ロシア極東の街、ヴラジオストクにやって来たあなた達は、シベリア鉄道に乗ってモスクワまでの旅へと赴く。
美しい景色を眺めながら、ロシア料理を食べ、列車が作る心地よい揺れで眠る──そんな優雅な旅が待っているハズだった。
欺瞞と悲願に満ちた陰謀に触れる時、旅は予想もしないほど暗澹たるものとなる。
これは故郷に捧ぐ、気の遠くなるほど遥かな旅路。
《グレイシャルバーン》
Glacial Burn
Ледник Гореть
永久凍土の底に ずっと
9作目になります。
今作はツイッターで、私がフォローさせていただいている方よりアイディアを拝借し、書き上げてみました。
今回はロシア、フィンランド、スウェーデンを経由し、グリーンランドを目指して旅をします。海外が舞台のシナリオは、『DEMISE・S・WITCH』以来となり、現代シナリオでは初です。
探索者は現地人でも良いし、或いはヨーロッパ諸国からの旅行者でも構いません。欧米、アジア、日本国内からの探索者でも可とします。
今回もまた、何卒。
内容は言っちゃなんですが、前半が『インフェルノ』で、後半『ワイルドスピード』です。
今作を書くに辺り、原案の使用を許可してくださった ひむろさん に多大なる感謝と、素晴らしいアイディアへ溢れんばかりの賛辞を送ります。
『推奨技能』
・目星
・聞き耳
・考古学
・博物学
・ほかの言語(ロシア語)
・ほかの言語(英語)
・運転(自動車)
・各種、戦闘技能
『推奨職業』
・学者(分野問わず)
・冒険家
・軍事関係者
・レーサー
かつてグリーンランドに存在した魔術国家『ハイパーボリア』は、ルリム=シャイコースにより永遠の凍土と化した。
このハイパーボリアに住んでいた、才能溢れる若き魔術師『ヴィジエロ』は、その厄災を運良く逃れた青年だった。
その日は彼の結婚式。妻になるはずだった恋人、準備を進めていた家族、二人の門出を祝う為に来た親友や恩師が凍り付いてしまう。
ヴィジエロは嘆き悲しみ、無力な己を呪いながらも、新大陸へと逃れる。
ルリム=シャイコースの死後も凍土を溶かす魔法は得られず、ハイパーボリア人は新大陸での生活に慣れた頃だった。
ヴィジエロは「諦めるべきだ」と告げる仲間を無視し、一人、ハイパーボリアの氷を溶かす魔法を考え続けていた。
彼がハイパーボリアの氷を溶かす事に執着しているのは、彼の家族や友人、そして恋人の魂が遺体と共に囚われているからだ。
ルリム=シャイコースの操る氷の要塞、『イイーキルス』による冷気には強い魔力があり、人間程度ならば魂まで凍らせる事も可能だった。
つまり氷漬けとなったハイパーボリア人は、未だ氷の檻の中で霊体のまま閉じ込められている訳だ。
ヴィジエロは何としても皆を解放してやりたかったし、それこそが生き残ってしまった自分への贖罪だとも信じていた。
ある日、彼の元に黒い肌の老魔術師が現れた。老魔術師はヴィジエロに、「あの氷を溶かせる、唯一の方法がある」と告げる。
それはハイパーボリアが今の今まで秘匿していた魔導装置、『擬似太陽』の力を使おうと言うものだった。
老魔術師は、その擬似太陽はハイパーボリアに隠され、恐らくは氷の中だとも提示した。
分厚い氷の中から、どう見つけろと言うのかと嘆くヴィジエロに対し、老魔術師は「とある場所で血と魔力を呪文と共に捧げれば、氷を破り、現れる」と告げる。
ヴィジエロは即座にハイパーボリアへ戻ろうかとしたものの、彼の行為は他のハイパーボリア人に知られ、直前で捕まってしまう。
彼らがヴィジエロの行為を止めた理由は、擬似太陽の正体とは『クトゥグア』を召喚する魔導装置だからだ。
クトゥグアとは地球から遠い星に住むグレート・オールド・ワンで、意思を持った炎の塊だ。
この擬似太陽はハイパーボリアがルリム=シャイコースによって凍らされる時、冷気に対抗する為に初めて使用されたが、突如発生した霧によって陽光が阻まれ効果を失ったと言う話がある。
この装置とクトゥグアの存在は、ハイパーボリアの中では一部の者以外には秘匿とされた。
なぜなら、この装置の使い方を誤ればクトゥグアを完全に召喚する事も可能であり、そうなれば地球は一瞬で燃え尽きるからだ。
その危険性から、ハイパーボリアに於ける伝説的な魔導師『エイボン』も、その召喚術や使役魔法を意図的に書物に残していない。故にヴィジエロは、クトゥグアの存在を知らなかった。
そして擬似太陽を完全に操れた魔術師は、生き残ったハイパーボリア人たちにはいなかった。国を救うよりも、危険の方が高かったのが理由だ。
彼を危険人物だと認めたハイパーボリアの王族たちは、擬似太陽の正体についての秘匿を守りながら、肉体と魂を永遠に封印する石棺にヴィジエロを入れてしまう。ハイパーボリア人にとっても、不老不死は苦痛だと考えられていたようだ。
ヴィジエロは呪いの棺の中で、何度も自分に眠りの術をかけながら、世界の終わりを待つ事となる。そして術が切れる度に目覚めては、絶望と懺悔に苦しめられる日々を繰り返していた。
ヴィジエロも、他のハイパーボリア人たちも知らなかった事だが、実はこの老魔術師とは、『ニャルラトホテプ』の化身だった。
ニャルラトホテプはヴィジエロを利用し、世界を焼却しようと企んでいた。
人間であり、無知なヴィジエロを利用する理由として、ニャルラトホテプとクトゥグアは敵対関係にあり、自身の力では装置を作動出来ないからだ。
またそれ以前に、その装置は純粋なハイパーボリア人の血と魔力でしか作動出来なかったからだ。
ヴィジエロが封印され75万年もの月日が経ち、紀元後1975年。既に栄華を誇ったハイパーボリア人の痕跡すら消えた頃だ。
当時のソビエト連邦は、カザフスタンとの国境付近からそのヴィジエロの棺を掘り起こした。
特別な魔力によって守られた棺は決して開く事も壊す事も出来ず、なのに検査の結果、中から生命反応があると言う異様な棺を、ソ連は『パンドラ』と呼び、ロシアとなった後も国家機密の下で研究を続けていた。
さらに時は流れ、2021年を迎えた頃。棺が保管されていた、極東連邦管区のマガダン州に位置する極秘施設、オロトゥカーン基地が突如として崩壊。
姿を変えたニャルラトホテプは『ロキ』と名乗り、協力者たちの情報を元にヴィジエロを見つけ出し、アラブ人の姿で棺の呪いを解いた。その後、撹乱の為に基地を爆破させたのが真相となる。
ヴィジエロを復活させたニャルラトホテプもとい、ロキの協力者たちとは『クレアートゥス・ソリス(作られた太陽)』と呼ばれる砕氷船を本拠地とする、『学者会(サピエンス)』と名乗る秘密結社だ。
学者会はその名の通り、様々な分野の知識人で固められた組織で、ハイパーボリアに眠る遺物や魔導書の数々を狙っている。彼らはその為ハイパーボリアを、『大図書館』と呼称している。
会員には世界各地の権力者までもが籍を置いており、ヴィジエロの棺を研究する研究員にまで干渉出来た。その情報と根回しにより、ロキはヴィジエロを復活させられた訳だ。ロキは、この学者会の一員と言う立ち位置にある。
ヴィジエロを復活させ、彼の力と血で擬似太陽を操作して貰い、永久凍土の底に追いやられたハイパーボリアを浮上させるのが目的だ。
もはや長い長い月日が、擬似太陽の危険性と真実を隠してしまっていた。彼らは擬似太陽を『スルトの目』と呼んでいる。
スルトとは、『北欧神話』に登場する巨人だ。ラグナロクで数多の巨人を引き連れ、世界を焼き尽くしたとされる。彼らは擬似太陽に変わる暗号として、そう呼称していた。
しかし、そのロキがヴィジエロを連れ出す際にオロトゥカーン基地を破壊し、行方をくらませた事で計画が狂う事態となってしまった。
ロシア政府は監視カメラで捉えたヴィジエロとロキを、襲撃者として認知。学者会は何とか偽装工作を施し、ヴィジエロらは空港から逃れた事に仕向け、こっそりとシベリア鉄道でロシア脱出を図る。
目指すは『グリーンランド』。ハイパーボリアが眠る、永久凍土だ。
その頃ロキは、ヴィジエロとスルトの目を狙うもう一つの組織を指揮していた。
その組織とは、暗殺組織『オルドル・ネモ(名も無き騎士団)』。彼らは巨大な潜水艦『レッド・ノーチラス号』を根城とし、要人暗殺を請け負いながらも各地で悲願の為に暗躍している。
オルドル・ネモの悲願は、「地球を原初に戻す」事。
彼らがヴィジエロを狙う理由はそこにある。スルトの目をヴィジエロに使わせ、北極と南極の氷を溶かし尽くし、大陸を海に沈めようとしていた。
ロキがわざわざ派手な行動を起こしたのは、学者会の航路を制限し、途中でヴィジエロをオルドル・ネモに確保させる為だ。
目的は違えどスルトの目と、それを扱える純粋なハイパーボリア人であるヴィジエロを狙う学者会とオルドル・ネモ。
皮肉な事に、地球を燃やし尽くそうとするロキの策略に嵌っているとは、誰一人として気付きやしない。
今回のシナリオは、ユーラシア大陸を横断するほどの大規模なものとなる。
皆さんはシベリア鉄道に乗り、ウラジオストクから始まる十日間の旅をして貰う。
そして旅路の先にある、真相と邪悪に是非打ち勝って欲しい。
探索者は銃の扱いや、対人格闘の心得がある者が望ましい。そうでなくても、歴史や心理学などの専門家や、車の運転手ならば、大きな力になるハズだ。
『ヴィジエロ』
75万年前より封印され、現代に蘇った純粋なハイパーボリア人の青年。年齢は二十六歳だが、150cmほどの身長や痩せた身体つき、どこか幼い顔立ちからか、見た目は十代前半の少年のようだ。
その他の身体的特徴として白い体毛、小麦色の瞳、筋が良く通った鼻と大きな耳たぶがある。これらはハイパーボリア人の顕著な特徴だ。ただ白い体毛に関しては、魔術で目立ちにくい黒色に変化させている。
知能は高く、既に英語とロシア語を殆ど話せるものの、少し辿々しい。時折、ハイパーボリアで使われた古代語を話す時もある。
少年にしてはやけに老け込んだ印象を与える疲れた目と表情が特徴的。擬似太陽に辿り着く事と、凍り付けの家族や仲間、そして恋人の魂を解放する事しか頭にないが、耐えられない孤独から他者との友情を求めている。
『各務原 知彦』かがみはら ともひこ
日本を代表する考古学者で、学者会の一員でもある。学者会への紹介も兼ねて、ヴィジエロの輸送を視察にカモフラージュする為、何も知らない日本人探索者をロシアに誘う。
彼はハイパーボリアを発見し、原始人の時代と思われていた紀元前75万年前の歴史を覆し、名を残そうとしている。
いわゆる、探索者をシナリオに巻き込む為の舞台装置だ。他のメンバーと共にシベリア鉄道内でオルドル・ネモに殺され、偽物とすげ替えられてしまう。
『レッジズ・フォンダーソン』
イギリス王室より騎士の称号を賜っているほどの、有名な言語学者。各務原同様、学者会への紹介も兼ねて、ヴィジエロ輸送を視察にカモフラージュする為、何も知らない外国人探索者をロシアに誘う。
彼は古代ハイパーボリア語こそ、今ある全ての言語のルーツだと考察し、それらの歴史的資料を求めてハイパーボリア復活を目指している。
こちらは日本以外の国籍を持つ探索者をシナリオに巻き込む為のNPCだ。各務原同様、他のメンバーと共にシベリア鉄道内でオルドル・ネモに殺され、偽物とすげ替えられてしまう。
『チルヒートマン』
学者会を束ねる、通称「学長(ペクトル)」と呼ばれる黒人の老人。チルヒートマンは勿論偽名で、素性は一切不明。だが自らの部隊を所持するほどの富豪かつ、世界的に強大な影響力を持っているようだ。
オルドル・ネモにヴィジエロが奪われた際に、囮として逃がされた探索者らの前に現れる。
鍵のかかった机の中にある数々の勲章から元アメリカ軍人だとは分かる。火力のある銃器が好きなのか、グレネードランチャー「GP-25 カスチョール」を愛銃としている。
『アゴーニ・ハロードヌィ』
元軍人かつ議員経験もある、屈強なロシア人の男性。見た目に反し、紳士的で知的な物言いをする学者会の一員。ロシア語、英語、日本語の三ヶ国語を話せる。
数多の銃器を扱えるプロフェッショナルでもあり、対人格闘技のチャンピオンでもある。ヴィジエロ輸送の責任者として抜擢された。
だが彼の正体はオルドル・ネモのリーダーであり、様々な要人を暗殺して来た腕前と狂気を隠し持つ野心家。このアゴーニ・ハロードヌィの立場は、ロキの力で入れ替わった物だ。本物のアゴーニは既に殺されている。
右肩にオルドル・ネモの証でもある山椒魚の刺青をあしらっている。
『ロキ』
オルドル・ネモ内で「魔術師」と呼ばれる謎の男で、その見た目は女に見紛うほどの妖艶さを持った白人。北欧神話に登場する、悪戯好きの神の名を取っている。探索者たちの前では、「ローシ・モシェンニク(ロシア語で、嘘吐きと詐欺師)」と名乗っている。
正体はニャルラトホテプで、75万年前にヴィジエロに告げ口をした老魔術師本人だ。
彼は地球を焼き尽くし、原初からのやり直しを画策している。本当ならばハイパーボリア崩壊と同時に行う予定だったが、ヴィジエロが封印された事により中止し、75万年も待つ事になった。
見た目は病的な白肌をした北欧人だが、それはヴィジエロの目を欺く為の変装で、体表に魔法の皮膚を被せている。その薄皮を捲れば「月に吠えるもの」の姿になる。
その特異な変装魔術は、顔の皮膚を剥がした他者にも適応可能で、その力でシベリア鉄道内で探索者以外の学者会メンバーらをオルドル・ネモの人間にすげ替えた。
今回のシナリオの導入として、探索者は各務原やレッジズの誘い、或いはアゴーニの策略でシベリア鉄道に乗り込んでしまった旅行者と言う立場で事件の発端を迎える。
以下に、大まかな旅路を記しておく。
①ウラジオストクからシベリア鉄道に乗り、モスクワまで行く。
②モスクワから更に夜行列車に乗り込み、フィンランドの首都ヘルシンキへ。
③ヘルシンキからまた列車でトゥルクに着くと、今度はフェリーでスウェーデンのストックホルムに行く。
しかし、トゥルクからストックホルムの途中で、アゴーニが学者会からの追跡を巻く為に探索者の一部は囮としてデンマーク行きとで分散させられる。
分散されられた探索者は後に学者会に保護され、アゴーニの足取りを追う協力を求められるだろう。
④ストックホルムから次は国際列車に乗り、ノルウェーの最北部にある港町、ナルヴィクに到着。
ナルヴィクの港にて、オルドル・ネモの本拠地である大型潜水艦『レッド・ノーチラス号』が現れ、人質となった探索者を乗せてグリーンランドまで航行する。
その間、学者会に保護された探索者らは、アゴーニらと同じくグリーンランドへ、砕氷船で目指す事となる。
⑤グリーンランドに到着後、スルトの目(擬似太陽)を目指し、そのまま最終局面へ。
日数として、シベリア鉄道からヘルシンキまでの期間が七日間。
ヘルシンキからストックホルムまでで八日目。
分散も入るが、ストックホルムからナルヴィクまでで九日目。
グリーンランドに到着する頃には十日目と言う流れだ。
これらの期間全てにギッチリとイベントがある訳ではなく、ダイジェストのような描写で済ます箇所もあるので、大きな動きのある箇所を章で表すのなら4章程度の密度だろうか。
1章、シベリア鉄道
2章、ストックホルムに行く前での分散
3章、オルドル・ネモと学者会の登場
4章、グリーンランド
キーパーはこれらを留意し、シナリオを進めて欲しい。
またキーパー自身が望むのであれば、好きな箇所で独自のイベントを起こすのも面白いだろう。
探索者は日本国内の者か、海外在住の者かでアプローチが変わる。日本人相手なら『各務原 知彦』を。外国人、或いは海外在住の者なら『レッジズ・フォンダーソン』の導入を起用しよう。
およそ有名な学者とコネクションが無さそうな探索者なら『災難の始まり』まで飛び、そこを導入として起用する。プレイヤーの数が少ない場合、或いはNPCとの無闇な関係性の拡大に拒否感のある者がいる場合なら、こちらの導入をオススメする。
『各務原 知彦』
探索者は、日本国内で著名な考古学者である各務原と友人、或いは仲間だ。
各務原の経歴について聞かれたら、以下の情報を提示しよう。
・現在47歳。慶應義塾大学と大学院を卒業し、博士号を取得。欧州の歴史を専門的に研究する考古学者として活動している。
・彼は特に北欧の歴史に注視しており、六年前に発表した論文「北欧神話のルーツと歴史的背景」は多大な評価を得られ、一躍日本が誇る歴史学者として名を挙げた。
・北欧には消えた国が存在すると主張し、その研究成果が各国で期待されている、今が旬の歴史学者。
各務原は小綺麗に身なりを整えた、紳士然とした男だ。その風貌はやや英国人にも見え、一つ彼の大きな魅力となっている。
探索者は久々に休暇の取れた彼と会っていた。各務原の研究室か、或いはレストランか。とにかく、彼とゆったり話せる場所で進行させよう。
各務原は探索者と様々な話に花を咲かせていた途中、いきなり大きな話を取り上げた。
「実は半年後……12月になるかな。モスクワの方へ、歴史調査の視察をする予定なんだ。
でもどうせモスクワに行くのなら、ウラジオストクからシベリア鉄道で、1週間かけて旅行しようと考えていてね。
それでロシア人の友人に聞いてみたら……これが凄いんだ! すぐに予約してくれたんだよ! しかも新型車両で、シャワーとかもある奴!
ただ、貰ったチケットを見たら、人数が余っていてね……という訳なんだけど、どうだい? シベリア鉄道に乗って、モスクワまで君も来ないかい? ぜひ、会わせたい人もいるんだ」
断るのならそこまでだが、探索者が乗り気になれば手筈が整えられる。
シベリア鉄道によるロシア旅行の予定が立てられたところで、各務原は自身の研究についても話してくれる。
「僕が、北欧にある幻の国を探している事は知っているだろ? もうすぐで目処が立ちそうなんだ。
今回のロシア視察で……全てが、分かるんだよ」
探索者が【心理学】に成功した場合、彼から放たれる並々ならない野心が感じられる。
各務原の話について、もっと深い話を聞きたい場合は、【信用】を振ると良い。
探索者が信用に成功した時、キーパーは【1D100】を振り、50以上が出た場合に限り、各務原が以下の話を口滑らす。
50以下の場合は、「また、ロシアで話すよ」とはぐらかす。
「……世紀の発見になるかもしれない。下手をすれば、僕らの名前は永遠に語り継がれるほどだ。
僕らは見つけるんだ……その準備は、今も進んでいるハズなんだ……必ず見つける……そして君も、その一員になれるかもね」
最後はかなり小声で聞き取れなかったが、【聞き耳】に成功した時、彼は確かに「大図書館を」と言った事を認知出来る。
その事を彼に突き付けても、「言っていないよ?」としらばっくれるだろう。
「大図書館」とは、彼が籍を置く「学者会」で暗喩的に呼称される「ハイパーボリア」の事だ。
今現時点で、ヴィジエロを軍基地から奪い取る計画が進行中であり、決行されるのが半年後だ。つまり、各務原はピッタシその日時に、ヴィジエロと合流しシベリア鉄道でロシアを脱出する任務を与えられていた。
探索者らを誘ったのは、探索者らを学者会に紹介しようと考えていたからだし、何も知らない者を同行させる事でヴィジエロの輸送もただの旅行に見せかける為でもある。
『レッジズ・フォンダーソン』
探索者は、イギリス国内で大変有名な言語学者であるレッジズと友人、或いは仲間だ。
レッジズの経歴について聞かれたら、以下の情報を提示しよう。
・現在67歳。世界一の大学として有名なオックスフォード大学を卒業し、博士号を取得。言語学を専門とし、また翻訳家としての顔も持つ。
・アメリカで失われた言語と思われた「ヴィス語(架空の言語)」の法則性と、新たな文字を発見し、センセーショナルを巻き起こした。彼一人で、言語学が一気に進歩したとも言われている。
・2007年に、以上の功績からイギリス王室よりナイトの爵位を叙任された。有名な叙任者と言えば、初代ジェームズ・ボンド役で有名な「ショーン・コネリー」、自伝映画『ロケットマン』でお馴染みのミュージシャン「エルトン・ジョン」、『ブレードランナー』や『エイリアン』で有名な映画監督「リドリー・スコット」などがいる。
(余談だが、この爵位は英国政府の推薦さえあれば外国人でも叙任可能で、スティーブン・スピルバーグやビル・ゲイツ、日本人ではトヨタ自動車会長の豊田章一郎が叙任者だ)
探索者は彼の屋敷で執り行われる茶話会に招待され、向かう事となる。
数多の招待客が雑談に花を咲かせている頃、レッジズは探索者に話しかけた。
彼は綺麗な口髭が印象的な老紳士だ。穏やかな笑みを浮かべながら、探索者に一つの誘いをする。
「半年後の12月に、学術視察でロシアに行く事になってだな。どうせなら、ウラジオストクからシベリア鉄道で向かうのも悪くないと思っている。
まぁ、イギリスからだとモスクワの方が間違いなく近いが、ウラジオストクの方にいる古い友人を訪ねたかったからなぁ。
それで誘いと言うのは、現地の知人にウラジオストクからモスクワ行きの電車なら良い席を取れるとチケットを貰ったんだ。しかしどうにも数が余っているもんでな。
そこで、どうかね君。シベリア鉄道の旅に同行してみないかね? 会わせたい人もいるからな」
断るのなら残念ながらシナリオは終了だが、快諾するなら手筈は整えられる。
ロシア旅行の計画が立てられたところで、レッジズは自身の新たな研究について話してくれる。
「実は、私はかねてより探し求めていたものを見つけられそうでな。私としては、ヴィス語以上の発見かもしれん……もしかすれば、エジプト王朝の頃よりも古い言語が見つかるかもしれん。それに備えて、君にも手伝って貰いたいのだよ」
探索者が【心理学】に成功した場合、彼から放たれる並々ならない野心が感じられる。
各務原の話について、もっと深い話を聞きたい場合は、【信用】を振ると良い。
探索者が信用に成功した時、キーパーは【1D100】を振り、50以上が出た場合に限り、レッジズが以下の話を口滑らす。
50以下の場合は、「また、シベリア鉄道でゆっくりと語ろう」とはぐらかす。
「……北欧に消えた、とある古代人の言語だ。我々の今ある数多の言語の、原初に間違いなく近い……言葉のミトコンドリア・イヴだ。やっと、見つけられるのだ……」
最後はかなり小声で聞き取れなかったが、【聞き耳】に成功した時、彼は確かに「大図書館を」と言った事を認知出来る。
その事を彼に突き付けても、「空耳ではないかね?」としらばっくれるだろう。
後の流れは各務原の時と同様だ。ここから半年後のロシアへとシーンが移り変わる。
各務原とレッジズに誘われてから半年後、或いはこの事項から初めて導入となる探索者もいるだろう。
探索者は皆、職業やロールの成功に応じて、以下の情報が得られる。
『ノルウェーで発見された物』
探索者が考古学者か人類学者、或いは【考古学】【人類学】に成功した場合に入手。
とある学術誌が発表した、センセーショナルな研究結果だ。
「ノルウェー沿岸部にあるロフォーテン諸島から、凡そ紀元前70万年前の物と推定される、ネックレスと思わしき装飾品が発見された。
ホモ・エレクトゥスに代表される前期旧石器時代で、これまで狩りに使われる簡素な石器や、貝殻などで作られた質素な装飾品が発見されて来た。
しかし今回発見された装飾品は、極めて技術性の高い、オパールのネックレスだ。
前述の通り原人の時代と判別されてはいるが、彼らがオパールを加工し、首飾りにするとはなかなか考えられない。ましてや前期旧石器時代と言えば、人類が火を扱い始めた時代か否かで論争となっている時期でもある。
今まさに時代の照合と綿密な交渉が進められているが、もし75万年前の物品ならば、ヨーロッパに存在していた原人の知性と感性に関する今までの考察が覆るかもしれない」
キーパー用に説明すると、ここで見つかったオパールのネックレスとは、ハイパーボリア崩壊後に移り住んだ、生き残ったハイパーボリア人の物だ。
そして偶然にも、これはヴィジエロが恋人に渡しそびれた物でもある。後に学者会はこれを盗み、ヴィジエロに返している。
『オカルトサイト』
探索者がオカルトに関連した職業(オカルト雑誌の記者か、オカルトファンなど)、或いは【コンピュータ】か【オカルト】に成功すると入手出来る。
「【衝撃写真】原始人の生き残りに遭遇!?
