2023年10月12日更新

【クトゥルフ神話TRPG】触れぬ神

  • 難易度:★★★|
  • 人数:3人~5人|
  • プレイ時間:6~7時間(ボイスセッション)

イギリスの田舎町キャムサイドでは最近変異事件が多発していた。その事件の死体は『腹を内側から何かに食い破られた様な姿』をしていた。
シナリオの前半がシティシナリオ、後半がクローズドシナリオの形式をしている。
推奨人数:3~5人 想定時間:6~8時間(※オンセの場合)
舞台:2010年代のイギリス 推奨技能:、、

自作MAPあり。

0

10

ストック

0

コメント

クトゥルフ神話TRPG「触れぬ神」

■シナリオデータ
 プレイヤー:3~5名
 プレイ時間:6~8時間

※本シナリオでは「クトゥルフ神話TRPG基本ルールブック第6版(以降基本ルルブ)」及び「クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム(以降マレウス)」、「クトゥルフ神話TRPG キーパー・コンパニオン(以降コンパニオン)」を使用する。ゲームキーパー(以降KP)は少なくとも基本ルルブを所持している必要がある。


■シナリオ概要
 イギリス、西イングランドのセヴァン渓谷という地域では、最近奇妙な死体が発見されるようになった。その死体とは、

 腹を内側から何かに食い破られた様な姿をしていた。

 到底自然にできたとは思えないこの奇妙な死体は、今もなお増え続けているという。他殺なのか、それとも何かの病なのか。

 これらの遺体の被害者には共通点があった。彼らは皆一度は、セヴァン渓谷にあるキャムサイドという町に訪れているようだ。

 このキャムサイドという小さな町で巻き起こる物語は、いったいどのような結末を迎えるのだろうか?

クトゥルフ神話TRPG「触れぬ神」


■シナリオ背景
 本シナリオは201X年のイギリス、西イングランドのセヴァン渓谷にあるキャムサイドという町とその町にある精神病院が舞台となる。町の設定や地図は本シナリオの為に独自に用意したものであり、既存の設定などとは異なる場合がある。

 シナリオの舞台となる精神病院は「アーリー・ブラインド精神病院」という名前で、セヴァン渓谷にある唯一の精神病院だ。院長の「トラベンス・ホットレイ」は6か月前にこの精神病院に配属された新任の院長であり、町では「人当たりの良い温厚な人物」と評判になっている。しかしその実態は、グレート・オールド・ワンの一体である「アイホート(マレウスp123)」の養殖場である。「トラベンス・ホットレイ」の正体は「アイホートの後裔(マレウスp13)」であり、病院のスタッフは全てアイホートを信奉するカルト教団の一員である。

 「アーリー・ブラインド精神病院」には、セヴァン渓谷で一時的狂気または永久的狂気に陥った者が収容される。仮に病院に連れてこられた時点で狂気が収まっていたとしても、検査入院と称して強制的に入院させられてしまう。そうして入院してしまったが最後、患者たちはアイホートのもとに連れていかれて、その体にアイホートの未成熟な雛を植え付けられてしまう。この病院では入院患者が精神的に安定していき、退院しても問題ない状態まで快復したら、アイホートの住まう地下迷宮へと連れていき、そこでアイホートとの契約を結ばせるのだ。もし仮にこの契約を拒んだ場合には、アイホートにその場で殺されてしまう。患者の親族には「目を離した隙に脱走した」と説明をするだろう。契約が無事に果たされた場合には、アイホートは<記憶を曇らせる>呪文を使い、患者の「地下迷宮に連れていかれそうになってからの記憶」を封じる。そうして何事もなかったかのように、患者は退院していく。

 シナリオ概要にあった「腹を内側から何かに食い破られた様な姿をした死体」とは、精神病院でアイホートに雛を植え付けられ退院した患者のことだ。植え付けられた雛は数か月経つと宿主の体を食い破って生まれてくる。一度に数百匹生まれてくるそれは、宿主の体から生まれた後散り散りにその場から逃げていく。そのため現場には奇妙な遺体しか残らず、凶器なども見つからない。そうして腹を食い破られた死体や、運悪くその場面を目撃してしまった者は正気度を5ポイント以上失い、一時的に狂気に飲まれる。一度狂気に陥ってしまえば、後は「アーリー・ブラインド精神病院」へと入院し、自身が目撃した犠牲者と同じ末路を辿ることになる。

 「スコット・ウィリス」は、思い込みの激しい性格が祟って「アーリー・ブラインド精神病院」に入院している。過去にその性格のせいで傷害事件を起こしたこともあり、一時は閉鎖病棟の隔離室に入れられていたこともあった。そんな彼は退院が間近に迫った頃に、院長である「トラベンス・ホットレイ」に連れられて、病院の地下に広がる地下迷宮に連れてこられる。そこでアイホートと対峙した彼は、恐怖のあまり契約を結んでしまう。しかし、その後にかけられた<記憶を曇らせる>呪文は失敗してしまい、その事にトラベンスもアイホートも気づいていない。何とか命が助かったスコットは、自分の身の安全のためにアイホートを退治する方法を調べ始める。インターネットや町の図書館で調べていた彼は、「グラーキの黙示録」という魔導書を発見する。さっそくアイホートを退治する方法を調べ始めるスコットだったが、植え付けられた雛の影響で悪夢にうなされるようになる。魔導書を研究するという行為、毎晩見る悪夢、そして元々不安定な精神。スコットは再び狂気に陥ってしまい、「アーリー・ブラインド精神病院」への再入院を余儀なくされる。しかし研究を既に終えていたスコットは、自分の覚えた唯一の呪文を試してみようと、院内で儀式を試みることにする。自分の儀式を邪魔されたくないと考えた彼は、病院のスタッフから閉鎖病棟の隔離室のカギを盗み、暴動を起こしてしまう。院内が混乱を極める中で、彼は病院の中庭で儀式を進める。但し彼が覚えた呪文は<アイホートの追放>(基本ルルブp249)などではなく、<ダオロスの招来/退散>(コンパニオンp15)である。勿論その事実を彼は知らない。

 探索者達はキャムサイドで発見された奇妙な死体について、各々の目的で調査を進める為に、シナリオの舞台となるキャムサイドに訪れる。調査を進めていくと「アーリー・ブラインド精神病院」に訪れることになるが、タイミング悪くそこでスコットが発生させた暴動に巻き込まれる。精神病患者によって気絶させられた探索者達は、重度の精神病患者が収容される地下隔離室に幽閉されてしまう。スコットの間違った儀式を止め、気の狂った狂人たちが徘徊する精神病院から無事脱出することでシナリオは終了となる。


■シナリオ開始時の時間について
 シナリオ内での時間の流れは以下のとおりである。

●201X年9月5日 「アーリー・ブラインド精神病院」に「トラベンス・ホットレイ」が院長として就任する。

●201X年9月6日 「アーリー・ブラインド精神病院」のスタッフがほぼ全て入れ替わり、病院自体も改装工事が始まる。

●201X年12月9日 「アーリー・ブラインド精神病院」の改装工事が終わり、地下隔離室と「アイホートの地下迷宮」につながる地下室が増築される。

●201X年1月10日 「スコット・ウィリス」が「アーリー・ブラインド精神病院」に入院する。

●201X年1月17日 アイホートの雛が植え付けられた「スコット・ウィリス」が退院する。その日の夜からスコットは悪夢を見始める。

●201X年2月12日 キャムサイドで最初の変死体が発見される。

●201X年3月5日 気がふれたスコットを近隣住民が気味悪がり通報。スコットは「アーリー・ブラインド精神病院」に再入院させられる。

●201X年3月6日 探索者が町に訪れる。シナリオはここから始まる。


【NPC】

■トラベンス・ホットレイ 男性 34歳
 「アーリー・ブラインド精神病院」の院長を務める男性。医師。その正体は「アイホートの後裔」であり、人間ではない。
 「アイホートの後裔」は、数百万もの小さな白い蜘蛛に似たアイホートの雛が作る集合体である。真っ白で体のどこにも毛が生えていない人間の姿をしている。詳細については(マレウスp13)を参照すること。
 彼の目的は同胞を増やすことにあり、その為に親であるアイホートの下へ人間を送る活動を日々続けている。彼が「アーリー・ブラインド精神病院」の院長になったのもその目的の為である。彼は「精神病患者なら行方不明になっても怪しまれない」と考えた。患者をアイホートの下へ連れていき、契約を果たしたなら退院させて、病院とは関係ないところで雛を生んでくれればいい。仮に契約を拒み殺されたとしても、「病院から脱走し行方不明」ということにしておけば問題ない。親族も精神病患者の家族など疎ましく思っていることが多いため、大事にはならないだろうと考えた。
 彼は病院の院長に就任するために、彼の率いるカルト教団を利用した。現在の院長を退職に追いやり、自身が院長へと就任する。その後は院内のスタッフをカルトのメンバーに置き換え、病院を改築して地下に「アイホートの地下迷宮」への道を作る。こうしてカルト教団の隠れ蓑となる施設が出来上がった。彼が「アーリー・ブラインド精神病院」をカルト教団の拠点へと改造する過程は、様々な所で情報として残っているだろう。
 精神科医としての実力はちゃんとあり、雛を植え付ける予定の患者が退院するまでは、医師としての実力を遺憾なく発揮し、きちんと退院するまで快復させる。そうして退院目前まで迫った患者をアイホートの下へ連れてゆくのだ。

■スコット・ウィリス 男性 47歳
 キャムサイド在住の成人男性。言語学者。世界中の様々な言語を研究している。
 思い込みが激しい性格で、一度そうと思い込んだら証拠がない限りは自身の考えを変えない。その性格が祟って度々トラブルを起こし、周囲からは危ない人物という認識を持たれている。
 過去に一度、思い込みによる勘違いから、傷害事件を起こした事がある。その際警察の留置所に送られ、そこで精神鑑定を受けた結果、「アーリー・ブラインド精神病院」の地下隔離室への入院を指示され入院する事となった。
 入院後、隔離室へ入れられた彼はそこで深く反省し、一週間という短い期間で退院する運びとなった。しかし、退院前日の夜に彼はアイホートの下へ連れていかれ、そこでアイホートの未成熟な雛を植え付けられてしまう。本来であれば記憶を封じられるはずだったが、運良く(または運悪く)彼は記憶を封じられないまま退院した。
 スコットは退院後、自身に埋め込まれた雛を摘出しようと、病院で検査を受ける。しかし、植え付けられた雛は生きているため、検査に引っかからないように体内を移動する。スコットがいくら病院で再検査を受けようとも、彼の体には一切の異常は見つからないだろう。物理的な摘出を諦めたスコットは、今度は魔術的な方法に頼ろうとする。以前の彼であれば魔術の存在など露ほども信じてはいなかっただろうが、アイホートを目撃した彼はこの世に超常の存在が居ることを知ってしまった。インターネットや図書館などで調べ物をした彼は、キャムサイドの図書館にある禁書室で、「グラーキの黙示録」という魔導書を見つける。言語学者である彼は、この魔導書の研究にそれほど時間を要することはなく、短期間で呪文を一つ覚えられた。但し、彼が研究し覚えた呪文は<ダオロスの招来/退散>であり、<アイホートを追放する>呪文では無かった。人生で初めて魔導書に触れた彼は、その事実には気づいていない。早速儀式を試みようとするも、魔導書の研究や植え付けられた雛に毎晩見せられた悪夢により、彼の正気度ポイントは減っていた。度々奇行に走っていた彼が、いよいよ怪しげな儀式を始めようとしたため、近隣住人から通報されてしまう。そうして彼は再び「アーリー・ブラインド精神病院」へ舞い戻ることとなる。
 再入院した彼は、「自分のやろうとしていた事がばれた。このまま入院していたら始末される」という妄想に取りつかれ、病院内で儀式を始める事に決めた。スタッフの目を盗んで自身の隔離室のカギを盗んだ彼は、病院内で暴動を起こすタイミングを見計らっていた。
 彼は自分に植え付けられた雛を、ひいては病院に巣食うアイホートをどうにかするのが目的だ。その目的を遂げる過程で、彼は様々な場所で行動している。町のいたるところで彼に関する情報が聞けるだろう。
 言語学者としての彼はそこそこ優秀であり、普段は大学で教鞭をとっている。キャムサイドには彼が所有する研究室もあり、そこでは世界中の文字に関する資料が見つかる。若いころは現地調査も行っていたようで、各地で見つけたとされる文献や資料なども散見される。


