をあるべき姿へ戻した場合は、1d10ポイントの正気度を追加で獲得する。成田を救出できた場合、キーパー判断でさらに最大2ポイント程度の正気度報酬を与えてもいいだろう。
プレイヤーはカルティストヘと接触し、数々の呪文を与えた存在に興味を持つかもしれない。それは銀の黄昏教団のような大きなカルトで、他の地域でも勧誘したカルティストを送り込み、忌むべき研究を行っているかもしれない。彼らの裏での繋がりや背景を膨らませて、次のシナリオを作成していくのも面白いだろう。

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