ロシア北部の寒冷地で、原始人と思わしき生物を発見したと、ロシアの学術誌が発表した。
石器を使い、鹿などを狩って生活している様子が写真に収められている。
記録によると、彼らは服を着ておらず、ほぼネアンデルタール人同然らしい。
写真を見るに、少し猿っぽい?
いかがでしたでしょうか? 本物かどうかは別として、こう言った写真が人々を賑わしているのですからロマンですよね!」
一緒に送付されている写真はややパチモノ臭くはあるが、【目星】か【写真術】に成功すると、耳たぶが大きな様が確認出来る。
キーパー用に説明すると、これらは本物だ。そして紹介されている原始人とは、ハイパーボリア人の子孫たちだ。
ハイパーボリア人は新大陸に移り住んだものの、一気に退化の道を進んでしまい、今ではこの原始人のような種族と成り果ててしまった。
因みに、文明を保ったまま存在しているハイパーボリア人は地球にはおらず、皆ドリームランドで暮らしている。
『図書館にて』
探索者が図書館でロシアについて調べる際に、【図書館】に成功で入手出来る。現地の小さなニュースを翻訳したものだ。
「ロシアの極東部に位置するマガダン州、オロトゥカーンにて、甲高い爆発音が響いた。
地点は、良くロシア国内のオカルトマニアの間で、『ロシアのルート51』と呼称される、秘密の軍基地があると言われている場所だ。
しかし現地には何もなく、爆発の痕跡も発見されなかった。
近隣の町では、褐色肌をしたアラブ人と思わしき男を見たと言う通報もある」
キーパー用に説明すると、これらはニャルラトホテプがアラブ人の姿で、ヴィジエロが保管されている基地を襲撃した時の報告だ。
この時に監視カメラに収められたニャルラトホテプとヴィジエロの姿を元に、ロシア政府は極秘で二人を追っている。
またロールの必要なく、図書館に来た際に以下のニュースも手に入れられる。
「オランダ、蟹漁船沈没事故。生存者は怪物の仕業だと主張。
太平洋沖で大破し、沈没したオランダ国籍の蟹漁船。生存者の話によると、『突然、海が盛り上がって、赤い目の怪物が突っ込んで来て船を割った』との事。
生存者は錯乱状態に陥っており、幻覚ではないかと考えてられている。
事故の起きた海域は事故が多く、当局は暗礁の存在を示唆している。」
これらは、オルドル・ネモの本拠地である潜水艦「レッド・ノーチラス号」による仕業だ。彼らは海洋生物の守護を掲げ、海を荒らす船を無差別的に沈没させ続けている。
以上の情報提示が済むと、いよいよロシアへの旅が始まる。
ウラジオストクは、ロシアの極東部に位置する都市だ。
西に中国、南に北朝鮮と国境を面する沿海地方にあり、日本からでは東京から直行便で何と二時間で行ける。距離で言えば東京〜ソウル間よりも近い。その為「日本で一番近いヨーロッパ」とも称されたりする。
ヨーロッパとアジアが混じり合った、独特の空気感が特徴の壮麗な港町だ。
シベリア鉄道の東方部の始点であり、これからモクスワまで目指す探索者らにとっては旅の始まりの地とも言える。列車の出発時間は、現地時間で19時と少し遅い時間の為、旅行するのも良いだろう。
一通り見て回った後に、シンメトリーな全体像が美しい、ロシアの伝統的な建築様式で造られた築100年を超えるウラジオストク駅に向かう。
すると駅前に立っていた青年が探索者らに近付いて来る。
青年は白人にしてもやや病的な白さをした肌の持ち主で、顔立ちからして北欧人だ。一見すれば女性にも見えかねない、中性的な雰囲気を持つ美青年だった。
彼こそがニャルラトホテプの化身である、ロキだ。ロキは探索者らに近付くと、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をする。
「お待ちしておりましたよ。僕は、先生方の視察団に参加しています、極東連邦大学で宗教学を研究しているローシ・モシェンニクです。生まれはロシアですが、英語も日本語も大丈夫ですよ。
しかしウラジオストク、良い所でしょ? 意味は『東方を支配する街』なんて大層な名前していますけどね。
あぁ、ある事ない事ベラベラと申し訳ありません。先生方から案内を言いつけられていますので、早速向かいましょう。この駅は入り口で荷物検査が入りますので、刃物とか火気とか持っているなら気を付けてください。
では僕に付いてきてくださいね。離れたら嫌ですよ?」
彼の忠告通り、駅舎の入り口で荷物検査が入る。
探索者が刃物、火気、武器などの危険物を所持している場合は、ここで没収されてしまうので注意を入れておこう。信用も言いくるめも通用しないだろう。【隠す】に成功ならこっそり忍ばせる事も可能だろうが、駅員のロール【目星 60】に成功されたらバレてしまう。
荷物検査が済めば、天井画が描かれた待ち合い室を抜けて、駅のホームへ辿り着ける。
そこに着くと、案内役のロキことローシ・モシェンニクは得意げに解説してくれる。
「ほら、そこに蒸気機関車が展示されてありますよ。引退してもう走ってはいませんが、本物のSLを見れるなんてそうそうないでしょう?
2番ホームに立っている標識を見てください。『9288』って書いてありますよね。あの数字は、ここからモスクワまでの距離です。あぁ、ここから始まる訳ですね、楽しみです!
我々はこの2番ホームの列車に乗ります。因みに1番ホームのはアエロエキスプレスと言って、空港行きです。残りのホームはエレクトリーチカと言って、近郊列車の事です。
ほらほら、あと三十分ですよ。早く早く!」
ローシに急かされて一台の列車に近付くと、乗車口の前に各務原とレッジズが、一人の屈強な男と、三人ほどの老紳士たちと一緒に立っている。
先の導入で出会った方のNPCがそれぞれ、探索者らに話しかけて来るだろう。
各務原 知彦
「やぁ、待っていたよ。あぁ、ここにいるのは、一緒にモスクワに行く視察団の人たちだよ。この方がレッジズさん。そしてモーリーさん、ベイカーさん、ケビンさん。僕の隣の人はアゴーニさんだ。アゴーニさんは元議員かつ退役軍人で、とても強いよ?
それより、さぁ見てみなよ。これが有名な、『ロシア号』だ! 僕らは一等車に乗るよ。一等だよ? 一番高い奴だ! 良い旅になるよ、さぁ乗ろう!」
レッジズ・フォンダーソン
「待ち侘びていたよ! あぁ、紹介しよう。彼らが、私の視察団だ。まず、日本の考古学者であるカガミハラ。次にアメリカの地質学者であるモーリーとその助手のベイカー。そして私と同じ言語学者のケビンと、我々視察団の経理を担当しているアゴーニだ。アゴーニは元議員で、名誉ある退役軍人だ。何かあればボディーガードも兼ねてくれるだろう。
さぁ、見たまえ。これが『ロシア号』だ。我々は一等寝台車を予約している。とても綺麗な客室だったぞ?
では皆さん、そろそろ時間だ。どれ、まさか、ここまで来て眺めに来ただけとは言うまいな? さぁ、乗った乗った!」
探索者らは、各務原やレッジズに促されるがままに、ロシア号に乗り込む。
この時、【アイディア】に成功すると、いつの間にかローシの姿が消えていた事に気付く。
サッと見渡すと、二人の男を連れながら、深々と帽子を被った子どもを乗せようとする彼の姿に気が付く。
その子どものような人物こそが、ヴィジエロだ。
『災難の始まり』
先の導入に参加していなかった探索者は、ここで初参加となる。探索者は有名なシベリア鉄道でモスクワに行こうと、ロシア号に乗車しようとする。この探索者らは、二等車両に乗る。
その時、自分の後に乗り込む二人の男と、青年と、深々と帽子を被った子どもに気付く。
青年の方はローシで、子どもの方はヴィジエロだ。二人の男とはヴィジエロを護衛する学者会側のボディーガードで、至って普通のヨーロピアンだ。
探索者は【幸運】に成功すると、帽子の下の彼の顔が見えた。
小麦色の瞳をした、大きな耳たぶと筋が良く通った鼻が特徴的な、白人の少年だった。髪や眉を含めた体毛は黒色だが、それは自身にかけた魔術でそう見せているだけで、本当は澄んだ白色だ。
ローシは探索者らに笑いかけた後に、ヴィジエロと共に二等寝台車の客室に向かってしまう。
この導入での探索者は、ほぼ各務原やレッジズらと交流はないが、ヴィジエロとの交流が深まる。
探索者らが各々の目的でロシア号に乗り込むと、とうとう出発時間だ。
全10両からなるロシア号はウラジオストクからモスクワまで、一日に二、三回ほど旅客駅で三十分程度の停車を挟みながら、一週間かけて走破する。
各務原やレッジズらのメンバーならば不要だが、通常の乗客ならば運賃を払わなくてはならない。
一等寝台車が65,123ルーブル、二等が22,841ルーブル、三等が16,637ルーブルだ。日本円に直すと、一等から順に11万円、4万円、3万円だ。
また一等寝台車には有料のシャワーがあるが、二等と三等にはシャワーはない。身体を拭くシャワーペーパーやタオルなどがあると良いだろう。
食事なら食堂車両が摂れるが、なかなか高価なので、停車した際に下車し、駅前のスーパーなどで食料を買い込む方が安上がりだ。
お湯に関してはサモワールと呼ばれる湯沸かし器が食堂車にあり、これらは無料で使用出来る。
ネットワークに関しては、全く引かれていないので注意。電話に関しても街に近いならともかく、一定の場所では圏外となってしまう。
車両の構造として、1両目が機関車、2〜3両目が貨物車、4両目が食堂車、5〜6両目が三等寝台車、7と9両目が二等寝台車で、挟まれて8両目が一等寝台車。それぞれの寝台車には各9部屋ずつ個室がある。
そして10両目がもう一つの食堂車だ。
一等寝台車の探索者は3〜6号室、二等寝台車の探索者らは6両目の5〜9号室の間を使用させよう。
各務原とレッジズは一等寝台車の1号室を。モーリーとベイカーが2号室、ケビンが3号室で、アゴーニは8号室にいる。
二等寝台車の6両目の3号室に、ヴィジエロとローシ、そして二人の護衛が一緒に寝泊まりしている。
7両目二等寝台車の2号室の4名と、4号室の2名はオルドル・ネモの刺客たちだ。
一等寝台車には共用のシャワー室がある。部屋は二人部屋で、車窓を挟むように二つの折り畳み式のベッドがある。窓際にはテーブルがあり、出入口の扉の上にテレビが据付けられている。
二等寝台車の部屋は四人部屋で、上段下段と二段ベッド式だ。
三等寝台車には個室はなく、一繋がりの車両に二等車のような二段ベッドが並び、そのベッドとベッド毎には薄い仕切りがあるのみで、扉やテレビなどはない。とは言え、このシナリオでは三等に行く探索者はいない。何かしらで通る際の描写として、頭に入れておこう。
また近年では、個室での飲酒は禁止となっている。唯一飲酒が認められている車両は、食堂車のみ。
食堂車は4両と10両で二両あり、4両食堂車はスッキリとした内装で、清潔なダイナーな感じだ。もう一方はお洒落でシックな雰囲気を醸している。ここで美味いロシア料理やウォッカにあり付けられる。
『一等寝台車にて』
各務原やレッジズらに同行する探索者は、自ずとこの車両で寝泊りする。
部屋は二人部屋で、基本的に探索者同士で。人数が奇数の場合、同行しているモーリー、ベイカー、ケビンを適当に充てよう。各務原とレッジズは同室、アゴーニのみ関係のない乗客との相席となる。と言っても、その乗客もアゴーニの仲間ではあるが。
探索者がNPCとの相席の場合、彼らと以下の話が可能だ。ただNPCは日本語が話せない為、英語に堪能な探索者のみに限定される。
・モスクワでどんな研究をするのか
「モスクワの更に北部にある凍土に、原始時代の定説を覆すような発見があるかもしれないんだ。それの発掘と検証が、僕らの仕事だよ。詳しくは、僕の口からは守秘義務で言えないんだけどね」
・他に誰か来るのか
「現地の研究員たちが待っているよ。ただ政府の許可とか、運び込まれる機材の都合とかがあってね。この1週間の旅は一つ、時間稼ぎみたいなところがあるね」
・各務原/レッジズが、会わせたい人がいると言っていた
「あー、なるほど。多分、あの人かな。この調査の責任を請け負っている人がいてね。著名な学者なんだ。僕らは愛称で、『学長(ペクトル)』と呼んでいるよ。また現地に着いたら紹介するよ」
・この調査は人類史を覆すのか
「詳しくは言えないけどね。ただ、もしかしたら、特に氷河期の人類史が変わるかもしれないんだ。氷河期の原人は、今ある定説よりも賢い人間だったかもしれないってね。これ以上は今は言えないよ」
・現地に着いたら、自分は何をするべきか
「さぁ……まぁ、カガミハラさん/レッジズさんがわざわざ、枠に君を入れたんだ。君も何かの専門家なんだろ? その技能を活かす機会は必ずあるハズだね」
・ローシ・モシェンニクは
「彼はこの、ウラジオストクの大学の学生さんだね。成績優秀で、縁もあって僕らに同行する事になったんだよ。決まったのが本当、昨日一昨日で、残念だけれど一人だけ二等室になっちゃったんだけどさ」
ロシア号が走行中、一等寝台車の探索者は色々と見回れる。食堂で食事をするのも良しだし、部屋でまったりするのも良しだ。暫くすれば、アゴーニが訪ねて来る。
アゴーニは強面だが、紳士的で愛想の良い性格の為、威圧感は全くない。
彼は探索者に対し、「気分は如何ですかな?」と物腰柔らかく話しかけてくれる。
彼は日本語も話せる為、英語やロシア語がさっぱりな探索者に対しても問題なく会話が可能だ。
「僕はロシア生まれで、日本育ちなんだ。日本には十二年、アオモリのムツ市で暮らしていたよ。あの辺りは面白いですよ。恐山のイタコや、牢獄島の血濡娘とか、オカルトみたいな話も多くて。
申し遅れたね。僕は、アゴーニ・ハロードヌィ。今回の調査の、経理や連絡を担当しているよ。こう見えて、元軍人でね。何かあったら僕に頼ってよ。悪漢が出たら、ぶちのめしてボッコボコにして、走行中のロシア号から叩き出してやりますよ! ハッハッハ!」
探索者が【武道】か【マーシャルアーツ】に成功すると、彼は数十年前、総合格闘技のロシア大会でチャンピオンになり、代表として世界大会にも参加していた人物だと気付ける。
その事を聞くと、「懐かしい! 軍に入る前は、格闘家を志していたんだ! まぁ、世界大会でボロ負けしてね。メンタル折られてグズグズになっていたら、『精神力と愛国心を叩き直してこい!』って、父に軍に入れられちゃったんだよ。ハッハッハ!」と、愉快に話してくれる。
ユーモアと茶目っ気に溢れたこの男に、警戒心は抱かないだろう。ただPLからの自主的な【心理学】で成功すると、時折彼の朗らかな表情に、冷たさが滲み出ている事に気が付けるだろう。
クリティカルが出た場合、探索者らに対し強い警戒心があるとも分かる。
一通り話すと彼は、「では、色々とやる事が残っていてね。僕はこれで。シベリア鉄道は景色が美しいんだ。是非、楽しんでよ!」と言い残し、去ってしまう。
各務原とレッジズに会いたい場合だが、二人は何か話し合っているようで、「また夜に来て欲しい」と探索者を追い出してしまう。
【聞き耳】に成功すると、二人の会話が聞こえる。
「カガミハラ。彼らが、例の?」
「あぁ、レッジズ。お陰様で、僕らはマークされていない」
「良好だな。ペクトルは我々に大きな期待をされている。大図書館は、必ずや見つけるぞ」
『二等寝台車にて』
二等寝台車でも、独自のイベントが用意されている。
探索者がひと段落し、車両を移動していると、窓辺から本を片手に、外をジッと見ている少年と出会える。その少年こそが、ヴィジエロだ。
深々と帽子を被り、ややブカブカな服を着ている。持っている本は、『たったひとつの冴えたやり方』と言うタイトルだ。
近付くと彼は驚き、その場から離れようとするだろう。
【信用】【説得】に成功か、【組みつき】でその腕を握るなどすると、彼は探索者らに気を向ける。
帽子は深く被ってはいたが、顔が見える。良く通った鼻筋に、黒髪で小麦色の瞳を持った白人の少年だ。【人類学】に成功すると、アラブ系と北欧系が混ざったような、一見では人種が読めない人物だと分かる。
ヴィジエロはすぐに顔を背けて、立ち去ろうとする。再度止めようとすると、死角から現れたローシが引き止める。
「あの、すみません。お恥ずかしながら、トイレの位置が分からないんですが」
ローシが適当な理由で探索者を足止めしている内に、ヴィジエロは護衛の二人に連れられて部屋に消えてしまう。
探索者はローシにトイレの場所を伝えると、彼は鼻歌混じりにトイレへ向かうだろう。
部屋番号を確認するなら、ヴィジエロらが寝泊りしている部屋は6両目二等寝台車の3号室だと分かるし、部屋の前で待ち伏せするなら、ローシと同室だとも分かる。
探索者が少年に対して聞き込む場合、【ほかの言語(ロシア語)】に成功でロシア人の乗客に。或いは【母国語】に成功で、探索者の国籍と同じ乗客から話を聞ける。
ロシア人乗客の話
「俺も気になってんだ。男二人と、女々しい青年が一人、ずっと付きっきりでさ。なんかのVIPか?