■患者について
 アイホートに未成熟な雛を植え付けられた患者は、精神病院から一度退院させられる。退院した患者は悪夢を見るようになり、1ヶ月ごとに1D4正気度ポイントを失い、<クトゥルフ神話>技能を1D3ポイント得る。
 本シナリオにおいては、約2ヶ月で未成熟な雛は患者の体を食い破って生まれてくる。そうなった場合は、患者のお腹から玉のような白い小さな蜘蛛が数百匹生まれ出てくる。勿論患者は死亡する。数百匹の蜘蛛は生まれた後すぐに散り散りに逃げていく。こうして「お腹を内側から食い破られた様な変死体」は出来上がる。死体を見慣れていないような人が、変死体を見た場合のSAN値減少は1D3/1D6となり、生まれた瞬間を目撃した場合の減少は1D6/1D10となる。


■探索者が事前に持っている情報
 探索者たちは本シナリオの舞台となる町や施設、事件について事前に以下の情報を持っている。KPは探索者の役職によっては、さらに追加の情報を渡してもいいだろう。

 ・キャムサイドという町はイギリス、西イングランドのセヴァン渓谷という地域にある小さな町。
 ・セヴァン渓谷には他にもいくつか町があり、キャムサイドの近くだとブリチェスター、クロットンという町がある。規模はどの町も同程度だ。
 ・最近セヴァン渓谷にある各町で変死体が発見された。


■エンディングとシナリオ内での時間経過について
 本シナリオで設定しているエンディングは以下の3つである。

 ・探索者がスコットの儀式を止める
 変死事件はスコットが起こした暴動により、精神病院が廃院に追い込まれるため解決する。後はスコットの儀式を止めさえすれば全てが丸く収まる。

 ・スコットが儀式を完了させてしまう
 探索者が時間をかけすぎてしまうと、スコットが儀式を完了させてしまい、ダオロスが招来してしまう。そうなってしまった場合は、ダオロスはキャムサイドやセヴァン渓谷、ひいては世界中を混沌に陥れるだろう。

 ・探索者がセヴァン渓谷を去る
 探索者がもしもセヴァン渓谷を一度でも出た場合は、スコットが儀式を完了してしまう。この場合も上記のようにダオロスが招来する。

 上記エンディングの関係で、本シナリオでは時間経過の概念を採用できる様に、各種行動についての時間の目安を記載している。もちろんKPはこれらの目安を利用しなくてもいいし、そもそも時間の概念を採用しなくてもよい。

 シナリオを開始した時点での時間は探索者の設定や導入の仕方にもよるが、早くとも201X年3月6日の朝10時を開始時刻とする。スコットが儀式を完了させるのは201X年3月7日の夜23時となる。
 下記に探索者たちがどう行動すると、どれだけの時間が経過するのかの目安を記載する。

 ・探索者が町中の施設を移動する・・・特に設定なし。但し連続で移動したり、KPが時間がかかったと判断した場合は相応の時間を設定すること。

 ・町の施設で探索する・・・ロールが発生しない又はロールに成功した場合は特に経過しない。もしもロールに失敗した場合は、約1時間かけて探索し情報を得たことにする。但しこれも状況によって経過時間が前後するかもしれない。場合によっては情報は得られないこともあるだろう。どう処理するかはその都度KPが判断すること。

 ・<鍵開け>のロールをする・・・成否にかかわらず、一回の試みに30分かかる。失敗すれば30分かけて開けられなかった事になる。

 ・<図書館>ロールをする・・・成功した場合は4時間、失敗の場合は2倍の時間をかけて情報を得たことにする。

 ・別の町に移動する・・・一つの町間を移動する際にかかる時間は車で10分、徒歩なら30分とする。つまりブリチェスターからクロットンまでは車で20分、徒歩で1時間かかる事になる。

 ・セヴァン大学へ行く・・・セヴァン大学はキャムサイド郊外にあるため車で30分かかる。徒歩で行く場合は1時間かかる。各町から出ている大学行きのバスに乗った場合は10分で着ける。但しバスは2時間ごとにしか出ていない。始発は朝の8時で次は10時、12時と2時間ごとに町を出発し、18時のバスが最終便となる。

 ・アーリー・ブラインド精神病院へ行く・・・これは車で2時間、徒歩では6時間かかる。

 ・アーリー・ブラインド精神病院で目覚める時間・・・探索者達が精神病院へ向かうと、時間に関係なくスコットによる院内での暴動が発生する。この暴動に巻き込まれ探索者達は一度気絶させられることになる。探索者にD100ロールをしてもらい、[CON X 5]以下を出した探索者は1時間後に隔離室で目が覚める。[CON X 5]以上を出した探索者は、外的要因がない限りは2時間後に目が覚める。

 ・その他・・・それぞれの情報の項目で判定方法や時間について記載されている場合はそちらを優先すること。

 遅い時間帯になれば、当然だが辺りは暗くなる。探索者が調査する場所によっては、時間帯で暗くなる所もあるだろう。KPはそうした状況で探索者の<目星>や<図書館>のロールにマイナス補正をかけてもいい。もちろん探索者が明かりを用意すれば、その補正を無くす事もできるだろう。明かりを用意した結果何が起こるかは状況次第だが。


■導入
 探索者たちには、セヴァン渓谷で多発している変死事件の調査及び解決を目的としてもらいたい。被害者の遺族からの解決依頼という形が一番無難ではあるが、探索者の役職などから導入は変えてもいいだろいう。ゴシップ記事作成のための調査、オカルトマニアによる趣味の探索、或いは被害者の一人が探索者と直接関係があるとするのもいいかもしれない。導入に関してはKPとプレイヤー(以降PL)で話し合って決めるのがいいだろう。探索者が事件解決に積極的になれるようにするとなお良い。
 但し、探索者のうち最低一人には、スコット・ウィリスと何かしら関係がある様にすること。これは、探索者がスコット・ウィリスについての情報を調べやすくする為の措置である。


■町の施設
 町には以下の施設がある。各施設で得られる情報については別途記載する。KPは特に矛盾が無く、自然だと思えるなら各施設について、追加で情報を用意してもいいだろう。

・アーリー・ブラインド精神病院
 キャムサイドから車で2時間ほど行ったところにある山中の精神病院。セヴァン渓谷にある唯一の精神病院で規模は大きい。現在はアイホートを信奉するカルト教団の拠点となっている。

・キャムサイド警察署
 キャムサイドにある唯一の警察署。署といっても大きなものではない。セヴァン渓谷の各町にはそれぞれの警察署がある。

・ウィリアム・ヤード
 キャムサイドのアパート。イギリスでよく見かけるような普通の4階建てのアパート。302号室にスコット・ウィリスが住んでいた。

・セヴァン大学
 セヴァン渓谷にある唯一の大学。キャムサイドの郊外に位置する大学で、セヴァン渓谷で唯一なだけあってかなり規模が大きい。大学の施設は、教室棟・管理棟・研究棟・講堂・図書館・食堂など、およそ一般の大学にあるような施設は一通りそろっている。

・キャムサイド図書館
 キャムサイドにある公立の図書館。小さな町にしては割と大きな図書館で、一般開放されていない膨大な書庫も存在する。その書庫の中には、限られた職員しか閲覧できない禁書室も存在する。

・ウィルキンソン家
 セヴァン渓谷で巻き起こる変死事件の最初の被害者の家。大した情報は得られない。


■キャムサイド警察署
 ここではキャムサイドで起こった事件についての資料がまとめてある。変死事件についての情報もここで得ることができる。探索者の中に警察関係者がいれば、手帳を見せるだけで様々な情報にアクセスできるだろう。警察関係者でない探索者がここで情報を得ようと思ったら、<信用>のロールを振らせてもいい。それほど大きくない町の警察署なので、情報の管理は意外と緩い。信用してもらえれば簡単な情報は教えてもらえる。どこまで情報が得られるかはKPが判断すること。
 警察関係者であるかないかに関わらず、署内の膨大な事件資料から特定の情報を探すのには時間を要する。<図書館>のロールに成功した場合は、2時間かけて下記の情報を得ることができる。もしも失敗した場合は4時間をかけて情報を得ることになる。

 ここで得られる情報について以下に記載する。KPは状況に応じて好きな情報を探索者に与えること。

 ・最近起こった変死事件は201X年2月12日、今から約1ヶ月程前が最初の事件となる。被害者の名前はサム・ウィルキンソン。34歳。男性。既婚者。死体発見者は妻のエリス・ウィルキンソン。買い物から帰ったら、自宅のリビングのソファーに座った遺体を発見したらしい。遺体はお腹を内側から何かに食い破られたように、大きく穴が開いており内臓なども虫に齧られたように穴だらけだった。付属の写真を見た探索者は、到底自然にできたとは思えない無残な死体を目にして正気度ポイントを1D3/1D6失う。

 ・セヴァン渓谷で見つかった変死体は全部で6体。うち3体がキャムサイドで見つかったもので、特に最近見つかった変死体の発見者は、被害者が死ぬ瞬間を目撃している。目撃者の名前はアンジェラ・スプリングフィールド。22歳。女性。未婚者。精神的ショックを受けた彼女は、現在は郊外にある「アーリー・ブラインド精神病院」に入院している。

 ・他の町で見つかった変死体はクロットンで1体、ブリチェスターで2体見つかっている。

 ・探索者が情報を得た場合、さらに<目星>でロールをしてもらう。成功した場合は、変死体の被害者は皆「アーリー・ブラインド精神病院」への入院経験があることに気付ける。


■ウィルキンソン家
 セヴァン渓谷で見つかった最初の変死体はサム・ウィルキンソン。34歳。男性。彼には妻がおり、彼の遺体を発見したのも彼女だ。
 ウィルキンソン家ではサムの妻であるエリス・ウィルキンソンから話を聞ける。彼女は事件直後の警察からの尋問や、報道陣からのインタビューによって精神的に疲弊している。事件のことで尋ねに来た探索者達にはうんざりした態度をとるだろう。彼女から有益な話を聞くには、<信用>や<言いくるめ>、<説得>などのロールに成功する必要がある。もしも探索者に十分な資金があるのならば、50£(=約5000円)紙幣一枚で情報をくれるかもしれない。仮に探索者がロールに失敗してしまった場合は、彼女は怒り(或いは疲れ)扉を閉ざしてしまう。彼女から情報を得ることはできなくなるだろう。
 また彼女は警察や記者といった役職の人物に強い嫌悪感を抱いている。もしそういった役職の探索者がエリスにその素性がばれると、より一層険悪な態度をとられてしまう。もしそうなった場合は<信用>又は<説得>のロールを、技能値を半分にして成功しなければならない。

