2018年11月18日更新

残秋、この冥と藍

  • 難易度:★★★★★|
  • 人数:3人~6人|
  • プレイ時間:6~7時間(ボイスセッション)

1925年、大正14年。この時期の大阪は一気に市域が拡大され、『大大阪時代』と呼ばれるほどの賑わいを見せていた。

大阪の大商人たる鳥海仙水は、盗まれた家宝『藍柘榴』を取り戻した者には言い値の報酬を渡すと大々的に銘打つ。
だが、ただの盗品探しが、時代が生んだ歪みが作る翳り……思わぬ闇を誘う。

大正時代の大阪を舞台に、藍晶を求める一大活劇が切って落とされる。
残秋の夜を駆け、真実を見つけろ。往けよ、限りなく死に近い一線を越えるべし。

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『残秋、この冥と藍』
ざんしゅう、このめいとあい

喜劇でもあり、悲劇でもある。

【はじめに】

 7作目になります。ここまで来たなら10作まで行って終わろうと意気込んでいる所存です。
 今回のシナリオにつきましては、3月の下旬にツイッターで行いました『#ふぁぼした人をイメージでシナリオタイトル作る』にて、作ったタイトルを元に立ち上げました。最も、この時に出したタイトルとは全く別物になっていますので、色々と申し訳ございません(笑)

 今回は1925年、つまり大正14年が舞台となります、近代シナリオとして作らせていただきました。私事になりますが、大正時代は文芸や世論が大きく変遷する時代でありまして、非常に好きな時代の一つでした。
 そして更に、『冥婚』と『鉱石』の2つを結び付け展開した話に仕上げてもみました。冥婚は死者との結婚であり、それだけならまだしも、かなりエゲツない伝承の残る習わしでもあります。台湾の『赤い封筒』の話はわりかし有名でしょう。

『大大阪時代』に沸く大阪府を舞台に、呪いの藍晶と冥婚の狂気、そして『シャッガイからの昆虫(シャン)』の陰謀が介入するシナリオです。
 同時に、1925年の世情が生んだ歪みにも探索者は立ち向かわなければならないでしょう。
 長々と失礼しました、何卒。

【キーパー向け情報】

 1925年の11月半ば、そろそろ秋も終わりとなり冬に差しかからんとする時期である。この頃は『宇垣(うがき)軍縮』が行われた年でもあり、陸軍大臣であった宇垣一成(うがきかずしげ)の主導の下で、陸海軍将校ら約三万人の大規模な馘首が実行された。1923年の関東大震災の復興費捻出や、世界的な軍縮の風潮に押されての出来事であった。
 この軍縮の意義としては、浮いた資金で武器の近代化を図る点だ。しかし師団の大掛かりな廃止は不景気の最中にある日本国民に「陸軍はもういらないのではないか」との風評を齎し、軍部蔑視を引き起こしてしまう。結果としては、軍の士気低下を招いてしまった。

『第18師団』に所属していた『三虎善山』は陸軍少尉であったが、軍縮の際に馘首される。特別金を貰い再就職先を与えられたにも関わらず、人一倍の愛国心を抱き、そして国の為に戦って来た彼にとってこの出来事は到底納得の行かない事態であった。同時に日本に蔓延する陸軍蔑視の風潮も、堪え難い屈辱となる。
 彼は「日本に喝を与える」と言う名目のもと、同じく馘首させられた陸軍将校の同志を募り、大規模な反乱事件を行おうと決意する。彼らは『鬼門隊』と称し、政権の転覆を掲げ行動を起こすが、それは表向きの思想。本当は彼らは悪として軍に討伐される事で、軍部蔑視の世論を逆転させ日本陸軍をもう一度目覚めさせようとしているのだ。「日本に喝を与える」と言う名目は、軍の復権を表現していた。

 それとは別に、大阪の交易商一族である『鳥海家』にて、家宝である『藍柘榴(あいざくろ)』が「麒麟男」こと、「馬越太郎助」によって盗難される事件が発生した。警察嫌いの家長「鳥海仙水」は藍柘榴を取り戻し、犯人すらも捕縛出来た者に多額の報酬を支払うと大々的に告知する。
 この藍柘榴を盗んだ麒麟男こと「馬越太郎助」は、「シャッガイからの昆虫(シャン)」に寄生された男「猪尾庄吉」を通じ、回収させられたのだ。シャンが藍柘榴を狙っているのは、その藍晶は遥か昔の魔術師が次元に干渉する力を封じていたからだ。それがフランスやオランダ、日本国内の役人や浪人を巡って幕末に鳥海家へ渡り、その力が当時の家長に知恵を与え、大阪の大商人として成功する事となった。シャンはその藍晶の力に興味を示し、これを使って人間社会に混沌を齎す実験を画策していたのだ。

 だが、この鉱石が失われた弊害は予想以上に大きいものだった。鳥海家には藍柘榴の保有以降、悍ましい呪いをかけられていた。
 その鉱石は知恵を人間の脳に植え付ける力を持っていたのだが、同時に『デシュ』の門をその者に刻み付けると言う代償を科していたのだ。デシュは異次元の生命体であり、人間の脳神経を媒体として異次元跳躍を行う生物である。
 縮めて言えば、成功への知識を与える代わりに、怪物の為の生贄となる訳だ。知識を得て成功した者は、デシュを放出する門になり、次第に知性を喪失し続け廃人となる。鳥海家はその役割を、成人を迎えた家長の実子の次男長女に負わせ話させる事で家長は知識のみを得る、非人道的な儀式を続けて来た。同時に現れたデシュを神と讃え、盛大に持て成した。

 廃人と化し、死んだも同然な子たちへは、『冥婚』が行われた。生贄の子たちが藍晶の力で門となる以前に、好意を寄せていたであろう男性或いは女性を無理やり拉致し、纏めて棺に入れて生き埋めにする最悪の儀式だ。鳥海家はこの儀式は、また新たな知識を得る為の儀式だと本気で思っている。このような事を、江戸時代より続けて来た訳だ。

 しかしその力を与える藍晶が盗まれてしまった。藍柘榴の真実を知られたくない仙水は警察ではなく、私立探偵や労働者、チンピラやヤクザなど調査機関に属さない者へ依頼をする。
 彼に雇われた者らは一斉に馬越を追う事になるが、ここで事態はまた捻じ曲がる。馬越は、藍柘榴をシャンではなく、金欲しさに三虎に売り渡したのだ。三虎はこの藍柘榴の力が入り込み、知識を得た結果としてこの反乱を思い付いたのが始まりだった。最初は自らを悪として陸軍に託そうとする計画だったが、デシュが彼を媒体に出現する毎に三虎の理性は崩落して行き、凶暴な一面を見せて行く。
 シャンも行方をくらませた馬越を捜索するべく動き出し、その間に鬼門隊は大阪内で暗躍を始め、事態は混沌を迎える事となる。
『往けよ、限りなく死に近い一線』。プレイヤーは主に夜を迷い、シャンと鬼門隊の陰謀に立ち向かいつつも、鳥海家の狂った儀式を白日に晒さねばならない。死に近い一線を越える事が打破の道なのだ。


『留意点』
 このシナリオは、場合によっては探索者同士の対立、つまりPvPの要素が発生する場合もある。しっかりプレイヤーへ提示をしておくべきである。特に『静/シズの一目惚れ相手』として選んだPCや、元軍人や探偵と言った職業の者ならば顕著だろう。
 また、特殊なNPCとして『宮澤賢治』が登場する。実在人物を組み込む点でロールプレイに戸惑うだろうが、厳しいのであれば別人として構築し直しても良い。


『限りなく死に近い一線を越える』
 頻りに啓発として挙げているこの言葉だが、プレイヤーたちを危険へと後押しする意味合いもある。一方で死に近い状態からの脱却とも言う意味で、死人も同然の『鳥海静/シズ』に対し、人間の心を呼び戻させる事も意味合いに含む。所謂、トゥルーエンドのキーワードでもあるのだ。

【プレイヤー向け情報】

 舞台は1925年、大正14年11月半ばの大阪だ。この頃の大阪は市域拡張が進められ、人口200万人を擁する巨大都市となっており、『大大阪時代』と呼ばれていた。人口の巨大さのみならず、天下の台所として築き上げた商人たちの基盤は産業を急速に近代化に向かわせ、文化や経済共に黄金期を迎えた。いっときは東京を凌ぎ、日本一の都市と持て囃されたほどだ。
 そんな興行の最中である大阪で、探索者はそれぞれの思惑で動かねばなるまい。その意図の先で、探索者同士の対立も発生しかねない事を提示しておく。大団円のキーワードは『限りなく死に近い一線を越える』。


『プレイヤー向けの注意点』
・PvP要素があると言う事。

・分岐があると言う事。

・特殊な条件が付随すると言う事。

・作中時間に則り、1920年代シートで制作した大正生まれの探索者のみ参加可能。

【登場人物】

『馬越 太郎助』うまこし たろすけ
 髭の生えた大柄の男。背中に麒麟をあしらった見事な刺青がある。
 元は京都のヤクザで、所属していた組が崩壊した後は浮浪者として各地を渡り歩くようになった。その間、賭場を荒らして金品を奪うようになり、歴戦のヤクザからさえもその鬼気迫る暴れっぷりが恐れられている。麒麟の刺青から、『麒麟男』として名が広まっている。
 戦闘能力のみならず頭も切れる男で、シャンはその腕を見込んで藍柘榴の強奪を依頼したが、シャンに渡すには金にならないと踏んだ彼は鬼門隊に売却してしまう。この事態から鳥海家とシャンから行方を追われる。


『猪尾 庄吉』いのお しょうきち
 シャンに寄生された、哀れな工場作業員。通常は好きにさせているが、必要になればシャンが彼を操り、不気味な鉱石商人となる。藍柘榴の入手の為、探索者に鳥海家の秘密を仄めかし、疑心に陥らせてこちら側につかせようとしてくる。
 シャンに藍柘榴が渡れば、彼らはその力を藍晶より解き放とうとするだろう。そうなれば、大阪全域に恐怖が蔓延してしまう。


『辰木 有二』たつき ゆうじ
 外務省から派遣された外交官。アメリカの古い資料より藍柘榴の危険性を知った「斎藤博(さいとうひろし)」の命によって、秘密裏に回収を行う為にやって来た。また、元将校らが大阪で反乱の準備をしているとも掴んでおり、警察へ調査を促している。
 探索者を囮として使用しようと考えており、冷酷な判断さえやむを得ないと高を括っている。
 また生まれつき右足が無く、鉄の義足となっている。


『三虎 善山』みとら ぜんざん
 宇垣軍縮によって切られた、元第18師団の少尉。陸軍に対する国民の失意と蔑視を振り払うべく、藍柘榴から受けた知恵より同志を募り大規模な反乱を計画する。彼はこの反乱で悪徒として死ぬつもりだったが、デシュの出現に伴う知性の低下により、暴虐不尽の一大戦争を行う事を野心してしまう。


『鳥海 仙水』ちょうかい せんすい
 その歴史120年に及ぶ大手貿易会社『歐蘭会(おうらんかい)』の5代目会長。会社の全権を握る、歐蘭会の司令塔であるが、実の所は実娘の静/シズから知恵を貸りていたにすぎない。家宝の藍柘榴が消失した事で、一族の秘密が明るみに出る事を恐れ、大阪中から有志を募り「個人」として捜索させている。剣技の達人でもある。
 また、一族の儀礼に則り『冥婚』を執り行おうとしている。


『鳥海 動元』ちょうかい どうげん
 鳥海仙水の長男であり、鳥海静/シズの兄。歐蘭会の社長。一族の掟を最重視する男で、冥婚の儀式では率先して行動する。
 しかしそれらは会社の発展の為であり、藍柘榴の依り代に自分の息子を選んでいるなど、人の情はない。会社の全権を握る仙水を亡き者にし、自分が6代目になろうと画策している。


『鳥海 静/シズ』ちょうかい せい
 藍柘榴による知恵を授かり、それを筆答で仙水らに伝える一方、デシュの門としても機能してしまい、現在は歩く屍と化し、殆ど死んでいるも同然。この役割を負う前に一目惚れした人物がおり、知性が完全に無くなる前に肖像画としてしたためている。
 この人物の一目惚れした相手と言うのが探索者の誰かであり、その探索者の性別に応じて、このNPCの性別も変化させるべきだ。男性にするなら『静』として、女性ならば『シズ』として設定付ける。探索者と異性である事が望ましいが、同性でも構わないし推奨する。


『宮澤 賢治』みやざわ けんじ
 言わずと知れた、日本童話作家の大御所。言えどもその地位は没後の評価であり、生前はほぼ無名であった。去年に自費出版した童話集『注文の多い料理店』は大した評価も得られず、てんで売れない上に父親から借金までして買い取るハメにもなり、肩透かしを食らっていた時期でもあった。
 大阪へは知人を尋ねる傍ら、軽い旅行に来ている。彼は幼少期より鉱物収集が趣味だったらしく、知人の付き添いで仙水の集会に参加し、報酬に興味はないが藍柘榴に興味を示して一目見ようと探索者に協力する。
 名前としては『宮沢』で通っているが、本名は『宮澤』らしい。また1925年時では、あの『銀河鉄道の夜』を推敲していた時期でもあった。拘りが強いが、温厚な性格の菜食主義者と言うのが良く聞かれるパーソナリティだろう。

【シナリオ】

 1925年(大正14年)の大阪市が舞台である。調べる事は一緒だが、探索者らは行動の思惑に相違が発生している。鳥海、猪尾(シャン)、辰木らから藍柘榴あるいは馬越の捕獲を頼まれるだろうが、鳥海は「馬越の捕獲も頼むが、それよりも藍柘榴を優先せよ。この件は警察に漏らすな」と徹底し、猪尾は「馬越を見つけ次第、こっちに寄越せ。目に物見せてやる」と引き渡しを要求し、辰木は「藍柘榴は危険な代物の為、日本政府の命令としてこちらに渡して欲しい」と打算的に詰める。
 誰に藍柘榴を渡したとしても、最終的には一つの局面に到達は出来るが、エンディングもイベントにも変動が発生する為、KP用へ先に大まかな流れを纏めておいた。