ただあの子、一回話しているところをさっき見たんだが、ありゃ何語だ? ロシア語でも英語でも、中国語っぽくないんだ。言ってはなんだが、気味が悪いな」
該当する国籍の乗客の話
「変な子だよね。北欧人なのか、アラブ人なのか、良く分からない人種の子だったよ。
チラッと見たからアレだけど、あの子の耳、凄い福耳だった。しかも何か宝石の付いたネックレスも着けてたよ。結構、パンクだよね」
この際に、一等寝台車の探索者と合流しておいても良いだろう。
また探索者が【幸運】に成功した上で、【心理学】に成功すると、通りかかった乗客2名の様子が妙な事に気が付ける。
皆、見た目こそは普通の人間だが、軍人のような規律正しい足取りをしている。探索者は彼らを【追跡】で部屋までこっそり尾行すると、部屋番号を確認出来る。7両目二等寝台車の、2号室だ。
『夜の幻惑』
夜間に入り、一等寝台車の探索者は各務原とレッジズに会いに。二等寝台車の探索者は気晴らしか何かで、部屋を出た際に、異常事態に遭遇する。
探索者らが一等寝台車に通りかかった時、廊下に5人の男が倒れている事に気付く。
倒れている男とは、同行していたモーリー、ベイカー、ケビン。そしてヴィジエロを守護していた学者会側のボディーガードの二人だ。探索者はまず、【正気度 1/1D4】を行う。
【医学】【応急手当】に成功すると、彼らはみんな胸を刺されて死んでおり、手遅れだと気付ける。
全探索者が悲鳴をあげようとするか、助けを呼びに行こうとすると、突然後ろから誰かに捕われ、間髪入れずに何かの薬品を首筋から打ち込まれるだろう。
薬品は麻酔であり、瞬時に探索者らの思考と視界は虚ろになってしまう。声も出せなくなるだろう。【正気度 1/1D4】を行う。
探索者が【幸運】で振り返ると、そこには見覚えのない男たちが並んでいる。【目星】に成功すると、ぼやける視界の中で、五人いる事が分かる。
二等寝台車の探索者に限り【アイデア】に成功で、二等寝台車で見た人間だと気付ける。
一等寝台車の探索者は覚束ない足取りで、彼らから逃げるように各務原とレッジズの元に行こうとする。男たちはなぜか、追ってこない。
探索者が大急ぎで各務原とレッジズの部屋を開ける。
そこにはベッドの上で、血だらけで息絶えている各務原とレッジズの姿を目の当たりにする。
だがそれより驚くべきは、凶器である血に濡れたナイフを持つ二人の犯人の姿だ。
犯人たちはゆっくりと、探索者の方を振り向く。その顔はなんと、各務原とレッジズだった。探索者は【正気度 1/1D6】を行う。
二人の姿に驚いていると、背後から何者かが探索者を廊下に引き倒し、そのまま伸し掛かられる。
探索者はほぼ何も見えない状態だが、【目星-5】に成功すると、伸し掛かって来た人物は褐色肌の、アラブ系の男だと分かる。
男は凍えるような声で、探索者に囁く。この声は、ローシの物とは別物とする。
「これは、悪い夢なんだ。全てが洗い流されるまで、何も知らないままでいた方が良いのさ」
この襲撃犯たちは、オルドル・ネモの人間たちだ。伸し掛かったアラブ人とは、ローシの本性であるロキの姿だ。
オルドル・ネモはここから、ロキの力で顔と声を変え、アゴーニ以外の、学者会側の人間と完全にすげ変わってしまう。また死体は、ロシア号から投げ捨てられて破棄された。
『夜が明けて』
目が覚めると探索者らは、自分たちの部屋のベッドに横になっていた。
すぐに他の部屋に向かうものの、死んでいたハズの調査隊のメンバーは全員無事だ。各務原もレッジズも同様だ。また、廊下にも部屋にも、血の痕すらない。
話をするものの、「悪い夢でも見たのではないか?」と笑われてしまう。
シベリア鉄道の残りの日数は、調査隊のメンバーから漂う違和感および、ヴィジエロとの交流に費やされる。
複数のイベントが存在する。探索者1人につき2回行動ずつしてもらい、全探索者の行動が終わると1ラウンド終了となる。
1ラウンド終了につき、1日が経過する。それを6回繰り返して貰う。6日後には、モスクワに到着だ。
もし探索者がロール中、ファンブルを発生させた場合、気の良い乗客に誘われてパーティーに参加させられたり、車掌に泥棒と勘違いされて連行されたりと、何かしらの要因でその日と翌日は行動不可とさせよう。
また逆に、クリティカルを発生させた場合は、特別に行動回数を増やしてやっても良いだろう。
『車掌』
【幸運】に成功した上で【聞き耳】にも成功すると、車掌らの話を盗み聞き出来る。
話によると、一度も停車していない夜の内に、二等寝台車の部屋を使用していた乗客7人の姿が消えたとの事だ。
話を聞いた探索者がその部屋番号を聞くのなら、車掌らは気軽に「7両目二等寝台車の2号室の4名。そして4号室の2名」だと教えてくれる。
その部屋にいた人物たちがオルドル・ネモであり、本物を殺して入れ替わっている。
『形見』
探索者が【幸運】に成功すると、車掌の一人が探索者に駆け寄る。
すると彼は「あなたのお連れ様の学者先生の物ですよ」と言って探索者に渡す。
それはレッジズが書き記した、古代語にまつわる論文だ。
全編英語で書かれている為、探索者が英語圏の人間か、【ほかの言語(英語)】に成功しない限りは翻訳は出来ない。
タイトルは、「古代人たちによる歌。その表題、『魂の歌』」だ。
私は行き、必ず帰る
遠き者よ
あなたの安らぎを引き連れ、国を出る
されどその憂が、私の光となろう
この身滅び、朽ちてしまおうとも
あなたは灯火となり、我が魂は帰る
安らぎを返す為に、私はあなたの光となる
これはヴィジエロら、ハイパーボリア人が思い人に捧ぐ時に歌うものだ。
『無人』
イベント「車掌」で聞いた部屋の内、7両目の寝台車2号室でのイベントだ。
鍵がかかっていないのでそこに入ると、内装は他の部屋と違わない、普通の内装だと分かる。
【目星】に成功で、窓際のカーテン裏に隠されているようにして置かれた灰皿を発見出来る。灰皿の上にはタバコの物とは違う、燃えカスが残っていた。
【アイデア】に成功すると、メモ帳か何か、紙の類を燃やした跡だと分かる。
それに気付いた上で、【目星】に成功すると、ベッドの下からそのメモの一部と思わしき紙を発見出来る。
半分以上が焼け焦げている上、ロシア語で書かれている。探索者がロシア人なら自動で。それ以外ならば【ほかの言語(ロシア語)】に成功で、辛うじて読む事が出来る。
「ロキは既に乗り込んでいる……」
これは深夜帯に学者会メンバーとの入れ替わりを伝える、オルドル・ネモの作戦を載せたメモだ。読んだ後に証拠隠滅の為に燃やした物だ。KP向けにメモの全容を表すと、「ロキは既に乗り込んでいる。深夜3時に作戦を開始する」となる。
探索者が【博物学】に成功すると、ロキとは北欧神話に登場する悪戯好きの神の名前ではないかと気付ける。博物学に成功の上で【知識】に成功で、変身能力が得意であり、自分や他の人間を別の存在に化けさせる事が可能だと分かる。
【オカルト】に成功すると、上記同様ロキは北欧神話の神だとは分かるが、詳しくは理解出来ない。ただロキとは、「閉ざす者、終わらせる者」と言う意味があると分かる。
『宴会』
もし探索者の誰かがファンブルのせいで、気の良い乗客に連れられてパーティーに参加となった場合。【幸運】に成功で、その乗客は探索者と同じ国籍の人間であり、以下の話をしてくれる。
「なぁ! 面白い話がある。ソビエト連邦時代の話だ。それは1975年、ソ連はカザフスタンとの国境付近で、巨大なオーパーツを見つけたって有名なオカルト話だ」
探索者は【オカルト】に成功で、その話を知っている。ソ連はカザフスタンの国境で、棺らしき物を発見したと言う当時の写真があったと言う物だ。
客はそのまま、「ソ連は、ロシアになって以降も、それを保管してたんだ。保管しているのは、オロトゥカーンと言う郊外の土地だ。そこはオカルトマニアにとっては有名な場所でな。ロシアのルート51と言われていて、政府の秘密基地があって宇宙人やUFOの研究をしているとか何とかの噂がある場所なんだ。スゲェ、面白いだろぉ?」
『相席』
続いて7両目寝台車、4号室のイベントだ。
二等寝台車は四人部屋で、消えた二人の他にもう二人が相席していた。
その二人に話を聞く事も可能だが、二人ともロシア人の為、国籍が違う探索者は【ほかの言語(ロシア語)】が必要になる。
二人は消えて男たちの事を「気の良い、朗らかな人たちだった」とした上で、「でも夕方頃、俺がトイレから戻ると、灰皿の上で何かを焼いていたんだ。聞いてもはぐらかされたがね」と男たちの奇行を話してくれる。
その灰皿の中身は既に捨ててしまい、もう手に入らないらしい。
『傷痕』
探索者らは【アイデア】に成功すると、注意深く見なければ分からないほどだが、自身の首元に小さな注射痕がある事に気が付けるだろう。【医学】に成功すると、かなり針が細いタイプの注射だと分かる。こう言った注射は、高等な病院で使われる代物だ。
『痕跡』
探索者は死体のあった一等寝台車の廊下を確認出来る。確かに何もないが、【目星】に成功でカーペットに違和感を抱ける。【物理学】に成功すると、カーペットが完全な新品だと分かる。確か昨日の時点では、やや古っぽかったハズだ。
犯人は血だらけのカーペットを、入れ替えたのだろう。
『目撃』
二等寝台車内で【幸運】に成功で、目撃者に遭遇出来る。相手はロシア人の為、【ほかの言語(ロシア語)】【母国語(ロシア語)】が必要となる。
話によれば、夜間に二等寝台車から複数人の男たちが一等寝台車に向かったと話してくれる。
『違和』
一等寝台車の探索者は、各務原やレッジズ、他のメンバーと会話が出来る。感じに変化はない。ただ、【心理学】に成功すると、どうにも違和感を抱かずにはいられない。
目の前の彼らがどうにも、別人ではないかと思ってしまう訳だ。問い詰めたところで、笑われるのみで何もないが。
探索者は不安から、【正気度 1/1D4】を行う。
『風呂』
探索者はシャワーを浴びようと、有料のシャワールームに行った際に発生。【幸運】に成功で、シャワーを終えたアゴーニと出会う。筋骨隆々な彼の身体に、思わず一目惚れ(?)。
その時、彼の右肩に山椒魚を模した刺青がある事に気付けるだろう。アゴーニに聞くと、「カッコいいでしょ? サラマンダーだ!」と見せ付ける。
実はこの山椒魚の刺青が、オルドル・ネモである証だ。
『少年』
四日目以前に発生するイベント。4両食堂車に行くと、食事をしながら『たったひとつの冴えたやり方』を読んでいる、ヴィジエロに会える。前日で顔を合わせた探索者へは驚きながらも反応するだろうが、それ以外ならば興味すら持たれないだろう。
相変わらず帽子は深々と被っているが、探索者が【信用】に成功するか、或いは言葉巧みに話しかけた場合、相席が許される。
すると彼は、探索者の国籍に合わせた言語で話し始める。
「……名前は? 僕は……まだ、君には名乗れないけど」
探索者は【人類学】か【博物学】に成功すると、どこか古めかしい、妙なイントネーションだと気付ける。
探索者が自己紹介をすると、少年はピロシキを食べながら話をする。
「良い名前……かは分からないけど、面白い名前だと思う。名前にもそう言う、縁起があるんだ。字数だとか、語感だとか。あいにく僕はあまり詳しくはないけど、君の名前から多難な運命を感じるよ。
本当だよ。だってそうさ。名前は、人間が生まれて初めて受ける呪いなんだ。名前がない人間は、いないんだよ。死ぬまで一緒さ。死ぬまで、君も僕も、この名前なんだ」
ヴィジエロに対し【心理学】に成功すると、彼は見た目に反しあまりにも大人びているように思えるだろう。
話を続けようとすると、彼を迎えにボディーガードらが来る。探索者が【信用】に成功するとヴィジエロはボソリと、「顔と声なんて名前に比べりゃあ、曖昧なもんだぜ」と忠告し、ピロシキを抱えながら客席に戻ってしまう。
『内緒』
四日目になり、探索者がイベント「少年」を通過していたりと、ヴィジエロとの交流を深めていた場合に発生。
彼は三等寝台車にある窓際の席で、ぼんやりと外を眺めている様に気が付ける。探索者が話しかけると、彼は前に会った人物だと気付き、挨拶をしてくれる。
「僕はこれでも、まぁ、占い師なんだ。算命学でも占星術でも、タロット占いでも。何でも出来るよ。でも今はちょっと、休職中だね」
探索者は【アイデア】に成功すると、彼が古臭いオパールのネックレスを着けている事に気付ける。もし探索者が導入部分で「ノルウェーで発見された物」を通過していた場合、その時の学術誌に掲載されていたオパールのネックレスと、似た物だと気付ける。
彼はそのネックレスにキスをした後で、パッと探索者に顔を上げる。耳たぶが大きいと気付けるだろう。
「俺はヴィジエロ。誰にも言っちゃ駄目だよ」
涼しげな目でそう言った後、彼はまた自分の部屋に戻ってしまった。
『離別』
四日目になると、停車した駅で各務原とレッジズが下車してしまう。
「問題が発生して、帰国しなくてはならなくなった」とだけ告げ、大急ぎで出て行ってしまった。後は調査隊のメンバーが案内し、直接モスクワで会おうと約束する。
彼らの導入を通過した探索者なら、あれだけ熱意を持っていた彼らが途中下車する事に違和感を抱かずにいられないだろう。
『食堂』
食堂に行くと、ウェイトレスの悩みを【聞き耳】で聞ける。ただしウェイトレスはロシア人の為、ロシア語に堪能な探索者に限定される。
「一等車両のお客様……あの、学者の方たちでしたっけ? 最近の学者の方って、あんな軍人のような感じなんですか? 最初に会った時とまるで違うから、恐ろしいです」
『暗雲』
アゴーニと会える。彼の様子は、心理学を振っても全く最初の時のまま、変わっていないと分かる。彼に奇妙な体験の事を話すと、訝しげになる。
「カガミハラさんとレッジズさんが、同じ顔した人間に殺されたと? は、はぁ……? ええと、それは、新手のジョークですか?」
【心理学】のロールが可能だが、それはPLから申告した時のみ認める。ロールに成功すると、確かに困惑しているものの、それとは逆に怪しい思惑が見え隠れしている事に気付けるだろう。
『電波』
ロシア号が一時停車した駅では、Wi-Fiが設置されていた。【コンピューター】に成功すると、ネットで調べても、モスクワで大掛かりな歴史調査が行われると言った話はなかった。
あれほどの調査隊が組まれているのなら、ニュースになっていても良いハズだが。各務原やレッジズの所属する大学や、研究所でも、紹介すらされていない。
『疑念』
「電波」で拾った情報をアゴーニに突き付けられるが、彼は「政府からの許可が下りるのが、もう少し先なんだ。それまで秘匿中なんだよ。モスクワに着く頃には、正式に発表されるさ」と躱す。他のメンバーに聞いても同じだ。
探索者は【心理学】か【アイデア】に成功すると、全員が何かをひた隠しているような気がしてならなくなる。疑念と不安から、【正気度 0/1D4】を行う。
『品物』
探索者は、各務原とレッジズが「離別」で一行から離れた後の翌日、二人のいた客席に侵入出来る。
中を捜索し、【目星】に成功すると、ベッドの隙間からナイフを発見出来る。この部屋で各務原らの最後を見た探索者ならば、そのナイフはあの時、二人の顔をした人間が握っていた凶器だと気付ける。
この時、【アイデア】に成功すると、何者かがドアの隙間から探索者らを覗いている事に気付ける。そしてその何者かは、探索者に気付かれるとドアをサッと閉めて、逃走を図る。
探索者は驚愕から、【正気度 1/1D4】を行う。
『逃走』
イベント「品物」にて、逃げた者を追いかける場合は、【追跡】が必要になる。
追跡に成功した場合、廊下を逃げる男の背中を見れる。【逃走者のDEX 14との対抗ロール】に成功で、捕まえられる。
捕まえてみると、彼は同行者のケビンだった。彼は「いなくなった先生たちの部屋に入る人たちがいたから、怪しんで覗いただけだよ!」と主張する。
なぜ逃げたのかと問い詰めるならば、「君たちが追いかけるから……」と口籠る。【心理学】に成功すると、激しい焦燥感が彼から滲んでいる事に気が付けるだろう。
すると列車は停車する。停車駅に到着したからだ。ケビンは列車の扉が開いた瞬間、探索者らを突き飛ばし、外に逃げてしまった。
『火炎』
逃げたケビンを追える。降りた駅は「クラスノヤルスク旅客駅」で、クラスノヤルスクとはシベリア中部にある都市だ。
停車したロシア号が、次に動き始めるのは22分後。探索者がそれまでにケビンを追い続けられるのかは、【DEX×4】に委ねられる。失敗の場合、出発時間が迫り、止むを得ず列車に戻る事となる。
縦横無尽に逃げ続けるケビンだが、【アイデア】に成功で、彼はこのクラスノヤルスクを知っているようで、土地勘があるように感じられるだろう。
クラスノヤルスクはシベリアで三番目に大きな都市であり、人口は百万人に登る。移民も多く、特に南からやって来たアジア系移民の姿も多く見受けられる。
中国人移民が開いたバザールに入り、人々を押し除け、店の商品を倒しながら逃げるケビン。探索者は彼が倒す障害物を4回ほど、【回避】や【STR×4】で躱したり排除したりしながら、バザールの中心でやっと彼を確保出来る。
彼を取り押さえ、動けなくさせた時、【聞き耳】で彼が「我々は誰でもなく、名前はない……やめてくれやめてくれ」と怯えながら呟いている事に気が付ける。
彼が言った「我々は誰でもなく、名前はない」は、オルドル・ネモ内で使われる合言葉で、後に幾多も探索者らは聞く事となる。
その時、突然ケビンの服が燻り始める。探索者は【アイデア】に成功で、彼の身体が異様に熱くなっていると分かる。
KPはPLに今一度、彼を逃すか否かを聞いておこう。
次の瞬間、彼の身体が一気に発火する。この時、PLがKPの問いを拒絶し、探索者をケビンに近付けたままにさせていた場合、衣服に火が燃え移ってしまうだろう。その探索者はまず、【正気度 1D4/1D6】と【1D6ダメージ】を負ってしまう。
他の探索者が【応急手当】のロールに成功か、或いは本人が【幸運】のロールに成功しない限り、1D6ダメージを受け続けてしまうだろう。
ケビンは身体から発生した火に苦しみながら、叫び声をあげる。彼から逃げる人々の当惑や悲鳴の中、ケビンは橋から川に落ちる。
川に入り、鎮火した後、そこには川面に浮かぶ黒焦げのケビンがいた。探索者は恐怖から【正気度 1/1D6】を行う。
また、火が付くまでケビンを捕まえていた探索者に限定で【アイデア】に成功すると、彼から出た火は服ではなく、彼の身体の中から噴き上がっていたと分かる。
ケビンの壮絶な死を確認した後、探索者らを引き戻そうとするローシとアゴーニが現れた。
アゴーニは「なんて事だ……! とりあえず、列車に戻るんだ! さぁ! 早く!」と探索者らを引き連れてロシア号に戻らせる。
すぐにロシア号は動き出す。その際にローシが、「君たちが追った後……彼の荷物から、妙な手紙を見つけたんだ」と言って、それを見せるだろう。そこには、列車で起こそうとしていた誘拐の計画が書かれていた。
ローシは、「彼はある人物を誘拐するつもりだった。その人物とは……また、明日教えるよ」と話してくれる。
ケビンの身体から出た火だが、それは「死の呪文」による魔術的な発火現象だ。あの場にいたローシが、口封じとして彼の身体の内部から炎を噴き上げさせた訳だ。
『翌日』
探索者がイベント「火炎」での一連を見た後の翌日に、アゴーニから呼び出される。
アゴーニの隣には、ローシとヴィジエロが立っている。そのままアゴーニは、説明を始めた。
「この少年……あー、失礼。この方は、かの、ロマノフ家の正統な、子孫なのです」と、アゴーニは言う。
【知識】に成功でロマノフ家とは、かつてロシア帝国を治めていた皇族と分かる。しかし1917年のロシア革命の際に、ロマノフ王朝は滅亡し、革命軍により一族は全員処刑されている。それによりロシア帝国は、ソビエト連邦社会主義共和国と変遷を辿った。
勿論、これらはアゴーニによる、探索者らの疑念を払拭する為に、止むを得ず取った方便だ。
探索者はヴィジエロに【心理学】を振ると、見るからに不機嫌な事が分かる。自分を少年扱いした事と、方便とは言え知らない王朝の子孫扱いにされた事が不快だったようだ。
「ロマノフ家の血縁は他にも、英国王室のフィリップ殿下や、マイケル・オブ・ケント王子、そしてロマノフ家の正統な血族として脈々と継がれ、ロシア帝室として残されております。現在でもマリヤ・ウラジーミロヴナ・ロマノヴァ大公女様などが、それに当たります。
彼もまた、その一人。我々は長らくベトナムにいた彼を、モスクワに護送するのが、役目の一つでした。
しかし彼は、当時のロマノフ王朝の隠し子から連なる血縁であり……言わば、歴史の汚点。華やかなロマノフ家のイメージを守る為、彼の存在を良しとしない勢力がいるのです。
その一人が、焼身自殺したケビンでした。ケビンは彼を誘拐し、卑しい人身売買のシンジケートに売り払おうとしていたようです。
ご紹介します。彼は、チェン・ロマノフ。ロマノフ家の、正統な血族です」
ヴィジエロも一応は了承しているのか、その通りに自己紹介する。
帽子を取ると、小麦色の瞳と大きな耳たぶが特徴的な、澄ました表情の少年の顔が露わになる。
一通りの話が済むと、探索者らはアゴーニから「この事は内密に」と念を押して、ヴィジエロを連れて解散する。
『夜中』
イベント「内緒」を通過した探索者に限定。五日目の夜に、ヴィジエロと10両食堂車で会える。
食事を摂る彼は探索者に気付くと、「一緒にどう? なに、代金は俺が出すよ。愚痴りたい気分なんだ」と誘う。