 ここで得られる情報について以下に記載する。KPは状況に応じて好きな情報を探索者に与えること。

 ・彼には自殺の気はなく、また誰かに恨まれるようなこともしていない。性格も決して悪い人ではなく、問題も特になかったはず。自殺や他殺は考えられない。

 ・家の中は荒らされておらず、盗まれたものも特になかった。強盗という線もなさそう。

 ・警察から聞いた話では、サムとエリス以外の指紋は家から検出されなかった。その為当初は、警察から犯人だと疑われていた。

 ・<信用>または<説得>のロールに成功して情報を得ていた場合、サムはここ2か月ほど悪夢にうなされていたことを話してくれる。さらに彼は、もともと精神的に不安定だったため、「アーリー・ブラインド精神病院」に入院していたことも話してくれる。

 ・サムが悪夢を見ていた話と、精神病院に入院していた話を聞いた探索者は、<アイデア>ロールに成功すればサムが悪夢を見始めたのは、精神病院を退院してからなのではないか?という疑問を抱ける。エリスにこの事を訪ねれば、彼は退院してから悪夢を見始めたかもしれないと教えてくれる。

 ・探索者が家を後にしようとすると、彼女は最後に「スコット・ウィリス」と名乗る男が、同じ様に事件を調査しているようだったと教えてくれる。


■ウィリアム・ヤード
 キャムサイドにある一般的なアパートの一つで、302号室にスコット・ウィリスが住んでいる。彼と関係のある探索者でない限りは、この場所に来ることもないだろう。この場所では彼に関する情報しか得られない。
 彼の部屋には当然ながら鍵がかかっている。探索者が<鍵開け>のロールに成功すれば、中を探索することができる。ただしその場合は不法侵入となるため、見つかれば法的な裁きを受けることになる。警察関係者であればマンションの管理人に手帳を見せて、中を探索することができる。警察関係者でなくとも、管理人に対して<信用>や<説得>、<言いくるめ>のロールに成功すれば中に入れてもらうことができる。但し管理人に鍵を開けてもらう場合は、管理人が同行したうえでの探索となる。勿論中にあるものは持ち出すことはできないし、妙な行動をとればすぐに追い出されるだろう。探索者がもしも力づくで開けたい場合は[STR X 3]のロールに成功すれば、扉を強引に開けられたことにしてもよい。強引に開けた場合は大きな音がするため、管理人が確認しに来る。探索者が調べらる時間は10分もない。

 ここで得られる情報について以下に記載する。KPは状況に応じて好きな情報を探索者に与えること。

 ・管理人に話を聞けば、何の判定もなく彼が「アーリー・ブラインド精神病院」に入院したことを教えてもらえる。また彼が奇行に及んでいたことや、最近まで大学に行ったっきりだったこと、妙な儀式をしようとして通報されたことを教えてくれる。

 ・隣室の住人に話を聞くと、彼が大学の教授をしていること、最近奇行が目立ったこと、昨夜悲鳴にも似た叫び声が聞こえたので通報したことを教えてくれる。

 ・冷蔵庫を調べると、消費期限が今日までの牛肉がある。残っている量から、今夜中に使い切ろうとしていたことが伺える。

 ・部屋の中央は大きく開けており、床には大きな五芒星が描かれている。探索者が五芒星をしっかり調べるとそれが生物の血で描かれていることが分かる。その事実に気づいた探索者は正気度ポイントを0/1失う。

 ・<目星>のロールをすれば、クローゼットにあるコートのポケットから大学にある彼の研究室の鍵を見つけることができる。

 ・<コンピューター>のロールをすれば、彼のパソコンにアクセスして情報を得られる。検索履歴には「白い化物」「アーリー・ブラインド精神病院」「トラベンス・ホットレイ」「外科手術 摘出」「魔導書」「セヴァン渓谷 都市伝説」などがある。デスクトップで目立ったものは「魔導書研究」、「TODOリスト」だろう。

 ┗検索履歴で新たに得られる情報は「セヴァン渓谷 都市伝説」だけだ。探索者が検索履歴から調べた場合は、「セヴァン渓谷には広大な地下迷宮が広がっていて、そこには巨大な化物が住み着いている」という記事を見つける。

 ┗「魔導書」のファイルにはいくつもの画像データが入っており、どれも古びた装丁の本の画像だ。それぞれの画像を探索者がしっかりと見る場合は、探索者は画像を見るうちに得体のしれない悪寒に襲われ、正気度ポイントを0/1失う。

 ┗「TODOリスト」には「ブリチェスターの病院で手術を受ける」「警察署に事件のことを聞きに行く」「被害者の親族に事情を聴きに行く」「護身用の銃を買いに行く」「魔導書を探す」「魔導書を研究し解決策を探す」という項目があり、最後の「魔導書を研究し解決策を探す」以外には達成済みを表す斜線が引かれている。

 ・彼の執務机には引き出しが3つあり、一つは特に関係のない書類が詰め込まれており、一つには鍵がついている。そして一つには日記帳が入っている。

 ・<鍵開け>のロールをすれば、机の鍵を開けることができる。中には彼が買ったと思しき22口径ショート・オートマチックとその弾が十分な数入っている。探索者が管理人の前でこれをやると通報される。

 ・日記帳には彼のここ数ヶ月の事が書かれている。日付は飛び飛びになっていることから、何か特別なことがあった時に書いていたことが伺える。日記には以下のようなことが書いてあった。

 ┗201X年1月9日
  最悪の一日だ。自分が原因とは言え、何故俺が精神病院になぞ行かにゃならんのだ。しかし行っておかないと、後で警察が面倒そうだ。どうせ検査だけして帰ってくるだけだろうし、さっさと行って帰ってこよう。

 ┗201X年1月17日
  なんだあれは!あんな化物!なんであんなものが、病院の地下に。いや、いやきっと夢だ。そうに違いない。寝て覚めたら、全部夢だったって気づけるはずだ。今書いてるこの文章も、明日の朝にはなくなっているきっとそうに違いない。(非常に読みづらい字体で)

 ┗201X年1月18日
  最悪の一日だ!なんで昨日の日記が残ってるんだ!夢じゃない、あれは夢なんかじゃなかったんだ!つまり俺の体には、あいつの卵が・・・。

 ┗201X年1月19日
  今日手術を受けにブリチェスターまで行った。結果はある意味で最高のものだった。俺の体には、何の異常も無いって!やっぱりあれは夢だったんだ。あの文章も、退院して舞い上がった俺がふざけて書いたんだろう。安心したら妙に眠くなってきた。

 ┗201X年2月6日
  最近、悪夢を見るようになった。記憶は曖昧だが、あの日病院の地下で見た化物の夢なのは確かだ。あれは本当に夢だったんだろうか?なんだか不安になってきた。最近は寝るのも恐ろしい。

 ┗201X年2月12日
  最悪の一日だ。今日町で変死体が見つかったという事件があった。詳細は知らないが、その変死体は、腹が内側から何かに食い破られているようだったらしい。・・・俺にはわかる。やっぱりあれは夢なんかじゃない。現実に、俺の中には何かが埋め込まれたんだ。変死体の主も同じ。きっと植え付けられたそいつが生まれたんだ。・・・いつかは俺もああなるのか?次は俺の番かもしれない。

 ┗201X年2月14日
  日に日に悪夢は増す一方だ。最近では寝ない日も多くなった。護身用に銃を買ったが、そんなものが何の役に立つのだろう。いつ死ぬかも分からず生きるのは辛い。・・・いっそもう。

 ┗201X年2月15日
  友人の学者から送られてきた古代の言語資料を研究していて気が付いたことがあった。これらの古代文明には度々魔術の存在が記述されている。かつての自分なら一笑に付するとこだが、あんな化物が実在することを俺は知ってしまった。ならば、魔術の存在もあるのではないか?どうせ死ぬのならば、藁にでもすがってみようか。

 ┗201X年2月17日
  ようやく見つけた!恐らく「本物の魔術書」だ!図書館の禁書室に眠っていた。タイトルは恐らく「グラーキの黙示録」だろうか?言語学者として名の知れた俺でも、解読には時間がかかりそうだ。それでもやっと見つけた俺の希望だ。必ず解読してみせる。

 ┗201X年3月1日
  (解読不明)ている。恐らく時間が(解読不明)では幻覚も(解読不明)正気でいられな(解読不明)それでも(解読不明)呪文を解読でき(解読不明)さっそく儀(解読不明)

 ┗201X年3月5日
  どうやらここ数日間正気を失っていたらしい。魔導書の研究とは、かくも辛く恐ろしいものだとは・・・。しかしそれも今日までだ。いよいよ今夜、儀式を執り行おうと思おう。

 日記はここで途切れている。


■キャムサイド図書館
 図書館では様々な情報が得られるため、探索者は何について調べるのかを明言しなければならない。KPは探索者が漠然と情報を集めようとしている場合は、何について調べるのかを宣言してもらうこと。
 図書館には一般公開されている情報と、禁書室などにある一般には公開されていない情報がある。禁書室での情報を集めるには、職員の目を盗んで忍び込むか職員を説得して調べさせてもらう必要がある。
 忍び込む場合は<忍び歩き>と<鍵開け>のロールに成功しなければならない。もしも成功した場合は禁書室に忍び込むことができる。そこからさらに情報を得るには<図書館>のロールに成功しなければならず、さらには忍び込んだことがばれないように1時間毎に<聞き耳>のロールに成功しなければならない。職員は50%の確率で見回りに来るので、<聞き耳>のロールに失敗するとその接近に気付けない。
 職員を説得する場合は<信用>か<説得>のロールに成功しなければならない。ここの職員は真面目なため、もしも探索者が<言いくるめ>のロールをするか、もしくは賄賂などで説得しようとした場合は、職員は探索者を完全に信用しなくなり、正規の方法では二度と入れなくなるだろう。<信用>や<説得>のロールに成功した場合は、職員同伴の上で禁書室に入れてもらえる。但し職員も長くは一緒にいられないので、<図書館>のロールに挑戦できるのは一回だけである。その成否にかかわらずロールを行った後は、禁書室を追い出される。
 禁書室以外での情報収集は、単純に<図書館>のロールのみでよい。
 図書館は10時に開館し、18時に閉館する。開館時間前や閉館時間後は<鍵開け>のロールに成功しない限り入れない。