1日目
・『鳥海』大阪市中央公会堂から全PCスタート

2日目
・『猪尾』『辰木』とPC分岐

3日目
・それぞれのアプローチによる馬越探し
・夜間に鬼門隊襲撃イベント

4日目
・『鳥海』『猪尾』馬越探しの続行と確保
・『辰木』鬼門隊の調査の依頼

5日目
・全PC、鬼門隊と対決。藍柘榴の奪取
・全PCによる、藍柘榴の争奪戦
 場合によってはここで藍柘榴が破壊されてしまうが、その場合には「平穏に終わる」を経てシナリオは終了となる

6日目
・奪えたPCが、自分の考えで誰かに委ねるが、それぞれ以下のイベントによって藍柘榴は必ず鳥海家に渡る
 尚、どれかに藍柘榴が渡った時点で、他PC全員が鳥海、猪尾、辰木との関係は一旦切られフリーランスとなる
・『鳥海』冥婚の相手とされ、捕縛
・『猪尾』鳥海が買収した警官隊に捕縛
・『辰木』鳥海側に寝返った鬼門隊に捕縛

7日目
・関係外PCによる救出劇開始
・『鳥海』冥婚儀式開始
・『猪尾』正体を現し、奇妙な協力関係へ
・『辰木』二人で脱出へ

8日目
・決着、藍柘榴の破壊
・『相応しい探索者が冥婚する』大団円「東雲の花婿/花嫁」
・『普通にクリアする』落着「瑞雲の式日」
・『猪尾のルート』終演「星雲の異邦」
・『辰木のルート』終劇「暗雲の記録」
・『PCの全滅』破局「玄雲の晩秋」

満条件終幕
・『馬越を生かした』真相「冷淡と英断」
・『破片を宮澤に譲る』心象「山猫と朝顔」
・『三虎を生かす』人道「虚栄と孤影」
・『藍柘榴を破壊せず、猪尾に渡す』焦燥「問答と混沌」
・『藍柘榴を破壊せず、辰木に渡す』臨場「銃声と理性」
・『藍柘榴を破壊せず、自分の物とする』情動「性悪と掌握」


 特に後半のイベントに関しては、ルートによっては色々な変動が起こる。それはまた詳細に書いて行くので良く読んで貰いたい。
 探索者が少数の場合は、いずれかのルートを消去するも良いし、鳥海ルートのみでも成立するので構成を工夫して貰いたい。

 また、探索者には「鳥海静/シズの一目惚れ相手」と言う条件を付けなければならない。年齢的に、20〜25歳の探索者に付随させたいが、そう言った探索者がいない、或いはあまり設定を付けたくないと思ったのであれば、大団円が消えるのみなので無視して進めて構わない。

【鳥海家の依頼】

 探索者らは何の違いもなく、大阪中に貼られた貼り紙を見て興味を抱く事となる。


『来れ、知略に長け、餓狼が如き執念を持つ者。下記の場所へ。職業問わず。達成者には報酬有り』

大阪市中央公会堂 11月15日 夜7時


 大阪市中央公会堂(通称は中之島公会堂)と言えば、この時期ならば1918年に出来たばかりで、異国情緒な造りから大阪市で話題の公会堂だった。現在で言うならば、アインシュタインやガガーリンがここで講演をした格式ある建築物であり、国の重要文化財として現存している場所だ(レストランもあって、なかなかお洒落なデートスポットでもある)。
 探索者らは北区中之島にあるこの中央公会堂へ向かう事となる。
 スタートは同じなので探索者自身の職業には頓着しなくて構わないが、KPが何かしら固有導入を加えたいのならば、探偵ならば鳥海が直々に便りを出したり、小説家や詩人ならば宮澤の誘いだったりと、一人一人に導入を作っても良いだろう。


『中之島公会堂』
 衰退気味であった中之島だが、木々を抜けた先に突然現れたその公会堂にはまず目を奪われるだろう。何らかの集会所と言うよりも外国の宮殿とも思え、鮮やかな色彩に富んだ贅を尽くした装飾は当時の人々に日本である事を忘れさせる衝撃を与えた。

 中央口から入れば壮大な玄関ホールと、壮麗なコンサート会場が見れるのだが、待ち構えていた案内人に連れられてしまうので、あまり景観を楽しめは出来ないだろう。
 場所は3階の会議室。中に入れば玄関の絢爛さから一転、木を基調とした厳かな空間へ移り変わる。既に募集を見て来た人間がおり、その数は50人に近く、かなり騒がしい。荘厳な公会堂の雰囲気に似つかわしくない、労働者風の者や堅気には見え難い者まで、玉石混交としている。
 この50人の中に、シャッガイからの昆虫によって操られている『猪尾庄吉』が偵察し、また『辰木有二』が素性を隠して様子見に来ている。

 KPはランダムに選んだ探索者へ、『宮澤賢治』を差し向けよう。探索者が主催者の登場を待ち侘びている頃に、「すいません、すいません」と話しかける。
 頭を短く切っている、真面目そうな男性だ。落ち着いた風には見えるが、何処か田舎育ちな素朴さの残る不思議なこの男こそ「宮沢賢治」である。
「貴方さんも、募集を見て来られたのですか? 私は少し違うのですが……いや、知らない人が多いと落ち着かない。是非、貴方と知人になっておきたくて」
 探索者が【心理学】に成功すると、別段下心がない事が分かる。【母国語(日本語)】に成功したならば、彼の口調には東北地方の訛りがあると分かる。探索者が彼から名前を聞く前に、主催者である『鳥海仙水』が登場する。


《歐蘭会》
 会議室にやって来た、立派な髭を蓄えた初老の男性と、髪を撫で付け眠たそうな目をした中年の男性を見て場は騒つくだろう。その男は大阪の巨大な貿易商会である『歐蘭会』の5代目会長・鳥海仙水と、その息子で社長の鳥海動元だからだ。
 探索者が【経理】か【知識】に成功すると、歐蘭会は江戸時代にオランダとの貿易を発端とし、尊皇攘夷派に一度脅かされるも乗り越え、明治に移ると英国や米国へも裾野を広げ大成功を収めた貿易商会だと分かる。それを率いる鳥海家は幕末には『坂本龍馬』の海援隊や『福沢諭吉』『勝海舟』とも交流をした由緒ある一族だ。

 現在は第一次世界大戦(当時は単に『世界大戦』と呼ばれていた)の後に起こった『戦後恐慌』と関東大震災による混乱や財閥系企業の飛躍もあってか、やや気運が傾いているようにも思われている。
 とは言え日本政府内にも顔が広い大企業の首領が登場した事は衝撃だろう。鳥海仙水は用意された演説台に登り、集結者を眺めてから叫ぶ。

「一昨日、我が鳥海家の邸宅に痴れ者が入り込んだ。かの、悪名高き『麒麟男』である。
 忸怩たる思いだ、許せん! 奴は我ら鳥海家に伝わる家宝『藍柘榴』を盗み、使用人3人へ怪我を負わせ、闇に消えてしまった。先祖より賜った宝を、穢らわしい悪漢に盗まれてもうた。
 だが我々は警察を頼らぬ。前回、偽造通貨の冤罪で鳥海家の庭に土足で入り込んだ奴らにはほとほと愛想尽きたわ。そこで貴様らの出番だ。麒麟男を捕らえ、藍柘榴を取り戻せた者には、言い値の報酬をやろう! 麒麟男は逃したとて、藍柘榴を取り戻せたのなら同様とする! しかしその逆は許されぬ! 藍柘榴を優先せよ!」

 そう宣言した後、仙水は護衛らに何かを配らせた。それは金額の書かれていない小切手であり、「成功した場合、報酬は何円でも構わない」と言う保証でもあった。つまり金額欄は自由に記入可能なのだ。探索者は好きに金額を書いて構わない。大正10年代のレートとしては、現在の為替の大体600倍らしいので、1円=600円と言う事になるだろうか。1万円ならば現在の600万に至るだろう。因みに1銭は今の1円の百分の一だそうで、100銭=1円となるらしい。それで考えるならば、『注文の多い料理店』は当時1円60銭と聞くので、現在のレートでおよそ600.6円と、背広のクリーニングでさえ1円5銭で済む時代だからなかなか高い。
 探索者らに金額を提示させる場合は、このレートを提示した上で把握させるのも良しだ。大正レートの500円まで行けば、現在の300万円に相当する。

 藍柘榴を取り戻した者は小切手と共に鳥海家邸宅へ行くと、正式なサインをして自由に金額を記入した小切手を有効にしてやるとした。どよめき立つ会議室内で、最後に仙水は「藍柘榴を! 必ず藍柘榴を!」と念を押した。【心理学】に成功するならば、異常な執念が伺えると知れるだろう。

【公会堂】

 集会後、場にいた者は思い思いに行動を開始する。意気揚々と出て行く者、手堅く情報収集からと様々だ。NPCは宮澤以外いなくなるが、公会堂内で幾つかのイベントが用意してある。


『宮澤賢治』
 最初に彼に話しかけられた探索者へは、自動的に発生する。集会が終わり、仙水らが奥に引っ込んだと同時に困り顔を見せて話を続けた。
「まさかこんな、大変な事になるとは思いませんでした。僕はお金に興味はないし、知人の付き添いなだけで……その知人もどっか行ったもんで。しかし、藍柘榴! 僕は鉱物が好きでして、是非とも一目見たい所。柘榴と銘打つなら、柘榴石なんでしょうか。貴方は探されるのでして? 危険な事は出来ませんが、協力したい」

 そう言って彼は「知り合いになったヨシミとして」と言って、本を取り出す。その本こそ、『注文の多い料理店』だった。
「童話や詩を書いてはいますが、鳴かず飛ばずです……申し遅れて、『宮澤賢治』と言う者です。以後、お見知り置きを。私は大阪市内の旅館にいます」


『コンサート会場二階』
 このイベントは、静/シズから一目惚れを受けた探索者にのみ起こる。
 公会堂二階、コンサート会場へ入れる扉が開かれており、徐に覗くのならば白い肌の美青年或いは美女が席に座り虚空を眺めている様に遭遇する。【アイディア】に成功で、その目に生気が宿っているようには見えず、ゾッとしてしまう(生理的な反応であり、狂気の判定は行わない)。
 その者こそが、今シナリオのキーパーソンたる「鳥海静/シズ」だ。デシュにより知性が食われ殆ど「歩く死者」と化し、時折放浪するようだ。

 探索者が彼或いは彼女を見やり、更に【アイディア】に成功すると、妙に見覚えのある横顔だと気付けるだろう。探索者とは5年前に一度会ったきりで、その時に一目惚れを受けたのだ。
 実はこの時も1匹のデシュが出現している。デシュは半透明な身体であり、誰もいない暗い会場の中ではまず目立たないだろう。しかし【目星】に成功すると、彼の周りに浮かぶ光に気がつける。光とは、デシュの体表に出ると言う「門になった者の記憶」であり、その光に更に【目星】に成功したのならば、子供の人影が浮かんでいる事に気付いてしまう。驚きから、【正気度 1/1D4】を行う。
 体表に浮かんでいる記憶は、静/シズの一目惚れの記憶である。つまり子供の人影とは、見ている探索者の少女・少女時代なのだ。

 探索者が近付こうとした時、別の入り口から動元が現れ、連れて行ってしまうだろう。【追跡】か【忍び歩き】に成功したならば、外に連れて行かれ、待たせていた高級車に乗せられる所を見る。車には『歐蘭会』のロゴが張られており、鳥海家の者だと知れる。残っている動元に話をしてもさっさと追い払われるが、離れた箇所から【聞き耳】を行なったり、【隠れる】で物陰に潜んだりすると、「アレを外に出すとは何事だ。なぜ、親父は幽閉しないのか。さっさと座敷牢に入れちまえば良いのに。アレには価値はもう無いと言うのに」とボヤキが聞ける。静/シズから異次元の知恵が与えられる事実は、鳥海家のみしか知らない。


『盗み聞き』
 仙水が奥に消えた後、時間を置いて控え室前まで来るならば、【聞き耳】で盗聴出来る。仙水が部下に向かって、「政府の人間が紛れているそうだ。けしからん! あの藍晶はワシの物だ! 見つけ次第、釘を刺しておけ!」と命令している。
 仙水は辰木の存在に気付いていたようだ。


『辰木有二』
 探索者が公会堂外の庭にいると、整った身なりの若い男に声をかけられる。いかにも上流の人間と分かる風貌のこの男こそ、政府からの刺客である外交官「辰木有二」だ。
 辰木は探索者へ、「さっきの会合にいた者か。是非、協力を乞いたい。自分は、こう言う者」と言い、名刺を渡す(名刺の文化は明治時代より確立したが、もっと言えば江戸時代にはあったようだ)。名刺には、『外務省外交官・辰木有二』と書かれており、政府の人間だと分かるだろう。
 深くここでは話す気はないが、【信用】に成功すると、「鳥海家が藍柘榴と言う代物は、大変危険な物。一個人が扱うべき物ではないと言う事だ」と続ける。
 途中、仙水の命令を受けた部下たちが彼を追い払おうと近付くが、それに気付くと「明日、梅田のパーラーで。『碌々珈琲』で会いましょう」と残していち早く退散する。部下らは探索者に「あの男の知り合いか」と詰め寄るが、別に深い追求はして来ない。
 また去り際の彼の歩き方がやけにぎこちない事に気付ける。【医学】【人類学】【博物学】に成功すると、彼は右足が義足ではないかと分かる。


『麒麟男』
 麒麟男の詳細については、会合に参加していた労働者風の男より「背中に見事な麒麟の刺青を巡らせた大男。だから麒麟男なんや。噂に寄れば、ヤクザの組一つを一人で潰したって逸話もある」と概要を聞かされる。
【幸運】に成功すると、別に事情を知る者が話に割り込み付け加えて「各地を渡り歩き、賭場を荒らし回っているそうやで。しかし、賭場荒らし以外の強盗、初めてやないか? 誰かに頼まれでもしたんやろか」と考察する。