二人で食事中、彼はいつもとは違う荒い口調で、「奴らは俺を、道具か何かだとしか思ってないらしい。俺だって人間だ。寧ろその列車の誰よりも、尊ばれる人間なんだ。全く、腹立たしい」とぼやく。
【心理学】【医学】に成功すると、彼は酔っていると気付ける。また【アイデア】に成功すると、遠くの席からこちらを確認している、ボディーガードたちにも気付くだろう。
ヴィジエロは「ほら。俺を見張ってやがる。俺は監視されるのが大嫌いなんだ」と言ってから、聴き慣れない言語で罵声をあげた。
【人類学】や【博物学】に成功すると、何を言っているのかは分からないが、およそ世界にある様々な言語のどれにも当て嵌まらない発音をしていたと気付ける。彼に意味を聞くなら、「クソ野郎って意味だよ」と答える。
「こんな事、君に愚痴っても仕方がない。俺は一応、ロマノフ家の血縁って事らしいからね。皇族扱いだ。それがまた、嫌なんだ。皇族は嫌いなんだよ、昔から」
そう言い残し、彼は席を離れた。
シベリア鉄道で7日間の後、17時43分頃、ロシア号は終着駅であるヤロスラフスキー駅で停車する。つまり、ロシアの首都モスクワに到着だ。
モスクワは上空から見ると、巨大なクモの巣のような形で道路や線路が結ばれている。
そのクモの巣の中心こそ、クレムリンで有名な赤の広場だ。探索者らは駅からタクシーを使用し、この赤の広場に到着する。
二等寝台車の探索者も、アゴーニが「何かの縁だし、君たちもどうだい?」と誘う形で同行となる。
アゴーニが探索者らを連れ、広場の中で待たせる。曰く、迎えが来るとの事だ。
すると六人ほどの、ロシア人の男たちが探索者らの前に現れた。全員がスーツ姿に統一されており、どこか落ち着かなさがある。
彼らは勿論、ロシア語で話す為、探索者がロシア人じゃない限りは【ほかの言語(ロシア語)】が必要だ。
「遠路遥々、お越しくださいまして、誠にありがとうございます」
対してアゴーニは探索者らの前に立ち、ロシア語で「あの、あなたたちは?」と聞く。すると彼らは微笑みながら探索者の一人に近付き、突然手錠をかける。
「逮捕するように、言われているんだよ。『学長(ペクトル)』はご存知だろ?」
この男たちは、学者会が買収した刑事たちだ。警察を経由し、政府から隠れた状態でロシアを出る事が目的だ。
ロシア語が分からない探索者でも、彼が「ペクトル」と言った事は気付ける。
しかし、残念ながらアゴーニは、学者会側の人間ではない。アゴーニは刑事を突き飛ばす。
すると彼は「おいおい! ペクトルだよ! ペクトルを知っているだろ!?」と告げる。
次の瞬間、甲高い銃声が響き、刑事が倒れた。オルドル・ネモのスナイパーによる犯行だ。探索者は【正気度 1/1D4】を行う。
『最悪の始まり』
騒然となる広場。
探索者は【目星】に成功すると、聖ワシリイ大聖堂の窓から、彼らを狙うスナイパーに気付ける。
残った刑事たちは仲間が殺された事を察すると、即座に拳銃を抜き、探索者らに発砲する。【回避】に成功でダメージは無し、【幸運】に成功で【1D4ダメージ】を負う。いずれも失敗の場合は、【1D6+1ダメージ】だ。
刑事たちはスナイパーによって牽制を受け、場は混乱に陥る。
アゴーニは逮捕しようとする刑事を突き飛ばし、探索者らに「付いてくるんだ!」と命じる。
同行していた者たちはその際に散り散りとなり、ローシに関しては刑事の一人に捕えられてしまう。
探索者はヴィジエロを連れて逃げる事となるが【心理学】に成功で、ヴィジエロはこの状況に怯えているのではなく、怒りを醸していると気付けるだろう。彼は無意味に誰かが死ぬ事は望んではいない。
『騒然たる逃避行』
探索者はアゴーニの先導の元、モスクワからの脱出を図らねばならない。
何があったのかをアゴーニやヴィジエロに聞いても「話は後だ」と言って、まずは駅を目指させるだろう。
着いたのは、ロシア号を降りたヤロスラフスキー駅のほぼ隣にある、レニングラーツキー駅。アゴーニは即座に切符を買うと、来ていた列車に乗る。
駆け乗った寝台列車内で、アゴーニを問い詰めるなら、彼は白状する。
「……すまない。この彼は、ロシア政府に狙われているんだ。彼はロマノフ家の隠し子……政府としても、ロシアの沽券に懸けてでも隠したい負の遺産なんだ。
我々は、ロシア帝室に命じられ、彼をモスクワまで護送する任務を与えられていたんだ。ロマノフ家は彼を、正しい血縁として迎えたいとの事だ。
だが、外野がそれを良しとしない上……過激派が動いている。誰かが彼を、チェン・ロマノフを狙い殺そうとしている」
探索者が【心理学】に成功すると、確かに彼は正直に話していると思ってしまう。この時のアゴーニの演技は、あまりにも完璧だからだ。唯一、クリティカルだった場合、彼の言葉には微かに真摯さがない事に気付けるだろう。
これからどうするのかについて聞けば、アゴーニは「一つ、手がある」と言う。
そしてそのまま、「ノルウェーだ。フィンランドとスウェーデンを経由し、ノルウェーに行く。ロシア政府内にも、ロマノフ家に忠実な者はいる……国を動かすほどの大人物が、ノルウェーにいるんだ。ローシ君が捕まった以上、彼が何もかもを自白する前にロシアを脱出しなければならない」と続けた。
『列車の中で』
探索者が【コンピュータ】に成功すると、ネットニュースで探索者らが指名手配にされていると分かるだろう。ショックから、【正気度 0/1D4】を行う。
アゴーニは疲れているのか、窓際でグッタリとしていた。しかしヴィジエロは状況に反し、落ち着き払っている。
探索者は彼へ【信用】に成功で、話を聞ける。
「……アゴーニ・ハロードヌィは、嘘を吐いている。だが、刑事たちも嘘を吐いていたし、学者たちも嘘吐きだ。何ならあのニュースも、政府も、何もかもが、嘘吐きだらけだ。僕はもう、誰を信用したら良いのさ。君もまた、嘘吐きなのか?」
探索者がヴィジエロと親密な関係である場合、彼は続けて話す。
「……僕にはもう、話せる友人はいない。もう一度会えるが、話せないだろうな……だからさ、教えて欲しい。君は、俺の友人になれるのか?」
探索者が彼の問いにどう答えようが、彼はそれから黙り込んでしまうだろう。
彼の持つオパールのネックレスに関して、【考古学】【博物学】に成功すると、十年や二十では測れないほど古い代物だと気付ける。
『口論』
探索者らが暫し列車の個室で眠っていると、【聞き耳】に成功で声が聞こえてくる。
声の聞こえる方に行くと、アゴーニとヴィジエロが誰もいない車両で口論していた。
「ヴィジエロさん! あなた、どう言うつもりですか!? あの者たちと、親密になってはいけない!」
「一定の秘密は話していない」
「一定以上だ! 一定以上も話してならない! 我々が何の為に、あなたをここまで運んだとお思いで!? あの者たちが少しでも勘ぐれば……!」
「お前こそどう言うつもりだ。死者を出すのは、僕の本意じゃない」
「私がやったのではない!」
ここで探索者は【隠れる】で待機していても良いし、二人の元に飛び出しても良い。
隠れている場合、アゴーニは続ける。
「とにかく、とにかくです……大図書館まで、あの者たちとの接触は控えてください」
「大図書館なんて名前じゃない」
「仕方なく使っているだけです。我々、学者会の為……」
「アゴーニ・ハロードヌィ。貴様、本当に学者会の人間か?」
「……えぇ。学者会ですとも」
それっきり、アゴーニは話をやめて、ヴィジエロと共に戻ってしまう。
もし探索者が気付かれたり飛び出して問い詰めたりした場合、慌てるアゴーニの横でヴィジエロが呆れたように溜め息を吐く。
すると彼は「仕方ない」と呟き、探索者の前に手をかざす。
気が付くと探索者は、さっきまで自分が眠っていた席に座っていた。
ヴィジエロが自身の魔術で、探索者を眠らせた訳だ。
翌日、朝の8時。寝台列車は14時間かけて、フィンランドの首都であるヘルシンキに到着する。探索者らは事前にアゴーニから渡されていた入国カードを駅員に見せて、駅を出る。
フィンランド湾を望める、海沿いの瀟洒な街だ。だが、街を見て回る時間も余裕もない。すぐにヘルシンキ中央駅から、トゥルクと呼ばれる湾岸の街へ行く。
トゥルクはフィンランド最古の街として有名で、またスウェーデンのストックホルム行きのフェリーが航行している。
探索者らは、そのフェリーに乗り、ストックホルムを目指す事となる。
『思い人』
航行中のフェリーの中で、【聞き耳】に成功すると、聞いた事のない言語だが、美しい歌声が聞こえて来る。
声のする方に行くと、甲板で歌うヴィジエロの姿に気付く。美麗な海と、青空に雄々しい雲など、その姿は妙に様になっていた。
探索者がシベリア鉄道内のイベント「形見」にてレッジズの本を翻訳していた場合、【アイデア】に成功で、あの本の歌ではないかと気付けるだろう。
ヴィジエロの歌に聞き惚れた乗客たちが、歌い終えた彼に拍手と賛辞を送っている。
満足げなヴィジエロは探索者に気付くと、「帰るべき場所に捧げる歌だよ。故郷に伝わる歌なんだ。魂の歌って名前さ」と話してくれる。
また親密度の高い探索者に対しては、「俺にだって愛している人はいるさ。大事な親友も恩師もいる。この旅は、みんなの元に帰る旅なんだ」と話す。もし、探索者が歌の内容を知らないのならば、その翻訳を教えてあげても良いだろう。
暫くするとアゴーニが現れ、ヴィジエロに注意をして歌わせないようにしてしまう。
『冷戦期』
【幸運】に成功で、フェリーに乗船していた、探索者と同じ国籍の人間と親しくなれる。
彼は兵器や、そう言った物が好きな人物らしい。
「こう言う話があるんだ! 冷戦期、ソ連は国家プロジェクトの下で最強の兵器を作っていた。それは水陸両用の戦車とも、ホバー飛行可能な偵察機だとも、巨大な潜水艦だとも言われている。
だがソ連解体の混乱中に、どこかに消えたとも言う。ソ連の終わりを察した士官がその兵器を手土産に亡命したとか、或いはソ連の再興を夢見て兵器だけ奪ったとか、色々と言われているよ」
彼の言った話は、オルドル・ネモの本拠地であるレッド・ノーチラスの事を指している。
『紛失届』
探索者は【図書館】か【コンピュータ】に成功で、図書館の場合はフェリー内の翻訳さらた学術誌から、コンピュータの場合はネットニュースからある事件を知れる。
曰く、ノルウェーで発掘された、70万年以上前のオパールのネックレスを、研究チームが紛失したと言うものだ。
写真も添えられているが、【アイディア】に成功で、ヴィジエロが着けている物と酷似していると気付ける。
フェリーが到着した先は、スウェーデンの首都、ストックホルムだ。
バルト海沿岸にあるこの街は、陸の分かれた島々を橋で繋げたような街となっている。その為、街全体がまるで水の上に浮いているかのような景観となっており、「北欧のヴェネチア」として有名だ。
また、ノーベル賞受賞式の開催場所としても有名だろう。
アゴーニはストックホルムに着いた途端、二等寝台車導入から入った探索者に「南部にある、マルメと言う街に向かって欲しい」と頼む。
なぜかと聞くと、「マルメにいる仲間が、我々を匿えるとの事だ。このまま僕らはノルウェーを目指すが、巻き込まれた君たちはそこに行くと良い。そして三日間ほど、そこで隠れておくんだ。三日後、僕が君たちを迎えに行く」と話す。
既にチケットは用意されている。ここでストックホルムからノルウェーへバスで向かう組と、列車でマルメへ向かう組と分かれる事となる。
これは、追手を巻く為の算段だ。マルメの方に行く探索者らがヴィジエロを運んでいるんだと偽の情報を擦り付け、足取りを消そうとしている訳だ。
導入の分岐がない場合、KPが自動的にどちらの方に行かせるかを決める。
『マルメへ』
こちらの分岐は後々、激しい戦闘が繰り広げられるので、探索者の数は多めに、そして戦闘技能や運転技能に恵まれた者が望ましい。
アゴーニに指示され、こちらの探索者らは貰ったチケットを手に列車を利用してマルメへと向かう。
スウェーデン国鉄の駅に改札はなく、チケットは車内で検札する形となる。車掌が本物だと確認した事で、探索者らは難なくマルメ行きの寝台列車に乗れるだろう。
特にイベントはない。大体六時間後には、マルメの駅に到着する。
しかし到着した途端、駅前で数多の武装した警察に囲まれ、連行されてしまう。
探索者らは全員、頭に布を被せられ、視界を奪われた上で車に乗せられる。
突然の出来事に、探索者らは【正気度 0/1D4】を行う。車が発進したと同時に、麻酔を打たれて気絶する。
『ノルウェーへ』
こちらの探索者は、一人か二人だけでも構わない。ヴィジエロと好感度の高い探索者がいるのが望ましい。
アゴーニ、ヴィジエロと共にノルウェーへと向かう探索者らは、バスを乗り継ぎ、スウェーデンとノルウェーとの国境に到着する。
バス内のアゴーニはただならぬ雰囲気で、喋りかける事も憚られるほどに辺りを警戒している。
ヴィジエロもどこかソワソワし出し、落ち着かない様子だ。話しかけても「何でもない」と誤魔化すが、暫くして【聞き耳】に成功すると、聞き慣れない言語で独り言を呟く彼の声に気付ける。その声は、いやに興奮と期待に満ちていた。
KP向けに、彼が何を言ったのかを書き表すと、「あぁ、もう少しだ……分かる、分かる……もう間も無く、家族や皆に会える」と言っている。
バスは半日かけて国境に到着。下車し、国境検問所で手続きをするのかと思えば、検問所前に並んでいた国境警備隊にアゴーニは歩み寄る。
アゴーニが、警備隊の一人に「名を名乗れ」と言う。すると隊員は「我々は誰でもなく、名前はない」と奇妙な答えで返す。
すると警備隊は身体検査やパスポートの確認もせず、あっさりとアゴーニや探索者らをノルウェーへと通す。
実は本物の警備隊は全員殺され、ロキの力で顔を変えて入れ替わった、オルドル・ネモの面々が国境警備隊として検問所を掌握していた。アゴーニとの問答は、燃やされたケビンも言っていたオルドル・ネモ内の合言葉だ。
アゴーニに訳を聞けば、「言ったろ。我々を助けてくれる人物だ」としか答えない。【心理学】に成功で、彼からは途方もない歓喜が滲み出ている事に気付けるだろう。
また警備隊に【武道】【マーシャルアーツ】をロールすると、彼らの動きは警備隊と言うより軍人のようだとも気付ける。
探索者らはノルウェー側の検問所駐車場にある車に乗ると、アゴーニの運転でどこかへと発進する。
行き先を聞くなら、「ナルヴィクだ」と答えてくれる。
【知識】か【ナビゲート】のロールに成功すると、ナルヴィクについて探索者は思い出す事が出来る。
ナルヴィクはスウェーデンの北部にある古い不凍港で、森の向こうの山々に囲まれた場所にある辺境の地だ。
そこは北極圏に位置しており、冬場だとマイナス四度ほどにまで気温が下がるが、海流と街を囲む山々が強風を遮っているお陰で、通常は四度ほどと比較的温暖な気候だと言う(それでも日本人の感覚だと、すこぶる寒いが)。
また、第二次世界大戦時は、ドイツ軍と連合軍とで激しい戦闘が繰り広げられた歴史もある。
探索者らは更に半日かけて、アゴーニと共にナルヴィクへと向かう事となる。
マルメで捕縛された探索者らは、気が付くと手足を縛られた状態で椅子に座らされていた。
そこは豪華絢爛とした、誰かの書斎のような広い部屋だ。暖炉があり、高級であろう赤い絨毯が敷かれている。
また四方は本棚で囲まれ、びっしりと本で埋め尽くされている。本のタイトルは様々の国の文字が使われており、部屋の主人の国籍が把握出来ない。
正面には執務机が置かれ、何者かが椅子に座って資料を読んでいた。
探索者が今いるこの場所は、学者会の本拠地である船「クレアートゥス・ソリス号」の上であり、この資料を読んでいる人物こそ、学者会を束ねる「チルヒートマン」だ。
『チルヒートマン』
彼は白髪と白髭を綺麗に整えた、黒人の老紳士だ。【目星】か【人類学】に成功した場合は、年齢に対して体格はしっかりしていると見て、元軍人ではないかとも気付ける。
老紳士は探索者らの覚醒に気付くと、控えていたボディーガードらに「拷問をするんじゃないんだ、拘束を解いてやれ」と言い付け、探索者らを解放させる。
本棚に詰められた本を見渡し、探索者は【考古学】【人類学】【地質学】【博物学】【歴史】のいずれかに成功すると、分かる範囲で読み取った本のタイトルはどれも、氷河期かそれ以前の歴史に関した学術書ばかりだと気付ける。
また地質学に成功した場合のみ、殆どの本が北極圏やグリーンランドの調査記録だとも分かる。
老紳士は椅子から立ち上がり、探索者らの前まで歩き、一、二度ほど頷いた後に自己紹介を始める。
「私に国籍や、生まれた名前はない。そして経歴も、出自も、何もない。ただ、世界各地の同志は私をこう呼ぶ。『学長(ペクトル)』、或いは……チルヒートマン」
ここで一度、アゴーニ側の探索者らに視点が移る。
『ナルヴィク Narvik』
探索者らはナルヴィクに到着。アゴーニに案内されるがまま、寂れた港まで歩く。
雪が降り始め、海には氷河が幾多もあった。寒々とした白色の景色の中で、アゴーニは港にいた男に「名を名乗れ」と言う。
だがその男はオルドル・ネモの人間ではなく、英語が通じずに当惑している様子。
その時、突然男は白眼を剥き、頭部から血を流して倒れた。背後にいた、サプレッサー付きの銃を持った男が、「我々は誰でもなく、名前はない」と答えた。探索者らは【正気度 1/1D4】を行う。
ヴィジエロが「殺す必要はなかっただろ!?」とアゴーニに問い詰めると、彼は不敵な笑みを浮かべ、「全員捕らえろ」と命令する。
ヴィジエロと探索者らは港に潜んでいたオルドル・ネモの兵士たちに拘束され、埠頭まで連行される。
そして彼は探索者らの前で静かに、「君たちは幸福な人質だ。これから、文明の再出発を見る事が出来るのだからな」と告げた。
海に巨大な泡がブクブクと立ち上り、海底から赤い二つの光が放たれる。
轟音と海を割る、赤い目の黒い影が探索者らの前に現れた。
怪物かと見紛うソレは、巨大な潜水艦だ。赤い目とは、ライトの事だ。アゴーニは潜水艦を背景に探索者らを見据え、冷え切った無表情で話す。
「大海を割る黒鋼の刃、深海より天を望む緋色の瞳。その正体は、革命に燃ゆる冷戦の秘宝……これが、レッド・ノーチラス号だ。我々オルドル・ネモが歓迎しよう」
そのまま探索者らは、ヴィジエロと共に潜水艦に乗せられる事となる。ここでまた、学者会側の視点に戻る。
チルヒートマンは探索者らに椅子と紅茶を用意し、香りの良いアロマまで焚いてくれる。
「良い香りだろう。これは『アンバーグリス』、または『龍涎香』と言う物を使用したお香だ。
どこで作られる物だと思う?……正解は、マッコウクジラの腸内だ。
これはマッコウクジラが消化し切れなかったエサが、消化分泌物によって結石となった物。クジラの排泄物から外れ、運良く海岸に漂着した物をお香として使う、大変貴重な物だった。
それが捕鯨技術の進歩により、採れる量は限られるものの、比較的容易に手に入れる事が出来た……さりとて現在、乱獲され続けたマッコウクジラが、絶滅危惧種に指定された事で捕鯨は禁止。また運良く、海岸に流れ着くのを待たねばならなくなった。
例え科学が進歩しようとも、こればかりは仕方あるまい。進歩の為、使い潰してしまった物のツケを、我々が払わねばならなくなった……時に人類は、進歩を捨て、自然から手を引かねばならない。分かるか?」
ここからチルヒートマンは、オルドル・ネモの存在について話してくれる。長台詞になる為、気を付けて欲しい。
「世の中には、この考えを、過激に捉える者もいる。そいつらは、人類の存在こそを悪とし、他の生物を絶滅から救う為、崇高なる人類文明を駆逐しようとしている。
馬鹿な奴らめ。人類もまた、自然の一部だと言うのに……そう言った組織の中で、我々が特に危険と捉えて追い続けていた者たちがいる。『オルドル・ネモ』、訳せば『名も無き騎士団』。
奴らは海洋生物を守る為、要人暗殺を請け負いながらも世界各国の船を破壊して回っている、暗殺組織だ。奴らの武器は、巨大な原子力潜水艦、レッド・ノーチラスだ」
チルヒートマンはそう言って、探索者らに資料を渡す。
「レッド・ノーチラス号」
1991年のソ連解体の混乱に乗じ、姿を消したタイフーン級原子力潜水艦。世界最大級の巨体を誇る。
超静音航行システムにより、ソナーに感知されない完全なステルス性を持つ。海中でこの艦を追跡可能な技術は、現在でも存在していない。
ソ連からの奪取後、海洋生物の保護を訴えていた富裕層らが潜水艦を買い取り、「オルドル・ネモ」と名付けた傭兵組織を立ち上げた。
現在でもオルドル・ネモの本拠地として、海洋を航行している。暗殺者として彼らを起用する者や、活動に賛同する資本家たちの支援の下、漁船や商船、国籍関わらず沈没に至らしめている。
浮上時を捉えた衛星写真から、兵装に魚雷や熱誘導ミサイル、クラスター爆弾や機関銃の存在が確認されている。
資料を読ませながら、チルヒートマンは続ける。
「奴らはただの活動家ではない、軍隊だ。メンバー全員がプロの暗殺者であり、ベテランソルジャーでもある。
我々は長年、奴らを追ったが、どうしてもメンバーの顔どころか、リーダーすらも分からなかった。彼らを指揮する者はどこにいる? 潜水艦の中か? インドの山奥か? マリーナベイ・サンズの最上階か? もしかすれば、クレムリンやホワイトハウスの中で、大統領の側近をやっているのかもしれない。
だが、我々はやっと掴めた。そして、掴めた頃には遅かった……アゴーニ・ハロードヌィ。我々、学者会のメンバー……灯台下暗しとはこの事だ。諸悪の根源は、我々の中にいたのだ!