 ここで得られる情報について以下に記載する。KPは状況に応じて好きな情報を探索者に与えること。

 ・変死事件について調べる場合は、過去の新聞記事が見つかる。最初の変死体は201X年2月12日にキャムサイドの民家で発見される。被害者の名前はサム・ウィルキンソン(34)。キャムサイド在住の男性。既婚者。死体の発見者は彼の妻であるエリス・ウィルキンソン(34)。女性。彼女が自宅に帰った際、彼はリビングでソファに座りテレビを見ていたそうだ。しかし帰ってきたのに何の反応も無く、不審に思い彼の正面に回ると、彼のお腹にはぽっかりと大きな穴が空いていた。警察の調べでは死因はショック死ではないかとされている。死体に空いた穴は、内側から何かに食い破られているようだったと、当時の検死官は供述している。その他にも、合計6回の変死事件を扱った記事が見つかる。記事の内容によると、キャムサイドで3件、ブリチェスターで2件、クロットンで1件事件があったそうだ。特に最近キャムサイドで見つかった変死体は、死んだ瞬間を目撃した人物がいたそうだ。目撃者についての情報は載っていない。

 ・「アーリー・ブラインド精神病院」について調べる場合は、過去の新聞記事が見つかる。201X年9月5日に「アーリー・ブラインド精神病院」に新しい院長が就任した。新院長であるトラベンス・ホットレイ氏(34・男性)は、「この病院に改革を起こします。」と意気込んでいる。記事には新院長であるトラベンスの写真が載っている。色白でスキンヘッド、身長は高めでどこか人間味の薄い男性の写真。他にも記事が見つかり、9月6日の記事では「スタッフ総入れ替え 腐った体制を立て直す」という見出しの記事が、12月9日には「新生した精神病院 患者数激減か?」という見出しの記事が見つかる。記事の内容によると、「アーリー・ブラインド精神病院」のスタッフは、新院長が就任した翌日に総入れ替えされいるようだ。またその日のうちに、病院自体も改築が施されている。

 ・セヴァン渓谷の都市伝説について調べる場合は、一般公開されている情報では過去のゴシップ記事が見つかる。内容は、「セヴァン渓谷の地下には巨大な地下迷宮が広がっており、そこには恐ろしい化物が住み着いている」という内容のものだった。禁書室では「セヴァン渓谷の神話と歴史」という本が見つかる。内容は、「このセヴァン渓谷という土地には様々な神が根付いている。」という内容のもので、様々な神様についての記述がされている。探索者にここで<目星>のロールをしてもらう。もしも成功した場合は、一つの神の情報について目が留まる。

 「セヴァン渓谷の地下には巨大な地下迷宮が広がっている。そこには迷路の神、アイホートが住み着いている。彼は人間に契約を持ち掛ける。彼の卵を受け入れるか否かを、もしも人間がそれを拒むのならば人間はたちまち彼に殺されるだろう。彼の契約を受け入れたならば、その者は揺り籠となり神の子をその身に宿す。幾許かの時を経て神の卵は孵化し、人間の腹を裂いて生れ落ちる。そうして生まれた子らは人のまねをし、彼らの親が再び世界を席巻する日を待ちわびるのだ。」

 この文章を目にし、本に書かれた奇妙な白い蜘蛛のような生き物が、人間の腹を裂いて生まれてくるところを想像した探索者は正気度ポイントを1/1D3失う。

 ・魔導書について調べた場合は、一般公開されている情報では胡散臭いマニア本のようなものが見つかる。内容はほとんどが眉唾ものだと分かるようなものばかりだ。禁書室では、いかにもそれらしい古い装丁の本が何冊か見つかる。内容はどれも素人が書いたと思しき拙く汚い文章で書かれており、一見して解読に時間を要することがわかる。探索者にここで<目星>のロールをしてもらう。成功した場合は、恐らく連作であろう魔導書の途中の巻が抜けていることに気づける。もしも探索者が、スコットの部屋にあるパソコンで魔導書の写真を見ている場合は、これらの本があの画像にあった魔導書の一つと一致する事も分かる。
 探索者が1冊の魔導書の内容を理解するためには、約5週間研究し続ける必要がある。もしも探索者が禁書室に忍び込んでいる場合には、<隠す>のロールに成功すれば魔導書を持ち出すことができるだろう。職員と一緒に禁書室に来ている場合は持ち出すことができない。職員は探索者を厳しく監視しているので、職員の前でこっそり隠すことも持ち出すこともできない。
 探索者が魔導書の研究を終えた場合は、1D6/2D6の正気度ポイントを喪失し、<クトゥルフ神話>に+15%する。さらに<アイホートとの接触>(基本ルルブp260)呪文を覚えることができる。


■セヴァン大学
 セヴァン大学ではスコット・ウィリスについての情報が得られる。彼の研究室は「教育学・言語学部棟」にある。その辺を歩いている学生に聞いたり、案内板を見ればたどり着くことができるだろう。
 彼の研究室には鍵がかかっている。探索者が研究室の鍵を持っていない場合は、<鍵開け>のロールに成功すれば中に侵入することができる。
 部屋の中は散らかっており、特に目的無く探索する場合は時間を要する。もしも探索者が明確な目的をもって調査をする場合は、KPは探索者のロールに補正をかけてもいい。

 ここで得られる情報について以下に記載する。KPは状況に応じて好きな情報を探索者に与えること。

 ・部屋の大きさは6畳ほどで、部屋の奥には執務机がある。壁際には資料を入れる戸棚が3つほど並んでおり、執務机と入り口との間に大きなテーブルがある。テーブルの上にはいくつもの資料が山積みになっているほか、石板ののようなものや古めかしいツボなどが置いてある。

 ・資料棚を調べる場合は、<図書館>のロールを行う。この研究室の戸棚にある資料はそれほど多くないので、このロールに成功した場合は1時間、失敗した場合は2時間で調べられたことにする。戸棚には各国の言語に関する資料が並んでいる。よく見たことある言語から、あまり見たことがない言語まで様々だ。この資料を利用すれば、わからない言語を調べられるかもしれない。探索者にさらに<目星>をロールしてもらう。成功した場合は、戸棚の資料のほとんどに埃がかぶっている中、ドイツ語・英語の資料だけ埃がかぶっていないことに気づける。

 ・テーブルの上の資料を調べる場合は、<人類学>でロールを行う。テーブルの上の資料は、言語学に関するレポートや大学のお知らせなど多岐にわたる。その中でも気になった資料は、「セヴァン渓谷に根付く神話と魔導書からみる英語の変遷」というレポートだ。レポートの内容はドイツ語で書かれており、内容を読まずに分かる事はこれが学生によるレポートだということだけだ。探索者が<ドイツ語>のロールに成功すれば内容を読むことができる。長いレポートの中で気になった点は以下のものだ。

 ┗「セヴァン渓谷に根付く神話と魔導書からみる英語の変遷」
  イギリス・西イングランドにあるセヴァン渓谷には、昔から奇妙なうわさが絶えない。「恐ろしい怪物を見た」「巨大な地下迷宮がある」「奇妙な丘に秘密の通路がある」などなど荒唐無稽なものばかりだ。しかし、これらの噂が全てセヴァン渓谷に集約しているのには、何か秘密があるからではないだろうか?
  (中略) そうして見つけたのが「グラーキの黙示録」という魔導書だ。ここセヴァン渓谷には他にも様々な魔導書が眠っていると推測されるが、もっとも有名なものではこれが一番だろう。この「グラーキの黙示録」は全9巻からなるフォリオ版の書籍で、一般には流通していない代物だ。今回はこれらの資料をキャムサイド図書館にある「禁書室」で見つけた。
  (中略) 以上のことから、私はこれらの魔導書がセヴァン渓谷に巣食う恐ろしく冒涜的な神たちを封じ込めているという見解に達した。本資料ではこうして書かれてきた「グラーキの黙示録」から、セヴァン渓谷における英語の変遷を
  (中略) 余談ではあるが、私は「グラーキの黙示録」について個人的なもう一つの見解を持っている。これらの魔導書は封じ込めるだけのものではなく、彼らを呼び戻すこともできるのではないだろうか?そもそも魔導書とは、様々な神との接触を試みるための書物であるという見方もある。「グラーキの黙示録」も使い方を誤れば、恐ろしくも神々しい、冒涜的な神々を呼び覚ましてしまうかもしれない。

 ・テーブルの上の石板や骨董品を調べる場合は、<博物学>又は<考古学>でロールを行う。

 ┗石板は古代マヤ文明のものであることがわかる。探索者はここでさらに、<古代マヤ語>のロールに成功すればこれが何かしらの儀式について書かれていることが分かる。もしも失敗してしまったら、内容についてはいくら時間をかけても分からない。儀式については、「新鮮な生物の血で円を描き、その内側に頂点が円と接するように五芒星を描く。次に・・・」石板は欠けているためここまでしか書かれていない。

 ┗古めかしい壺などの骨董品は、さして価値のあるものではないことが分かる。恐らく何かしらの歴史的遺物のレプリカだろう。

 ・執務机には鍵のついた引き出しが一つあり、机の上や他の引き出しには目立ったものは無い。探索者が<鍵開け>のロールをすれば中のものを取り出せるだろう。中には古めかしい装丁の本と、小さな手帳が入っている。本とは「グラーキの黙示録」のことである。探索者が図書館の禁書室又はスコットの部屋にあるパソコンの「魔導書」の画像を見ていた場合は、これがそれらと同一の物であることが分かる。手帳はスコットが独自にしたためた魔導書の研究内容のようだ。魔導書の内のあらゆる場所の注釈や仮説などが書いてある。
 探索者はこの手帳を用いて魔導書の研究を短縮することができる。手帳を用いて研究する場合は、6時間研究し続ける必要がある。この時探索者が<人類学>か<オカルト>、もしくは<英語>の半分の技能値のどれかのロールに成功しなければ、スコット同様間違って呪文を覚えてしまう。もしも間違って覚えてしまった場合は、KPは探索者に<ダオロスの招来/退散>の呪文を<アイホートの追放>の呪文であるとして伝えること。ロールに成功し正しく研究し終えた場合は、研究した探索者は1/1D2の正気度ポイントを喪失し、<クトゥルフ神話>に+1%する。さらに<ダオロスの招来/退散>の呪文と<アイホートの追放>の呪文を覚えられる。さらに手帳の内容と研究結果から、スコットは間違って呪文を覚えていることが分かる。

 ┗<ダオロスの招来/退散>
 外なる神ダオロスを召喚又は退散する呪文。呪文を安全かつ確実にかけるには様々な道具が必要であり、そのどれもが用意するのが困難なものである。

 ┗<アイホートの追放>(基本ルルブp249)
 グレート・オールド・ワンであるアイホートを、1年と1日の間故郷であるセヴァン渓谷の地下迷宮に封印する呪文。呪文をかける為の詠唱には3ラウンドの時間が必要であり、詠唱に参加した者は1D4の正気度ポイントのコストがかかる。詠唱しているものは好きなだけマジック・ポイントを呪文に投入することができる。詠唱していないものも、呪文の使い手に触れることによって1マジック・ポイントを提供することができる。但し提供した者も1D4の正気度ポイントのコストがかかる。その後、投入したマジック・ポイントの合計とアイホートのPOWである30で抵抗表を振る。


■アーリー・ブラインド精神病院
 本シナリオは大きく分けると2部構成となっている。探索者がアーリー・ブラインド精神病院へ向かうと、探索者はそこで一度気絶させられて精神病院に幽閉されていしまう。前半では町中を探索する所謂シティシナリオの形を取っていたが、後半の精神病院へ行ってからのシナリオはクローズドシナリオの様相を呈している。すべての探索者が一緒に精神病院へ向かう場合は、精神病院に着いたあと、患者服を着た男たちに襲われ気絶させられる。もしも探索者が別行動をしていて、先に精神病院に来てしまった探索者がいた場合は、「精神病院に行ったら襲われる」という事実を隠すために、後で描写する事にして先に町の探索者の描写を進めること。KPは事前に「精神病院へ行ったらシナリオが進む」と伝えてしまってもいいかもしれない。