『奇々怪々』
 公会堂内かつ、静/シズの一目惚れ相手以外の探索者に発生する。静/シズから発生したデシュを垣間見てしまう。探索者が公会堂内を散策していると、空中にぼんやりと光が見えた気がする。【アイディア】に成功すると、シャンデリア下の輝きの中で、狂気に歪んだ仙水の顔を見てしまう。藍柘榴の力を使用された時の記憶が、デシュの体表に浮かんだのだ。探索者は驚きから、【正気度 1/1D4】を行う。
 それでも探索者が逃げずに敢えて留まる姿勢を見せたなら、再び【アイディア】に成功すると、また光を見る。そこにはハッキリと、誰かの少年ないし少女時代の横顔を見る事が出来る。これには正気度ロールは不要とする。その後は見る事はない。
 このイベントまで見た探索者が、静/シズの一目惚れ相手たる探索者出会った際に【アイディア】に成功で、あの映像の子供に似ていると気付けるだろう。


『帰り道の怪物』
 日本の妖怪に、『百々目鬼(とどめき)』と呼ばれる妖怪がいる。人間の姿をしているが、腕にびっしりと眼球が付いた妖怪である(別に『百目』と呼ばれる妖怪はいるが、こちらは水木しげるの創作)。
 一応、存在全てを含めて百々目鬼と言う妖怪らしいが、伝承によれば盗癖のある女性に、盗んだ金銭の念が鳥の眼となって腕に出現したとあり、この眼のみを妖怪と捉えても良いかもしれない。因みに古来ではお金の事を「御足」とも呼んだ。また昔のお金は真ん中に穴が空けられ、それが鳥の目に似ていたから『鳥目』と呼ばれた。
 腕に鳥の眼が付く、鳥目(お金)が付く、御足が付く、「足が付く」と言う洒落の効いた妖怪と言う訳だ。
 そんな話を何故か、帰り道の公会堂庭で、知り合った男性から話を聞く探索者。彼曰く「この辺りも、この百々目鬼が出る」らしい。そんな馬鹿なと思っていると【聞き耳】に成功で茂みの騒つく音、【目星】に成功で茂みが揺れる様を確認出来る。そこに近付くと、暗闇の中で無数に光る目を見てしまう。探索者は【正気度 1/1D6】を行い、「百々目鬼だ!」と叫ぶ男と共に逃げ帰る。
 探索者が果敢に挑んだ場合は、近付いたら消えてしまった事にすれば良い。

【猪と辰】

 2日目。藍柘榴の確保を狙う、シャンの操る猪尾と政府からの外交官たる辰木によって探索者たちは一概に鳥海側の人間ではなくなってしまう。
 猪尾は馬越の確保を命じ、辰木は明確に藍柘榴の譲渡を希望する。探索者が彼らの声に靡くか従うかは別だが、場合によっては彼らを利用出来るかもしれない。
 先のイベントで辰木と会う約束をしている探索者以外から一人ランダムに選び、猪尾と合わせよう。


『猪尾庄吉』
 選ばれた探索者は難波を散策中、『鉱物・愛ヲ磊ト』と書かれた看板が立て掛けられた路地裏の前に行く。建物の庇が広く、もはや天井のように太陽光を遮断しており非常に暗い。中を進むとコートに身を包み、口元を布で隠した怪しげな男と会う。この男がシャンに操られた哀れな労働者、『猪尾庄吉』だ。
 猪尾は探索者が怪しんでいる事を見越した上で「見てってくれ」と引き止め、鞄から取り出したこぶし大の鉱石を見せつつ、それを足元に置いていたアルコールランプの火に近付けた。石を炙ると、その箇所が淡い緑色の光を放ち出す。
「『蛍石』と言うもんだ。『フローライト』とも呼ぶ。フルオライトとか、ケイセキとか言う……なんでまぁ、人間ってば言語が多いのかね。しかし、面白いだろ? 熱を加えると光り輝く、不思議な石だ。他にもあるぞ」

 そう言って彼は鞄から次々と鉱石を取り出す。燐灰石、紫水晶、玉髄や蛇紋石と、鉱物を披露する。
「この地球の8割は鉱物だ。んで、人間が地上と呼ぶモンはその内の2割……この地球上の事を知った気でいるが、本質は誰も知らない。鉱石を知ると言うことは、この星の誠を知る事だ。だのにこの国じゃあ、鉱物の研究に本腰入れたのはついつい最近、遅れ放題。申し遅れた、俺は『猪尾庄吉』、かの『和田綱四郎(わだつなしろう)』より師事を受けた鉱石屋だ」

 探索者は【知識】か【博物学】【地質学】に成功で、和田綱四郎とは海外の鉱物学本を翻訳、また日本向けの鉱物本までも著し、現在の鉱物学の基礎を築いた学者だと思い出せる。更には貴族議員であり、政治家でもあった。1920年ないし5年前に亡くなってしまったが、彼の功績は様々な学者が讃えている。
 しかし和田綱から師事を仰いだと言う事は、目の前の人物は和田綱が助教授を請け負っていた「東京大学」の学生だったか、それとも地質調査所の所員だったと言う事になる。だが、見窄らしい格好の彼は、お世辞にもそんな大層な人間には見えない。勿論、和田綱から師事を受けたなんて事は嘘である。
 猪尾は「何だって思えば良いが、確かなのは鉱石には造詣深いって事だ」とのらりくらり躱す。【心理学】を行なったとしても、顔を隠す布が真意を悟らせはしないだろう。

 猪尾は探索者が麒麟男を追っている事を知っている旨を伝えた上で、「麒麟男はこっちに連れて来い」と頼む。曰く、その男とは確執があるそうで、この機会だからと捕縛を依頼するのだ。
 成功報酬として、「金剛石をくれてやる」と言い、実物を見せる。【博物学】に成功したならば、確かに本物の金剛石(ダイヤモンド)だと分かるだろう。しかもそれは目の玉程の大きさであり、その価値は計り知れない。
 更に、麒麟男について情報を提供してくれる。
「麒麟男の本名は、馬越だ。『馬越太郎助』って名前だ。元は九州から流れた京都のヤクザで、今は野蛮な放浪者よ。奴の事を知りたきゃ、賭博場だろうな」
 そう告げた後、彼はフラフラ立ち上がり、表通りに出払ってしまう。【目星】か【人類学】に成功すると、歩く彼の挙動にぎこちなさがあり、自然な歩行には思えないと観察出来るだろう。


『辰木有二』
 公会堂庭園のイベントで、彼から名刺を貰った探索者は、指示通りに梅田にある『碌々珈琲』に赴く。この店からは、『阪急梅田ビル』が伺える。現在の阪急百貨店の前身であり、まだスーパーと食堂の複合施設であった。
 既に窓際の席には辰木がおり、探索者の到着を待っていた。向かい合わせに席に座れば、彼は前置きは無しに続ける。
「私は外務省の命令で動いている。つまり、公の事案だ。現在は米国にいる、『斎藤博』アメリカ領事の報告を鑑み、藍柘榴の確保の為に私が抜擢された」

【知識】か【博物学】に成功すると、斎藤博の事を思い出せる。斎藤博もまた外交官であるが、外務省きっての秀才とされ、パリ講和会議やワシントン会議の全権団に40歳前後の若さで加えられたほどの人材であった。このシナリオ中の彼はアメリカ領事として、米国に駐在している。

 斎藤博の報告について聞くと、「深くは言えないが、藍柘榴が危険な代物である歴とした事実である」としか言わない。探索者が「知る権利があるのでは」と知的で巧みに話を回したり、厳しいなら【説得】や【信頼】に成功する事で、彼は探索者の知性を評価して詳しく話してくれる。

「あの藍柘榴は、元はフランスで作られた物だ。それがオランダに渡り、出島を通じ日本に流れた……フランスで所持していた者は最初の塀を越え、『バスティーユ牢獄襲撃』の発端となった。その後、藍柘榴は民衆の中を転々とし、『フランス革命』を広げた。後は『オラニエ公』に渡り、後にこの一族はオランダで国家を樹立した。しかし藍柘榴は盗難に逢い、輸出品に混ざり、江戸幕府の時代に日本に来てしまう。一時期所持していたと言われる『大塩平八郎』は反乱を起こし、水戸藩に流れた藍晶は浪人の手に渡り『桜田門外の変』を起こした……あの藍柘榴は犠牲と共に、確変を生むんだ」

 彼の説明が大正時代の一般日本人に通じるかは別として、辰木は藍柘榴の与える忌まわしい呪いを熟知している。それは彼が言った出来事以外にも、様々な事件には藍柘榴の存在があり、科学的であらずともその危険性を嫌でも思い知らされていた。彼は日本政府と銘打ってはいるが、実は尊敬する斎藤の命令を個人として執行しているに過ぎない。そもそも、こんな確実性に乏しい事を国がする訳がない。

 彼は藍柘榴の回収後は、政府で厳重保管すると言うが、その実は藍柘榴の破壊を考えているのだ。
 次いで、「鳥海家はあの藍柘榴を手に入れてより、大商人にまで大成した。だが、アレは恩恵を与える物ではない。確保の際は私に一報を願う。報酬は500円(300.000円)……いや、言い値で構わない」と約束し、探索者の分のコーヒー代金まで支払い、ぎこちない歩き方で町に消える。

【麒麟は何処に】

 3日目に入る。ここで探索者らはそれぞれの思惑を持って、麒麟の捜索が開始される。舞台はカンカン帽にスーツの出で立ちなサラリーマン、ハイカラさんなモダンガールが往来する大阪経済の中心、梅田だ。
 これら全てのイベントは、4日目でも持ち込めるので、KPは2ラウンド経過の後に夜のイベントに移ろう。


『街に聞く』
 聞き込みを行う場合、【幸運】の出目によって情報が変わる。


幸運「成功」
 話を聞いた相手は、公会堂にいた労働者の男だった。彼は得意げに「麒麟男の名前は、馬越太郎助って男だ」と言う。元は九州生まれらしく、薩摩弁が入った喋り方の大男との事。京都のヤクザだったが、そのヤクザが抗争に負けて破滅した後は賭場荒らしとして、各地の賭場を強盗して回っているそうだ。


幸運「クリティカル」
 麒麟男こと、馬越太郎助を知る元ヤクザに会える。彼は情報料金として20円(12.000円)を要求する。【値切り】に成功で、15円(9.000円)〜10円(6.000円)に落とせる。金を払えたのならば彼はキチンと話してくれるだろう。
「馬越は、良く京都のヤクザ時代の仲間と『緑橋』でつるんどる。緑橋のどっかの宿場にいるって話や。ホンマやぞ? あの辺り東成区は今年、大阪市に編入したばっか。んで、あまりに広大なもんやから、司法の目が届き切っていないから絶好の隠れ蓑って訳や」


幸運「失敗」
 麒麟男の武勇伝が聞ける。
「散弾銃を担いで、単身賭場に突っ込み皆殺しにしたって噂だ。それが原因でヤクザの組一つ潰したらしい。鬼気迫る戦いっぷりで、並みのヤクザなんざ敵にならない。左目の視力が弱いらしく、右目で睨むように歩くらしいぜ」


 出目によっては緑橋にいる事が分かるが、この日には行く事は出来ないと伝えておこう。


『目撃情報』
 猪尾と締結した探索者に限定される。
 猪尾が路地裏におり、探索者へ「馬越が、『阪急食堂』にいたって話だ。梅田ビル3階の方だぜ」と情報を渡す。早速向かったとしても馬越はいないが、早合点する前に食堂の従業員に話を聞くなら、「左目に傷がある、堅気とは思えない大きな男性はいましたよ」と情報をくれる。
 詳しく聞くなら【言いくるめ】だろう。ロールに成功すると、「別の男性と一緒にいました、身なりが綺麗な……ここだけの話、お金のやり取りに見えましたよ」と告げ口する。この男性と言うのが、鬼門隊の「三虎」だ。


『新聞』
 大正といえば、メディアが一気に発達した時期でもある。余談になるが特に『読売新聞』の発展はめざましく、1925年にラジオ放送が開始されたその同年11月にはラジオ欄を設けており、これは今で言う「番組表」の先駆けとなった。その他この新聞は漢字に読み仮名が振られており、全面的に庶民向けの話題を提供する新聞として愛された。
 ただこの当時の大阪では読売新聞は本格的な関西介入を果たしておらず、全国的にも『毎日新聞』と『朝日新聞』の二強であった。探索者も、この2つの新聞を読む事で情報を得られる。


「毎日新聞・コラム」
 1925年、宇垣陸相は軍縮を行い、三万人規模の将校を馘首した。また、これまでの軍縮では行われなかった師団の解散まで実行し、第13・15・17・18師団が廃止された。これに対し国民の中には、軍を軽視する風潮が溢れ、将校の中には蔑視に耐え切れず外出時は軍服を着用しない者までいるらしい。


「朝日新聞・小窓の記事」
 中之島の大阪市中央公会堂にて、奇妙な目撃談が寄せられる。目を多く持った怪物が、堂内を漂っていたと言う情報だ。またそれ以外にも、人間の姿をした靄が浮かんでいたとの情報もある。俄かには信じられないが、特筆すべきは、この目撃情報を送りつけた者らは公会堂には似合わない日雇い労働者たちであった事だろう。


 また、【アイディア】に成功すると、両新聞共に鳥海家の強盗事件については一切振られていない事に気が付ける。鳥海家は徹底した情報統制を敷いており、被害を自主隠蔽したのだ。


『監視』
 辰木と締結した探索者に限定される。【アイディア】に成功すると、自身に注がれる視線に気が付く。【目星】に成功したのならば、遠く後ろからこちらを伺う男に目が向くだろう。その男は、鳥海家の人間であり、辰木との関連を疑い様子を伺っているのだ。
 探索者が気付いた場合は、颯爽と逃げて消えてしまう。探索者は言いようもない不安から、【正気度 0/1D4】を行なうこと。


『情報の多い捜査線』
 宮澤と関係のある探索者に限定して発生する。探索者の為、彼は幾つかの情報を集めていた。探索者の振る1D4の結果で、与えられる情報が変化する。