奴の経歴は潔白だった……まるである時に、別人になったかのように、奴がオルドル・ネモのリーダーとなっている。
不可解な事だが……奴らは、何か人智を超えた……力を持っているのかもしれない」
ここまで話を聞いた探索者なら、ヴィジエロが何者なのか、学者会は一体どう言った組織なのかなど、疑問に溢れている頃だろう。
そう言った質問を受けた上でチルヒートマンは、ヴィジエロについて話を始める。
「彼はチェン・ロマノフではない。ロマノフ家の血族だとは、カバーストーリーだ。
彼の本名は、ヴィジエロ……『ハイパーボリア人』だ」
ここで描写は、オルドル・ネモに連行された探索者らの方へ移る。
レッド・ノーチラスは再び潜航し、深い海の中を進む。武装した兵士らに連れられながら、探索者らは艦内にある狭い牢屋に詰め込まれる。この際、探索者の持ち物は全て没収される。
数多の機材や、ソナーによる断続的な音が響き続ける中、探索者はまず牢屋の状態を見る事が出来る。広さは二畳ほどで、格納庫の隅を利用した後付けの牢屋だと分かる。
牢屋の外を見れば、何か機械的な筒が多く並んでいた。探索者は【知識】か【機械修理】に成功で、その筒は熱誘導ミサイルだと気付ける。ここはミサイル庫のようだ。
暫くすると、牢屋の前にヴィジエロがやって来る。神妙な顔付きで鉄格子越しに、探索者らを見据えて話す。
「アゴーニらと話を付けた。目的地に着いたら、俺の魔術で君たちの記憶を消し、解放させる事を約束したよ」
魔術と聞き困惑する探索者らに、ヴィジエロはアゴーニから貰い受けたと言うロシア政府の機密文書を渡す。元はロシア語だが、ヴィジエロが探索者の国籍に合わせて翻訳してくれたようだ。
「オロトゥカーン文書」
1975年、カザフスタンとの国境付近にて旧ソ連軍が発掘。形状は石棺のようだ。
石棺の扉は開かず、また様々な火器を行使しても破壊は出来なかった。超音波も阻害され、中の様子も確認出来ない。
旧ソ連はこの石棺を「パンドラ」と名付け、ロシア成立後もオロトゥカーン基地にて保管し、研究が続けられた。
しかし、突如としてオロトゥカーン基地は、何者かによる襲撃を受ける。残ったのは兵士の死体と、開かれた石棺のみ。
ロシア政府は監視カメラに映っていた、アラブ人と思われる男と、白髪の少年を事件に関与したテロリストとして、追跡を開始する。
それを読ませた上で、ヴィジエロは床に座り訳を説明し出した。
「かつて原人の時代に、魔術と儀式よって栄えた国があった。だがいつしか滅び、グリーンランドと呼ばれる島国の底……邪悪な魔力で作られた凍土の深淵に今も眠っている。
その国は、『ハイパーボリア』……俺の故郷だ。
俺はロマノフだとかの子孫なんかじゃなく、チェン・ロマノフと言う名でもない。俺の名はヴィジエロ……文書にあるパンドラの中に封印されていた、純粋なハイパーボリア人なんだ」
彼は証明の為、自身の体毛にかけた魔術を解き、真っ白に透き通った体毛を持つ真の姿を見せる。これによる正気度の減少は、特別に無いものとする。
「この通り、俺は魔術師だ。と言っても、下位魔導士だけどね。
ハイパーボリアが滅亡した際、俺は生き残りと共に新大陸に避難した。彼らはそこでまたやり直すつもりだったが……俺は、ハイパーボリアを復活させたかった。
ある時、老魔導士から教えを受け、『スルトの目』と言う物を知ったんだ。それを使おうとしたが……どうやらこれは、禁忌だったようだ。王族どもに捕まって、訳も聞かされないままに不老不死の呪いをかけられ、石棺に閉じ込められたよ。75万年も、魔力で固められた棺の中に。
封印を解いてくれたのは、学者会が依頼した魔術師だ。そして今、俺はここにいる」
説明を終えた彼はまた立ち上がり、探索者らに背を向ける。
「……自分に眠りの魔法をかけたとは言え、時々目覚め続けた75万年間……気が狂いそうだった。だが耐え切れたのは、故郷に帰る為……そこに連れて行ってくれるなら、学者会だろうがオルドル・ネモだろうが、最早誰でも良いんだ」
それだけ言い残し、姿を消してしまう。
学者会側の探索者の視点に戻る。ヴィジエロの正体やハイパーボリアの件については、《オルドル・ネモ Order Nemo》での話をPLで共有させておこう。
チルヒートマンは暖炉に薪をくべながら、探索者らの質問を待っている。KPは、以下の質問について受け付ける事が可能だ。
・モスクワまでの護送の意味は
「オロトゥカーン基地から脱出させた際、ヴィジエロ君はテロリストの扱いを受け、ロシア政府は秘密裏に彼を追っていた。
こちらが雇った魔導士は捕まってしまったが、何とか我々はヴィジエロ君だけを保護した。ウラジオストクに隠れていた彼をこの船に届ける為には、モスクワで買収した警察署まで行かねばならない……そこでロシア政府には飛行機で脱出したと言う嘘を流し、アゴーニや各務原、レッジズらにシベリア鉄道での護送を命じた。
君たちが同行させた理由は、経歴が潔白な人間を混ぜる事で、更にロシア当局を欺く為だった。その目論見自体は成功した……アゴーニが敵とは気付けなかったがな」
・なぜヴィジエロが必要なのか
「凍土の底に眠るハイパーボリアは、純粋なハイパーボリア人のみでしか復活させられない。グリーンランドの凍土は何か、特殊な魔力に守られているのか……掘り起こす事が出来なかった。
もはや、ヴィジエロ君しかいないのだよ」
・ヴィジエロの他にハイパーボリア人は
「末裔を、ロシア北部で発見した。だがそこにいたのはまるで、原始人のような部族だけだった。ハイパーボリア人は故郷の崩壊後、著しい衰退を辿り、今や猿と人の間のような存在に成り果ててしまっていた。
勿論、魔術は使えない。ハイパーボリアの復活もさせられなかった」
・ハイパーボリアはどうやって復活させるのか
「それはまた、グリーンランドに到着してから説明しよう」
・ハイパーボリアを復活させる理由は
「我々はハイパーボリアの呼び方に、大図書館と言う暗号を使っている。それはハイパーボリアにこそ、今現在人類が抱える全ての問題の、解決法が眠っていると信じているからだ。
知恵と、自然さえも乗り越える力が、ハイパーボリアにある……学者会はその理念の下、私が開いた秘密結社なのだよ」
・ハイパーボリアはなぜ滅びたのか
「ヴィジエロ君に聞くハズだった。彼が我々の言語を学び、話してくれるその前に、奴らに奪われてしまったがな。
氷河期の到来が原因と思われるが、ハイパーボリア人ならば簡単に寒冷など凌げたハズ……最大の謎だ」
・自分たち(探索者)はどうしたら良い
「君たちがオルドル・ネモの人間かと考えて連行したが、経歴で無関係な事は確認した。無関係ならば、どう言った過去があれど、我々は追求する気はない。だが今、訳あって君たちを解放出来なくてな。
グリーンランドに着けば、そこから我々の権限を使って、祖国行きの飛行機を手配しよう」
・これからどうする
「ヴィジエロ君を奪還せねばなるまい。とは言え、奴らはグリーンランドに向かう他ないだろう。問題は、氷河の下に隠れた探知出来ない潜水艦をどう、見つけるのかだ。
ゴールはグリーンランドと言えど、グリーンランドは日本の五倍も広い。国内に入られれば、我々の負けだ。
それに奴らは人質として、君たちの友人を乗せている。どうすべきか……」
途端、部屋が大きく揺れた。チルヒートマンは涼しい顔で、「付いて来たまえ」と先導する。
探索者らがチルヒートマンの後を追い、部屋を出て長い廊下を抜けると、自分たちは巨大な船の上にいると分かる。
全長135mにも及ぶ砕氷船だ。船上の甲板には学者会が雇った傭兵たちが訓練を行っている最中でもある。
船が揺れた原因は、氷に覆われた海に突入したからだ。乗組員が右往左往とする中で、チルヒートマンは白い息を吐きながら船を紹介する。
「ここが、学者会の本拠点だ。名は、クレアートゥス・ソリス号。今、北極海に入った……このままグリーンランドを目指す。それまで、ゆっくりしたまえ。ここにいる者たちは、五カ国語を話せる者たちばかりだ。国籍を気にせず、会話も楽しみたまえ」
そう言って彼はまた、自室に戻った。
探索者は【知識】【その他の言語(ラテン語)】に成功で、クレアートゥス・ソリスとは、ラテン語で「作られた太陽」と言う意味になると気付ける。
ここからグリーンランドに到着するまで、このクレアートゥス・ソリス号を散策出来る。
『武器庫』
探索者は船内にある武器庫に入れる。中にいる兵士が探索者らを見ると、「危ないから出て行け」と追い出される。
追い出される刹那に【目星】に成功すると、拳銃や小銃、散弾銃や爆弾など軍が保有しているような銃火器があると分かる。
探索者が軍人か、或いは【拳銃】【サブマシンガン】【ショットガン】【マシンガン】【ライフル】などの火器技能ロールに成功すると、殆どが旧ソ連製の物ばかりだと気付ける。
その事を兵士に言うと、関心を示した彼は「良く知っているな。学長はソ連製の銃が好きなようなんだ。いつも言っていた、『銃はソ連。服は中国。飯はアメリカ。車は欧州』とな。彼は国や歴史ではなく、今の世界を見ているんだ」と教えてくれる。
『車庫』
船内の広い貨物室には、数多の高級車が乗せられていた。整備士に話を聞くなら、「学長が陸に上がった時用の車です」で話す。
車の中には軍事用のオフロード車もあり、整備士はここにある車を、氷上を走っても大丈夫なように特殊なタイヤと入れ替える作業をしているところらしい。
探索者がレーサーか車好きか、【運転(自動車)】【機械修理】【重機械操作】のロールに成功すると、以下の車種があると分かる。
・「ヴァンデン・プラス・ツアラー」
・「ローススロイス・ファントム」
・「光岡・ビュート」
・「ジャガー・Eタイプ」
気付けた特典として、最終局面で選べる車の一覧に、上記の車が追加される。
『傭兵たち』
甲板で訓練中の傭兵に話を聞く。曰く、「寒さに身体を慣らす為に、ここで訓練をしている」との事。
これだけの大軍を揃えた理由を聞けば、「それほど、オルドル・ネモが不明瞭で不気味って訳だ。噂じゃ、潜水艦の中以上に兵がいるって話も聞く」と話してくれる。
その通り、オルドル・ネモは潜水艦の外にも、顔を変えて一般人として潜んでいる。
残念ながら、既に船内に乗り込まれてもいる。
『食堂』
ここで英気を養う事が可能。食事によって、失われた正気度を【1D6回復】させる事が出来る。
料理を絶賛すれば、右腕からうっすら見える刺青が厳ついものの、優しそうな顔つきのコックに「ありがとうございます」と感謝される。実はこのコックが、オルドル・ネモの工作員だ。
『操舵室』
船を操作する、重要な場所。皆作業に忙しく、探索者らは相手にして貰えないが、変わった形状の出入り扉を見て【幸運】に成功の場合、フロアを管理する操舵長が「興味あるのか?」と説明をしてくれる。
「この扉は、緊急事態時に自動ロックがかかるようになっている。船がジャックされた場合、ここだけでも守る為のシステムだ。開けるには私が持っているこの、アクセスキーが必要となる。テロリストに制圧されたとしても、船の主導権は我々が必ず握れるよう、導入されたものだ」
『学長室』
チルヒートマンのいる部屋に戻る事も可能だ。彼はハイパーボリアについて書かれた、あの「エイボンの書」を読んでいた。
何の本を読んでいるのかを聞くと、「これか? エイボンの書だよ」とあっさり話す。
「ハイパーボリアの偉大なる魔導士にして、異端者エイボン。私はこれを発見し、翻訳した事で、ハイパーボリアの存在を確信し、学者会を作ったと言うのが経緯だ。
長い時間をかけた。だが、ハイパーボリア崩壊の以前に書かれたものが為に、崩壊の原因が分からなかった。
中には様々な呪文が書かれている。例えばこの……ルリム=シャイコース? とかか?」
それだけ言い残すと、彼は探索者らに「集中したいから退室していただけないか?」と願う。
探索者は【隠れる】によって部屋の前に隠れ、チルヒートマンが出て行ったタイミングで再度入室可能だ。室内で、以下の物を調べられる。
・机の中
執務机の引き出しの中には丁重に保管されたアメリカ軍の勲章が多くあり、彼が元軍人だと察する事が出来る。中にはアメリカで授与される最高の勲章の「名誉勲章」も見受けられた。
また引き出しの中には鍵のかかった物もあり、【鍵開け】で開くと、数多の外国語で書かれた手紙の束を確認出来る。探索者の国籍の国の最高指導者の物も存在し、その他世界各国の有権者や富豪からの手紙がある。
内容自体は文通でやり取りする程度の他愛の無いものではあるが、チルヒートマンがとんでもない人物であると気付けるだろう。
・エイボンの書
読む事は可能だが、文字はラテン語でも英語ですらないので、諦める他ない。【人類学】【歴史】に成功で、どこの世界の文字でもないと気付ける。
中身はチルヒートマンによってところどころ翻訳されており、【ほかの言語(英語)】に成功した場合、『ルリム=シャイコースの力の一端を行使』と言う呪文があると分かる。探索者には使えないので注意。
・考察書
チルヒートマンがエイボンの書から抱いた疑問を書き記した、英語の書物。こちらは英語圏出身の探索者か、【ほかの言語(英語)】で読む事が出来る。
「エイボンが記した、『スルトの目』。彼はやけにこの存在の紹介に消極的なようにも思える。このスルトの目を使えば、ハイパーボリアの浮上が可能となる……しかし何か、エイボンはスルトの目を恐れていたのではないか?
何か我々の見落とした、重大な懸念があるのではないか?」
もしファンブルが発生した場合、ボディーガードが部屋に入って来て探索者を叩き出すだろう。その際、耐久力を【1D4+1減少】させる事。
『資料室』
資料室内で、【図書館】に成功すると、以下の情報が手に入る。
図書館ロールでクリティカルが出た場合に限り、「報告書・2」も開示可能だ。
「報告書」
シベリア鉄道沿岸にて、ロシア号から投げ捨てられたと思われる、ヴィジエロ護送チーム8人全員の死体が発見させた。
学術隊の各務原、レッジズ、モーリー、ベイカー、ケビン、ローシ、そしてヴィジエロ護衛のボディーガードであるジェイク、マリオの二人。
発見された頃には、既に隊はモスクワから逃走を図った後。学者会はアゴーニをオルドル・ネモの一員と断定し、行方を追跡中。
情報にあったマルメで被疑者を確保するも、アゴーニとヴィジエロの姿はなく、彼らもまた騙されただけの人間だと判明。
スウェーデン国内の国境警備隊に注意を促すが、隊員全員が殺害されており、入国を許してしまう。追跡は不可。
これより学者会はソルジャー部隊を招集し、グリーンランドに急行する。
「報告書・2」
スルトの目は、純粋なハイパーボリア人の魔力と血によって目を覚ます。つまり現在この地球上で、ヴィジエロしか動かせない。
それはオルドル・ネモの面々も承知のハズだ。ソルジャー部隊は、スルトの目の守護、ヴィジエロの確保、オルドル・ネモの殲滅が任務となる。それぞれのチームに分かれ、作戦を開始する。
人工衛星によって周囲は監視可能だが、海底にいるレッド・ノーチラスはどうにもならない。
また、【幸運】に成功で、現在の気象に関する「報告書・3」も偶然発見可能だ。
「報告書・3」
昨夜より、グリーンランド上空にて大規模かつ長時間的なオーロラの発生が確認されている。近年稀に見る規模との事。
スルトの目との関連性は不明。また、オーロラの電流により電離層の大気が加熱されていると言う、ロスコスモス(ロシアの宇宙局に当たる国営企業)からの報告あり。
熱で膨張した大気に人工衛星が巻き込まれると、軌道が狂い、地球に墜落する。これ以上のオーロラの発現が続けば、グリーンランド上空の人工衛星が危機的状況に陥ると思われる。
立てられる予想としては、ヴィジエロの存在がスルトの目と近付く事で、何らかの機能を取り戻しているのではないか。
何にせよ、思いもよらない現象だ。オーロラの妨害により、上空の衛星が使えなくなる可能性も危惧される。
この報告は一部間違いだ。擬似太陽装置を操作しているのは、ロキだ。ロキが装置を使って磁場を操作し、オーロラを発生させていた。
また探索者がスルトの名前を知った時に、【知識】【オカルト】か【博物学】に成功すると、「北欧神話に登場する炎の巨人。名前の意味は黒、或いは、黒き者」だと分かる。
『研究練』
何かを研究している場所ではあるが、探索者は入る事は出来ない。
KP用に説明すると、ここではグリーンランドから切り出した、遺体入りの氷を研究している。後に船が大破するようなイベントが起こるが、探索者はその後に侵入可能となる。
学者会側の探索者らの探索がある程度の目処が付いたなら、再びオルドル・ネモ側の描写に戻る。
一日は既に経過していた。不気味な駆動音しか聞こえない牢屋の中に探索者らがいると、ヴィジエロが必死の形相でやって来る。
「ここから出よう……! 俺は騙されていた……オルドル・ネモとかにじゃない。75万年前からずっとだ……!! 分かったんだ……! 俺の封印を解いた奴と、この潜水艦の奴らを指揮する奴の正体が……!」
彼はロキの正体が、75万年前に擬似太陽の事を教えた老魔導士と同一人物たる『なにか』だと気付いたようだ。
もし探索者の中に、ヴィジエロと親しい者がいた場合は、続けて彼は話してくれるだろう。
「あいつの目的は氷を溶かす事じゃない! 俺を使って全部消し炭にする気だ……! あのロキって奴は、『この世の者ではないなにか』だったんだ……!」
そう言ったところで彼の身体は急に硬直し、言葉も喋れなくされた上で床に倒れた。突然の出来事に【正気度 1/1D4】を行う。
倒れた彼の背後に立っていたのはアゴーニと、モスクワで捕まったハズのローシ・モシェンニクだった。ヴィジエロはローシの魔術に支配されてしまったようだ。
『ローシの正体』
彼は人懐っこい笑みを浮かべながら、話し始める。
「ローシは、ロシア語で『嘘』。モシェンニクは、『詐欺師』。どう? 僕に相応しくないですか?
お久しぶりです皆さん。僕が、オルドル・ネモの魔術師、ロキだよ」
ローシことロキは、アゴーニに守られた状態でヴィジエロの隣に立つ。
ロキは甘ったるい声で、オーロラが発見している事を告げる。
「ヴィジエロくん。今、スルトの目は君を待ちかねてウズウズしているようだよ? 君の存在に気付いて、その目を少し開けたようだ。
グリーンランドの上空は、オーロラで覆われている。気温も高くなり始めた。氷の下から、ハイパーボリアを浮上させる礎は整いつつあるよ。
良いかい? あそこの氷は、普通じゃないんだ。生半可な火では解けないし、深くまで掘る事も出来ない。
スルトの目は、それを唯一溶かす魔法なんだ! そしてそれは君の悲願だったと言うのに、何が不満なんだい? 75万年に渡って抱き続けた覚悟を、無駄にする気かい? その為なら別に、ちょっとばっかしの人間の命ぐらい軽いだろうに」
探索者は【アイディア】に成功すると、このロキから発せられる狂気があまりにも強大である事に気付く。【正気度 0/1D4】を行う。
その後、ロキの話を続けたのはアゴーニだ。
「我々の目的は、スルトの目を使って北極の氷を溶かし尽くし、海水を増やして人類史を洗い流す事。
だから、スルトの目を動かせる純粋なハイパーボリア人たる、ヴィジエロさんが必要だった。学者会は人類に影響が出ない範囲の浮上を求めていたが、我々は違う。やるなら、溶かし尽くすまで」
そう言いながら彼は徐に、自身の首の皮膚を摘んで持ち上げる。
『顔のない怪物』
自らの首の皮膚を掴み、それを引くと、顔の皮膚がまるでマスクを取るかのように剥けたではないか。そしてその下にあるのは、筋肉が剥き出しとなった皮のない顔面だ。
探索者は衝撃から、【正気度 1/1D4】を行う。
彼は皮膚を戻して説明する。
「ロキ様の魔術により、我々は自分の顔を捨て、他人の顔に成り代わる事が出来る。オルドル・ネモのメンバーの顔が未だバレていないのは、元々、顔なんて無かったからだ。
お陰で、我々は長年正体がバレずに暗躍出来た。そうだ、俺はアゴーニ・ハロードヌィと成り代わった別人だ。本物のアゴーニはとうの昔に、香港の海底で寝惚けている。
そうやって我々は学者会に潜入し、情報を集めた。そして護送作戦を利用し、学者会の連中を全員、顔を変えたメンバーらと交代させた。
後は我々への追跡を撒く為と、ヴィジエロさんと取り引きする為、君たち最低限の人質を連れ、残りを学者会に捕まえさせた。
ヴィジエロさんを学者会から奪取したのは、大いなる、オルドル・ネモの悲願を達成する為だ」
倒れたヴィジエロをアゴーニは担ぐと、彼を連れてその場を離れて行った。
残ったロキはヘラヘラとしながら、話を続けた。
「そうそう! 面白い話をしてあげよう。オルドル・ネモの連中、右肩の辺りに仲間の証明として、山椒魚の刺青を彫っているんだ。
何で山椒魚だと思う?……『山椒魚戦争』って、チェコの小説はご存知ぃ?