 もしも探索者がシナリオの最初で「アーリー・ブラインド精神病院」へ向かおうとする場合は、「病院までの道中で倒木事故があり、撤去作業が終わるのが夕方の18時頃になる」という情報を探索者に与えること。シナリオの都合上、探索者が精神病院へ向かうと前半部分が全てカットされてしまう。これは探索者が、ほとんど情報を持たないでシナリオ後半へ進まない為の措置である。


■トラベンス・ホットレイ医師について
 彼について調べたい探索者がいた場合は、調べた結果何も情報が出なかったとする事。出自も経歴も不明となる。


■アーリー・ブラインド精神病院の地図
 精神病院以降はクローズドシナリオとなる。これ以降KPは別に用意されているMAPを参照しながらシナリオを進めるとよい。MAPには地下隔離室、一階、二階の三種類がある。地下隔離室と二階は同じ画像でまとめてある。さらにMAPには部屋の名称が書かれているものとそうでないものがある。院内MAPは一階の受付横の壁に張り出されているので、探索者がそこに行くまでは名称が書かれていないMAPを使用するといいだろう。
 各部屋の簡単な説明は下記を参照すること。各部屋での詳細な情報は別途記載する。またMAPにあるオブジェクトに関して、特に記載のないものはKPの判断でどういうものかを演出してかまわない。

 ◇地下隔離室

  ・談話スペース:その名の通り。但し談話するのは患者ではなく院内スタッフである。

  ・シャワー室:患者用のシャワー室。基本1人づつシャワーを浴びさせる。

  ・診察室:隔離室患者用の診察室。ここで問題なしと判断されると2階の一般病室に移動させられる。

  ・警備室:患者を監視する警備員の部屋。監視カメラなどもここで確認できる。

  ・隔離室B01~B08:重度の精神疾患を患った患者が入る病室。監視カメラと簡易ベッド付。

  ・秘密の通路:2階の院長室隣の秘密の部屋からいける通路。アイホートの迷宮につながっている。

 ◇二階

  ・談話スペース:患者用の談話スペース。

  ・リネン室:寝具などを保管しておくリネン室。

  ・ナースステーション:看護婦が常駐する場所。各種薬や資料が置いてある。

  ・特殊浴室:2階の患者用の浴室。一人用。

  ・資料室1:患者に関する資料が保管されている部屋。

  ・資料室2:病院に関する資料が保管されている部屋。

  ・病室201~207:軽度の精神疾患を患った患者が入る病室。軽度といっても入院する程度には重い。

  ・院長室:トラベンス・ホットレイ医師の執務室。

  ・秘密の部屋:院長室の隣にある隠し部屋。地下の秘密の通路に続く梯子がある。

 ◇一階

  ・入口:観音開きの強化ガラス製の扉。

  ・受付:入口すぐにある受付。大した資料は置いてない。横の壁に案内板が張ってある。

  ・中庭:病院中央にある開けた空間。草木が手入れされていてちょっとした庭園になっている。

  ・電源室:院内の空調設備や電源がある部屋。電気工の業者でない限り入ることはない場所・

  ・倉庫:院内の道具をしまっておく倉庫。主に医療器具が置いてある。

  ・調理室:院内の食事を一手に担う場所。患者やスタッフの食事を作っている。

  ・診察室1~2:外来の患者や通院の患者用の診察室。

  ・診察室3:2階の入院患者用の診察室。診察室1,2に比べて少し広い。

  ・階段:調理室脇の階段が地下隔離室行き。診察室3脇の階段が2階行となっている。

 ◇その他
 KPが必要と感じた施設やPLに矛盾を指摘された施設は、MAPには載っていないだけでこの病院にはあるという事にする。これは余分な情報をカットし、シナリオが冗長にならないようにするためである。
 また、二階にある秘密の部屋と地下にある秘密の通路は、一階の案内板には書いていない。KPは探索者が部屋の存在に気づくまで、この情報を隠しておくこと。


■院内の状況とNPCの行動基準
 探索者達が病院に訪れて気絶させられた時のびょいんの状況は混沌としている。まずスコットが警備員から鍵を盗み、その鍵を使って患者を解放、さらにはこの病院の地下にいるアイホートの事や魔術のことを、患者達に対して演説し協力を仰いだ。こうして病院内にはいくつかのグループが出来上がった。

 ・スコット信奉者:スコットの話を信じ、彼に賛同して協力する者たち。このグループの行動原理はスコットへの協力であり、彼の儀式の邪魔になりそうなものの排除である。探索者がただ病院から逃げようとしているだけなら、協力も邪魔もしてこないだろう。もしも探索者が助けを呼ぼうとしたりと、スコットの儀式の邪魔になりそうな行動をとる場合は、全力で探索者を殺しにかかる。

 ・怯える者たち:スコットの起こした暴動で完全に混乱し、ただ怯える者たち。彼らはこの病院での生活にある種の安心感を覚えていた。それをスコットにより破壊されてしまい、新たな心の拠り所を探している。探索者に対して害のある行動を取るものもいれば、探索者の助けになるものもいる。中には部屋の隅でただガタガタと震えているだけの者もいる。これらのグループはKPがシナリオの進行状況に合わせて、好きなNPCを用意するとよい。

 ・重度の精神病患者:スコットの暴動を利用して、己の私利私欲を満たそうとする、気の狂った連中。彼らは特に危険な者たちで、積極的に探索者や他の患者を犠牲にしてくる。このグループは個別に下記に記載する。

  ┗トーマス・カーター:地下隔離室にいる重度の精神病患者。かつて外科医になるべく勉学に励んでいたが、試験に落ち続けるうちに心が折れてしまった男。治療と称して患者や探索者の体を弄ぼうとしてくる。彼の行動原理は「困っている人」や「辛そうな人」を処置してあげることである。その為ならば患者を騙すことも厭わない。人の好さそうな笑顔を顔に張り付け、100%の善意で人の命を弄ぶ。探索者が「毒にかかっている」「HP又はMPが最大値より減っている」状態だと襲ってくる。基本的には探索者を動けないようにさせてくる。そうして動けなくなった患者を、手術台に連れていきオペという名の拷問を開始する。手術は基本地下の診察室で行っている

 STR10 CON14 POW15 DEX12
 APP9 SIZ15 INT13 EDU17
 HP15 MP15 db+1D4
 メス・注射器(POT12の睡眠導入剤)を所持。

  ┗ピーター・レイク:一階を徘徊している重度の精神病患者。嘘をついていたずらするのが大好きだったが、自分の嘘が原因で両親を亡くしてしまった青年。嘘しか言えないという精神病にかかっていて、自分の嘘で他人を貶めるに至上の喜びを感じている。彼の行動原理は「人を困らせたい」や「騙された人の絶望した顔が見たい」である。嘘を吐くことではなく、嘘を吐いた結果人がひどい目に合うのを見たいと思っている為、探索者が不利になるような嘘を積極的に吐いていく。但し彼は本当のことは言えない。黙ることや嘘でも本当でもないことは言えるので、KPは探索者をうまく騙すとよいだろう。彼自身に直接的な害はない。基本は一階を徘徊しているが、偶に地下にも来る。

 STR8 CON12 POW6 DEX16
 APP12 SIZ8 INT17 EDU17
 HP10 MP6 db-1D4
 倉庫の鍵を持っている。

  ┗キャビン・ローラン(兄)、ジェイク・ローラン(弟):一階と二階を徘徊している重度の精神病患者の双子。幼い頃から食人嗜好の気があり、よく自分や兄弟の皮膚を齧っていた。ある日我慢が利かなくなり、自分たちの両親を殺害し食べてしまう。元々は警察の病院にいたが、症状が緩和してきたためこの病院に移動してきた。スコットの暴動に乗じて、自分たちの抑え込んでいた衝動に身を任せるようになる。彼らの行動原理はとても単純で「人を食べたい」である。但し彼らはグルメなのか「生きている人間」にしか興味がない。死体などを漁ることはなく、生きた探索者や患者を見つけては捕らえて、調理室で解体・加工し食べるのだ。お腹が膨れているときは保存食に加工したり、解体して冷蔵庫に保存したりするため彼らが安全であるタイミングはない。一階と二階を徘徊して、見つけた人間を捕まえたら一階の調理室に向かう。基本的に一階には兄が、二階には弟がいる。彼らは人間を食事としか見ていないので、話は一切通じない。
 STR17 CON14 POW13 DEX8
 APP6 SIZ16 INT11 EDU9
 HP15 MP13
 二人とも肉切り包丁を所持している。また兄は調理室の鍵、弟はリネン室の鍵を持っている。

 また院内のスタッフは全員死んでいる。大半がローラン兄弟に食われたか、トーマスに殺されている。何人かはそれ以外の狂った患者に殺され、生き残っていたとしても恐らくまともではない。
 トラベンス・ホットレイ医師は自身の執務室で脱走の準備を進めている。彼は探索者たちが執務室に訪れるか、スコットの儀式が完了する直前に準備を終える。準備が整ったら、隠し部屋にある梯子から秘密の通路を通り、アイホートの地下迷宮へと姿を消す。
 スコットは探索者たちが目覚めるころには、中庭で儀式の準備を進めている。彼は邪魔が入らないように、中庭に続く扉に鍵をかけ扉の前にはバリケードを築いている。


■病院導入
 探索者が「アーリー・ブラインド精神病院」へ向かうと、病院の門は開いており、中へ入ることができる。建物内はシンと静まり返っており、入口正面の受付にも人が立っていない。探索者が中を進むと、背後から何者かに襲われる。ここで<聞き耳>のロールを探索者に振ってもらい、成功した者は襲撃者に気づき、顔と服装だけは見れたことにする。襲撃者は患者服のようなものを着ていた。ここで探索者が何かしようとしても問答無用で気絶させられる。気絶した探索者にD100ロールをしてもらい、[CON X 5]以下を出した探索者は1時間後に隔離室で目が覚める。[CON X 5]以上を出した探索者は、外的要因がない限りは2時間後に目が覚める。
 探索者が目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。暗闇に徐々に目が慣れてくると、そこは小さな個室であることが分かる。床や壁は白くて柔らかな、クッションのような素材でできており、部屋の中には自分が寝かされていたベッドと簡易的なトイレがあるのみだ。部屋の天井に至るまで白く柔らかな素材でできたこの部屋は、一つの面だけ透明な壁になっている。その壁の一部が扉になっており、外の空間はここと同じ素材でできた廊下が左右に伸びているようだった。部屋の正面には、ここと同じような部屋が向かい合うように存在する。急に誰かに襲われたという事実と、目が覚めて知らない空間に運ばれていた現状に探索者は恐怖を覚える。1/1D3の正気度ポイントを喪失する。