1……馬越は緑橋にいる。緑橋の宿を転々としていると聞いた。

2……馬越は藍柘榴を、他の誰かに売った可能性がある。誰かは分からないが、そう言った話がある。

3……馬越は良く、雀荘に行っていた。その雀荘はどうやら、裏賭博場らしい。

4……馬越の子分が、梅田の郊外にいる。恐喝屋のチンピラらしい。


『チンピラ』
 宮澤の情報を頼りに向かえば、案の定梅田から少し外れた場所で、ガラの悪いチンピラに金銭を要求される。要求されるがままの場合は持っている物全てを盗られてしまうが、拒否の場合は戦闘となる。


対・チンピラ2人
     A   B
STR.  12   12
CON.  11   12
SIZ.  10    14
POW.  10   12
DEX.  14   13
耐久力. 10   15
db.   0   +1D4
技能:言いくるめ、60% 隠れる、70% 忍び歩き、20%
武器:こぶし、60% 1D3+db
キック、56% 1D6+db
小刀、50% 1D6+2+db


 戦闘が劣勢の場合、【DEX対抗ロール】で逃走も可能だし、他の探索者が【幸運に『失敗』】で参加可能だ。可哀想に。
 チンピラ2人を倒したのなら、2人の内1人は馬越の子分であり、「馬越さんには敵わねぇ」とごねる。探索者が詳しく話を聞くのなら、「馬越さんは緑橋の『亀屋』って宿に潜んでいる」と白状する。しかし馬越は追手を恐れ、宿を転々としており、この亀屋にはもういない。


『裏賭博場』
 華やかな梅田の裏にも、密かに賭博場が存在する。表向きは雀荘だが、麻雀賭博が横行するヤクザの賭場だ。探索者は街中で【信用】か【言いくるめ】に-5の補正を加えた上で成功して他者より聞き出すか、【ナビゲート】によってここへ至る事が出来る。宮澤の情報を聞いたなら、自動的に行ける。
 麻雀自体は中国に古くからあったが、日本に渡来したのは明治末期で、大衆化したのは関東震災の後だ。驚く事に、麻雀を日本で最初に紹介したのは『夏目漱石』と言われている。
 探索者が問題の雀荘に行くならば、馬越の事を聞くと「つい最近も来ていた」と話してくれるだろう。詳しく聞こうとすれば、「麻雀知っているなら、勝負をしよう」と持ち込んで来る。

 ここでKPとPLは同時に1D6を振り、純粋に出目の高い方を勝ちとして三回勝負で雌雄を決する。勝利した場合は麻雀で勝ったと言う事にし、「金が沢山入ったと言っていたな。宝石を売ったとかなんとか」と話してくれる。場所を聞くならば「緑橋の、『鶴屋』って宿だ」と言う。
 亀屋と鶴屋と情報が錯交してしまったが、既にどちらでもない『鯛屋』に彼は潜んでいる。


『耳寄りな目撃談』
 調査に対し、積極的に情報を得ている者に限定して発生。馬越について調べている者がいると、噂の的になっており、彼を知る者が探索者を探していた。探索者はその者へ【ナビゲート】で辿り着く事が出来る。宮澤と関係がある探索者なら、彼が紹介してくれるだろう。
 その者は、「馬越は今、緑橋の『鯛屋』って宿にいたぜ!」と話してくれる。

【鬼門隊事件】

 探索を終えると、大阪は夜に差し掛かる。探索者らは思い思いに休んでいるならば、瞬間に爆音が鳴り響くだろう。
 夜の街が真っ赤に染まり、火事が発生した。聞き耳をするまでもなく辺りは混乱の声一色だ。探索者らは不安から、【正気度 0/1D4】を行なう。

 探索者らが様子を見に行くと、一つのビルが大きく倒壊し、周辺を火の海に包んでいる光景を目の当たりにする。警察や消防隊が即座に対応し、安全な場所から数多の野次馬が詰め掛けていた。この場にいる者は全員、何が起きたのかを理解していないだろう。

 これぞ鬼門隊の最初の一撃であり、探索者らは知る由もないが、東京の議事堂には電報で宣戦布告が届けられていた。その情報によって辰木は鬼門隊の存在を知り、同時に藍柘榴はその鬼門隊の手に渡ったのではと気付くのだ。

 探索者側では、野次馬に混じった探索者ら全員が【目星】か【アイディア】を振り、成功すると怪しげな人物が数人のグループを組んで逃げ行こうとする様を目撃出来る。【人類学】に成功すると、非常に足並み揃った様子で、まるで軍隊を彷彿とさせる連中だと気付けるだろう。
 探索者らは【追跡】に成功で追う事が出来る。追跡であらずとも、自前の車があればそれを使えば良いし、近道先回りを【ナビゲート】で行なう事も出来るだろう。失敗し、総員が追跡出来ない場合、別の現場で爆発が発生してしまい、驚きから【正気度 1/1D6】を行う。これには日和見に徹していた群衆も慌てふためき、梅田はパニックに陥る。


『鬼門』
 探索者らがいずれかの方法でその怪しい集団を追うと、彼らは次の爆破を実行しようとしている最中だ。探索者らは颯爽と現れ止めに入る事も出来る。しかし敵は戦闘をするつもりはなく、口元を布で隠した不気味な風貌のまま必死に逃げ出すだろう。
 その前に【忍び歩き】で近付いた上で【聞き耳】に成功すると、「これで日本は、また眼を覚ますだろう」と言う呟きを聞き取れる。

 彼らが消えた後には、『爆弾』が設置されている。しかも油が含まれており、焼夷弾でもあるのだ。探索者らには導火線の火を消す時間はないと告げておき、その場から【DEX×3】で逃走するか、爆弾を【投擲】で遠くに飛ばすかを決めさせよう。
 逃走に失敗の場合は、【1D6】のダメージを追う。投擲に失敗の場合は【1D10】の上に引火による1ラウンドにつき【1D6】ダメージが付随する。これは【幸運】に成功か、他の探索者らが【応急手当】で助けない限り続くだろう。逃走失敗時でも、出目によっては引火させよう。爆発の被害を受けた探索者は【正気度 1/1D6】を行なう。

 一応、逃げた鬼門隊は【追跡】が可能だ。成功した場合、鬼門隊の内1人が探索者に銃を向け、襲いかかる。


『対・鬼門隊隊員』
STR.12 CON.11 SIZ.13
POW.12 DEX.10
耐久力:14
db:+1D4
技能:馬術、70% 応急手当、70% マーシャルアーツ、80% 回避、26%
武器:こぶし、80% 1D4+db
キック、60% 1D6+db
拳銃、64% 1D6+1
ナイフ、55% 1D6+1+db
武道、50% 特殊


 この暴れる隊員を倒すと、彼は持っていたナイフで首を掻っ切り自殺してしまう。探索者は【正気度 0/1D6】を行なう。その後、探索者は死体を探る事が出来る。


『検死』
 死んだ隊員のコートを脱がせば、その下は軍服であった。【知識】か【人類学】【博物学】に成功すると、この軍服のボタンは金色であり、准士官である事が分かる。軍服の装いから、誰がどんな地位の兵士か分かるようにされており、例えばボタンや各部章から判別が可能だ。袖章は外されていたが、襟章が鷲色である点から、工兵科准士官である事が分かる。つまりは、将校である(厳密に言えば、准士官とは下士官上がりの将校相当官を指す。高等教育を受けた者が士官だ)。

 また【目星】に成功すると、軍服の下に文字が書かれた布が縫い付けてある事に気が付く。第二ボタンの裏、心臓の上の辺りにある布には『鬼門』と記されている。引き千切るのならば、更にその裏には「我ら叛乱の徒であり國賊であらず。ただただ、御國の為に」とある。鬼門隊は日本陸軍を目覚めさせる為に逆賊行為を働いており、国を蔑める為ではないと主張。その決意が縫い付けられているのだが、三虎は次第に知性を失い、凶暴性を増して行っている。


『警官の話』
 准士官の死体が残っている場合で待機していた場合、駆け付けた警官の聴取を受けることになる。探索者が直接手を下した訳でないのなら素直に受けるべきだ。最も、死体の様子から自殺である事は分かるので、「この男は知っているのか」「状況を教えてくれ」と言った軽い質問で済む。
 ただし【心理学】に成功で、その警官は酷く驚いている事に気が付ける。或いは【聞き耳】に成功で、彼が小声で「まさかそんな」と呟いている事に気が付ける。【説得】か【信用】に成功した場合、彼は「この男は知り合いなんだ。先の『宇垣軍縮』で辞めさせられた元将校で、国を守る為に入隊したのに、端金渡され追い出されたとボヤいていたが」と話してくれる。

【馬と虎】

 4日目に移る。基本的には3日目のイベント群の流用と、探索者が馬越の居場所に近付いたのであれば確保の流れとなるが、辰木と繋がりのある探索者のみ、早朝から電報で碌々珈琲にて呼び出しを食らう。
 辰木は昨夜の事件に触れ、「あの事件の首謀者である『鬼門隊』より、声明が来ている」と告白する。次いで、「首謀者らはこの大阪に潜んでいる。それなりの報酬も用意するので、情報を集めて欲しい」と頼み込む。
 彼は探索者らに調べさせ、鬼門隊の注意を引かせようと画策しているのだ。探索者らが「警察に頼まないのか」「何故、我々なんだ」と質問するのならば「警察は既に動いているが、彼らは裏の事情に踏み込もうとはしないだろう。奴らは深い底に潜んでいる。警察でも何でもない君たちなら動きやすいハズ」と振り切っておこう。

 また、前日に鬼門隊の兵士を目撃した場合、探索者がそれに関した質問をするならば詳しく話しても良いだろう。
「宇垣軍縮で馘首させられた陸軍将校が逆賊となったのだろう。特別資金を支給していると言うのに、何が不満なんだか。奴らは国家転覆を狙っている」
 ここで【心理学】に成功すると、彼は腹の内では何か企んでいる事に気が付けるものの、彼は一向に語らないだろう。


 続いて、他の探索者が行うべき馬越の捜索である。
 馬越の居場所に至れていないのであれば、前日のイベントを続ける。以下は、馬越が緑橋の宿に潜んでいる事を知り、現地へ赴いた探索者にのみ適応される。


『亀屋』
 亀屋に入り、女将に伺うならば「馬越さんはとっくに出て行かれましたよ」と話すだろう。
 探索者は【幸運】に成功で、他の宿泊客から「変な客だよな。1週間いたのに、鶴屋って宿に鞍替えするって聞いたぜ」と聞ける。女将に対しては【信用】に成功で、「オススメの宿を聞かれまして、親類がやっている鶴屋を進めました」と話してくれる。
 またこの亀屋、鬼門隊のメンバーが根城としており、武器商人を待つ男が伺える。【心理学】に成功すると彼は誰かを待っている様子であり、本人に言った所で絶対に口を割らないが、女将に聞くならば「あの人、3日前からここに泊まっていまして。度々店先に出ては、誰かと何か話しています。いつも同じ男の人でしたよ」と話してくれる。


『鶴屋』
 鶴屋の前まで来た時、入口に立つ男性が探索者に「馬越を探しているのか?」と聞いてくる。彼らは馬越が雇ったチンピラで、探索者を痛めつける為に待機していた。裏にも2人、潜んでいる。
【心理学】に成功するならばその魂胆を見抜く事が出来るし、【目星】に成功すると店の裏に隠れる仲間に気が付ける。
 或いは【言いくるめ】で上手く「違う」と騙せる。騙せた場合は彼らから離れた位置で【聞き耳】を振り、「馬越の兄貴は鯛屋か? 報酬を上乗せしてもらわな」と会話の盗み聞きが可能だ。この場合は戦闘は無しに、穏便に事を済ませる。

 正直に肯定した場合や、彼らの魂胆に気付いた上で探索者側から奇襲を行うのならば、チンピラ3人と戦闘となる。彼らが襲って来る事を予知出来ずに戦闘に入った場合、驚きから【正気度 0/1D4】を行うこと。


対・チンピラ3人
     A   B   C
STR.  14   11   10
CON.  10   12   13
SIZ.  12    10  11
POW.  13   13  12
DEX.  13   12  14
耐久力. 15   13  13
db.  +1D4  0   0
技能:言いくるめ、60% 隠れる、70% 忍び歩き、20%
武器:こぶし、60% 1D3+db
キック、56% 1D6+db
小刀、50% 1D6+2+db


 彼らを直接のめしても良いし、厳しいならば【幸運】に成功で他のチンピラを発見できる。このチンピラらに30円(18.000円)以上の金を握らせたり、【言いくるめ】で喧嘩に乗らせたりして一時的に味方NPCにするのも手だ。或いは戦っている間に探索者1人が抜け出し、【1D4ラウンド】の後に交番へ辿り着いて警察に助けを求めるのも手だろう。
 いずれかの方法を使い、チンピラをのめした場合に彼らは「馬越は鯛屋にいる」と白状するだろう。


『鯛屋』
 馬越が現在、潜んでいる場所だ。ここに来る前に探索者は準備も出来るし、猪尾と繋がりのある探索者ならば彼を味方NPCとして同行させる事も出来る。
 鯛屋に入る場合は【忍び歩き】か、馬越の警戒心から外れる為に【変装】で無害そうな老人や宿の従業員に化ける事も出来る。そのまま行くようならば馬越は探索者の気配を察知し、窓を破って逃走を図る。
 逃げる彼は【DEX対抗ロール】に成功で齧り付けられるし、或いは石か何かを拾って【投擲】で足を止めてやる事も出来る。探索者の発想を受け入れて、彼を捕らえてやろう。努力虚しく逃げられた場合、彼は鬼門隊に救助を要請し、鬼門隊の一員として探索者らに襲いかかってしまう。しかも鬼門隊に探索者らの顔が割れてしまうだろう。

 彼の部屋を奇襲したり、逃げる彼に追い付いた場合には、馬越との戦闘となる。彼は探索者が複数人いようとも、最後まで抵抗するだろう。彼の抵抗を抑えた場合は、彼は観念してその身を探索者らに委ねるだろう。
「俺は流れ者だ。どうしようもない悪漢だ。碌な死に方をしない事は覚悟しているぜ。ただ、俺を誰かに引き渡したり殺したりした所で、探している藍柘榴はもう無いぜ。名も知らん面白そうなオッさんに売っぱらったからよ」