こんな物語さ。ある時、人間は喋る山椒魚を発見した。人間は、山椒魚を奴隷にして真珠を集めさせたり、サーカスに出して見せ物にした。最終的には海底開発に着手させ、武器を持たせて人間の代わりに戦争させたりもした。
次第に人間社会は山椒魚に依存するようになって、優しい人間が山椒魚にも人権があるって言って、教育を受けた山椒魚が研究者にもなった。
それからどうなったと思う? 知能を手に入れ、戦い方を知り、世界人口以上にまで繁殖した彼らは、陸を沈める爆弾を作って海を増やそうと人間に牙を剥いたんだ。
さて、ここで問題なのが……ここから導き出される、オルドル・ネモの正体とは?」
それだけ言い残し、ロキも牢屋を去って行く。
探索者は誰もいなくなった後、牢屋の中に何かが置かれている事に気付ける。それはヴィジエロの持っていた、オパールのネックレスだ。彼は身体を固められる直前、鉄格子の中にそれを投げ入れたようだ。
このネックレスには魔法がかけられており、暫くの後に牢屋の鍵に変貌する。
グリーンランドに、レッド・ノーチラスが到着したようだ。探索者たちは知らないが、既にアゴーニらはこの時点でいなくなっている。
牢屋にいる探索者は、【聞き耳】で近くにいる兵士の話を盗み聞き可能だ。ただ言語が英語の為、英語圏出身の探索者ではない限り、【ほかの言語(英語)】が必要だ。
「もう夜だろ。嫌に明るいな」
「オーロラが空を覆っているんだ。スルトの目が、俺たちに味方してくれている」
「これじゃあ、人工衛星も使えないだろ。今がチャンスって訳か」
「あぁ、そうだな」
見張りの兵士はそのまま立ってはいたが、暫くするとどこかに消えてしまう。艦内の兵士は全員潜水艦を降り、後はロキの魔術によって自動的に操られている。
『レッド・ノーチラスの猛攻』
クレアートゥス・ソリス号も、北極海を進んでグリーンランド沖に到達する。
既に深夜に差し掛かっている頃合いだが、辺りは異様に明るい。と言うのは、グリーンランド上空を巨大なオーロラが、色とりどりの光を靡かせ、覆い尽くしていたからだ。
この世のものとは思えない、あまりにも美しい光景ではあるが、兵士たちの動きは慌ただしい。
船が向かう先には、巨大な氷の大陸があるが、そこがグリーンランドだ。探索者らは装備を整え、点呼や整列をする兵士たちを見ながら、チルヒートマンに話しかけられる。
「状況は最悪だ。オーロラの熱で大気が膨張し、墜落の危険があるとかで、グリーンランド上空の人工衛星を撤退させたようだ。これじゃあ、海面に浮かんだ潜水艦が捉えられない……。
もし、レッド・ノーチラスと遭遇した場合は、捕まっている友達は諦めて貰おう。船に搭載した魚雷と機雷で、撃沈せねばなるまい」
探索者が正義感から、チルヒートマンを問い詰めたりもする事だろう。その際、彼は「人類の、豊かな繁栄の為だ。分かってくれ」と話す。
その時、船全体でけたたましい警報が鳴り響いた。遠くで海水が盛り上がり、赤いライトが海底から船を捉える。まるで怪物の浮上のように錯覚した探索者は、【正気度 0/1D4】を行う。
ヒートマンは「来た! アレが、レッド・ノーチラスだ!」と叫び、迫り来る潜水艦に対応するべく魚雷の投下を命じた。
探索者が彼を止めようとしようが、関係はない。オルドル・ネモの工作員によって、魚雷が投下されないからだ。
レッド・ノーチラスに向かって機関銃が放たれるが、現場は何事かと混乱状態。
その内、レッド・ノーチラスから発射された魚雷と熱誘導ミサイルが、クレアートゥス・ソリスの船体と甲板に着弾する。
『船上でのアクション』
船は大きく傾き、巨大な爆発があらゆる物を破壊する。この時にチルヒートマンとは一旦離れてしまう。
探索者らは【登攀】か、【DEX×4】に成功で、身近にある手摺りなどを掴んで身体を支える事が出来る。
失敗の場合、甲板を転がる羽目になるが、【武道】で受け身を取ればノーダメージで済む。それ以外なら【STR×3】に成功で、1ダメージで済む。それでも失敗の場合は、【1D4】のダメージを受けて貰う。
これらの流れを、3ラウンドほど耐えて貰う。
もしファンブルを引いた場合は、潜水艦から空中に発射された熱誘導ミサイルが、その探索者の近くに降り注ぐ。爆風に巻き込まれ、【1D6+1】のダメージと共に、海に投げ出されてしまうだろう。
海水の温度はマイナスであり、そのままでは凍え死んでしまう。探索者は、【正気度 1/1D4】を行うこと。
海に落ちた探索者は、【水泳】で船から落ちた救命ボートまで泳ぐか、【登攀】で船から垂れ下がる縄を掴まないかしない限り、【CON×4】に失敗で、耐久力が1ずつ減少する。
3ラウンド終了時にも海にいた場合は、強制的に救命ボートに乗せ、そのまま、《戦う者の讃歌》まで待機して貰う事となる。
ただ縄を掴めた場所は、ラウンド数に関係なく【登攀】を2回成功する事で甲板まで戻る事が出来、船上のイベントに復帰が可能だ。
仮に探索者全員が海に落ちた場合も、以下のイベントを全てスキップし、《戦う者の讃歌》で船内に戻れる。
『工作員はどこだ』
3ラウンドの後、レッド・ノーチラスは大きく旋回して、船から距離を取る。魚雷攻撃で作った右舷の脆弱部に、突進するつもりだ。
探索者らは船の軌道がおかしい事を察し、操舵室に向かう事になる。その際、探索者らの数が少ないと感じたなら、以下の兵士から必要数だけ抜き出し、《戦う者の讃歌》まで同行させても良い。
学者会の兵士 A
A B C
STR. 13 14 12
CON. 12 14 12
SIZ. 13 14 10
POW.13 12 14
DEX. 10 13 14
耐久力:13 14 12
db: +1D4 +1D4 +0
技能:運転(自動車) 65%、応急手当 60%、回避 50%、隠れる 55%、隠す 70%、ナビゲート 60%
武器:コンバットアクション 60%、2D4+db
AK47アサルトライフル 60%、ダメージ・2D6
トカレフTT33 60%、ダメージ・1D10
システマ(武道・立ち技に相当) 50%、ダメージ・特殊
装甲:5ポイントの軍用アーマー
探索者らは兵士を連れ、操舵室へと向かう。その途中、食堂でコックと出会った探索者に限定して【目星】に成功すると、その彼とすれ違ったと気付ける。
ここにコックがいる事に違和感を覚えたなら、彼が捲った服の袖下、露出した右肩に「山椒魚の刺青」がある事に気付ける。シベリア鉄道でアゴーニの物を見た探索者なら、彼と同じデザインだと察する事が出来るだろう。
ここで探索者がコックに対しアクションを起こすのなら、彼は突然逃げ出す。逃げる彼は、【追跡】か【DEX対抗ロール】で捕まえる事が出来る。
しかし彼は強靭な力で探索者を引き剥がすと、拳銃を取り出し戦闘を開始する。
オルドル・ネモの工作員
STR.14 CON.12 SIZ.14 INT.14
POW.13 DEX.12 APP.11 EDU.15
耐久力:13
db:+1D4
技能:回避 65%、
武器:コンバットキック 70%、ダメージ・2D6+db
体当たり 70%、ダメージ・2D4+db
ベレッタM85F 65%、ダメージ・1D10
クラヴ・マガ(武道・立ち技に相当) 80% 、ダメージ・特殊
CQC(武道・組み技に相当) 80%、ダメージ・特殊
戦闘中でも、船は揺れる。1ラウンド毎に、全PC、NPCは【STR×4】で、激しい揺れに踏ん張って耐えねばならない。成功の場合はロールに影響はないが、失敗の場合は【武道】【マーシャルアーツ】で受け身を取らない以上、技能に【-10】の補正を行うこと。ファンブルを出した場合は床に転び、1ダメージを負うだけでなく行動不可となってしまう。
逆にクリティカルを出した場合は、他者よりも有利に動ける為、【+10】の補正を付けても良いだろう。
見事に工作員を撃破した場合、倒れた彼の懐から操舵室へのアクセスキーを取り返せる。
この時に【アイディア】か【目星】に成功すると、彼の顔の皮膚が捲れて、筋肉が剥き出しになっている様を見てしまう。【正気度 1/1D4】を行わなければならないが、彼らはこのようにして顔を変えていると知る事が出来る。
『閉ざされた操舵室』
船の操舵室に到着するも、対テロリスト用の隔離扉が作動しており、中に入る事が出来ない。ヒートマン曰く、「アクセスキーがあるハズだ」との事だ。
工作員を倒し、取り返していたのならそれを使えるが、工作員に気付かずここに来てしまった場合は、幾つかのロールが必要となる。
【幸運】に成功の上、【追跡】にも成功し、工作員を見つけ出す。それが叶わない場合は、【STR×1】で無理やり隔離扉をこじ開ける事も可能だ。また、【機械修理】【電気修理】【電子工学】によって隔離扉をハッキングし、開ける事も出来る。
いずれも失敗し、操舵室に入れなかった場合は、次のイベントをスキップし、《人間たちの讃歌》まで行く。
『被害を軽減せよ』
操舵室に入れば、工作員によって殺戮された操舵長やその他乗組員の死体を目の当たりにする。【正気度 1/1D4】を行う。
そこから海を見れば、レッド・ノーチラスが最高速度で船に突撃を繰り出そうとしている様を確認出来る。
レッド・ノーチラスが狙うは、魚雷によって基盤が緩んだ船の右舷だ。探索者は舵を取り、この脆弱部を逸させ、被害を軽減させられる。
固まった舵の【STR 16】との【STR対抗ロール】となるが、複数の探索者が協力して挑んでも構わない。ロールに成功し、探索者が舵を回したのなら、船は大きく旋回する。
レッド・ノーチラスの狙いはズレ、脆弱部への突撃は失敗する。だがそれでも、船尾に体当たりを喰らい、船は大きく海面を回る。
制御不能となったクレアートゥス・ソリス号は、そのままグリーンランドの氷壁へと、側面から衝突する。
それらによる強力な衝撃に耐えられるかは、【STR×4】に委ねられる。失敗の場合、【武道】【マーシャルアーツ】などで受け身を取らない以上は【1D4】のダメージを負う。
まず、氷壁に衝突した船の描写だが、探索者らが操舵室でのイベントを成功させたか否かで大きく変わる。
失敗の場合、レッド・ノーチラスは脆弱部から船を貫き、完膚なきまでに破壊する。船は真正面から氷壁に衝突し、探索者らは【STR×3】に失敗で【1D6】のダメージを負う。武道による受け身は無効だ。
そして『被害を軽減せよ』の成否によって、後に入手可能な武器や車、お助けNPCの種類や質に影響する。つまり『被害を軽減せよ』の失敗或いは、イベントまで到達出来なかった場合、この後の展開がややハードモードとなる訳だ。
ここに相違点を列挙する。
『被害を軽減せよ』の失敗或いは未達成で起こるハンデ
・武器庫の多大な損傷による、一部武器の使用不可。
・車庫の多大な損傷による、一部車両の使用不可。
・兵士の消耗により、やや弱体化した「学者会の兵士B」を同行NPCとして起用。
・メディカルセンターの使用不可。
『武器庫』
探索者が武器庫に来ると、数多の生き残った兵士たちが大挙し、武器を手に入れていた。探索者に兵士が気付くと、「残ってるモンなら何か持って行け!」と言ってくれる。
探索者は以下のリストから、銃火器は二つまで、近接武器は一つまで持って行ける。数に限りがあり、一種類につき二人までしか持っていけないので、PLは探索者の技能を考慮し、話し合った上で所持する事。
しかし「☆」のマークのある物は一種類につき一人までで、『被害を軽減せよ』の失敗・未達成によっては所持不能となる武器なので注意されたし。
また銃弾についてだが、銃弾は所持武器に対応したものを何種類でも持って行ける。ただし、一種類につき一度に持てる弾数は【2D100】、ショットガンのみ【2D6】に委ねられる。
「拳銃」
マカロフPM……初期命中率・20、ダメージ・1D8、射程・15m、1ラウンドの攻撃回数・2、装弾数・8、耐久力・8、故障ナンバー・98、弾薬・9×18mmマカロフ弾
☆トカレフTT33……初期命中率・20、ダメージ・1D10+1、射程・20m、1ラウンドの攻撃回数・3、装弾数・8、耐久力・10、故障ナンバー・99、弾薬・7.62×25mmトカレフ弾
「アサルトライフル」
AK47……初期命中率・25、ダメージ・2D6、射程・100m、1ラウンドの攻撃回数・1または連射、装弾数・30、耐久力・12、故障ナンバー・00、弾薬・7.62mm×39弾
☆AO-63……初期命中率・25、ダメージ・3D6、射程・110m、1ラウンドの攻撃回数・1または連射、装弾数・30、耐久力・12、故障ナンバー・97、弾薬・5.42mm×39弾
「サブマシンガン」
PPsh-41……初期命中率・25、ダメージ・3D6、射程・110m、1ラウンドの攻撃回数・1または連射、装弾数・30、耐久力・12、故障ナンバー・97、弾薬・7.62×25mmトカレフ弾
☆PPS-43……初期命中率・15、ダメージ・1D10+2、射程・45m、1ラウンドの攻撃回数・2または連射、装弾数・35、耐久力・10、故障ナンバー・98、弾薬・7.62×25mmトカレフ弾
「ショットガン」
KS-23Mドロースト……初期命中率・30、ダメージ・4D6/1D6、射程・5/10m、1ラウンドの攻撃回数・1または2、装弾数・3、耐久力・14、故障ナンバー・00、弾薬・シュラプネル-10或いはバリケード
☆KS-23……初期命中率・30、ダメージ・4D6+2/2D6+1/1D6、射程・10/20/50m、1ラウンドの攻撃回数・1または2、装弾数・3、耐久力・12、故障ナンバー・00、シュラプネル-10或いはバリケード
「近接戦武器」
ナイフ……初期命中率・25、ダメージ・1D4+2+db、耐久力・15
護身棒……初期命中率・25、ダメージ・1D4+2+db、耐久力・15
ストランド(絞殺ヒモ)……初期命中率・15、ダメージ・首締め(溺れ、窒息ルール適用)、耐久力・なし
☆シャシュカ(サーベル)……初期命中率・25、ダメージ・1D8+1+db、耐久力・25
☆打刀(日本刀)……初期命中率・15、ダメージ・1D10+db、耐久力・20
「ショットガン用弾薬」
☆バリケード……ショットガンのダメージの項目を、1D10+8に変更。スラッグ弾の為、貫通が出来る。
『同行させられる兵士』
探索者の数や技能に心配がある場合は、お助けNPCとして学者会の兵士を、三人以内で同行可能だ。
ステータスだが、『被害を軽減せよ』に成功の場合は先に載せた「学者会の兵士 A」をそのまま使用するが、失敗の場合は以下の「学者会の兵士 B」に変更する。
学者会の兵士 B
A B C
STR. 12 13 12
CON. 12 12 11
SIZ. 13 12 10
POW.13 12 14
DEX. 10 11 13
耐久力:10 13 10
db: 0 0 0
技能:運転(自動車) 70%、応急手当 50%、回避 45%、隠れる 55%、隠す 60%、ナビゲート 60%
武器:コンバットアクション 60%、2D4
AK47アサルトライフル 55%、ダメージ・2D6
マカロフPM 55%、ダメージ・1D8
システマ(武道・立ち技に相当) 50%、ダメージ・特殊
『メディカルセンター』
負傷した探索者は、ここで医療班によって治療を受ける事が可能だ。探索者はそれぞれ、【1D6+2】の値で耐久力と正気度を回復出来る。数値に納得行かない場合は、一度だけ振り直しも認める。
『被害を軽減せよ』を失敗している場合は、激突による破損で入室不可となっており、治療を受ける事が出来なくなる。
『研究練』
船が大破した事により、封鎖されていた場所への侵入が可能となる。中に進むと、故障した機材が並ぶ部屋の真ん中に、巨大な氷があると気付ける。
その中には、白い体毛をした男が氷漬けになって息絶えていた。探索者は【正気度 0/1D4】を行う。
部屋に入った際に、以下の資料が手に入る。
「氷の分析」
電動ドリルなどで破壊を試みるも、失敗。炎による融解も不可能。明らかに物理学に反する、常軌を逸した強度を誇っている。
内部の男性は、逃げ遅れたハイパーボリア人と推測。生命活動は停止。
また【幸運】に成功で、以下の情報も開示可能だ。
「プラズマエネルギー」
氷の内部から、高い測定値のプラズマエネルギーが観測された。これは人間の魂と同じ物質だと言われており、もしかすればハイパーボリア人の死体から出た霊魂が、氷の中に封印されているのではないかと推測される。
この代物を融解させるにはやはり、スルトの目より他にはないと思われる。
ルリム=シャイコースが操るイイーキルスの冷気は、人間を魂まで凍てつかせる恐るべき魔法の冷気だ。さらには発生した氷も、壊れずに溶けないと言う人知を超えた代物となっている。
これを溶かし、魂を解放するには、クトゥグアの炎にしか出来ないだろう。
『車庫』
探索者が車庫に入ると、消えていたチルヒートマンと合流が出来る。彼自身も銃器を担いでおり、兵士らと共に前線へ赴くつもりだ。
チルヒートマンは準備をする兵士らへ、雄弁に語り始めた。
「人類は窮地に陥ったと言っても過言ではない! これから我々は、奴らが向かうであろうポイントへ突撃する。奴らめ、我々をこんな目に遭わせた罰を与えてやる!
『スルトの目』へと向かい、オルドル・ネモを一掃、ヴィジエロ君を救出するのだ!」
彼は探索者らに気付くと、一声かける。
「君たちは、我々が巻き込んでしまった一般人だ。望むのなら、このままグリーンランドの首都ヌークまで責任を持って護送しよう。この国の首相は私の友だ、彼に匿って貰うと良い。
だが先の攻撃により、攻撃部隊の人員が足りなくてな。人類を救い、諸悪の根源たるクソッタレのオルドル・ネモどもに一泡吹かせたいと言うのならば、まずは武器を持ち、それからここにある車を選びたまえ。選択は自由だ」
つまりはシナリオを離脱するか、最終局面に挑むかの選択となる。こちらの探索者が全員離脱した場合、オルドル・ネモに捕らえられた方の探索者らで何とかやり繰りしなければならない。
探索者らが同行の意思を示すのなら、「君たちに敬意を払おう。だが覚悟しておいてくれ。同行すると言うのなら、君たちを守る事はしない。我々の目的は君たちの守護ではなく、スルトの目に向かう事なのだから」と忠告する。
場合によっては「スルトの目」が初耳の単語だと言う探索者もいるだろう。説明については、「また車内で話す」とだけチルヒートマンは答える。
探索者が車を選び、運転手や同乗者の配置が完了すれば、最終局面へと移行だ。
『車選び』
車庫でのイベントが済むと、探索者は車庫内にある車を一台選べる。
この後氷上にて、オルドル・ネモのメンバー並びに、薄氷を突き破り迫るレッド・ノーチラスとのカーチェイスバトルが待ち受けている。KPはそれらを秘匿した上で、カーチェイスの存在を示唆し、選ばせねばならない。
武器の項目同様「☆」のマークがついた車は、『被害を軽減せよ』に失敗の場合に選ばなくなるので注意。
また「○」のマークの車は、《クレアートゥス・ソリス Creatus Solis》内イベント『車庫』にて、車の存在に気付いた探索者に限定して追加される車両だ。
『車両の一覧』
モーガン・プラス8……最高速度・7、耐久力・30、ハンドリング・9、定員・2、加速/減速・3×
モーガン・エアロ8……最高速度・7、耐久力・25、ハンドリング・8、定員・2、加速/減速・3×
デイムラー・DS420……最高速度・5、耐久力30、ハンドリング・0、定員・8、加速/減速・1×
ランドローバー・ディフェンダー……最高速度・3、耐久力・40、ハンドリング・-5、定員・4、加速/減速・2×
デロリアン・DMC-12……最高速度・7、耐久力・28、ハンドリング・16、定員・2、加速/減速・3×
☆ロータス・2-イレブン……最高速度・10、耐久力・26、ハンドリング・7、定員・2、加速/減速・6×
☆ランドローバー・ディスカバリー……最高速度・6、耐久力・45、ハンドリング・-3、定員・4、加速/減速・3×
☆アスカリ・KZ1……最高速度・12、耐久力・32、ハンドリング・14、定員・2、加速/減速・7×
○ヴァンデン・プラス・ツアラー……最高速度・10、耐久力・36、ハンドリング・12、定員・2、加速/減速・3×
○ローススロイス・ファントム……最高速度・12、耐久力・28、ハンドリング・15、定員・4、加速/減速・5×
○☆光岡・ビュート……最高速度・9、耐久力・34、ハンドリング・13、定員・4、加速/減速・8×
○☆ジャガー・Eタイプ……最高速度・15、耐久力・25、ハンドリング・14、定員・2、加速/減速・8×
車と武器を選び終え、船内の探索がある程度終わったのなら、リフトを伝って凍土に降りる。他の兵士たちが乗った4WDに囲まれながら、車列はスルトの目へと発進。
この際チルヒートマンは同行NPCとして、KPがランダムに選んだ探索者の車両に乗り込ませよう。チルヒートマンは『エイボンの書』を持っており、探索者に対し「これを使う時が来るかもな」と告げる。
視点は一度、レッド・ノーチラス内に移る。
牢屋の中にいる探索者は、ヴィジエロから貰ったネックレスが鈍く輝いている事に気付く。するとネックレスの鎖が柔く変容し、鍵の形となる。これは牢屋の鍵だ。
丁度、見張りがいなくなっている時であり、探索者にとっては脱走のチャンスだ。だがその時、艦内が激しく揺れ、探索者らは立てなくなってしまうだろう。また、保管されている熱伝導ミサイルが、次々と発車されている様も見て取れる。
薄氷を突き破ったレッド・ノーチラスが、学者会を追い回しているところだ。そこまで描写したところで、一旦時間を戻して学者会側の描写に戻す。
『スルトの目』
空に輝くオーロラの光を頼りに、学者会の車列は凍土を突き進む。
探索者と同行しているチルヒートマンは徐に、スルトの目について語り始めた。
「スルトの目は、氷漬けとなり沈んだハイパーボリアを復活させる、いわば擬似太陽装置だ。
我々は十年前、グリーンランドの最北部にてそれを発見した。だが起動させる事は叶わなかった……純粋なハイパーボリア人の血と、魔力が必要なのだ。
我々はパンドラの正体を知り、何とか接触した魔術師にヴィジエロ君の封印を解かせた。彼の力で制御させ、陸地に影響が及ばない程度にハイパーボリアを浮上させる計画だった」
探索者が魔術師の名前を聞くならば、「ロキと言う、アラブ人だ」と教えてくれる。
途端、前方の車列が地雷を踏み、吹き飛ぶ。オルドル・ネモの罠だ。
車の運転手である探索者は、ハンドリングの増減率を加味した上で【運転】ロールをしなければならない。つまり運転の技能値に、ハンドリングの数値を足し引きした値をロールする訳だ。
失敗の場合、吹き飛んだ車の残骸を回避し切れず、車の耐久力を【1D6】減らした上で、車内の探索者らも【1D4】減らす。
突然の出来事に全探索者は、【正気度 1/1D4】も行う事。
『アイシクル・カーチェイス』
学者会の兵士を吹き飛ばし、奇跡的に残ったのは探索者らの車のみ。その探索者らを囲むは、軍事 用の4WDに乗ったオルドル・ネモのメンバーらだ。
多くの車は生き残りの学者会らが相手取るが、探索者の前に三台の車が立ちはだかる。運転手を除いた六人のメンバーが襲いかかって来た。
オルドル・ネモ(車両1)
最高速度・7、耐久力・25、ハンドリング・0、加速/減速・3×
運転手の技能……60%
1 2
STR 12 11
CON 15 14
SIZ 13 12
INT 12 11
POW 13 14
DEX 14 16
db +1d4 +0
武器:コンバットアクション 70%、ダメージ・2D6+db
ベレッタM85F 80%、ダメージ・1D10
クラヴ・マガ(武道・立ち技に相当) 80% 、ダメージ・特殊
CQC(武道・組み技に相当) 80%、ダメージ・特殊
技能:回避 55%、跳躍、80%
装甲:3ポイントのアーマー
オルドル・ネモ(車両2)
最高速度・16、耐久力・25、ハンドリング・12、加速/減速・4×
運転手の技能……80%
1 2
STR 14 12
CON 15 10
SIZ 13 12
INT 16 13
POW 10 12
DEX 10 12
db +1d4 +1d4
武器:コンバットアクション 82%、ダメージ・2D6+db
SPASショットガン 75%、ダメージ・4D6
M16A4アサルトライフル 72%、ダメージ・2D8
クラヴ・マガ(武道・立ち技に相当) 90% 、ダメージ・特殊
CQC(武道・組み技に相当) 90%、ダメージ・特殊