■隔離室
 探索者が目覚める部屋は、地下隔離室にある患者が入る病室である。探索者が入っている部屋はB01~06のどれかであり、それぞれの部屋には違いは無い。部屋の構造は、患者が自傷行為で怪我をしないように白く柔らかい素材できた壁と天井、床に覆われている。その内の一つの壁は患者を監視しやすくするために、一面強化ガラスに覆われている。部屋の出入り口もこの面にあり、扉には鍵がかかっている。但し病院内は停電しているため暗い。地下では太陽光も入ってこないので、探索者はいくつかの技能にマイナスの補正を受ける。どの技能がどれだけマイナスされるかはKPに一任する。
 部屋の内部には簡素なトイレとベッドがあり、ベッドの下には大人一人が入れるくらいの空間がある。<隠れる>のロールに成功すれば、完璧に隠れることができるだろう。天井の角には監視カメラが設置してあるが、今は機能していない。電力が復旧すれば警備室で映像を確認できるかもしれない。

 B07と08の部屋には死体が転がっている。07には体のいたるところが欠損している死体が、08の部屋は死体置き場にでもされているのか、積み重なった死体の山がある。07の死体を目撃した探索者は1/1D3、08の死体の山を目撃した探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを喪失する。
 07の死体を調べる場合は<目星>でロールしてもらう。死体からは身分証明IDカードと地下隔離室のカードキーが見つかる。身分証からこの場所が「アーリー・ブラインド精神病院」の地下隔離室であることが判明する。さらにこの死体はここの警備員のものであることも分かる。
 08の死体の山を調べる場合は<目星>でロールしてもらう。この時、死体の山を漁るという冒涜的な行為をした探索者は1/1D3の正気度ポイントを喪失する。死体の山からは「警棒」が2本と血塗れのメモが見つかる。「警棒」に関しては基本ルルブp70を参照すること。メモにはかろうじて4桁の数字が書いてあることが分かるが、所々血で汚れているため、判明したのは「?2?9」の四桁である。
 ※[KP用情報]この四桁の数字は、地下隔離室の各部屋を開けるための暗証番号である。番号は「1209」である。

 病室がある区域と別の区域をつなぐ通路の途中には透明なガラスの扉があり、その横には数字を入力するパネルとカードリーダーがある。但し現在は電力が通っていないためか、扉は半開きで停止している。

 もしも探索者が隔離室から出ない。又は出られない場合は、「トーマス・カーター」を使って探索者を部屋から出してもいいだろう。その場合トーマスは探索者を騙して診察室に連れていき、背後から襲う。探索者は好きなタイミングで彼に<心理学>をロールできるが、彼の心理は正しく探索者を助けたいと願っているため、疑いずらいだろう。もし探索者が<目星>のロールに成功すれば、彼の白衣に血がついていることに気づける。としても良いだろう。
 探索者が自力で隔離室から出た場合は、トーマスは隙を見て探索者を襲ってくる。彼は単独行動なので、探索者が一人になったタイミングを積極的に狙うだろう。探索者が<聞き耳>のロールに成功すれば、背後からの接近に気づけるかもしれない。

 もしも探索者が廊下の突き当りの壁を叩く場合は、探索者に<聞き耳>のロールをしてもらう。成功した場合は廊下の奥に空間があることに気づける。


■談話スペース(地下)
 テーブルが一つと椅子が四つある開けたスペース。自販機もあるが、電力が通っていないと買えない。ここのスペースには特に何もない。しいて言うならあちこちに血がついているくらいだ。


■シャワー室
 個人用のシャワーが二つあり、塀などはなく開けている。先ほどまで使われていたのか、湯気が立っていて見通しは悪い。探索者が一人でここにいる場合はトーマスに襲われる。
 シャワー室の一番奥の壁には、頭を打ち付けて死亡したであろう患者の死体がある。白いタイルの壁は、その場所だけ赤く染まっており、恐らく脳漿であろうものがこびりついている。その様を目撃した探索者は1/1D3の正気度ポイントを喪失する。


■警備室
 入って右側にはロッカーが四つ並んでおり、内二つは扉が凹み開けられないようになっている。入って正面の壁にはホワイトボードがあり、警備の担当時間がマグネットで表されている。探索者が隔離室で警備員のIDカードを拾っていた場合は、この時間の担当者が彼であったことが分かる。入って左側には監視カメラの操作パネルがあり、パネルの前には椅子が二つある。さらに操作パネルのある壁は一面、監視カメラの画面になっており、主に隔離室内の映像が流れている。他には施設の入り口外、受付、一階中庭、一階廊下、二階廊下、ナースステーションが映し出されている。但し電力を回復してない場合はこれらは映っていない。入口脇の壁はキーボックスになっており、診察室1~3と電源室の鍵が置いてある。中庭、調理室、倉庫、入口、南京錠の鍵は無くなっている。
 探索者が<目星>のロールをするならば、ロッカーの中から懐中電灯を見つける。懐中電灯の電池は十分に入っており、しばらくは持ちそうだ。


■診察室(地下)
 部屋の中央には血まみれの診察台があり、診察台には人体を拘束する目的の革製のベルトが備え付けられている。そのそばには医療器具を置く器械台がある。入って正面の壁には腰ほどの高さの棚が並んでおり、入って右奥には椅子が二つ並べられている。
 探索者が「トーマス・カーター」と会っていない場合は、ここで初登場となる。彼は基本「苦しんでいる人」を助けたいと思っているだけなので、探索者のHPやMPが最大値より減っていなければ、彼は何もしてこない。一見まともに見えるような会話もできる。彼に質問をすれば、彼の知っている範囲内で情報を教えてくれるだろう。もしも探索者の中にHPやMPが減っているものがいれば、「治療をする」と称して他の探索者を追い出し、1対1になれる状況を作り出す。
 もしも彼と戦闘になった場合は、彼は最もHPの低い探索者に<注射器> 30%で攻撃してくる。もしも命中してしまった場合は、即座にPOT12とCONとの対抗ロールをする。この時POTの方が能動側となる。POTが勝った場合は探索者は即座に眠りに落ち、1D10ラウンド後に目が覚める。


■一階廊下
 廊下はそこら中血がついており、むせかえるような血の匂いが充満している。廊下のいたるところに死体が転がっており、患者やスタッフの格好をしている。この無残な惨状を目にした探索者は1/1D3の正気度ポイントを喪失する。これ以降はただの死体を目にしても正気度ポイントの喪失はしなくてもよい。


■入口
 入口にはソファや観葉植物、資料棚などでバリケードが築かれており、それらをどかすにはD100を振り[STR X 5]以下を出さなければならない。失敗したら、少なくともその探索者では退かせないということが分かる。仮にバリケードを取り除けたら、入口の取っ手の部分に巻き付けられた南京錠付きの鎖が見れる。扉自体は強化ガラス製なのでこれを人間の手で壊すのは不可能である。


■受付
 受付のカウンターには院内の各種パンフレットが置いてあるが、ほとんどが血に濡れている。カウンター内には電話が置いてあるが、電力が無いため通じない。仮に電力を回復しても、電話線が切られているため結局電話はできない。受付のすぐ横にある壁には、院内の案内板が張り出してある。探索者が案内板を目にしたら、KPは各部屋の名称付きの地図を公開すること。


■電源室
 探索者が警備室で鍵を持ってきていたなら開けることができる。又は<鍵開け>のロールに成功しても開けられる。
 中には配電盤や空調設備、パソコンのサーバーのようなものが並んでいる。配電盤は何かが激しくぶつかったのか、蓋の部分が大きく凹み、中も損傷が激しい。<電気修理>のロールに成功すれば直して電源を入れることができる。


■診察室1
 部屋には簡易的な椅子が二つと小さな器械台が一つあり、入って正面の壁にが腰ぐらいの高さの棚が並んでいる。椅子には「ピーター・レイク」の青年が座って漫画を読んでいる。
 探索者が部屋に入ってくると彼は挨拶をしてくる。以降探索者の質問に対して、彼らが苦しむような嘘を教えていく。例えば探索者が脱出したがっていれば、ローラン兄弟のいる調理室やトーマスのいる診察室に向かうよう言うだろう。
 探索者が彼に害をなそうとすると彼は全力で逃げ出す。探索者の目をかいくぐり、何とかして彼しか鍵を持っていない倉庫に逃げ込もうとする。もしも彼が倉庫に逃げ込んでしまったら、彼はもう二度とその倉庫から出ようとしない。


■診察室2
 部屋の中には椅子が二つと小さな机が一つあり、入って正面の壁には腰ぐらいの高さの棚が並んでいる。椅子には白衣を着た男性が座っており、探索者が入ってきたことに気づくと笑顔を向け、椅子に座るように促す。探索者が椅子に座るなら彼は突然意味不明なことを語りだす。内容は支離滅裂で所々聞き取れないような事を言い、探索者が返事をはさむ余地もなくそもそも話を聞きもしない。明らかに異常な男の行動を目にした探索者は1/1D3の正気度ポイントを喪失する。もしも探索者が椅子に座らなかったり、話を遮って立ち去ろうとした場合は、男は突然怒りだして襲ってくる。男は基本<組つき> 25%を行う。もしも<組みつき>が成功した場合は首を絞めてくる。


■診察室3
 部屋の中には診察台があり、人体を拘束するベルトが備え付けられている。ほかにはレントゲン写真を張るシャウカステンや二つの椅子、カルテを置いておく小さな机などがある。入って正面の壁には腰の高さほどの棚が並んでおり、棚の上には書類が並べられている。探索者が<目星>のロールを振るならば、いくつかの書類の中から重度の精神病患者のカルテが見つかる。そこにはトーマス・カーター、ピーター・レイク、キャビン・ローラン、ジェイク・ローランの情報が載っている。KPはこの四人についての各種ステータスをPLに公開すること。


■倉庫
 ピーター・レイクから鍵を入手する、又は<鍵開け>のロールに成功すれば中に入れる。なかには医療器具や各種事務用品などさまざまなものがある。ピーター・レイクが逃げ込んだ後に倉庫に入った場合は、彼は「この部屋には何もない」と言って部屋を飛び出す。探索者が<目星>のロールをした場合は、「救急箱」と「テイザー銃」を見つける。「救急箱」は探索者が<応急手当>又は<医学>で耐久力を回復させるときに使用でき、一度だけその値に+2する。「テイザー銃」については基本ルルブp70を参照すること。


■調理室
 部屋の中央には大きな調理台があり、調理台の端には四つのシンクがついている。部屋の中央の天井からは食器棚が伸びており、棚の底面からフックで各種調理器具がぶら下がっている。壁際には大型冷蔵庫や大容量の鍋、コンロやレンジ、フライヤー、炊飯器など各種調理設備が整っている。鍋やフライヤーからは湯気が立ち上っており、直近まで調理されていたことが分かる。そして、部屋の中は辺り一面が血に染まっていた。
  大型冷蔵庫を開けると充満した血の匂いが溢れ出てくる。中には沢山の生首や、油で揚げられた手足、血の色をしたスープのタッパーなどが敷き詰められている。おぞましい食人の痕跡を目にした探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを喪失する。
 大きな鍋の中には赤茶色の濁ったスープが満たされており、スープの中には舌や目玉、腸や肺などが入れられている。探索者がスープの中にある人体のパーツに気づいた場合は、1D3/1D6の正気度ポイントを喪失する。
 フライヤーの近くには、綺麗なキツネ色の衣に包まれた何かの揚げ物がトレーに乗せられて置いてある。探索者がよく見るなら、それは人間の手を揚げたものだと気づける。その事実に気づいた探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを喪失する。
 探索者が<目星>を振るならば、上記の情報の何れかを与える。もしも探索者が既に三か所とも調べていた場合は、「他に変わったところは見当たらない」とするとよい。