【処遇】

 馬越を捕らえた場合、彼の処遇をどうするかを決められる。普通に警察に引き渡した場合はそれまでであり、馬越はこのシナリオ上から離脱する。

 猪尾に身柄を渡した場合、翌日に彼は惨殺死体となって発見される。その上で猪尾は探索者らに「藍柘榴を探してくれ。そしてここに持って来てくれ」と伝える。馬越の件について聞くならば「そうだね……ま、俺の仕業じゃない。俺の上のモンがやっちまったんだな。俺は知らんぞ」と白ばっくれる。探索者は罪悪感を含めて【正気度 1/1D6】を行なう。
 一先ず探索者には、馬越を連れて来てくれた礼として金剛石が渡される。藍柘榴を持って来たならばもっと良い金剛石を用意すると、猪尾は投げ掛ける。金剛石の価格は1.000円(600.000円)を優に超えるだろう。馬越を連れて来なかった場合は金剛石は渡さず、確保を催促する。この金剛石は後々の交渉材料にもなる。

 中央公会堂にて鳥海家に引き渡した場合は、藍柘榴を売ったと知るとそのまま警察に連行され、馬越のこのシナリオ上での関わりは一切なくなる。仙水は「馬越だけでは不十分だ。優先すべきは藍柘榴だと言っただろう!」と叱責し、藍柘榴捜索を続行するよう言い付ける。【心理学】に成功するならば、異常なほどに鬼気迫るものがあると気付けるだろう。

 馬越を逃す場合、彼は目を丸くして「変な奴だ。俺はヤクザの端くれだ。賭場荒らしの途中、人も殺したんだぜ。だのに野に放つのか。変な奴だが面白い奴だ」と話し、「売った奴の名前は『三虎』って軍人さんだ。いや、元軍人さんか。何かするらしくてな、俺が幸運を運ぶ石って言ったら買っていったよ」と真実を打ち明ける。
 その後は一目散に退散するが、彼は最終局面にて、探索者らの強力な味方となって戦ってくれるだろう。

【鬼門隊は何処に】

 辰木より使命を受けた探索者に限定し、この調査イベントは発生する。鬼門隊に関連した情報を集める事となるが、この行為は敵に顔が割れる危険性を孕むものだ。辰木はそれを見越し、探索者らを餌に鬼門隊を表に引き摺り出そうと思案している。


『宇垣軍縮』
 この年の4月より行われた、大規模な陸軍の軍備縮小だ。詳しく調べたい場合は図書館にて、【図書館】をロールして目当ての古新聞を見つける事が出来る。


 1925年5月。宇垣一成陸軍大臣の主導の下、軍縮整備が行われた。関東震災と世界大戦後の不景気から、4個師団を削除し、3万人程度の将兵を馘首せしめ、費用の捻出を図った。
 馘首させられた将兵へは特別金と中学校教員の資格が与えられ、再就職の支援を受けられた。しかし、この一件で軍部への威厳は失墜する。
 辞めさせられた将兵の中には、純粋に愛国心から入隊した者もいる。日露戦争、世界大戦、シベリア出兵を経験した者もいただろう。そう言った兵は、例え金と仕事先を与えられたとしても、果たして納得できるのだろうか。


 直接鬼門隊とは関係はないが、あの凶行の原因を薄っすら理解は出来るだろう。


『怪しい客』
 鬼門隊は完璧に隠れており、表での聞き込み程度では辿り着けやしない。ここは辰木の言っていた「裏の事情」をヒントとして、裏社会の方に注意を向けるべきだろう。賭場や闇市に入り、そこの人物らから【幸運】か金を払うかで、情報が手に入る。
「鬼門隊とやらかは分からんが、退役軍人の噂なら聞いている。ヤクザから武器を買い漁っているらしい。その武器の売人を俺は知っている」


拳銃 30% ダメージ・1D6+3


 彼の案内を受けるならば、売人と話す事が出来る。「彼らは必ず、緑橋にある『亀屋』に届けるように言われるぜ」と話してくれる。
 探索者が去ろうとする時、「話したんだから、武器を買ってくれよ。買ったらもっと良い情報を言うぜ」と販促する。彼は以下の拳銃を200円(120.000円)で買うように言う。【値切り】に成功で100円(60.000円)まで下げる事が可能だ。手持ちが足りない場合や断った場合はそれまでだが、買った場合は「実は、今日の夕方にまた配達のお願いが来ているんだ。来るか?」と告げてくれる。探索者が承諾するならば、わざわざ宿に潜入する手間を省き、鬼門隊と接触出来る。


『亀屋に再び』
 亀屋に鬼門隊の関係者がいると言う情報を掴んだのならば、早速向かうべきだろう。
 客として浸入する場合は6円を支払う。お金を払いたくないのならば、女将や他の従業員を【隠れる】と【忍び歩き】で欺いて潜入するのも手だ。または【言いくるめ】で「ツレがいる」と嘘吹き入れて貰えるかもしれない。【変装】で従業員に化けるのも手だ。
 売人の振りをして行く場合は、鬼門隊の一員と接触可能だ。店前に立つ隊員に話しかけた後、竹の間で商談が始まる。売人相手と言えども秘密を漏らす事はないが、「この武器で何をする」と言った類の質問には【信用】に成功で、「日本を変えるんだ」とだけ答えてくれる。商談後は部屋から撤収になるが、宿にこれと無しに残る事が可能だ。

 宿内に入ったならば、他の宿泊客に聞き込みが可能である。この場合はロールは不要で、自動的に「変な4人組が竹の間にいる」と分かる。竹の間の近くまで来たならば、シャンとした身なりの4人が出入りしている事に気が付ける。【人類学】に成功するならば、動作一つ一つに規律正しさが伺え、軍人らしいとも気付けるだろう。
 竹の間前で【聞き耳】に成功するならば、「三虎さんは、ここの所変だ。あの人は本当に、我々の真の目的を達成する気でいるのだろうか」と聞ける。4人は夕方に差し掛かる頃、一旦外に出る。もぬけの殻となった竹の間へは普通に浸入が可能だ。


『竹の間』
 中は存外に荷物が少ない。部屋の端に置いてある大袋を開けるならば、中には数機の小銃がある。
 ここで【機械修理】に成功すると、銃器に細工が可能であり、不発銃にしておく事が可能である。

 押入れを開けると、中には畳まれた軍服がある。軍服の説明については、鬼門隊事件の際の『検死』にある情報呈示と同じ内容だ。これで彼らは元将校だと確信出来る。
【目星】に成功すると軍服の下の手紙に気付ける。手紙には『三虎善山』と宛名が書かれている。


「三虎善山殿」
 貴方は我々の恩師であり同士であります。故に我々は貴方の思想に感銘を受け、共に散らんと蜂起した限りであります。
しかし三虎殿。ここの所の貴方の素行は暴君そのもの。最初、我々に語った思想は嘘ではあるまいかと疑っております。
 三虎殿。あの妙な石を手に入れてから変わったと思います。あの妙な石があってから、不気味な存在感に気付く時があり、おぞましく思います。
 我々の士気低下に繋がる恐れがあります。どうか今一度、ご自分の思想に立ち返って貰いたい。でなければ我々は我々で動くしかありません。


 三虎は藍晶に狂わされ、本来の目的を逸れて国家転覆を狙い始めていた。他の隊員はそんな彼に失望し、派閥が分かれ始めていた。中には鳥海家に取り入れられる者も発生している。
 調査が済んだ後、探索者はそそくさと脱出出来る。しかしその足取りは筒抜けであった。


『鬼門隊の動き』
 探索者が鬼門隊の調査を行う最中、鬼門隊側もまた探索者をつけねらっている。辰木は探索者に調査させた後に、わざと情報を漏洩させて彼らを注目させたのだ。
 夜になり、探索者らが各々の場所で寝泊まりするだろう。彼ら調査を行なった探索者の下へ襲撃を実行する。馬越を逃した場合は、馬越を追っていた探索者の下へ派遣させる。

 探索者は【幸運】か【アイディア】に成功すると、謎の気配を察知出来る。建物内であるなら窓の外より、野外にいるのなら背後に集まっている鬼門隊の隊員らを確認。【人類学】に成功すると、容姿は警官だが、軍人らしい規律正しさが伺えられる。人類学でなくとも、もう一度【アイディア】に成功で自身が狙われている事に気が付ける。アイディアに成功した場合は、【正気度 1/1D6】を行う。

 探索者が彼らの気配に気付けなかった場合は強制的に気絶させられ拉致されるが、気付けた場合は隊員1人1人との【DEX対抗ロール】で逃げ切られる。ただし逃げる場合、彼らの射撃攻撃を回避しなければなるまい。また逃げ切ったとしても、鬼門隊の【追跡】が成功した場合には再度見つかってしまう。逃げ切れた場合は辰木のいる米領事館や交番に駆け込める。銃を不発銃にしていた場合は、射撃の心配はしなくて良いだろう。

 探索者が何処かの屋内ならば【隠れる】でもやり過ごせる。ただしこのロールは、場所が個室ではなく邸宅や量販店と言った広い場所に限られる。隠れられたとしても、鬼門隊の【索敵】が成功した場合は有無を言わさず発見されるだろう。
 無事に隠れ果せた場合、探索者は鬼門隊の隊員が落としたメモを手に入れられる。メモには彼らの本拠地の場所が書かれてあり、これを辰木に渡したならば鬼門隊本拠地突撃イベントである『梅田大炎上』をスキップ出来る。


対・鬼門隊5人
     A   B   C   D   E
STR.  13   12  13   11   13
CON.  12   12  13   10   12
SIZ.  13    13  14   11   12
POW.  10   12  12   12   12
DEX.  12   11   11   14  10
耐久力. 10   10   10  15   11
db.  +1d4   0  +1D4  0   0
技能:回避、30% 追跡、56% 索敵、65%
武器:こぶし、60% 1D3+db
キック、55% 1D6+db
拳銃、60% 1D6+2
武術、70% 特殊


 彼らは探索者を政府の用人と勘違いしており、決して殺さず生かしたまま本拠地へ連行する。

【鬼門隊の逆襲】

 5日目になる。
 探索者が鬼門隊の手にかからず辰木に本拠地の情報を渡したか、捕まってしまったかによってアプローチも変わる。辰木に情報を渡したならば、鬼門隊の本拠地は制圧され、『梅田大炎上』を丸々スキップ出来る。ただし藍柘榴は辰木に渡り、彼中心のルートとして最終局面に移る。それ以外の場合は、探索者の誰かが拉致されているハズであり、彼らの救出劇と言う名目となる。可能性として探索者が本拠地の情報を得ずに逃げ切られる場合もあるだろうが、その場合は誰か適切なNPCを拉致させよう。例えば辰木を攫わせたり、宮澤だったり、PCらにとって大切なNPCだったり。ただしそれでも鳥海家は禁止とする。


『梅田大炎上』
 鬼門隊は探索者を人質として、日本政府に鬼門隊の詮索中止と身代金の要求を行なうつもりだ。しかし辰木は鼻から要求を飲むつもりはなく、秘密に編成した警察と陸軍の突撃隊を動かしている。それでも情報がない限りは、探索者よりも遅れを取ってしまう。
 探索者はまず、拉致されていない者から行動を開始。猪尾が全探索者を焚き付け、救出に向かわせるのだ。

 猪尾は全探索者に対し、「鬼門隊が動き出した。奴らは藍柘榴を持って、日本政府に挑むつもりだ。その先駆けとして、梅田を燃やし尽くすつもりだぜ」と吹聴して回る。そして彼は鬼門隊が潜んでいると言う梅田のホテルを教える。
 探索者が彼に懐疑的な質問をするなら、「ただ藍柘榴が欲しいだけ。あれはどうしようもない代物だよ」とだけ告げて立ち去る。

【追跡】に成功の場合は、一瞬見失った彼を再発見出来るが、その彼は洗脳が一旦解かれている。見た目も雰囲気も違う男性が探索者を見て、「どなたですか?」と聞く。声だけが同じだ。この彼を問い詰めた所で、別人にしか見えなくなるだろう。【人類学】に成功のみ、彼が同一人物だと気付ける。
 もし彼を深く調べようとする探索者がいたとしたら、ただの工場作業員だという事と、たまにフラッといなくなる程度の情報は与えてあげよう。


《ホテルの軍人》
 人質にされた探索者がいる場合、こちらのイベントが発生する。
 気が付けば縛られ、身動きの取れない状況の中、欧州風の豪勢な部屋の中にいた。
【聞き耳】を嗅覚技能として使用し、成功の場合は部屋中に鉄臭い匂いがある事に気付ける。【知識】に成功すると、それは火薬と油の匂いだと分かる。

 また部屋中を忙しなく動く6人の男性らがいるが、全員が陸軍の軍服を着ている。その内の1人が探索者に近付き、尋ねる。この男こそが「三虎善山」だ。
「目覚めたようだな、逆賊どもめ。俺たちの大義を邪魔しようとしやがって。貴様らは政府への人質だ。政府がお前らを見離した場合は容赦なく殺す。油をぶっかけ、火葬してやる。そして貴様の燃えた身体を二つに裂き、そこの窓から警官どもへ投げ込んでやる。だが無事、俺たちの大義が成された場合、貴様の首を斬り敬意を持って首塚を作ってやろう」

【心理学】に成功の場合、彼はもう正気ではない事が分かる。また彼は藍柘榴の付いた首飾りをしている。【クトゥルフ技能が3以上】か、【アイディア】に成功の場合、藍柘榴から放たれる異質なオーラを感知してしまい、【正気度 1/1D6】を行う。
 説得にも言いくるめにも一切彼は応じないが、【信用】に成功の場合、彼は自分たちの行う作戦を話してくれる。
「梅田に火を放ち、混乱に乗じて大阪の議会を襲撃する。東京の政府がその事件に注目した時、我々は自分らの素性を明かそう。つまり、陸軍内の蜂起を促すのだ。勇気を得た東京の軍は我々の同志となり、憎き政府を破壊する。最早、陸軍の怒りは頂点だ。我々が起爆剤となり、陸軍が政権を握る……我ら軍人による政権が成されるのだ!」