技能:回避 60%、跳躍、90%
装甲:3ポイントのアーマー
オルドル・ネモ(車両3)
最高速度・12、耐久力・30、ハンドリング・13、加速/減速・8×
運転手の技能……71%
1 2
STR 10 10
CON 15 13
SIZ 13 13
INT 15 15
POW 12 14
DEX 13 16
db +0 +0
武器:ベレッタM85F 80%、ダメージ・1D10
M203グレネードランチャー 55%、ダメージ・3D6+1
ダイナマイト 投擲、ダメージ・5D6
技能:回避 56%、投擲、62%
カーチェイスのルールは、6版クトゥルフ神話TRPGの、P328〜329の辺りを参照願いたい。或いはKP自身がやり易いよう、ルールを独自に作っても良い。
1ラウンド毎の大まかな流れを解説すると、まずは運転手による速度変更の後、機動と衝突のアクションロールに入る。その後、DEX順通りに、運転手以外の探索者らが行動を開始する。
機動についてだが、車は延々前に進み続ける状況の為、スピンターンによって逆走すると言った事は禁止だ。
カーチェイス開始時は、全車両は並走の状態とする。
また、他の車両が受けるべきダメージを代わりに引き受けるアクションも可能だ。その場合、PLは引き受ける旨を宣言し、ルールブックにある急ハンドルのロールに成功で、攻撃の肩代わりが出来る。
攻撃は基本的に、【跳躍】か【登攀】【組み付き】で敵車内に乗り込まない限りは、銃火器での攻撃となる。
また運転手が車を操作して敵に衝突し、攻撃を与える事も可能。その場合はぶつけた速度によって攻撃力が変わる。
相手が出している現行速度を引いた上で、最高速度が15以上なら1D10、10以上なら1D6、5以上なら1D4と言う具合だ。5以下でぶつかってもダメージはない。
乗り込み攻撃以外では、基本的に与えられる全てのダメージは車が受ける。しかし車両の耐久力が半分以下になった場合は、脆弱性の増したボディが盾の役割を果たせず、探索者らにも半分程度のダメージが入るようになる。
運転ロールの修正値だが、各車両のタイヤは氷上でも問題なく走れる特殊な物を使用しているので、雪や氷結など悪路の影響は受けない事とする。
また車の停止或いは大破を受け、戦闘から外れてしまった探索者は、この戦闘の後に後続の学者会兵士らに拾われる形で、次のイベントに移行可能だ。だがそれは、戦闘を生き残った探索者が一人でもいる場合であり、全員停止した時は、残念ながらシナリオから外れて貰う。
拾われた場合は、以下の車に変更となる。
軍用4WD……最高速度・7、耐久力・26、ハンドリング・5、同乗者・4、加速/減速・3×
こちらのルートの探索者が全員外れた場合は、レッド・ノーチラス内の探索者のみで進めるしかないだろう。
戦闘は、5ラウンド終了した後に、強制的に次のイベントへ移る。
ここで探索者らの力でオルドル・ネモを排除出来たかどうかで、クリア後の報酬が追加される。
次のイベントに移る前に、【機械修理】で車両耐久力の回復を進めておこう。もし、探索者の誰しもが技能を持っていない場合、学者会の兵士がやってくれると言う事で、【機械修理 80%】でロールしてあげよう。
『薄ら氷の下から』
オルドル・ネモのメンバーを打破し、車列は広い氷原に付く。探索者は【目星】か【地質学】【博物学】に成功すると、この辺りの氷は比較的薄く、下は海と繋がっていると気付けるだろう。
オーロラが空を埋め尽くす異様な光景が広がっており、スルトの目が近い事を悟る。そのまま進むと、両端を隆起した氷崖が挟む、氷の渓谷に入るだろう。
その時、探索者らの後ろを走っていた兵士らの車が空に吹き飛んだ。
ミサイルで破壊した氷の下から、赤い目を光らせたレッド・ノーチラスが出現する。それは氷を割りながら、恐るべき速さで車列に迫り、熱伝導ミサイルも使いながらどんどんと学者会兵士を吹っ飛ばして行く。
探索者は【正気度 1/1D4】を行う事。
レッド・ノーチラスとのチェイスは、氷の渓谷の間を、ひたすら真っ直ぐ逃げるしかない。突っ込んで船を破壊するほどの強度を誇るボディは、銃弾と爆弾を受けてもびくともしない。
ここで行うべきロールは、運転手の探索者がハンドルテクニックで爆弾などの攻撃を回避し、残りの探索者らは車内にあるフレア弾で熱伝導ミサイルの挙動を外さなければならない。
『アイスブレイク』
レッド・ノーチラスは一切の減速をせず、探索者らの車を破壊せんと迫る。
探索者は10ラウンド、レッド・ノーチラスの攻撃を耐え忍ばねばならない。車が攻撃を受け続け、車の耐久力が5以下になればエンジンが停止し、潜水艦に轢かれてしまう。
轢かれた車は完膚なきまでに大破し、中にいる探索者らは【2D10】のダメージを負うのみならず、【正気度 1/1D10】を減少させる。奇跡的に生きていた場合、傷付いた身体を引き摺って進み、スルトの目へと向かえる事とする。
或いは車を捨て、隣の車両に【登攀】【跳躍】【組み付き】で乗り込んで脱出も可能だ。ロールに失敗したとしても、車内側の探索者らが【STR×4】【武道】に成功する事で、落っこちかけた仲間の手を掴んで引き揚げる事も可能だ。
危険な賭けではあるが、レッド・ノーチラスに乗り込む方法もある。探索者は潜水艦への乗り込みを宣言し、【跳躍】か【登攀】の-6ロールで飛び込む。成功の場合でも、【1D6+1】のダメージを負う。
失敗の場合、潜水艦の艦体にぶち当たってしまい、当たりどころの悪さについて【幸運】の-5のロールに成功しなければならない。成功なら【1D6+1】のダメージだが、失敗なら【2D6+1】のダメージを負う。とは言え、死ぬか気絶していないかならば、乗り込み成功だ。艦内に入り込み、破壊工作ミッションの参加が可能となる。
チェイス中、レッド・ノーチラスが実行する攻撃は6種類あり、KPが【1D6】のロールで決定する。また、一度の攻撃につき、2車両が対象となる為、これもロールで公正に決定する。
以下、レッド・ノーチラスの攻撃パターンと、探索者が取るべき行動を示した表だ。
第1の攻撃
熱伝導ミサイルによる、車両への追尾攻撃。探索者は車内にあるフレア弾を撃って、追尾をかわす必要がある。
フレア弾は【拳銃】の技能で撃てる。一度撃てたのなら、ミサイルは避けられる。失敗の場合、車両に【1D10+1】のダメージ。
第2の攻撃
魚雷を放ち、氷の下から車両を攻撃。運転手がハンドルを上手く操作し、爆風を避ける必要がある。
ハンドリングの値を加味した上で【運転】技能の-10をロールし、高速ターンで回避する。失敗の場合、車両に【2D6】のダメージ。
第3の攻撃
クラスター爆弾を発射し、車両の上空で破裂させ、内部にある子弾を降り注がせる。探索者は、銃火器で上空に来る前のクラスター爆弾を撃ち落とせるが、その場合は-5の補正を与えた上で行わせる。
運転手側からも回避は可能。ハンドリングの値を加味した上で【運転】技能をロールし、成功で回避出来る。失敗の場合、車両に【2D6+1】のダメージ。
第4の攻撃
潜水艦に格納されていた機銃が現れ、車両に向かって連射される。車の回避は不可能で、【1D4】のダメージが車両に入る。
こちらは車内にいる探索者向けの攻撃で、運転手を除く探索者らは【回避】に成功しない限り、【1D8】のダメージを負う。
第5の攻撃
クラスター爆弾と機銃との同時攻撃。クラスター爆弾も機銃も、第3の攻撃と同じ要領で回避する。
クラスター爆弾は車両に【2D6+1】のダメージ、機銃は車両に【1D4】、車内の探索者らに【1D8】のダメージが入る。
第6の攻撃
熱伝導ミサイルと魚雷との同時攻撃。熱伝導ミサイルはフレア弾を【拳銃】で、魚雷は【運転】技能の-10で回避する。熱伝導ミサイルの回避に失敗しても、マイナス補正なしで運転ロールを振れ、魚雷のみの回避は出来る。
熱伝導ミサイルの方を失敗した場合は【1D10+1】、魚雷の方は【2D6】のダメージを受ける。
5ラウンド終了時、一旦視点はレッド・ノーチラス内に移り、また残り5ラウンドを逃げ切る。
最初の5ラウンドが終了した時、こちらの破壊工作ミッションが発生する。
探索者らは牢屋の鍵を開いて脱出し、激しく揺れる艦内で破壊工作が可能となる。破壊工作に成功する毎に、レッド・ノーチラスの攻撃手段が減り、学者会側の探索者らを助ける事が出来る。
探索者は、一人当たり10回のロールまでを行動制限とする。振り直し含めて、技能ロールを10回振ると、破壊工作ミッションは終了となる。
艦内の部屋は、ミサイル保管庫、エンジンルーム、バレットルーム、武器庫、操縦室の五つ。それぞれの部屋で【目星】を振る事により、破壊工作に繋がる手掛かりを発見可能だ。
ロールの回数は決められているので、振るか否かはPLに委ね、KPは提示のみで強制しない事。
破壊工作は、以下の方法がある。
『ミサイルの起爆』
内部からミサイルを爆破させ、潜水艦を破壊する方法だ。ミサイル保管庫にて【目星】で細工が可能は箇所を発見し、【機械修理】【電気修理】【電子工学】の-5ロールに成功で、ミサイルを内部で起爆させてミサイル保管庫を使い物に出来なくさせる。
この工作に成功すると、第1の攻撃、第6の攻撃での熱伝導ミサイルが撃てなくなる。
『クラスター爆弾の停止』
探索者はクラスター爆弾の発射回路を、エンジンルームにて【目星】で発見可能。【電子工学】【コンピュータ】の-6で、爆弾の発射を阻止出来る。
この工作に成功すると、第3の攻撃、第5の攻撃でのクラスター爆弾が撃てなくなる。
『機銃の停止』
探索者はバレットルームにて、機銃へ連なる弾の束を【目星】で発見出来る。
弾の束を【STR×3】か、【武道】の-10ロールで引きちぎる事が可能。
この工作に成功すると、第4の攻撃、第5の攻撃での機銃が撃てなくなる。
『武器庫』
武器庫はもぬけの殻だ。ここで、【目星】の-15ロールに成功すると、かなり注意して見なければ難しい隙間から、鍵を発見出来る。この鍵は操縦室へ入る為の鍵だ。
『操縦室』
操縦室へは、鍵がかけられている。探索者は武器庫で拾った鍵を使うか、【鍵開け】の-20ロールに成功で、鍵を開けて中に入る事が出来る。
中に乗組員は存在せず、探索者は一人でに動いている潜水艦を不気味に思い、【正気度 0/1D4】を行う。このレッド・ノーチラスは現在、ロキの魔術によって動かされている。
ここでは、操縦室の機材を操作して、レッド・ノーチラス自体を止められる。その場合は、【運転】【重機械操作】の-10ロールで強制停止に持ち込める。それらが難しい場合は、【こぶし】【頭突き】や【キック】を4連続で成功させ、機材をぶっ壊しても構わない。
この工作に成功すると、残り5ラウンドをスキップし、次のイベントに移れる。
イベント《獅子身中の虫》を終えた後、破壊されたレッド・ノーチラスとの残り5ラウンドの勝負が残っている。
破壊され、使い物にならなくなった武器が使用された攻撃をKPがロールした場合、そのラウンドは何事もなく終わる。
また、操縦室でのミッションに成功した場合は、この残り5ラウンドは丸々スキップだ。
『救出作戦』
10ラウンドを逃げ切ると、薄氷のエリアを突破し、また分厚い氷のエリアへと入る。
もし、乗り込みに失敗して潜水艦上で探索者が伸びているのなら、艦内の探索者は外に出て、彼を艦内に引き込んで助けなければならない。
艦内の探索者が、外の探索者に気付くかは【アイディア】に委ねられる。外に出た探索者は、激しい揺れと冷風に耐えながら助けなければならない。【STR×4】に成功でそれらを耐えられるが、その探索者を引き込めるかは【引き込む側のSTRと、運ばれる側のSIZ対抗ロール】に委ねられる。
失敗の場合、動ける探索者だけでも艦内に逃げなければならない。取り残された探索者は、吹き飛んだ潜水艦に振り落とされ、氷上に落ちる。【2D10】のダメージを負う。
『空飛ぶ潜水艦』
潜水艦はその氷にぶち当たると、轟音を立てながら巨体を宙に飛ばす。
その状態で、残された兵装である魚雷を発射。全車両の運転手は【運転】ロールを成功させ、爆風を回避しなければならない。
成功の場合でも車両ダメージ【1D4】、失敗で【2D6】を負う。探索者も成功で【1D4】、失敗で【1D6】のダメージを受ける。回避したとしても、衝撃によって車はエンジンは壊れ、使い物にならなくなってしまう。
潜水艦は車両を飛び越え、前方を滑って行く。氷の渓谷を越え、レッド・ノーチラスは氷塊にぶつかって静止する。
艦内にいる探索者は、【STR×4】に成功しない限り、【1D6】のダメージを負う。成功の場合は、2ダメージで済む。
レッド・ノーチラスを破壊した後、探索者らはやっと内部にいた者と合流が可能だ。
チルヒートマンは無線での報告を聞き、「別働隊が、スルトの目へ到着し、突撃を開始した。後続隊を待つ暇はない、我々もすぐに向かおう」と言い、探索者らを先導する。
オーロラの中心地とも言う幻想的な場所こそ、スルトの目だ。広大な氷原の真ん中に、数多の研究機材が設置されたキャンプがある。
到着した探索者らは、そのキャンプの至るところに大きな黒炭があると気付ける。【アイディア】に成功で、それは燃やされて炭化した、学者会の兵士だと言う事に気付き、【正気度 1/1D4】を行う。
別働隊は、既に全滅していたようだ。
多くの焼死体が囲むのは、一つの古い祭壇。祭壇の上には、身体中に管を繋がれたヴィジエロが寝かされている。その管から血が抜かれ、祭壇の中へと吸わせていた。
そしてそれを守護するは、アゴーニただ一人。アゴーニは探索者らに気付くと、雄々しく説明を始める。
「祭壇に、純粋なるハイパーボリア人たるヴィジエロさんの血と、魔力を捧げ! スルトの目を蘇らせる!
こうして北極の氷を全て溶かし、陸を全部海に変えてやるぞ! 地球は原初の姿に戻るのだ!」
丁度その時、後続の学者会兵士たちが到着し、アゴーニを取り囲んだ。
チルヒートマンが「喋り過ぎだぞ。もう終わりだ」と宣告しようが、探索者がそうはさせないと意気込もうが、アゴーニは最後に一言告げて終わらせる。
「すまんね。これは説明じゃなくて、報告なんだ。儀式は二十分前に終わっていてね……そこから少し下がる事をオススメするぜ?」
辺りは揺れ、氷が割れ、何かが地下から盛り上がる。それはアゴーニとヴィジエロを乗せたまま、遥かオーロラの空を目指して伸びる。
現れたのは、巨大な塔だ。これこそ、クトゥグアの炎を招来する魔術装置、スルトの目こと『擬似太陽』だ。中は空洞となっており、見た目は巨大で建造物的な煙突にも思えるだろう。
オーロラは一層輝きを増し、熱波が探索者らを襲う。氷河は融解を始め、崩れた氷の下からハイパーボリアが現れる。
何とか塔まで行こうとしたところで、足場が崩れて探索者や兵士は全員、下層へと落ちてしまう。
スルトの目の起動により一部浮上した、ハイパーボリアの都市コモリオム。
コモリオムとは、ハイパーボリアの首都であった都市だ。しかしクニガティン・ザウムの存在を恐れた人々が街を捨て、別の首都を築いた事で、廃都とされた過去がある。
擬似太陽はそこに建てられ、放置されていた為に、後年のハイパーボリア人は存在さえ知らなかった訳だ。
探索者が気が付くと、そこは大理石と御影石による純白の建造物が並ぶ、幻想的な場所だった。まるでそれらは渓谷のように探索者らのいる場所を覆い、隙間からはオーロラの光が差し込んでいた。
スルトの目は高層に位置し、その下にある階段から登って行ける。
また探索者と共に落ちた、学者会の研究キャンプの資料が至る所に落ちている。【目星】や【図書館】ロールの成否によって、以下の情報が手に入る。
・自動的に入手
各務原 知彦の見解
「スルトの目は、廃都コモリオムと呼ばれる場所にある。発見された文献によれば、元はハイパーボリアの首都であったが、ある呪われた男の出現により、彼を恐れた王族や民はウズルダロウムと言う別の都市を作り、コモリオムを捨ててそこを新たな首都としたらしい。
破棄され、忘れられた場所にスルトの目がある。その存在を、後年のハイパーボリア人が知らなかった事に無理はない」
・【目星】に成功
炎の神
「祭壇の文字を、レッジズ・フォンダーソン教授が解読してくれた。
この擬似太陽は、遥か遠い宇宙の先にある炎の神の力を、安全に招来する物らしい。
彼らが太古の昔、起動させようとしたヴィジエロ氏を封印してまで停めたのは、何かしらの欠点があったからではないか。
封印するヴィジエロ氏にも話さなかったほどだ。もしかすれば、我々は危険な物を動かそうとしているのではないか。
海が増える以上に、恐ろしい事を起こす何かを」
・【図書館】に成功
ヴィジエロ氏の経緯
「英語を理解し、話せるようになった彼から、擬似太陽を起動させようとした経緯を聞いた。
氷の底に消えたハイパーボリアには、彼の家族や、婚約者が取り残されたと言う。彼らの身体と魂を解放する為に、実行したらしい。
擬似太陽の存在は、ハイパーボリア崩壊後に知ったと言う。教えてくれた人物は、黒い肌をした老魔道士らしい。
またハイパーボリア崩壊の理由については、沈黙している。無事グリーンランドまで送り届ければ全て話すと約束してくれた」
ある程度の探索を終えると、どこからか激しい銃声が響いている事に気付ける。
『ロッキートビバッタの絶滅』
場所は、塔へと続く階段の前。学者会の生き残った兵士たちが、ローシの姿のロキに向かって銃弾を浴びせていた。
だが彼は痛くも痒くもない様子で、ただパチっと指を鳴らす。瞬間、兵士たちは身体の内部から火を吹き上げ、火ダルマのまま悲鳴をあげ、氷の上を転がり始めた。
ロキは探索者らに気付くと、関心した様子で話し出す。
「凄いね! それが人間の底意地って奴かい? いやぁ、ビックリした! あの潜水艦を、僕の魔術で操りながら驚きまくったよ!
あー、そう言えば何人かは知らないか。僕はローシ・モシェンニクじゃなくて、ロキって名前さ。で、オルドル・ネモの現指導者でもある。
ロキって名前に聞き覚えあるだろ、チルヒートマン? そうだ。君たちと接触し、ヴィジエロを出してやった魔術師さ。姿が違うって? こう言う事だよ」
彼は一瞬の内に、全く別人のアラブ人姿に変貌する。正気度の減少は無し。
彼はローシの姿と、アラブ人の姿を使い分け、ヴィジエロをスルトの目へと運ばせる為に暗躍していた訳だ。
ここで探索者らが有無を言わさずにロキを銃火器で撃っても、彼は食らった様子を見せない。涼しい顔のまま、話を続ける。
「ロッキートビバッタと言う、バッタは知っている? かつてアメリカとカナダにいた昆虫だ。
過去何度か大量発生しては、蝗害を引き起こしていたほどの繁殖力を誇っていた。開拓時代のアメリカは、何度もこいつらによって困らされて来たもんだよ。
さて。人間さえ寄せ付けず、繁盛を極めたロッキートビバッタだけど……どう言う訳か、突然絶滅したんだ。
理由は不明。突然、みんないなくなった。勝手に絶滅したんだよ。
現在、ロッキートビバッタの標本を採取出来るのは……アメリカ北部の氷河の中で、氷漬けになった物だけだ。そう言った氷河で、『グラスホッパー氷河』だなんて分かりやすい名前の場所もあったり。
ハイパーボリア人も、そんな感じで滅んだのさ。奴らの身体と魂は今でも、魔力で作られた氷の中に封じ込められている。
かわいそうな彼らを救う為に、別に僕たちは多過ぎる陸地を失っても良いじゃないか。
それとも死んだ人間に尊厳はないとか? ん? どうなのさ」
そう言った瞬間、彼は突然、真顔になる。【目星】【アイディア】に成功すると、その目はチルヒートマンに注がれている事に気付く。
ロキは、チルヒートマンが持っているエイボンの書に驚いていた。この本にある呪文をヴィジエロが読めば、擬似太陽を止める方法を思いつかれるかもしれないからだ。
『先に行け』
ロキは真顔のまま、「なんでそいつを持っているんだ?」と探索者らへ一歩二歩と詰め寄る。この時にロキへ攻撃しよう物なら、死の呪文によって身体の中から火を出され、一瞬で黒炭にされてしまう。
その時、散らばっていた兵士らが到着し、ロキを包囲して一斉射撃。無数の銃弾を受けた彼の顔の皮膚が剥がれ、何か赤く湿った、舌のような物を出した。それはニャルラトホテプの化身の一つである、「月に吠えるもの」の舌だ。その様を見た探索者らは、【正気度 1/1D6】を行う。
その状態でも取り乱す様子は見せず、「困るなぁ。反則だこれは」と呟くと、辺りにいた兵士らを燃やす。
それでも残った者らは応戦し、探索者らはチルヒートマンの誘導に従って、兵士らを肉壁にしながら塔へ至る階段まで辿り着く。
【アイディア】に成功すると、ロキが探索者らを追おうとするも、塔から漏れた熱を過剰なほど嫌っていると気付けるだろう。彼の正体であるニャルラトホテプは、クトゥグアが唯一の天敵であり、その魔力的な熱に耐えられないからだ。
そこまで行くとチルヒートマンは、エイボンの書を探索者に手渡し、「我が戦士たちを見捨ててはいられん! 君たちが、ヴィジエロ君の元へ赴くのだ! その書を持って行け! その書こそ鍵だ!」と言い残してから、GP-25を持ってロキの元へと駆ける。
探索者らは彼らの意思を無駄にしないよう、塔の中へ入らなければならない。
どうしてもチルヒートマンと離れたくない場合は、【説得】で同行を続けさせても構わない。その場合、クリア報酬が増える。
『塔の中』
塔の内部は、吹き抜けとなっている。自分たちが凍土にいる事を忘れてしまいかねないほどの熱風が吹き荒れていた。
アゴーニらのいる最上階の祭壇までは螺旋階段で繋げられており、下から見た様はレガレイラ宮殿にある、イニシエーションの井戸を彷彿とさせる。
そして吹き抜けの中心には、着実に大きさを増して行く炎が見て取れた。それが、徐々に召喚されつつある、クトゥグアの力の一端だ。探索者らは、【正気度 0/1D4】を行う。
すぐさま螺旋階段を駆け上がり、祭壇まで到達しなければならない。だがその行手を阻む者が、探索者らの前に現れる。
『炎の吸血鬼』
熱風に乗せられるかのように宙を舞い、探索者らの前に漂い現れた、プラズマのような物体。それこそが、クトゥグアに仕える奉仕種族「炎の吸血鬼」だ。彼らもクトゥグアと共に、召喚されたようだ。
炎の吸血鬼は意志を持ったプラズマ。勿論の事だが、物理的な攻撃は彼らの身体を通さない。探索者らは迫る炎の吸血鬼から逃げなくてはならないだろう。
処理方法は、まずKPが炎の吸血鬼の【目星 60%】を振り、成功したなら彼らは、探索者全員の存在を認知し襲いかかる。
全探索者は【隠れる】【幸運】でやり過ごす事が出来るが、それにさえ失敗した者は炎の吸血鬼にその熱を帯びた身体で触れられてしまう。
KPはまず【2D6】を振り、出た目で探索者の【CONと対抗ロール】で競わせる。探索者側が勝った場合は2ダメージほどで済むが、炎の吸血鬼側が勝った場合は、【正気度 1/1D6】と【1D6】のダメージを受ける上、身体に火が付いて【毎ラウンド1D6ずつダメージ】を負う。
消火するには、探索者自身の【幸運】か、他探索者の【応急手当】しかない。引火が2ラウンド以上長引いた場合は、APPとCONを1ずつ減らさねばならないだろう。
また炎の吸血鬼の攻撃が成功した時、【1D10ポイントのマジックポイント】を奪われてしまう。マジックポイントが0となれば強制的に気を失ってしまう為、彼を運ぶ者の存在も必要になるだろう。
以上の処理を10ラウンド繰り返した先で、塔の最上階に到達する。最終ラウンド時点で引火状態の探索者は、外に出た時の冷気で強制的に消火される。
炎の吸血鬼を振り払い、祭壇に何とか辿り着いた。
姿を現したコモリオムを見下ろしながら、アゴーニは両手を広げて高笑い。
「もう遅いぞ諸君! 君たちの負けさ! 人間は、山椒魚に沈められたのさ!
見ろ、どんどんと浮かぶハイパーボリアの姿を! 氷の溶ける有り様を! 海が増えて行く事実を!」
探索者らは、祭壇に横たわるヴィジエロの元へ行ける。彼の腕から流れた血が、祭壇に掘られた線を伝って塔の中に吸い込まれている。このヴィジエロの血にはハイパーボリア人の魔力が込められており、それによって擬似太陽は稼働している。
探索者らがヴィジエロから管を抜いて血を止め、祭壇から引き離しても擬似太陽は止まらない。アゴーニは楽しげに話す。
「世界沈没は止められない。いわば、この塔は手筒花火さ。内部に召喚された炎の力が強まった時、その力は天へと放たれる。
その最後の一撃で持って、北極の氷は全て融解する……いや。もしかすれば、南極まで及ぶかもしれないぞ?