 探索者が部屋から出ようとする場合は、調理室を調べた探索者全員に<忍び歩き>を振ってもらう。これは探索者が静かに調べ物ができたかどうかを判定している。成功した場合は探索者は静かに調べ物をしたので、誰にも気づかれることなく部屋を後にできる。もし一人でも<忍び歩き>の判定に失敗した場合は、探索者はキャビン・ローランに侵入を気付かれてしまう。探索者が部屋を出ようとすると、キャビンが扉のすぐ目の前で待ち構えており、扉を開けた探索者に対して<肉切り包丁>(基本ルルブp70) 50%を振り下ろしてくる。探索者はこの攻撃に対して<回避>を試みることができる。この判定の後にキャビン・ローランと戦闘になる。キャビンの行動はとても単純で、一番近くにいる探索者の足か手を切り落としにかかる。彼は生きた人間を調理して食べるのが好きなので、よほど追い詰められない限りは殺そうとはしてこない。攻撃には<肉切り包丁> 50%を使うが、場合によっては<組みつき> 50%や<こぶし> 50%を使ってくるだろう。彼を倒せば彼の持ち物から調理室の鍵が見つかる。


■談話スペース(2階)
 机が二つとそれぞれの机に椅子が四ずつ置いてある。他には観葉植物や各種雑誌の置かれたブックスタンドがある。それ以外には特に変わったところは見当たらない。相変わらずいたる所に血痕がこびりついている。


■リネン室
 リネン室は鍵がかかっており、中に入るには<鍵開け>に成功しなければならない。探索者が中に入らず、またはリネン室を調べずに2階の廊下を進むと、ジェイク・ローランが背後から忍び寄ってくる。探索者には<聞き耳>を振ってもらい、成功した者は彼の接近に気づける。もし誰も成功しなかった場合は、ジェイクに不意を突かれたことになる。探索者の中からランダムに一人決定し、その探索者に<肉切り包丁> 50%を振り下ろす。もしもジェイクが不意打ちに成功していた場合は、自動成功となりダメージを算出する。以降はジェイク・ローランと戦闘になる。ジェイクの行動は前述のキャビンと同じである。KPは「■調理室」の項目にあるキャビンとの戦闘の記述を参照すること。彼を倒せば彼の持ち物からリネン室の鍵が見つかる。

 リネン室は入口から見て左右の壁に、寝具などを置いておく鉄製の大きな棚が並んでいる。棚の格段にはシーツや枕カバーなどが積み重なっている。部屋の奥には、使用済みのシーツ類を回収するためのカートがあり、その中にはシーツ類が詰め込まれている。探索者が<目星>を振る場合は、回収カートの中に詰め込まれているシーツの中に、人の死体やバラバラにされた人体のパーツが隠されているのを見つける。見つけてしまった探索者は1D3/1D6の正気度ポイントを喪失する。それらの死体の中から、恐らく病院の職員の物であろう鍵束が見つかる。鍵にはそれぞれ名前が振られており、201~207号室、院長室、診察室1~3、病院入口の鍵が見つかる。入口の鍵はあくまで扉に備え付けられた鍵なので、南京錠を開けることはできない。


■201~207号室
 基本的に各部屋の構造は同じである。ベッドが二つあり、それぞれがカーテンで仕切られている。ベッドには備え付けのテレビや冷蔵庫があり、部屋の入口脇にはトイレが一つある。203、204、206、207号室には病院の外に通じる窓がある。探索者が<跳躍>のロールに成功すれば、ダメージを受けずに2階の窓から飛び降りれる。各部屋のカーテンは閉められており、ベッドの様子はうかがい知れない。KPは探索者がカーテンを開けたら、患者が襲い掛かってくるなどのギミックを用意してもいいし、何もなかったとしてもよい。但し、207号室のみカーテンを開けると落ち着いた様子の患者が座っている。彼についての情報は「ナースステーション」で得られる。彼は探索者が来ると「やっとまともそうな人が来た」と言い、探索者に一つのメモを渡すと、「俺はもう疲れた。後は頼む。」そう言って彼は窓から飛び降り、頭から地面に落ちていく。窓をのぞき込むなら、地面に落下死したばかりの死体が一つ見つかる。人が死ぬ瞬間を目撃した探索者は0/1の正気度ポイントを喪失する。彼から受け取ったメモにはこう書いてある。

 『俺は一つ気づいたことがある。やっぱりこの病院は政府の陰謀によって建てられた研究施設だったんだ!
 最近ニュースで話題になっている変死事件。俺は覚えている。あれは紛れもなく、この病院から退院した奴らだ!しかも皆、退院してからちょうど2か月で死んじまってる。
 俺は覚えている。奴らが退院する直前、院長に呼ばれていたのを!奴らはあの時、何かの実験を施されたに違いない。やっぱりここは、政府の人体実験施設だったんだ!
 ここから退院しようとしたら、俺も実験体にされちまう。狂ったふりを続けなければ!真実には気づいていない、狂った患者のふりを。
 ・・・しかし、いつまで続ければいい?政府の施設なら、容易には逃げられない。仮に逃げられたとしても、いつかは必ず消されるに違いない。
 どうすればいいんだ、俺は。このままじゃ本当に、狂ってしまう。』

 201、202、205号室は、窓から中庭の様子が見れる。探索者が中庭の様子を見ると、庭の中央には大きな赤い五芒星が描かれており、その五芒星の外側に5、6人の人間が立っている。五芒星の縁に接するようにして膝立ちしている男が一人いる。顔を知っている探索者は一目見るだけで、それがスコット・ウィリスであることが分かる。彼は祈るように顔の前で手を結び、口元が細かく動いていることから何かを呟いていることが伺い知れる。中庭の二つの入り口には、それぞれ2人ずつの男が扉を抑えている。探索者が<跳躍>のロールに成功すれば、ダメージを受けずに中庭に飛び降りれる。勿論失敗すれば、それ相応のダメージを受けることになる。


■ナースステーション
 1階の受付同様カウンターテーブルが設置されている。カウンターの向こう側には職員が作業するためのデスクが並んでおり、壁には書類棚や各種医療器材が並んでいる。壁の一角にキーボックスがあり、資料室1、資料室2、特殊浴室、201~207号室の鍵があり、リネン室の鍵だけ無くなっている。数ある機材の中の一つに、赤いランプが点灯している機械がある。どうやらナースコールを知らせる機械のようで、207号室のランプが点灯していた。探索者が<目星>でロールをするなら、201~207号室の患者についての書類が見つかる。ほとんどの患者が軽度の精神病患者で、特筆すべき点は特にない。207号室の患者に関しては詳細な情報を記載しておく。

 207-2 ジェーコブ・ロイド 男性 30歳
  201X年12月10日に入院。元々は改装前の「アーリー・ブラインド精神病院」に入院していたが、改装に伴って一時的に別の病院に移送されていた。自傷行為や周囲に危害を加えるような行動は見られないため2階の一般病室に入院。常に政府の陰謀や世界の陰に隠された魔術の存在などについて論じている。妄想性障害と診断されているが、日常生活や社会生活に影響を及ぼすほどであり、放っておけば食事もままならないため入院している。201X年2月12日から様子が一変し、職員を避けるようになる。ここ最近では妄想話も拍車がかかっており、もう暫く退院はできそうにない。


■特殊浴室
 鍵が無い場合は<鍵開け>のロールに成功すれば入れる。入ってすぐに脱衣所がある。入口から見て左脇の壁には大きな鏡付きの洗面所が備え付けられており、ドライヤーなどが置いてある。右側の壁には脱衣かごが置かれている棚があり、かごの中には特に何も入っていない。突き当りには浴室へ続くすりガラス状の扉がある。浴室内は真ん中にバスタブがあり、その周囲にシャンプーやシャワーがある。患者を浴槽に入れたまま、職員が洗いやすくするようになっているようだ。探索者が浴槽内を覗くと、白衣を着た男性がうずくまって震えている。男性はブツブツと何かを呟きながら、焦点のあっていない目で自分の手を見つめていた。明らかに異常な状態にある男の姿を見た探索者は0/1の正気度ポイントを喪失する。
 探索者が男に触れようとするなら、男は叫び声をあげながら探索者に襲い掛かってくる。男の基本行動はランダムな探索者に<こぶし> 50%で殴り掛かってくる。男の持ち物を漁ると鍵束が見つかる。鍵には名前が書いてあり、特殊浴室、201~207号室、資料室1~2、診察室1~3の鍵が見つかる。


■資料室1
 鍵が無い場合は<鍵開け>のロールに成功すれば中に入れる。資料室は入口から見て左右の壁が鉄製の棚に覆われており、部屋の奥の壁まで棚が続いている。棚にはいくつものファイルが並べられている。それぞれのファイルの背表紙には、日付が書かれていたりアルファベットが書かれていたりする。試しに一つ手に取ってみると、この病院の入院患者についての情報が並べられている。どうやらこの資料室は患者に関する資料があるようだ。探索者が調べる場合は<図書館>のロールをしてもらう。この時探索者が具体的に何について調べるか明言していた場合は、調べるのにかかった時間を短縮してもよい。見つかる情報は下記の三つである。基本的に一つの<図書館>ロールに対して一つの情報が分かる。KPはどの情報を渡すのかを自由に選択してよい。

 ┗トーマス・カーター、ピーター・レイク、キャビン・ローラン、ジェイク・ローランについての情報がみつかる。KPはこの四人についての各種ステータスをPLに公開すること。

 ┗スコット・ウィリスについての情報が見つかる。入院は201X年1月10日で退院は同年1月17日。症状は軽度の脅迫性障害。隔離病棟に入れられていたのは初日だけで、以降は2階の一般病室207号室に移動。一週間もすれば退院できる見込みだったようだ。ファイルには手書きのメモで、「入院の必要なし。候補者に認定。一週間の入院後執行。」と書かれている。ファイルの後ろのほうには、「再入院201X年3月5日。院内での孵化の可能性あり。要警戒。」というメモも見つかる。

 ┗変死体の患者たちに関する情報が見つかる。患者たちは皆それほど重い精神疾患は患っていなかったようで、入院してから比較的早期に退院している。探索者にここで<目星>を振ってもらう。成功した場合は、これらの犠牲者は全て、退院してから約2ヶ月で変死していることに気づける。

 上記の情報を全て持っている探索者には<アイデア>のロールを振ってもらう。成功した者は、スコットが退院してからそろそろ2ヶ月経つのではないか?という事に気づける。


■資料室2
 鍵が無い場合は<鍵開け>のロールに成功すれば中に入れる。中は資料室1と同様の構造をしている。KPは資料室1の記述を参照すること。資料の内容は、この病院の施設に関する物や学術書、医術書、領収書など職員や病院に関する資料が並べられていることが分かる。探索者が調べる場合は<図書館>のロールをしてもらう。この時探索者が具体的に何について調べるか明言していた場合は、調べるのにかかった時間を短縮してもよい。見つかる情報は下記の三つである。基本的に一つの<図書館>ロールに対して一つの情報が分かる。KPはどの情報を渡すのかを自由に選択してよい。