【アイディア】か【目星】に成功した時、彼の頭上、天井のシャンデリアを縫うように飛ぶ何かを発見出来る。【正気度 1/1D6】を行うこと。


《突撃準備》
 夜になると探索者たちは猪尾が提示したホテルへ、突入可能になる。50円を払い、街のチンピラを仲間に引き込める。また猪尾から金剛石を貰ったのであれば、警察さえ引き込める。警察を引き込んだ場合は、彼らの奇襲作戦が開始され、以下のイベントの『燃ゆる』までスキップ出来る。なお、銃器の購入は不可とする。

 ホテルでの立ち回りは様々だ。【変装】でホテル従業員になれるし、鬼門隊に顔が割れていない探索者ならば堂々と入れる。もし馬越を逃していた場合、彼を追っていた探索者ならばバレてしまうだろう。
 バレてしまった場合、情報は即座に本拠地に渡る。だが【目星】【人類学】【アイディア】に成功の場合、鬼門隊の隊員が情報伝達に走ろうとする様を察知可能で、情報が伝わる前に【DEX12との対抗ロール】に成功で制止出来る。
 それでも逃した場合は、探索者の奇襲を察知されてしまうだろう。探索者らが本拠地のドア前に来た瞬間に撃ち抜かれ攻撃され、【2D6のダメージ】と【正気度 1D4/1D6】を負う事になるし、戦闘にもなってしまう。


対・鬼門隊5人
     A   B   C   D   E
STR.  13   12   12  14   12
CON.  11   10.   10  13   13
SIZ.  13    13  13   12   14
POW.  11   12  14   12   10
DEX.  14   13  12   10   13
耐久力. 16   16  16   16   16
db.  +1D4 +1D4  +1D4 +1D4 +1D4
技能:応急手当、70% マーシャルアーツ、80% 目星、80% 回避、40%
武器:キック、75% 1D6+db
拳銃、64% 1D6+2
ナイフ、67% 1D6+1+db
武道、55% 特殊


 また本拠地はホテルの5階「512号室」だ。位置の特定は従業員を【言いくるめ】【信用】で懐柔し聞き出すか、10円以上の賄賂で聴くことも出来る。変装しているのなら宿泊者リストから弾き出せる。
 三虎の名前を知らずとも構わない。大人数で宿泊している部屋を探せば良いからだ。

 また探索者の中には、辰木と接点があり、ホテルにいると言う情報を渡して結託しようと考える者も出るだろう。その目的があって会いに行った探索者が【説得】に成功した場合、「藍柘榴が交換条件だ。そして人質は諦めろ」と迫る。探索者が了承した場合は、辰木が軍隊を向かわせる。その場合も、《燃ゆる》までスキップ可能だ。


《燃ゆる》
 探索者が512号室に到達すると発生する。
 探索者らの情報が伝わった場合にはドア前にて撃ち抜かれ、鬼門隊5人+三虎(場合により馬越)と5Rの戦闘となる。この際、三虎は人質の探索者或いはNPCを殺害しようとする。【回避】で他の隊員を避け、彼に【組み付き】か攻撃をしたならば阻止できる。それら叶わず1Rを終えたなら、人質は頭を銃で撃たれ、即死する。【幸運】に成功のみ、耐久度1で何とか持ち堪えられる。いずれにせよ撃たれた探索者を見た他の者は【正気度 1D10/2D10】を行なう。

 発覚せずに、或いは警察や辰木の助けを借りた状態で辿り着いた場合は奇襲となり、先制的に攻撃が可能となる上、人質を殺害される暇を与えず、1Rを凌げば次に移行出来る。

 戦闘が終了すると、三虎が自決を図ろうと焼夷爆弾を手にする。彼が藍柘榴を持っている為、爆破自殺すれば粉々となってしまう。破壊されれば、『平穏に終わる』のエンドロールとなり、シナリオは終了となる。
 勿論、藍柘榴を探索者が狙うのならば、彼を止めに入るだろう。三虎に組みかかり、【STR対抗ロール】に成功した場合にのみ焼夷爆弾を奪え、何処かに投げ捨てられる。爆破した時、【回避】に成功しなければ【1D6ダメージ】を負う。
 縛られ動けない探索者は【幸運】に成功しない限りは同様のダメージ。成功の場合、【1D4ダメージ】で済む。
 或いは、【こぶし】に成功で藍柘榴のみを取る事が可能だが、爆破時の処理は変わらない上、破裂して死んだ三虎を見て【正気度 1/1D6】を行なう。

 いずれにせよ爆破すれば、燃えた油が散布し部屋は火事となる。探索者は人質を助け出し、部屋を出なければならない。人質はその対象のSIZと、救出者のSTRとを対抗ロールさせて運べる。仲間と一緒でも可能だろう。2R目になれば火の手は広がり、各々が【1D6ずつダメージ】を受ける事になる。


《デシュ、顕現す》
 燃える部屋から出ようとした時、【アイディア】に成功で背後から迫る何かに気が付ける。
 他の味方NPCがいる場合は、彼らが突然倒され、透明な何かによって火の海に引きずり込まれる様を見てしまう。【正気度 1D4/1D6】を行なう。
 空間中に戦場の映像や、勲章を授与された映像、親戚の子どもを抱く若き三虎の映像が現れる。
 そしてどんどんと青白い皮膚を見せ、無数の目を持つトカゲのような奇怪な怪物が複数、一瞬火の上を飛んでいる事を確認する。探索者は【正気度 1/1D4】を行なう。

 三虎の脳を伝って現れた小型のデシュで、住処が火の海となった事に怒り、探索者らに襲いかかって来た。
 デシュが【45%の組み付けロール】に成功した場合、ランダムに選んだ探索者1人が組み付きされる。組み付けられればSTR×3ロール、逃げる時はDEX×3ロールに勝利で振り切れるだろう。捕まってしまえばその場に転び、火事のダメージを負う事になる。


『平穏に終わる』
 藍柘榴が破壊されてしまった場合のエンドロール。鳥海家は調査を断念し、辰木は失望しながら東京へ戻り、猪尾は何処ともなく去ってしまう。
 鬼門隊の事件は全く表沙汰にならず、一攫千金を狙い大阪を駆けた者らは肩透かしを食らう。
 探索者は【正気度 2D10】を回復を報酬とする。この時までに満たした条件によるエンドも付随し、シナリオは終了となる。

 ただ一度、夜の大阪を歩く猪尾ルートを歩んだ探索者の前に、猪尾が現れる。
「人間としては正しい事だったね。ただ永遠に闇の中さ。何も分からんだろ? 藍柘榴は何かとか、鳥海の秘密とか、俺の正体とか。謎は良いのかい? これで終わりだと思ったのかい?」
 そう言って宵闇に消える。


『柘榴は誰の手に』
 三虎から奪取した藍柘榴の争奪戦が始まる。
 日本の安全の為に辰木に渡すか、多額の報酬を求めて鳥海家に返すか、珍しい鉱石を求めて猪尾に返すか。特別な理由で辰木に自動的に渡った場合は別として、探索者らは藍柘榴の取り合いとなる。

 誰もいないホテルのエントランスを舞台に、探索者のみの戦いだ。このシークエンスの前にKPは探索者らに自らの得た情報を整理させる時間を与え、決意を固めさせる事も必要になるだろう。

 殴り合いによる取り合いでも良し、持っている者の【DEX対抗ロール】による逃げ切りも良し、【説得】や【信用】による技能の行使と対抗による心理戦でも良し。事態が膠着したとしても、5R開始時に持っていた探索者が自動的に手にする。その場合、燃え広がった火事によって天井が崩れ、各々が互いを見失って争奪戦は終わる。

【最後の取引】

 6日目、夜が明ける頃。藍柘榴を手にした探索者は夜通し走り、自分が渡す相手の所に到着する。


『鳥海家』
 鳥海家の本殿は、難波にある。
 本殿に辿り着き、事情を説明したならば仙水の待つ客間に通される。広い和風の部屋で豪勢な食事が振舞われ、藍柘榴を受け取り朗らかに笑う彼が探索者を褒め称えるだろう。
「言い値の報酬は絶対だ! それより一つ、聞きたい事がある。結婚はしておるか? 婚約者はおるか? いないのであれば、我が倅/娘をやろう。なぁに! いてもいなくても構わん!」

 大勢の鳥海家の護衛たちが探索者を取り囲む。
「さぁ。冥婚だ!」


『辰木有二』
 辰木は市議会場にいる。彼が自分で藍柘榴を手に入れた場合は、探索者を召還する。
 藍柘榴を受け取った彼は探索者を激励し、「君たちには私から、政府の報酬が与えられる事を約束しよう」と笑う。
 労いとして高級レストランへ行く途中、鬼門隊の残党に車を包囲され、運転手が殺される。
「藍柘榴を……鳥海仙水殿がお待ちです」
 辰木は渋面のまま「逆賊どもが」と呟く。


『猪尾庄吉』
 猪尾は梅田の路地裏にいる。
 藍柘榴を受け取り、報酬として金剛石を手渡す。
「ヨモツヘグリは知っているかい? 黄泉の国の物を食べれば、その者は黄泉から出られない話。

 奇妙な事に、ヨーロッパでも似た話があるんだ。冥府の王が女神に恋をして、黄泉に連れて行くのさ。その女神はそこの物を食べてしまったばかりに、ヨモツヘグリと同じく、黄泉から出られなくなってしまう話。女神が食っちまった物ってのが、柘榴なんだ。柘榴に手を出せば、その者は人間じゃなくなるのさ」

 猪尾のいる路地裏が、大勢の警官隊に包囲される。
「鳥海仙水さんからのお達しだ。お前らを連行する」
 猪尾は笑いながら「ほらな?」と告げた。

【往けよ残秋】

 7日目は、連れ去られた探索者の救出準備となる。探索者らは藍柘榴への執着心があるのか、奪還に一役かったと言って鳥海家に報酬を求めに行くのか、様々な理由があるハズだ。
 その際に鳥海家に入った探索者が帰って来ない事や、政府要人の車が襲われた事件、路地裏に警官隊が大挙した噂を聞き、それらは鳥海家に向かった話が聞ける。

 探索者は藍柘榴の真相を求め、救出に行く事になるが、一度対立した人間を助けに行けるかは微妙な心理だろう。なので助けるのではなく、奪いに行けば良い。
 藍柘榴には凶悪な力がある。それに魅せられたか、危険視したかで、行動を変えるべきだ。藍柘榴を手にしたい者、破壊したい者や、或いは記憶にある静/シズに会いたい欲がある者も出れば、純粋な好奇心で動く者も存在する。
 ともあれ鳥海家に向かう者が募れば、この先の展開の華となれる。それでも向かいたがらない探索者がいるのなら、そこでシナリオを降りてもらおう。

 探索者らは味方NPCを募れる。尚、連れ去られたNPCとは接触は出来ない。
【法律】か【信用】に成功で、辰木と接触出来る。彼を【説得】で懐柔したならば、軍人を2人寄越してくれる。


「辰木直属の兵士」
    A    B
STR  10   12
CON 13    11
SIZ  14    12
POW 13    13
DEX  9    10
db  +1D4  +1D4
耐久力 15    15
技能:マーシャルアーツ、50% 鍵開け、60% 忍び足、80% 隠れる、50%
武器:こぶし、80% ダメージ・1D3+db
小銃、45% ダメージ・2D6+2
ナイフ、55% ダメージ・1D6+1+db
武道、70% ダメージ・特殊


【追跡】に成功で、猪尾と接触出来る。【言いくるめ】に成功で彼から興味を引け、「こいつをやる」と言って『神経のムチ』を渡す。


『神経のムチ』
 シャンの攻撃道具。
 探索者のMPと、攻撃対象のMPとを競わせ、探索者が勝てばムチを当てられた者は、装置のスイッチを切るまで地面をのたうち回る事しか出来なくなる。失敗でも対象の全技能全てに【-20】補正が付き、それが1R続く。
 見た目自体は懐中電灯であり、その光を当てるだけで効果が得られる。ただし人間のみであり、デシュやシャンには効果がない。


 猪尾に何者なのかを聞けば、「亡き故郷から小さな旅人。シャン、と呼ばれていた」と告げて何処かへ行ってしまう。

 その他、10円でチンピラを雇ったり(【値切り】に成功だと、3円で済む)、宮澤を【説得】【信用】で仲間に引き入れたりが可能となる。
 また馬越を逃したのならば、【ナビゲート】【幸運】に成功で彼と接触。或いは、宮澤を引き込んだ場合、何故か宮澤と知り合いになっており、彼が連れて来てくれる。逃した探索者らに興味があると言う名目で、探索者らに従うだろう。全てが終わった時、7日目に移行する。

【異常事態】

 7日目に移る。
 捕縛された探索者は、ルートによって下記のイベントが発生する。


『鳥海静/シズ』
 藍柘榴を仙水に渡した探索者は、目を覚ますと広い座敷牢に寝かされていた。
 窓もなく、光は部屋の中央に置かれた行燈のみ。その近くに人形のように鎮座しているのが、静/シズだ。
【目星】【人類学】に成功すると、非常に浅いが呼吸はしているようで、生きた人間だと分かる。
【医学】に成功すると、瞳孔が開いており、また脈も浅く、そう長くないほど衰弱していると判明する。

 行燈以外の光が現れ、部屋に蠢くデシュの存在を感知出来る。暗闇を飛び回り、彼女の記憶を光として照らしている。【目星】に成功で、照らされた記憶の中に、一目惚れをした探索者の姿があり、その対象が今の探索者ならば技能は不要で自分だと分かるが、それ以外の者には人の顔すら識別出来ない。
 そしてデシュは甘えるように、静/シズの身体に擦り寄っている。暫くするとデシュの身体は解け始め、死んでしまう。デシュは3日以上はこの次元で生きられない。

