茨木童子
源頼光
頼光がPC乙に持たせた短刀を所持しているPCはその道に源頼光が登場していなくても、登場しているかのように客分と出目の交換を行えるものとする。(登場していた場合と同様に出目の交換が行えるに過ぎず、源頼光に因縁を持たないPCは頼光と出目を交換できない)
「門決定表の通り」
若き女子を浚い、切り殺しては生のまま喰らった、と云われる。茨木童子は人食いの鬼であった。少なくとも酒呑童子が退治されてしまう以前は。
恐ろしくも美しい食人鬼、茨木童子に恋をする人間が現れた。その恋は苛烈にして、留まるを知らず、周囲の者を不安にさせた。
その不安に応えるように、源頼光は動き出す。茨木童子の力を削がんと立ち上がる、怨霊となり果てた英霊の目は怪しく輝いていた。
甲
初期因縁:茨木童子(欲望)
初期喪失:正気(魂魄の19)
推奨分限:孤児、孤高、稀人、娼伎
目的:茨木童子への恋を成就させる
あなたは人間でありながら茨木童子に恋をした。恐ろしき鬼の首魁であることは先刻承知。優しげに見えても鬼であり以前は人を喰っていたことも知っている。
危険だと身の程知らずだと幾度も諦めようとした。忘れようとした。しかし、恋の炎は消えてはくれず、あなたはもうあなた自身を抑えていられない。
あの鬼を手に入れたい。
乙
初期因縁:源頼光(畏怖)
初期喪失:己の意志(魂魄の20)
推奨分限:孤児、影司、異形、畜生
目的:PC甲を"助ける"
あなたはPC甲の友である。甲のことを大切に思っている。だが、その甲は愚かにも茨木童子に恋し、無謀にも行動を起こそうとしている。
友として、あなたは甲を助けたいが、あの茨木童子を前に自分に何ができるだろうか。そんな悩みを抱えるあなたの前に源頼光が現れた。
「友を助ける手助けをしてやろう」
頼光のそんな囁きにあなたは逆らうことができなかった。
丙
初期因縁:茨木童子(主君)
初期喪失:人の体(血脈の19)
推奨分限:武士、人鬼、野盗、異形
目的:茨木童子の力になる
あなたは茨木童子の部下である。
あの鬼は特別な鬼だ。理知的で、人を知っている。今の都が曲がりなりにも平穏であるのは茨木童子のおかげであろう。あなたはそんな茨木童子を敬愛し、彼女の力になりたいと感じている。
私利私欲のために茨木童子に近付こうとする凡百を遠ざけ、彼女が少しでも楽になるように尽力しよう。
丁
初期因縁:源頼光(利用)
初期喪失:自由(生様の20)
推奨分限:変化、娼伎、稀人、式
目的:玉藻前の寵愛を得る
あなたは玉藻前の情夫(婦)である。
近頃の玉藻前は何故だろう、あの茨木童子とかいう鬼を気にしがちである。あなたにとっては面白くないことだ。
そんな折、源頼光が茨木童子を狙っていると耳にし、あなたは騒ぎに乗じて玉藻前の心を取り戻すことにした。
己の心が侭に。
PC甲の茨木童子への想いの丈を知ってしまったPC乙は人気のない道をトボトボと歩いていた。一人になりたい気分だったのだ。一切合切に邪魔されることなく、これからのことを考えたかった。いつからかすれ違う人もいなくなり、歩を進めながらもPC甲のことが頭を悩ませる。
だから、気付かなかった。立ち昇る瘴気にも、道を塞ぐようにして立つ鎧武者にも。
気付いた時には、それは眼前にいた。そして、それは言った。
「鬼に傾慕するとは救い難き愚物よ」
汚らわしいとでも言いたげな、苛立ちの乗った声。
「だが、貴様はその愚物を救いたいのであろう」
打って変わって、落ち着いた、どこか兄のような、父のような声の色。
「この我が手を貸してやろう」
その言葉に、恐怖のためか、希望のためか、PC乙は頷かずにはいられなかった。
鎧武者が去り、PC乙の手には一振りの短刀が残された。短刀をぎゅっと握ると、あの鎧武者の声が聞こえる。
「全ては、貴様が想いの侭に」
茨木童子
理性的な鬼である茨木童子がPC甲の想いに簡単に応えるとは考え難い。
多忙さも相まって、PC甲から想いを告げられたり、何らかの誘いを受けても、「気持ちは嬉しいが」などと言って断るだろう。しつこく感じられれば怒ることもあるだろう。PC甲に利用価値があれば、それなりの態度を取るかもしれない。
それとは別に、PC達が源頼光によって害されようとしていると感じれば、その対象への好悪に関わらず、茨木童子はPCを守ろうとする。
PC甲の対処などは積極的にPC丙に投げよう。茨木童子は多忙である。また、頼光の策略によって余裕のなくなった場合もPC丙に色々と命令を投げるべきだろう。その時の命令は茨木を助ける者ではなく、他のPCの保護・避難誘導といった方向のものになる。