おぉ? 僕を殺すかい? 殺したってもう止まらないぜ? まぁ、君たちの気分が晴れると言うのなら、どうぞ殺してくれたまえ! 僕の役目は終わったからね!」
PLは、PCの設定を遵守し、アゴーニに手をかけるか決めても良い。すかさず撃っても良いし、詰め寄って胸倉を掴み、殴り付けるのも良い。その際のダメージは、後の戦闘でもアゴーニのステータスに反映させる。
ただ本当にアゴーニが殺された場合は、後にロキの手によって復活させられるように。
気絶していたヴィジエロは、やっとの事で目を覚ます。初期耐久力より-10ほど無くなっている為、【応急手当】が必要だ。
『グリモワールを紐解いて』
目を覚まし、治療を受けたヴィジエロは探索者らに必死に話す。
「あのロキって奴……間違いない。俺に擬似太陽の事を教えた、あの老魔道士だ……感じ取ったんだ。あの時感じた、底知れない魔力を……あいつ、一体何なんだ?」
ヴィジエロは探索者らから事情を聞き、擬似太陽が作動した事を知る。世界中を沈める可能性がある事を聞くと、望んではいない事だと嘆く。
アゴーニは嘲笑い、これから起こる終末を楽しみに待っている。塔の中の炎球は次第に大きくなって行き、熱量も増す。その炎球は、この世界とクトゥグアを繋げるゲートだ。これらが臨界点に達した瞬間、炎球は花火のように天へ放たれ、クトゥグアは召喚される。
探索者は、塔から辺りを見渡す事が可能だ。ハイパーボリアの浮上は着実に進んでおり、レッド・ノーチラスのある辺りまで及んでいた。
最早どうにもならないと諦め、ヴィジエロは探索者に渡したオパールのネックレスを、最後まで持っておきたいと言って受け取る。
この時に探索者らが、ヴィジエロにエイボンの書を渡すと、展開は進む。
彼は驚いた顔で本を開き、読み進める。その中にある、「ルリム=シャイコースの力の一端を使える呪文」に気付いた時に、ヴィジエロは「これは、エイボン本人が書いた物じゃないか……! ルリム=シャイコースの……イイーキルスの力か!? もしかすれば、擬似太陽を止められるかもしれない!」と叫ぶ。
『ロッキング・ザ・ロキ』
その時に、探索者らの前にはローシの姿のロキが現れる。彼は塔の中を無理して突っ切って来たようで、その身体は酷い火傷をしていた。
「下の奴らは全員焼き尽くしてやった」と言って、黒焦げになったチルヒートマンを投げ付ける(同行させている場合は描写しない)。
ロキは深呼吸をした後に、「忌々しい炎の塊め。見ろよ、この身体を。僕の魔力を貫きやがる。もう少し召喚が進んでいたら、僕が炭になるところだった」と言い、焼けた身体の皮膚を引きちぎり始めた。
その皮膚の下から、赤い舌が飛び出す。それを見たヴィジエロは、探索者らに忠告する。
「エイボンはお前の事を書に記している……月に吠えるもの、闇の跳梁者……その正体は、『這い寄る混沌』……!」
赤い舌が天へと突き上がると同時に、ローシの身体は至るところが突き破れ、黒い木の幹のような肉体を見せ付けた。
『這い寄る混沌との戦闘』
ロキは、「血塗られた舌(月に吠えるもの)」の姿を現す。だがクトゥグアの熱で多少弱っているのか、その姿は小さな人間の身体の裂け目から、本体を捻り出そうとしているかのようだ。つまりは、不完全体と言う訳だ。
そんな悍ましい姿を見た探索者は、【正気度 1/1D6】を行う。
ロキは、アゴーニに「手を貸せ!」と命じ、彼と二人がかりで襲いかかる。アゴーニはロキの正体について知っていたようで、何の躊躇もないとする。
ロキ(不完全体)
STR 35 CON 29 SIZ 17
INT 88 POW 100 DEX 5
耐久力 15 db +2D6
武器:あらゆる武器の技能が100%。ファンブルは無し。
こぶし 67%、ダメージ・1+db
舌で薙ぎ払う 50%、ダメージ・1+db(全探索者が対象)
チルヒートマンから奪ったGP-25 100%、3D6
呪文:武器奪取……マジックポイントを1ポイント減らし、探索者の持っている武器を強制的に引き寄せて奪う。
絶対防御……探索者らの攻撃の前に発動し、受けたダメージ分のマジックポイントを減らして無効化。アゴーニにも使用可能。
神経麻痺……探索者一人を麻痺状態にする。
以上の呪文を、1マジックポイントを消費して行使可能。
死者の蘇生……死んだか、気絶したアゴーニを復活させる。アゴーニの耐久力全快分のマジックポイントを消費しなければならない。
今までそうだったように、彼は探索者らへ死の呪文をかけようとする。だが、ヴィジエロがエイボンの書から見つけた魔術で、呪いを弾いてやった。
呪文が効かないと知ったロキは、探索者らの持つ武器を引き寄せて奪い、それを自身の所持武器にして攻撃をする。
また、人間体の腕を無理やり振るい、探索者に殴りかかったりもするだろう。アゴーニの妨害もある。探索者らはヴィジエロと協力し、ロキの耐久力を削り切らねばならない。
ロキは身体の関係で回避は出来ないものの、1ラウンドに、2回の攻撃が可能だ。
ヴィジエロが「呪いを跳ね除ける」を使用すれば、ロキやアゴーニの絶対防御を打ち消す事が可能。この効果は、2ラウンド続く。
また、ロキに奪われた探索者の武器も、ヴィジエロの「武器奪取」で奪い返してくれる。
ヴィジエロとロキの双方とも、「絶対防御」は攻撃が起こる度に自動的に発動される。
ただロキと違い、ヴィジエロのマジックポイントには限界がある為、戦闘中に尽きた場合は2ラウンド行動不能となってしまう。行動不能の後、マジックポイントは全回復する。
武器奪取についてだが、ロキからの攻撃は、探索者は対抗出来ずに奪われるしかない。ロキは武器を奪うと、次の攻撃は自動的にその武器での攻撃となる。探索者が複数の武器を持っている場合は、KPがダイスで決める。
ヴィジエロがアゴーニに対して使う場合は、【STR対抗ロール】に成功しなければならない。失敗の場合、武器は奪えずにヴィジエロのマジックポイントが減るだけで終わってしまう。
アゴーニから奪った武器だが、探索者に渡す事が可能。アゴーニの持つブラックホークは、【拳銃】に対応する。
ロキの「神経麻痺」だが、こちらは探索者の【CON×4】に成功で無効化出来る。
失敗し、もしかかってしまった場合、ヴィジエロから「呪いを跳ね除ける」を使って貰わない限り、行動不可となる。一度探索者らに使えば、ロキらに対して使えなくなるので注意。
この戦闘でアゴーニの耐久力が0以下か、気絶した場合は、ロキの魔法で復活させよう。
また戦闘中、ロキのマジックポイントが尽きた場合は、ヴィジエロ同様2ラウンド行動不能の後に全回復だ。
ロキの耐久力を削り切った瞬間、彼は人間体の身体から鋭い鉤爪付きの、巨大な腕を引き摺り出す。
怒り狂った咆哮をあげ、塔に腕を叩き付ける。瞬間、辺り一帯が無重力状態となり、探索者らは全員空へと浮遊してしまう。
この時点で探索者らの持つ武器は全て浮かされ、使用不能となる。
ロキは完全体になりつつあり、力を取り戻しかけている。探索者らの自由を奪った上で、一緒に浮かせた破片や物を操作し、それをぶつけて来るだろう。
ヴィジエロ含めた探索者は全員、【回避】で宙を泳いで避けなくてはならない。失敗の場合、それらが直撃し、【1D3】のダメージを負う。
3ラウンド耐えた後、ヴィジエロは探索者らに「アレを使うんだ!」と叫ぶ。彼が指差す先には、一緒に浮かんだレッド・ノーチラスがあった。
『怪物には怪物をぶつけろ』
探索者らはまず、浮かび上がったレッド・ノーチラスまで行かねばならない。【DEX×4】に成功した者が辿り着けるが、全員失敗の場合は、ラウンドの開始時点でまたロキからの攻撃を回避しなければならない。これらの流れは、探索者の誰かが操舵室に行くまで続く。
しかしこのイベントから、ヴィジエロが呪文でロキからの攻撃を防いでくれる。その場合は、KPが【1D6】を振り、偶数なら成功、奇数なら失敗して防ぎ切れないと言う風にする。
誰か一人でも潜水艦に入れた場合は、内部を伝って操舵室まで行ける。操舵室までは、【DEX×5】を4回成功させねばならない。
だがアゴーニが探索者らを止めるべくこっそり艦内に入り、妨害を行うだろう。
探索者らを掴み、【STR対抗ロール】に成功しない限り、動きを封じられるどころか首を締め上げて気道を塞ぐ。【CON×10】に成功しなければならない。失敗の場合、1D6ダメージを負う。
対抗ロールに成功しない限り、この状態は続く。しかも次のラウンドには【CON×9】となり、その次は×8、×7とどんどん下がる。
対抗ロールに成功した場合、アゴーニを引き剥がし、殴ったりなどで突き放す事が出来る。【1D4】を振って、出た目のラウンドだけアゴーニを遠ざけられるだろう。
艦内に二人以上の場合、アゴーニは捕まえた探索者を人質にするだろう。他の探索者は【幸運】か【目星】に成功で、艦内に浮かぶ一挺の拳銃に気付ける。
即座に探索者はそれを取り、【拳銃】でアゴーニを撃てる。ロキの加護を受けている為、撃ち抜く事は出来ないものの、彼を気絶状態にさせる事は可能だ。
操舵室に入れば、扉を閉めてアゴーニを締め出す事が出来る。
『準備完了』
操舵室に入ってやる事は、潜水艦をロキの方に向け、スクリューを全開にして突っ込ませる事だ。この時点で潜水艦の外に浮かんでいるヴィジエロ以外の探索者は、強制的に潜水艦内に入れた事とする。
特殊な技能は必要ない。探索者がレバーを引けば、レッド・ノーチラスはロキに向かって全速力で迫る。
完全体に至ってないロキから、外にいるヴィジエロが潜水艦の主導権を握ったようだ。
だからと言って動けないロキは、浮かせた障害物をぶつけて止めようとして来るだろう。
探索者は【アイディア】に成功で、上手い具合に魚雷を飛ばす事が可能。それにより、障害物を破壊出来る。これを2回連続で成功させれば、終了だ。
失敗の場合は、艦内でシェイクされて【STR×4】に失敗すると【2D6】のダメージのみならず、カウントもリセットされる。
『堕ちる混沌』
2回連続成功し、潜水艦はロキの胴体にぶち当たり、彼をクトゥグアの炎の中へ落とせる。
ロキは悍ましい悲鳴をあげながら、レッド・ノーチラスと共に塔の中へと消え行こうとする。
探索者は潜水艦から、逃げ出す必要があるだろう。ロキの力が無くなり、重力が戻りつつある今、大急ぎで逃げなくてはならない。
KPはまず、探索者らに【1D6】を振らせよう。そして値の大きかった者に、アゴーニを向かわせて捕まえさせよう。もし同数の者がいる場合はDEXの低い方を選ぶか、KPがダイスで決める。
アゴーニの顔の皮膚は剥がれ、剥き出しの筋肉を見せ付けている。彼は探索者一人を道連れにするつもりだ。
探索者は5ラウンド以内に、アゴーニの手から離れなくてはならない。【STR対抗ロール】に成功する必要がある。
2ラウンド目からは、他の探索者が【アイディア】【目星】に成功でその状況に気付き、助けに入る事が出来る。その場合は、助けに入った探索者のSTRを合算し、アゴーニと競わせる。
もし5ラウンドでも無理だった場合、その探索者はロキ、アゴーニ、レッド・ノーチラスと運命を共にしなければならない。
レッド・ノーチラスはロキとアゴーニを引き連れ、クトゥグアの炎の中へ落ちた。炎は全てを焼き尽くし、跡形も残さず焼滅させた。
瞬間、クトゥグアの炎が真っ黒に染まる。クトゥグアから混沌の部分だけが引き裂かれた、邪悪なる化身『生ける漆黒の炎』が現れようとしていた。
生ける漆黒の炎はオーロラの光を吸い上げ、その熱を加速度的に上昇させる。このまま塔から放たれ、召喚が完了すれば、地球を燃やし尽くしてしまうだろう。
『たったひとつの冴えたやり方』
その時、ヴィジエロが自身の魔力で空を浮遊し、探索者らの近くに降り立つ。眼下にある漆黒の炎を見てから、探索者らに落ち着くよう話す。
「あれはまだ、召喚魔術としては不完全だ。この擬似太陽も、長い間氷の下にいた事で術式が弱まっていたようだ。
この時点なら止められると、エイボンは言っている……その身を保ったまま、アレとこの星を繋ぐ穴まで行かないといけないけどね」
つまり、生ける漆黒の炎の中に飛び込まなくてはならない。通常なら、その前に焼け尽くされて絶命してしまうが、ヴィジエロはエイボンの書から、それを塞ぐ方法を思い付いていた。
「ルリム=シャイコースの力を使う……皮肉だ。かつて、ハイパーボリアを滅ぼした存在の力を借りるとは……。
こいつの魂を俺の中に宿し、あの炎に耐えられる冷気を纏うんだ。それで炎の中心に行き、穴を塞ぐ」
ヴィジエロはその身を犠牲にし、召喚を強制的に閉めるつもりだ。
探索者は彼を止めるかもしれない。だがヴィジエロは、「俺が奴にそそのかされていなければ、こうはならなかった。責任を取らせて欲しい」と言い、意思を曲げない。
探索者が近付くのなら、「近付くな!」とヴィジエロは叫ぶ。途端、彼の半身から肉体を突き破るようにして、氷柱が現れた。既に彼は、自身に呪文を行使していたようだ。
その力は強大で、炎の熱を弾くような冷気が辺りを包むほどだ。彼は両目から血の涙を流し、それでも笑う。
「す、凄いね、コレ……さすが、ハイパーボリアを氷漬けにした力だ……心臓や血管が凍っているや……ヤバい、さっさとしないと死にそう……」
鋭い冷気で、ヴィジエロに近寄れなくなってしまう。最後に彼は探索者らの方に向くと、オパールのネックレスにキスをしてから手を振った。
「良いんだ。僕の役目は終わった……十分なんだ」
探索者の中に、ヴィジエロとの交流が深い者へは、彼はオパールのネックレスを投げ渡し、「ありがとう、友よ。そしてごめんよ。君の人生に幸あれ」と言い残す。
それを最後に、ヴィジエロはエイボンの書を抱えたまま、漆黒の炎の中へ飛び込んだ。
彼が炎の中へ消えた瞬間に、炎球は萎むようにして形を歪める。抵抗するかのように何度か勢いは増すものの、炎は塔の内部を破壊しながら暴れ回り、上空へ噴き上がる。
炎はまるで、巨人のように探索者らの前で立ち昇る。
だが、次第に色が白くなって行き、炎は動きを止めた。最後は花が散るようにして、消えて行く。
『フレア』
ノーマルエンディング。
途端、浮き上がったハイパーボリアの至る所から、オーロラの中へと浮かんで行く不知火に気付く。
それは氷の中に、75万年もの間閉じ込められていたハイパーボリア人たちの魂だ。解放され、天へと昇って行く。
息を呑むほど、美しい光景だ。探索者らは目を奪われたと同時に、ヴィジエロの75万年に渡る悲願は成されたと気付かされた。
『魂の歌』
トゥルーエンディング。
オパールのネックレスをヴィジエロから譲り受けている場合に発生。一つの霊魂が、ネックレスを持つ探索者の前に現れた。
それは人の形を取り、美しい白髪の少女の姿を取る。ヴィジエロの婚約者だ。
美しい歌声が響く。その歌は、フェリーの上でヴィジエロが歌っていた、「魂の歌」。
歌が終わると、少女は霊魂となり、天へと行く。探索者には彼女に寄り添う、一つの魂がある事に気付く。
ハイパーボリアの一部が浮上したものの、陸地に影響が出る事態は避けられた。
グリーンランドに現れた謎の古代都市は世界中の注目の的となり、ハイパーボリアの研究は進むはずだ。
探索者らは学者会の者たちの保護され、グリーンランドの首都ヌークで治療を受けた後、ヌーク空港でそれぞれの故郷へと帰る。
これまでの旅を振り返り、労うのも良いだろう。故郷が同じなら、旅の話を語り合うのも良い。
飛行機は飛び、グリーンランドが小さくなって行く。陽の光を浴びるハイパーボリアを見てどう思うかは、探索者次第だ。
チルヒートマンが生きている場合、彼は空港で、故郷への便を待つ探索者らに話しかける。
「我々、学者会の悲願は達成された。大図書館ならば、今の地球環境を癒す知恵が眠っている事だろう。
君たちのお陰だ。そして亡きヴィジエロ君や、戦い抜いた兵士たちに哀悼を」
元を辿れば、チルヒートマンこそ全ての元凶の一つとも言える。探索者らは半ば勝ち逃げのような彼を軽蔑するか、気持ちを抑えて握手をするかは別だ。
去り際、探索者は彼に「あなたは何者なのか」と質問出来る。チルヒートマンは静かに、淡々と告げた。
「……陸地を崩し、海を広げ、地球を支配した山椒魚たち。果たして彼らは、人類をどうするのか? 殺し尽くすか、それとも今までの自分たちがそうだったように、奴隷にするのか。
答えはこうだ。『山椒魚たちは思想の相違から互いに殺し合い、勝手に滅ぶ。そして人類は何とか生き残る』。
同じ種族と言えど、考え方は違う。それにより、殺し合うのだよ。
質問に答えなきゃな。私の正体か?
そうだな……例えば考え方の違う、あの怪物の兄弟や、化身の一人とかと言うのはどうかね?」
彼は「冗談だ」と言いながら嘲笑い、人混みの中に混ざって消えた。
探索者はシナリオ内で達成した内容に応じ、トロフィーと報酬を獲得出来る。
・「フレア」
ノーマルエンディングで獲得。1D10の正気度を回復させる。
・「魂の歌」
トゥルーエンディングで獲得。2D10の正気度を回復させる。
・「ありがとう、友よ」
ヴィジエロと好感度の高かった探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「ネゴシエーター」
チルヒートマンの生存で獲得。1D6の正気度を回復させる。
・「魅惑のマッスル」
シベリア鉄道内イベントの「風呂」で、アゴーニの筋肉を見た探索者のみ獲得。対象者のみ、1D3の正気度を回復させる。
・「トリガーハッピー」
全戦闘を銃器で戦い抜いた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「身体一つ」
全戦闘を近接攻撃で戦い抜いた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「運転手」
車の運転手を請け負った探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「エクスキューショナー」
一番多く敵を倒した探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「ハリウッドアクション」
オルドル・ネモとのカーチェイスバトルで、敵の車に乗り込んだ探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「殲滅戦」
オルドル・ネモとのカーチェイスバトルで、5ラウンド以内に敵車両全てを駆逐した場合に獲得。1D10の正気度を回復させる。
・「死に急ぎ野郎」
車からレッド・ノーチラスに飛び込んだ探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「戦場の天使」
一番多く応急手当や精神分析で、探索者たちの治療を成功させた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「チェイサー」
シベリア鉄道内イベントの「火炎」で、逃げたケビンを捕まえた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「精神病院行き」
発狂回数が多かった者か、一番正気度を減少させた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「お見舞い金」
死にかけてから蘇生するか、一番耐久力を減少させた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「盗み聞き」
モスクワ内イベント「口論」で、ヴィジエロとアゴーニの口論を聞いた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「空き巣」
クレアートゥス・ソリス号内イベントで、チルヒートマンの部屋に忍び込んだ探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「讃えられるべき英雄」
クレアートゥス・ソリス号内イベントで、「被害を軽減せよ」までクリアした場合に獲得。1D10の正気度を回復させる。
・「丸裸」
レッド・ノーチラス号の兵装を、魚雷以外全て使用不能にさせると獲得。1D6の正気度を回復させる。
・「ぶっ殺すぞ」
塔の上で煽るアゴーニを攻撃した探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「タフ過ぎない?」
ロキとの戦いで、ロキのマジックポイントを0にする事で獲得。2D10の正気度を回復させる。
・「しぶとい」
アゴーニに喉を絞められても、CON×3ロールまで耐えた探索者のみ獲得。1D10の正気度を回復させる。
・「めざとい」
クレアートゥス・ソリス号内イベントの「車庫」で、車の種類に気付いた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「研究者」
クレアートゥス・ソリス号内の研究棟に入った探索者のみ獲得。対象者のみ、1D4の正気度を回復させる。
・「蒐集家」
今シナリオで入手し得る全ての資料を手に入れた。2D10の正気度を回復させる。
・「旅の醍醐味」
シベリア鉄道内イベント「宴会」で、客と親睦を深めた探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「ネモ船長は君だ」
浮遊するレッド・ノーチラスの操舵室まで到達した探索者のみ獲得。対象者のみ、1D6の正気度を回復させる。
・「キーパーのおまけ」
正気度の回復が足りないなと思ったら、KPの裁量で獲得。2D10の正気度を回復させる。
「アゴーニ・ハロードヌィ」
STR 18 CON 16 SIZ 12 INT 15
POW 11 DEX 14 APP 17 EDU 19
耐久力 14 db +1D4
武器:コンバットアクション 70%、ダメージ・2D6+db
ブラックホーク 60%、ダメージ・1D10
CQC(武道、立ち技系)60%
技能:回避 70%、言いくるめ 90%、運転(自動車) 80%、説得 90%、人類学 42%、武道 95%、マーシャルアーツ 95%、ほかの言語(英語、日本語) 86%
「ヴィジエロ」
STR 10 CON 10 SIZ 10 INT 20
POW 24 DEX 16 APP 15 EDU 19
耐久力 10 db +0
呪文:眠らせる……マジックポイントを1ポイント減らし、対象を眠らせる
記憶を曇らせる……マジックポイントを2ポイント減らし、対象の自分に関した記憶を曇らせる
呪文(エイボンの書を読んだ後):武器奪取……探索者の持っている武器を強制的に引き寄せて奪う。
呪いを跳ね除ける……マジックポイントを1ポイント減らし、呪いを弾く
絶対防御……マジックポイントを、受けたダメージ分だけ消費し無効化。他者にも使用可能。
ルリム=シャイコースの力の一端……イイーキルスを呼び出す力を有する。人間には耐えきれない為、禁術。
技能:回避 62%、応急手当 80%、隠れる 90%、聞き耳 70%、値切り 95%、ほかの言語(英語・ラテン語・ロシア語・日本語) 85%
「チルヒートマン」
STR 14 CON 13 SIZ 16 INT 17
POW 16 DEX 12 APP 12 EDU 19
耐久力 17 db +1D4
武器:トカレフTT33 80%、ダメージ・1D10+1
KS-23Mドロースト 62%、ダメージ・4D6/1D6
GP-25カスチョール 70%、ダメージ・3d6
技能:回避 56%、武道 73%、応急手当 80%、機械修理 80%、心理学 90%、人類学 90%、生物学 90%、地質学 90%、天文学 90%、博物学 90%、物理学 90%、薬学 90%、歴史 99%、ほかの言語(英語、ロシア語、日本語、ラテン語) 94%、クトゥルフ神話 100%
・『たったひとつの冴えたやり方』は、封印を解かれたヴィジエロの、お気に入りの小説だ。
彼は最後の最後で、コーティーから勇気を貰ったのかもしれない。
・潜水艦「レッド・ノーチラス号」は、突撃して船を壊す点は映画版『海底二万マイル』に出て来るノーチラス号をオマージュしている。
しかし大元は、映画『レッド・オクトーバーを追え!』に出て来る物を元としている。
・チルヒートマンの持っているエイボンの書は、エイボン本人の書いた原本だ。
クトゥルフTRPGが大の好き好きであります、映画みたいなCoCシナリオを書くの好きな人。監督と呼ばれたい。 こちらにあるシナリオは全て、旧CoC6版を遵守しております。7版対応に関しては、このサイトでは視野に入れておりませんので、留意願います。 色々は、URL辿ってTwitterより。
https://twitter.com/ergotBear
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