 探索者は座敷牢内を見回れる。何もない場所で、出入口である牢の辺りを覗いても暗くて何も見えない。しかし静/シズの座っている場所で【目星】に成功すると、何かを握っている事に気が付ける。キツく握っているので、【STR×2】のロールで剥がせる。
 それはリアルに描かれた、意中の相手の似顔絵。つまり、探索者の若い頃の絵だ。【アイディア】に成功で、誰の面影があるかが分かる。
 この後探索者は鳥海家に連行され、冥婚が行われる。


『辰木有二』
 鬼門隊に連行された探索者は、藍柘榴を奪われ、静/シズと攫われた探索者のいる座敷牢とは別の牢に収監される。武器や持ち物は全て奪われた。
 辰木は藍柘榴を取り戻す為、牢からの脱出を試みる。こう言った古い座敷牢は、格子に棒を入れて、テコの原理で扉を外せると語る。
 棒は存在しないので、彼は自らの義足をテコにし、寝かせた探索者を支点にして脱出。
「奴らは何かを企んでいるな。行くぞ。例え誰か殺した所で逆賊の始末だ。正当防衛だろ? ついでに言うが、助けは期待するな……日本政府の力はない。今回の件は、斎藤さんの個人的な命令で動いていたに過ぎないからな。騙した事は謝罪しよう」

 また彼と藍柘榴について会話中に【信用】に成功すると、彼は藍柘榴の事を話してくれる。
「藍柘榴。古い文献には、フランスのある錬金術師が作ったとある。人間に超越的な思考を与え、代わりに正気を食らう。正気を無くしたのなら、その者は自分の思想しか信じる事が出来ない。
 歴史に確変を起こし、停滞を復活させた革命の石。ローマ神話の伝承から、柘榴の名がつけられた」
 上記の情報については、鳥海ルートの場合でもロールで聞き出せる。


『猪尾庄吉』
 探索者と猪尾は別々の牢にいたが、猪尾のみ脱出。探索者のいる牢の前に行き、「藍柘榴を取り戻し、俺に渡すなら助ける」と交渉。何の理由がない以上は彼の言葉に従う方が良い。
 また彼は護身用に「神経のムチ」を渡してくれる。探索者が彼に何者なのかを聞くならば、【説得】に成功で「俺はこの男の身体を使っているに過ぎない。名前は……シャンと呼ばれていた」と明かす。

【侵入】

 夜に差し掛かる。
 冥婚予定の探索者以外は、牢屋から出た者は内部の捜索を。外の者は何とかして侵入出来ないかを模索する事になる。まずは外から侵入する探索者のイベントからだ。
 鳥海邸は西洋風の三階建ての屋敷で、障壁に囲まれ、正面口と裏口には大勢の門番らが存在しており、正面突破はまず不可能だろう。以下、侵入方法をあげる。


『塀を超える』
 鳥海邸は4メートル程度の壁に囲まれている。【登攀】に成功で登れるだろう。登攀成功者しか塀は超えられないが、塀の向こうに用務員倉庫があるり、【鍵開け】成功すると侵入可能で、ロープが手に入る。それを内側から【投擲】で外へ投げ、他の探索者を招く事が出来る。
 ただロープを登る最中は、内側でロープを引っ張る必要がある為、探索者同士の【SIZの対抗ロール】を行い、登る側が負けた場合は途中でロープを離してしまい、失敗する。その時に登る側の探索者は落ちて怪我をする為、【1D4ダメージ】を負う。


『囮』
 他の探索者が何かしらの騒ぎを起こし、正面口或いは裏口の門番らの注意を引く必要がある。
 雇ったチンピラらにさせる場合、彼らに更に「30円【値切りで10円】」を渡さねばならないが、仕事をこなしてくれる。
 探索者が行う場合は、様々な方法があるだろう。その場にいた誰かと喧嘩をする、馬車で事故を起こす、演説をする、狂人の振りをするなど。KPはPLの提案を考慮し、ロールを選んで欲しい。

 門番らが注意を引かれている間に他の探索者は【忍び歩き】で侵入する。失敗すれば気が付かれ、引きずり戻される。
 また囮の探索者は中に入れない為、別のアプローチが必要になる。

 宮澤賢治が仲間の場合は、彼が囮を引き受けてくれる。『注文の多い料理店』の即売会を開始し、引きつけてくれる。


『眠り薬』
【薬学】【医学】で睡眠薬を作れる。それを使用し、鳥海家の使用人を装ってお茶に仕込んで飲ませる方法もある。ただ使用人を装うにしても【変装】が必要だ。変装をせずとも、【信用】で何とか飲んでもくれるだろう。


『神経のムチ』
 猪尾から神経のムチを受け取っていた場合に可能。門番全員に向けて発射し、門番全員の【MP5との対抗ロール】に成功すれば全員をのたうち回らせ、侵入が可能となる。


『買収』
 60円あれば門番を買収し、侵入に目を瞑って貰える。値切りは不可だ。
 また、猪尾から貰った金剛石があるなら、それを渡せば一発だろうか。


『行政執行』
 辰木から兵士を遣わせられている場合に可能。政府の要人だと言い、【法律】【言いくるめ-5】で日本政府からの使者で仙水と話があると嘘をつく。後ろに控えた兵士らが信憑性を高めてくれる。
 門番らはおずおずと、彼を引き入れるだろう。門番らには冥婚の事実は知らされていない為、絶対に入れられないとは考えていないからだ。


『馬越のトンネル』
 馬越がいる場合に発生。彼は一度、鳥海邸に侵入している。どうやって侵入したかと言えば、ゴミ置場の裏に隠された壁の穴へ案内する。ゴミ回収人を装い、夜な夜な壁に穴を開けていたらしい。そこから楽々侵入出来る。

【鳥海邸】

 邸内の警備は皆無だ。
 牢屋から脱出した探索者や、侵入を成功させた探索者は中の調査を開始出来る。
 KPは鳥海邸の内部を好きに作成して良い。


『資料室』
 鳥海家の家系図や習わしと言った古書が陳列されている。【図書館】に成功すると、以下の資料が手に入る。


知恵借り
 藍柘榴の依り代となるは、15となる一族の次男或いは長女とする。

 神の使いは丁重に扱え。

 依り代が19歳を迎えた時、冥婚の儀式を行う。冥婚により天へ召された其の者は神の元へ行き、守護霊となり我が家を守り続けるだろう。


 冥婚についてのワードを知った上で更に【図書館】に成功すると、それらの資料も手に入り、「冥婚は、依り代と異性の生者を棺桶の中にて交わらせる」と分かる。つまりは生き埋めだ。
 また技能を使用せずに調べた場合、震えた筆跡の営業計画書が発見される。これらは静/シズが書いた、藍柘榴による知恵の筆答だ。最初は綺麗だが、後に近付くほど文字は細くなって行き、今年の物は判読不可能だ。計画書には全て、『鳥海静/シズ』の名がある。


『客間』
 鍵がかかっているが、【鍵開け】で侵入可能。
 広い和室だ。家宝の打刀がある。剣技に自信のある探索者ならば、拝借しても構わない。
 また戸棚を開けば、手紙がある。「三虎殿は己を見失っている。我々の同志と見受け、鬼門隊は鳥海家に着く」とある。
 この点から鳥海家は鬼門隊を支援しており、しかも国家転覆を考えていた事が分かる。


『用務員倉庫』
 鍵がかかっているが、【鍵開け】で侵入可能。
 庭師専用の倉庫。ロープやバール、スコップなどが存在する。拝借して武器にしても構わない。


『護衛人詰所』
【目星】に成功で、隠し箪笥の【拳銃 1D6+1】を見つける事が出来る。腕に自信があるなら拝借しても構わない。


『仙水の部屋』
 彼の部屋の、書斎の机を開けると「参・伍・壱・弐・四」と書かれたメモを見つけられる。ダンスホールの仕掛けのヒントだ。
 また彼の部屋に、一つの肖像画がある。それは静/シズが描いた、意中の相手の顔だ。探索者は【アイディア】に成功で誰なのか察知が出来、本人ならば技能は不要で過去の自分だと分かる。
 タイトルは、『想い柘榴』。仙水がその絵を飾り、肖像画の人物を探そうとしていた点を見るに、我が子を思う心はあるとは分かる。

 探索者が調べていると【アイディア】に成功で、隠し扉の裏に隠れていた仙水が探索者に斬りかかる様に真っ先に気付ける。失敗すれば【回避】を行い、それでも駄目ならばズバッと斬られ、【1D10ダメージ】を負う。【正気度 0/1D6】を行なう。
 仙水は「不届き者め! 斬り捨ててやろう!」と叫び、襲いかかる。
 彼を伏せた場合は、「あの子の、あの子の恋を叶えねば……!」と叫び、突然生き絶える。【医学】に成功すると、彼から漂うアーモンド臭から毒を飲まされていた事が分かる。犯人は動元であり、死に際に【聞き耳】をすると、「動元め……謀りおったか……」と聞ける。


『謎』
 外から侵入し、鳥海邸の景観を見た探索者のみに限定し、粗方屋敷内を巡った後に想起出来る。
 鳥海邸は階段で二階まで行けるが、三階に至る物がない。確か鳥海邸は三階建てだったハズだ。


『ダンスホール』
 明治における欧化政策の名残が伺える、豪華なダンスホール。壁には歴代の鳥海家会長の肖像画がズラリと飾られている。
 壱代目、弐代目、参代目、四代目、伍代目。伍代目が仙水だ。これは仙水の部屋のメモとリンクしており、メモの通りに肖像画を並べ替えれば、何と壁が開き、檻のような装置が登場する。
 エレベーターは当時「エレベートス」と呼ばれており、【知識】に成功でそれだと理解出来る。
 当時は日本の各所にエレベーターが登場し、エスカレーターも出来ていたが、まだまだ庶民にとって縁の無い物であり、一邸宅が持っているなんて事はまずない。辰木さえも驚き、物珍しそうに観察するだろう。
「これはエレベートスだ! 電気で動く昇降機だ! 驚いた、鳥海家はエレベートスを設置していたのか! 日本ではまだ、日本銀行でしか見た事がないのに!」

【墓地】

 エレベーターは上昇し、三階に到達する。
 三階には全く照明は無く、天井に点々とある天窓から差し込む月光のみが道しるべとなる。鳥海ルートの探索者以外ならば、全員がここで合流するべきだろう。

 廊下が続き、傍らには立てられた、白樺の箱が並べられている。【知識】に成功で、それは棺桶だと気づける。【目星】に成功で、「士屋当麻/鳥海カナ」と掠れた文字が読める。
 勇気のある探索者が棺桶を開けようとすると、蓋が非常に頑丈でなかなか開かない。用務員倉庫でバールを拝借した探索者のみ、【STR×3】で開けられる。
 中身は二つの白骨死体であり、蓋が開くと同時に地面に転がり落ちる。探索者は【正気度 0/1D4】を行なう。

 また【考古学】か【医学】に成功で、死後15年以上経過していると分かり、骨格からして男女ペアだと分かる。【知識】に成功で、二人が着ている死装束が、結婚式に着る羽織袴と白無垢だと分かる。
 他の棺桶も同様だ。これら全て藍柘榴によって廃人となった者と、冥婚相手の死体だ。棺桶の文字は、犠牲者同士の名前になる。

 廊下を歩く途中、【アイディア】に成功で、デシュの気配を感じ取れる。デシュは何もせず、空中をただ舞っている。初めて見た探索者は【正気度 1/1D6】が必要なら、ホテルで見た探索者には不要だ。

 廊下を進むと、座敷牢を発見する。静/シズがいるあの座敷牢だが、中身を覗いても、探索者諸共存在しない。

【この冥と藍】

 奥に到達すると、扉がある。そして下足箱。
 靴を脱いで入った先には、鏡張りの床が続く広いホール。大正時代の日本人には認知されていないが、『ウユニ塩湖』を彷彿とさせる場所だ。床の鏡は、天井一面の天窓から降り注ぐ月光や星空を映し出していた。また鏡の床は靴では滑る為、裸足でなければならない。

 月光の下、結婚装束の静/シズと、存在するのであれば同じく結婚装束の探索者がいる。
 その手前には小銃を構えた鬼門隊の隊員らが10人配置され、月光を受けて幻想的に輝く藍柘榴を持った動元が見て取れる。

「親父は死んだ! 次は俺がこの会社の長だ! それを祝し、冥婚の儀式によって生贄を神の国へ送る!」
 この時に冥婚が決定した探索者がいる場合はそのまま進行するが、いない場合は仙水が静/シズの一目惚れ相手たる探索者へ相手になる事を命令する。
「お前はかつて、こいつと出会っている。その時に恋に燃え、お前を想い5年が過ぎた。せめてもの供養として、相手となれ! 他は殺せ」

 彼は鬼門隊に命じ、他の探索者らを射殺する事を伝え、対象の探索者以外に向けて一斉射撃が開始される。探索者らは【回避】で銃弾を避けねばならない。直撃すれば【2D6ダメージ】を負う事になるが、【幸運】か何かしらの防御を取れば【1D6】に減らせる。
 これはNPCらにも適応される為、KPも処理を行わなければならない。


『銃弾の雨をすり抜けろ』
 尚も探索者を銃殺しようとする鬼門隊。探索者は応戦をしなければならない。銃を持っているならば【拳銃】に成功で隊員一人を撃ち抜け不能に出来る。
 また近接武器を持っているならば【DEX×3】で近寄り、攻撃する事によって倒せる。神経のムチがあるならば、【MP5との対抗ロール】でのたうち回らせる事が可能だ。神経のムチに関しては一度に複数人が可能の為、【1D10】を振って何人不能に出来るか決められる。

 1R毎に一斉射撃がなされ、また回避シークエンスに入る。この時、冥婚相手に命じられた探索者が、一人だけ選んだ探索者やNPCの前に立ち塞がると、射撃が逸れる。選ばれた探索者はダメージを免れる。
 最低でも隊員5人を倒した場合、焦った動元は藍柘榴の力を使おうと月光の下でそれを掲げた。


『巨大デシュの顕現』
 起死回生の一手を求め藍柘榴を頼った彼だが、突如として石を落とし、頭を抱えて悶え始めた。
 次の瞬間、彼の頭頂部に4つ星型の穴が開き、血飛沫が起こる。そのまま動元を息絶えてしまう。