セッションを通して、PC甲がどのような動きを見せたとしても、茨木童子がPC甲に夢中になるようなことは起こり得ない。だが、PC甲の行動如何によっては、傍にいることを許しても構わない。
源頼光
頼光は短刀を持つ者(セッション開始時であればPC乙)に対し、短刀を通して囁きかける。
内容はPC乙の望みによって様々である。
例えば、PC乙のPC甲への気持ちが「思慕」や「欲望」であるなら、茨木童子を殺してしまえば全て解決すると思うように仕向けよう。PC甲は悪鬼茨木によって洗脳されている、などと嘘を教え、茨木童子と敵対するように仕向けよう。
例えば、PC乙のPC甲への気持ちが「悪友」や「親友」であり、PC甲の望みが叶うことを望むなら、PC甲が鬼になれば全て解決すると囁こう。人の肉を食べた者は鬼となる。PC甲に密かに人の肉を食べさせんと企もう。そうして、PC甲を鬼にしたならば、頼光は茨木童子が人を鬼に変え、鬼の軍勢を作ろうとしていると謳い、茨木の立場を悪くしようとする。
他にも、PC甲が短刀を持ったなら、報われぬ恋を続けるよりも茨木童子を殺すことで永遠に己のものとしようなどと唆し、PC丙が持ったならPC甲に茨木童子を取られてよいのか?と煽る。PC丁が持てば、「玉藻前のために殺そう」とか「玉藻前は貴様より茨木が好きだぞ」などと声を掛けるとよいだろう。
そうした企みが失敗に終わったならば、あるいは企みが成功し茨木童子が苦しい状況に陥ったなら、頼光自身がシーンに登場し、茨木童子に斬りかからせてもセッションが盛り上がるだろう。
PC甲が茨木童子にアクションを取り、それを受けて他の道標や客分が動くことになるだろう。
動きが鈍ければGMは頼光にPCを煽らせて動きを誘導する。
詳しくは次の項目を参照のこと。
平均的な道の配分とする。
【我道】
最初の道。基本的には頼光本体が登場することはない。
羅生門から茨木童子が都の警邏へ出掛けるところから始める。PC丙を伴ってもよい。全てのPCはこの場面に立ち会う。
PC甲が何らかの行動を起こすことが望ましいが、特に行動がない場合、茨木童子は警邏に出掛けてしまう。
PC甲の行動を切っ掛けとして最初の判定を行いたい。PC甲の行動がなく、茨木が立ち去ってしまう場合は、その背を眺めつつ最初の判定としよう。
場面が硬直しそうなとき、PLが何をすべきか迷っている時、状況に関われていないPCがいる時、GMは判定を行わせ、話を進めていく。
【苦道】
茨木童子が邪悪な瘴気の気配を察知し、周囲を警戒しだす。短刀を所持しているPCの方をジッと見つめるなどさせてもよい。ただし、その瘴気が短刀から漏れているとはまだ気付かない。
PC甲が色ボケているようであれば、茨木童子は「今はそのようなことを言っている時じゃあないよ」などと嗜め、ややシリアスな空気を作っていきたい。
【外道】
茨木童子が短刀から漏れ出る頼光の気配に気付く。瘴気の発生源が短刀であると判断し、この時点で短刀を持つPCに警告を行う。
最初の警告後に一度目の判定。その後は展開次第ではあるが、短刀を預かろうと(没収しようと)する。
【鬼道】
源頼光を登場させる。PC達の前で茨木童子を悪し様に罵り倒す。感情的になっても構わないが、周囲の人間に鬼の危険性を訴えるプロパガンダの側面を意識した罵倒が可能であれば、それを。
頼光はこの場で茨木童子を殺すことに拘らない。形勢不利と見るか、十分な打撃を与えたと判断したなら退却する。GMは頼光の退却までに各PCが何らかの終わりを見付けられるように促していく。
それが可能なPLだとGMが判断したのなら、悟道の描写はPL自身に行ってもらい、GMは客分PCのその後を語ろう。
全員にとってハッピーなエンディングになるとは限らない。
各キャラクタ達の一つの物語の区切りとして、何らかの救いがあるとよいだろう。あるいは、何の救いもない、ということが救いとなる場合もあるだろう。
ルールブックの事始の章にもあるように、物語を紡ぐということを意識した終わりを目指そう。
このシナリオの製作者は、PCが死んだり、人の体を失ったり、地位を追われたり、友から離れたり、という喪失を伴う終わりを想定している。それが正しいわけではないが、そのような想定で作成されたシナリオのため、継続して同じキャラクタで遊ぶことを特に推奨することはない。このシナリオにおいて、そのキャラクタによい終わりが訪れれば、と思っている。
よって次なる演目への道標は特別用意されていない。
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