 ┗「アーリー・ブラインド精神病院」は、201X年9月6日に大規模な人員入れ替えがあった。同日に病院自体の改築工事も始まり、同年12月9日に改築工事は完了している。当時の病院の地図と現在の病院の地図を見比べると、病院の地下が新たに追加されたことが分かる。この大規模な変革は同年9月5日に就任した新院長の「トラベンス・ホットレイ医師」の手によるものだ。探索者にはここで<アイデア>又は<経理>を振ってもらう。成功した場合は、改築費用に対して実際に施された工事内容に違和感を覚える。具体的にはもう少し改装されていなければおかしいと感じた。

 ┗職員名簿が見つかる。この病院の職員は全て201X年9月6日から務めている。それ以前の職員はほとんどが別の病院に異動か、もしくは解雇されている。ほとんどの職員がキャムサイド在住のイギリス人で、唯一「トラベンス・ホットレイ医師」に関する情報だけ抜けている。

 ┗非常に有名な医療学術書が見つかる。「10分読むだけで医療のイロハがまるわかり!」と評判の医療学術書は、探索者が読むことで<医学>又は<応急手当>の技能を成長させることができる。1人1回までどちらかの技能の経験ロール(基本ルルブp59)を即座に行ってもよい。

 ┗他とは明らかに違う異質な本が見つかる。背表紙には何も書かれておらず、古めかしくも豪華な装丁が施されている。1ページ目の一番最初には「議事録」とだけ書かれている。以降のページには日付と「決定事項」の表題と簡素な内容の文章が各ページに記載されている。気になった内容は「医師免許の獲得」「件の病院への応募」「患者の選定」だろうか。最後のページには、「白く巨大な胴体に無数の赤い目がついた化物」の絵が挿まれていた。探索者には<オカルト>をロールしてもらう。成功した場合は、これはキャムサイドの都市伝説にある「迷路の神、アイホート」の絵ではないかと思う。そしてこの議事録は、アイホートを信奉するカルト教団のものではないか?という考えに至る。


■院長室
 この部屋の鍵は特殊な構造をしているため、<鍵開け>を試みる場合は技能値の半分でロールをしなければならない。部屋の中には赤黒い絨毯が敷かれており、入口から見て右側の壁には大きな絵画が飾られている。探索者には<知識>又は<歴史>でロールしてもらい、成功したらその絵画がレオナルド・ダ・ヴィンチ作「受胎告知」であることが分かる。入口から見て左側には装飾の施された木製の執務机がある。入口脇の壁側には同じく装飾の施された資料棚があり、部屋の中央には来客用であろう机とソファがある。ソファの向かいの壁にはレンガ造りの暖炉が設置されていて、そのそばには白衣を身に纏ったスキンヘッドの男が立っていた。男は資料に目を通しては、暖炉に放り投げる動作を繰り返している。探索者たちが声をかけるならそちらの方に向きなおる。
 男とは「トラベンス・ホットレイ医師」のことである。探索者が何かしらの形で彼の素顔を知っていた場合はその事実に気づくことができる。彼は探索者の姿を捕らえると、席から立ち上がり暖炉のほうへと歩き始める。彼はここで既に<門の創造>(基本ルルブp289)を行っており、マジック・ポイントを3ポイント消費して門を活性化し、別の場所へと移動しようとしている。探索者が止めようとしなければ、彼は門をくぐり移動してしまう。探索者達からは突然彼が消えたように見えるだろう。そんな光景を目にしてしまった探索者は1D2/1D4の正気度ポイントを喪失する。
 彼は探索者たちが力ずくで止めない限り、門をくぐって逃げてしまう。もしも探索者が力ずくで彼を止めたり、または気づかれる前に攻撃を加える場合は、彼は避ける気が無いので自動で攻撃は当たる。但し物理的なダメージは最低値でしか与えられない。耐久力が1ポイントでも減ると、「アイホートの後裔」はその体から小さな白い蜘蛛が飛び散る。人の体から蜘蛛が飛び散るさまを目撃した探索者は1/1D4の正気度ポイントを喪失する。以降彼は探索者達から逃れる為に、攻撃などは行わず院長室隣の秘密の部屋まで逃げようとする。秘密の部屋には、部屋に飾られていた絵画「受胎告知」の裏に抜け穴が隠されており、そこを通っていける。
 彼が抜け穴を通れた場合は、探索者が追跡しても追いつけることはなく、彼は「アイホートの地下迷宮」へと逃げてしまう。もしも探索者が彼の耐久力を0にした場合は、彼の体が溶け始める。顔、胸、脚、体の全ての部位がねっとりとした山になってゆく。それはのたうちながら光る白い蜘蛛の群れとなり、散り散りに逃げ去っていく。その光景を目にした探索者は1/1D8の正気度ポイントを喪失する。彼の白衣のポケットには、この病院のマスターキーが入っている。

 探索者がこの部屋を調べる場合は<目星>のロールをしてもらう。執務机の引き出しの中から一冊の本が出てきた。本は「■資料室2」で見つかった議事録と同じものだ。但し中身は資料室の物よりしっかり書かれている。各ページに議題と会議内容、決定事項がそれぞれ書かれている。内容を要約するとこの「アーリー・ブラインド精神病院」は、アイホートを信奉するカルト教団が乗っ取った施設だった。彼らは失踪したり変死したりしても怪しまれにくい「精神病患者」に目を付け、彼らにアイホートの雛を植え付けることを決めた。この病院の地下からはアイホートの地下迷宮へ行くことができ、退院できそうな患者を連れて行って雛を植え付けていた。そうして植え付けた患者から記憶を奪い、何事もなかったかのように退院させる。この病院はまさに、アイホートの養卵場だった。その事実を知った探索者は1/1D2の正気度ポイントを喪失する。
 探索者が絵画についてやこの部屋にある秘密の部屋について調べる場合は、別に<目星>のロールを振ってもらう。成功した場合に限り、絵画の裏に抜け穴がある事に気づける。もしも探索者が秘密の部屋からアイホートの地下迷宮へ行った場合は、すぐに引き返すなら何も問題はない。仮に迷宮の奥へ進もうものなら、彼らはたちまちにアイホートの餌食となってしまうだろう。どうなるかはKPに一任する。


■中庭
 中庭には1階に2つの入り口がある。どちらの鍵がかかっており、その鍵はスコットが持っているため<鍵開け>か、もしくはトラベンスからマスターキーを奪わないと開けられない。鍵を開けても、反対側からスコットの仲間が扉を抑えているので、探索者は扉を抑える男達のSTR20との対抗ロールに勝たなければならない。この対抗ロールは他の探索者と合算が可能である。探索者が中庭に入ると、中庭中央の地面には大きな赤い五芒星が描かれており、その縁に祈るように膝立ちする男が1人いる。その他に5~6人ほどの男がその男を守るように立っている。探索者がどこかで顔を知っているなら、その膝立ちの男が「スコット・ウィリス」であることが分かる。スコットは探索者が中庭に侵入してきたことには目もくれず、一心不乱に呪文を唱えている。周りにいる男たちは、「儀式の邪魔をさせるな!」などのことを叫び、探索者たちに襲い掛かってくる。
 男たちは基本的に<組みつき> 25%を仕掛けてくる。<組みつき>に成功した場合は、探索者たちを動けなくするために抑え込んでくる。STRで対抗ロールをし、探索者が負けた場合は探索者は完全に抑え込まれ動けなくなる。スコットは自分の手番で呪文の詠唱をする。スコットが3ラウンドの間邪魔されることなく詠唱に集中できた場合は、KPはD100をロールし19%の確率でダオロスが招来する。成功した場合はスコットはもちろん、その場にいる全員が膨張するダオロスの体に飲み込まれるだろう。飲み込まれる寸前に探索者が目にするのは、幾何学的な形をしているような、なんとも表現のしにくい何かである。探索者は即座に1D10/1D100の正気度ポイントを喪失する。その後飲み込まれたものは別の異世界か遠いどこかの星などに飛ばされる。誰がどこに行くのかはKPが自由に決めてよい。
 男たちとスコットの能力値は、全て平均値とし、各種技能は初期値とする。但しスコットはいくつか数値が異なる。スコットの能力値で平均ではないところは()で示す。具体的な数値は下記を参照すること。

 スコットとその仲間たち
 STR10 CON10 POW10(15) DEX10
 APP10 SIZ13 INT13(16) EDU13(18)
 HP12 MP10(15) dbなし
 スコットのみ中庭の鍵と南京錠の鍵を所持。

 もしも探索者達がローラン兄弟を倒していなかった場合は、この騒ぎを聞きつけて二人がやってくる。探索者たちを見つけると彼らは襲い掛かってくる。

 探索者達がスコットを倒すと、彼の腹部が膨れ上がっていきその腹を裂いて小さな白い蜘蛛が数百万匹生まれてきた。その蜘蛛たちは散り散りに逃げ去っていき、後には新たな変死体のみが残った。アイホートの雛が生まれてくる瞬間を目撃した探索者は1D6/1D10の正気度ポイントを喪失する。その後、彼の仲間たちはスコットを失ったことにより戦意喪失してしまいその場にうずくまる。探索者が病院を脱出するか、警察に何とか連絡することができればシナリオは終わりを迎える。KPはふさわしいと思うエンディングを演出すること。


■他の町について
 キャムサイドの隣町にあたるクロットン、ブリチェスターにもそれぞれ情報がある。町の施設はキャムサイドとあまり変わらず、大きな違いは以下のものだけである。

 ・警察署は各町のものになっている。勿論扱っている資料もその町の事件のものとなる。
 ・ブリチェスターには精神病院の代わりに総合病院がある。こちらは精神病院と違い町中にある。規模はそこまで大きくない。またクロットンには病院がなく、小さな診療所があるのみだ。
 ・クロットンにはガンショップとホームセンターがあるが、ブリチェスターやキャムサイドには無い。

 それぞれの町で得られる情報は以下の通りとなる。

 □クロットン
 ・警察署では、1件の変死事件についての資料がある。
 ・ホームセンターやガンショップではアイテムが購入できる。勿論その場所にふさわしい品物しか買えない。さらにガンショップでは、火器系の技能にポイントを振っている探索者にしか売ってもらえない。

 □ブリチェスター
 ・警察署では、2件の変死事件についての資料がある。
 ・総合病院にはスコットのカルテがある。特に異常は見当たらなかったが、本人は「何かに寄生されていると思う。」と訴えていたらしい。


■エンディングプロット

 ここではエンディングの演出の参考になるように、エンディングプロットをいくつか記載しておく。

 ・探索者が儀式を止めて無事に脱出した場合は、警察から事情聴取されるだろう。探索者が院内で殺人を行っていない限りは、話を聞かれる程度で済むだろう。

 ・探索者がもしも院内で殺人を犯していた場合は、指紋や物的証拠などから警察に疑われるだろう。最悪の場合は逮捕されるかもしれない。

 ・探索者の脱出後、地下迷宮への道は教団の手によって埋められている。探索者が病院の地下にある迷宮や、スコットの魔術に関して話すなら、彼らは精神鑑定にかけられる。もしかしたら精神病院に入院もあり得るかもしれない。


■報酬

 無事にエンディングを迎えた場合は、KPは探索者に2D10の正気度ポイントを与えること。


'画像'

'画像'

'画像'

'画像'

'画像'

'画像'

15383d0b bef8 4757 8e43 61aa5a05d39e

Post Comment

ログインするとコメントできます。