 何事かと静寂に包まれる現場だが、一人の兵士の上半身が突然消失し、血が飛ぶ。
 更には床の鏡にヒビが入り、天窓が割れる。次の瞬間、ホールの空を飛ぶ、巨大なデシュが4体権限した。探索者らは【正気度 1/1D6】を行なう。


「大型デシュ4体」
STR.17 CON.10 SIZ.18 DEX.22
耐久力:∞
技能:回避、44%
押さえつけて噛み続ける、50%
噛み付き、55% ダメージ・1D10
対処方法:デシュへの攻撃が成功した時、与えたダメージを5倍にする。その値で1D100を行い、ロールに成功すれば一撃でデシュを倒せる。
 また全員が同じスペックである。


 大型デシュ4体は即座に兵士を全て食い殺し、今度は探索者さえ食べてしまおうと襲いかかる。
 デシュへの攻撃は対処方法の欄におけるものでしか倒せない。
 例えば探索者がこぶしに成功し、4ダメージだったとする。5倍にすれば20であり、これを1D100でロールする。20以下なら成功だが、21以上ならば失敗だ。

 デシュを全員倒し、惨劇の中でずっと綺麗な服装のままの静/シズの足元にある藍柘榴を取りに行き、シナリオは最後を迎える。

【その明と愛】

 藍柘榴のみを拾い上げ、その場を立ち去るのみでもエンディングに移れるが、この場で静/シズとの冥婚が開かれる。
 対象の探索者が行なう意思を表明すると、他のNPCや探索者が見守る中で冥婚が敢行される。

【最後】

 深夜を迎え、8日目。以下はシナリオのエンディング一覧である。シナリオ内で達成した事柄を合わせて結末を用意し、その後に満たした条件によってイベントも用意する。


大団円『東雲の花婿/花嫁』
 相応しい探索者が冥婚する事で発生。
 彼/彼女の身体は既に限界に近いほど衰弱している。貴方は瞳孔が開き、無表情の静/シズを抱擁した。存外に暖かかった。
 月光と星が照る、ヒビ割れた鏡の上。抱擁する貴方には分からない。しかし後ろで見守る他の者たちには、微かに彼/彼女が微笑んだように見えた。
 抱擁を解く。狂気に翻弄された静/シズは目を閉じた。身体は既に、冷たくなっている。

 こんな悲劇は二度とない方が良い。藍柘榴を破壊するべきか、辰木か猪尾に授けるべきか。それは貴方のみが選べる。
 探索者全員には、【正気度・耐久力 1D10】のボーナスが付随。対象探索者には【正気度・耐久力 2D10】がボーナスとなる。


落着「瑞雲の式日」
 藍柘榴を拾い、鳥海ルートで冥婚を行わずクリア。寂しげに静/シズを一人残して退散。
 鳥海邸を出た探索者が取るべき行動は、二つ。
 藍柘榴を壊すか、辰木・猪尾に渡すかだ。或いは自分が物にするか。意見が分かれた場合は、以前と同じ方法で争奪戦にするのも良い。5Rの後に警官隊が乱入する。
 手にした者は藍柘榴を、どうするのか。
 探索者全員には【正気度 1D10】がボーナスとなる。


終演『星雲の異邦』
 猪尾ルートでクリア。対象の探索者との会話になる。
 猪尾は他の探索者を神経のムチで不能にした上で、藍柘榴をその探索者に投げ渡す。
「問おう。そいつはどうすんだ? その力は絶大だぜ? 国すらひっくり返る、巨万の富が手に入る。俺はあんたを気に入ってんだぜ。ほら、どうする」
 探索者は自分の物にするか、猪尾に渡すかとなるが、破壊も出来る。自分の物にすると、催眠術で他の探索者らの記憶を消し、シナリオで起きた事全てを忘れさせ、「お前の物だぜ」と言い残し、鳥海邸を去る。この時他の探索者は記憶を消された為、正気度が初期値に巻き戻る。

 床に叩きつけるなりして破壊した場合、猪尾は納得したように頷く。
「それがお前の答えか。もうそれはただの藍晶だ。
 柘榴の実の花言葉は、『愚かしさ』。だが藍晶には『夢を叶える力』があると言う。その石は愚かな柘榴から、夢を与える宝石に変わったのさ」
 彼は探索者全員の記憶を消去させる。
 探索者全員の正気度は初期値に巻き戻る。


終劇『暗雲の記録』
 辰木ルートでクリア。対象の探索者と会話となる。
 藍柘榴を拾い上げる辰木。探索者は彼の手に渡る様を見るだけか、止めに入るかのどちらかに出来る。彼は右足が義足の為、引き止めるのは簡単だ。
「何故、止める? 確かに日本政府の命令だとは嘘だ。だが藍柘榴の力は恐ろしい事を、君は把握しただろ? 報酬はやる、その手を退けてくれ」

 探索者への選択肢は、彼を止める手を退けるか、彼を倒して藍柘榴を奪うか。奪った後には逃走し、自分の物するか、その場で破壊するか。
 破壊した場合、床の上で探索者を呆然と見ながら彼は呟く。
「……その力は絶大であると同時に、世界を変える。日本が世界で生き残るには必要な物なんだぜ。
 しかし、壊れたか……まぁ、そんな魔性の石に頼るほど、我が国は弱くはないか……はっはっはっ! 何だか、やり切った気分だ!」
 満面の笑みで笑う辰木。
 探索者全員へは【正気度 1D10】のボーナスが付随し、対象探索者のみ【耐久力 1D6】が追加で付随する。


破局『玄雲の晩秋』
 大型デシュ権限前に、対象探索者以外が全滅した場合に発生のバッドエンド。
 血に塗れた部屋の中。絶望した貴方は数多の兵士に取り押さえられ、静/シズと共に白い棺に閉じ込められる。
 振動が暫く続き、それが過ぎれば暗い静寂が永遠に続く。傍らでは暖かかい彼/彼女の感触。そして、小さな声。
「やっと一つになれましたね」



《条件による追加真相》
 これらの追加真相は、『破局』以外のエンドロールを迎えた上で、特定の条件を満たしている事で発生する。


真相『冷淡と英断』
 馬越を誰にも引き渡さず、更には死亡もしなかった場合に発生。事件後に馬越がやって来て、探索者らに感謝を述べる。
「色々な事があったが、あんたには感謝をしている。特別な礼は出来ないが、それだけ伝えに来た」と言って、踵を返す。彼に何処へ行くのかと聞くと、「大分に落堂とか言う温泉町がある。故郷なんだ……売った金を元手に、地元で小さな賭場でも作るさ。遠い旅路になるが、機会があればまた会おう」とだけ告げて町に消える。
 探索者にはボーナスとして、【正気度 1D6】が付随される。


心象『山猫と朝顔』
 藍柘榴を破壊した場合、梅田の駅前にて宮澤と親交の深い探索者のみに発生。事件後に宮澤が来て、探索者が持つ藍柘榴の破片を譲るように頼む。その破片を渡すと、【正気度 1D6】が付随される。
「色々な事がありましたが、私としても実りのある事件だったなと思います……そうだ! 実は今、書きたい話がありましてね。この藍柘榴のカケラのような、綺麗な、星のような……題名は『銀河鉄道の夜』、なんて如何でしょう? また、岩手にもいらっしゃいませ」


人道『虚栄と孤影』
 三虎を殺さず、生かして警察に引き渡した場合、【耐久力 1D6】が付随される。
 彼の名前は大々的に「逆賊」として報道され、結果として陸軍の風評は更に悪くなってしまう。
 こうした風潮の加速、腐敗化する政権の末に、11年後、昭和における有名なクーデター未遂事件『二・二六事件』の遠因となる事は探索者さえも知らない。
 ただ彼も、藍柘榴に魅入られてしまった、被害者の一人である事は、確かだし、後の総理大臣に陸軍士官が現れた点を見れば、彼の思想は成就したとも言える。


焦燥『問答と混沌』
 猪尾に藍柘榴を破壊せず、渡した場合に発生。
 彼は探索者に感謝をし、金剛石を二つ渡す。そして去り際に彼は語った。
「だが、君がその金剛石による莫大な資産は使い切れないだろうね。そして、君は悪魔に魂を売ったんだ。ただこれだけ言っておこう、一週間以内に大阪を出たまえ。どうなっても知らんからな」
 シャンは藍柘榴の解放実験を開始し、大阪全域で暴徒が現れる事件が発生する。一月かけて沈静化はされるが、大阪の発展はそこで崩れる事となる。


臨場『銃声と理性』
 辰木に藍柘榴を破壊せず、渡した場合に発生。
 藍柘榴を受け取り、鳥海家の真似のように白紙の小切手を渡す。言い値で結構のようだ。
「この藍晶は、国を反転させる力がある。一端の大商人が持っていてはならない上、逆賊に渡ってもならない。これは政府が管理をしよう。同時に君の功績は、永遠に語り継がれるだろう」
 しかし藍柘榴を保管した政府が、その後どうなったのかはご存知だろう。首相暗殺、クーデター未遂事件、軍事政権……これらもまた、藍柘榴が齎した悲劇なのだろうか。


情動『性悪と掌握』
 藍柘榴を破壊せず、探索者一人が所持したままの場合に発生。
 時代を変えるほどの力を持つ藍柘榴を手にしたあなた。だが柘榴に手を出した者は、人ではなくなる。あなたの肩に、デシュが甘えるように頰を寄せている。その数が増える毎に、或いはデシュが消える毎に、あなたの理性は消えて行く。
 その探索者は残念ながら、発狂してしまう。永遠の発狂だ。しかし鳥海家と同じ方法を選ぶならば、探索者は10年以内に巨万の富を築けるだろう。尤も、このシナリオの出来事が未来で繰り返されるが。

【NPCステータス】

 尚、静/シズのステータスは省略する。年齢に関しては、19歳が好ましい。

馬越太郎助(56)、悪人
STR.13 CON.12 SIZ.13 INT.14
POW.15 DEX.9 APP.10 EDU.22
正気度:65 耐久力:18
db:+1D4
武器:こぶし、60% ダメージ・1D4+db
キック、50% ダメージ・1D6+db
ナイフ、64% ダメージ・1D4+1+db
拳銃、65% ダメージ・1D6+1
組み付き、55% ダメージ・特殊
技能:言いくるめ、80% 回避、45% 機械修理、75% 忍び歩き、80% 隠れる、90%


猪尾庄吉(26)、怪人
STR.12 CON.14 SIZ.12 INT.12
POW.13 DEX.15 APP.13 EDU.11
正気度:- 耐久力:13
db:0
武器:こぶし、80% ダメージ・1D3
キック、70% ダメージ・1D4
神経のムチ、特殊
技能:機械修理、80% 忍び歩き、80% 心理学、90% 地質学、60% ナビゲート、68%


辰木有二(35)、要人
STR.10 CON.13 SIZ.12 INT.16
POW.10 DEX.9 APP.15 EDU.23
正気度:76 耐久力:13
db:0
武器:こぶし、50% ダメージ・1D3
義足キック、45% ダメージ・1D10
拳銃、70% ダメージ・1D6+1
技能:応急手当、81% 隠す、60% 説得、90% 経理、80% 信用、90% 博物学、50% 図書館、70% 法律、90% 他の言語(英語)、95%


三虎善山(56)、軍人
STR.15 CON.12 SIZ.13 INT.10
POW.10 DEX.12 APP.10 EDU.14
正気度:- 耐久力:16
db:+1D4
武器:キック、75% ダメージ・1D6+db
手榴弾、投擲 ダメージ・1D10
拳銃、68% ダメージ・1D6+1
武道、80% ダメージ・特殊
技能:信用、65% 投擲、67% 登攀、80% 追跡、56%


鳥海仙水(72)、狂人
STR.10 CON.10 SIZ.12 INT.15
POW.10 DEX.12 APP.10 EDU.18
正気度:- 耐久力:15
db:0
武器:キック、80% 1D6
日本刀、61% 1D10
拳銃、70% 1D6+1
技能:説得、80% 信用、71% 経理、90% 心理学、45% 値切り、73% 目星、90%


鳥海動元(34)、業人
STR.12 CON.10 SIZ.11 INT.14
POW.13 DEX.16 APP.16 EDU.20
正気度- 耐久力:10
db:0
技能:経理、90% 聞き耳、50% 乗馬、75% 信用、61% 薬学、90%


宮澤賢治(29)、詩人
STR.9 CON.11 SIZ.12 INT.14
POW.10 DEX.14 APP.11 EDU.19
正気度:44 耐久力:15
db:0
技能:言いくるめ、90% 隠れる、70% 経理、81% 製作(作物)、95% 図書館、90% 博物学、67% 歴史、90%


仲間に出来るチンピラ
     A   B   C   D   E
STR.  13   12   12  12   12
CON.  11   10   13  11   14
SIZ.  11    13  11   13   12
POW.  10   11  12   10   13
DEX.  12   11  10   10   10
耐久力. 13   13  13   13   13
db.  +1D4 +1D4  0  +1D4   0
技能:言いくるめ、50% 鍵開け、50% 応急手当、60% 忍び歩き、80% 隠す、70%
武器:こぶし、60% ダメージ・1D4+db
キック、67% ダメージ・1D6+db
ナイフ、60% 1D6+1+db

【補足】

 最終局面に於いて、何故鏡の床なのか。和婚においては神前式となる。その神棚には、鏡が置かれている。鏡は神道では大事な物であり、現世と神の世界を繋ぐ物とされている。
 鳥海邸の一面の鏡の間は、神の世界を表現していた。つまりあの場所は彼らにとって、現世とは一線を越えた別の世界、神の世界だ。一面の夜空を映す鏡の上、彼らは空に降り立った。
 血が盃として、まさにあの場は和婚に於ける神前式を表現していた。尤も、神と思われたデシュがそれらを割り破壊した辺り、神の世界は否定されたが。

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 クトゥルフTRPGが大の好き好きであります、どうも、アーガットベアです。映画みたいなCoCシナリオを書くの好きな人。監督と呼ばれたい。  色々は、URL辿ってTwitterより。

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