2023年11月10日更新

ソードワールド 2.5 『陵墓に響く声』

  • 難易度:★★★|
  • 人数:2人~4人|
  • プレイ時間:3~4時間(テキストセッション)

 ある日PC達は、帰って来ない後輩冒険者の捜索と、彼らが受けていた依頼の代行をお願いされます。後輩が受けていたのは「陵墓から聞こえる少女の声の調査」。依頼を遂行するPC達が見たのはノスフェラトゥの眷属『ブラッドサッカー』。そして、その魔物の攻撃に必死で抵抗する蛮族を連れたローブ姿の人物。その背後には守られるように、負傷した後輩冒険者が倒れていました。
 探索するべき場所と、探索の能力。そこから導かれる状況の推察。時間経過とともに犠牲者が出る緊張感の中でPC達は冷静に依頼を遂行できるのでしょうか?
※NPCとしてディアボロの少女が登場します。シナリオフックとしてもご利用いただけると思います。

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●「陵墓に響く声」

●概要

 ・推奨レベル:5~
 ・推奨人数:2~4
 ・レギュレーション:基本ルールブック(Ⅰ)~(Ⅲ)
 ・出演する魔物:『コボルド』『ディアボロ』『ブラッドサッカー』『プラズマスフィア』など
 

●解説

 ある日PC達は、依頼に赴いたまま帰って来ない後輩冒険者の捜索と、彼らが受けていた依頼の代行をお願いされます。後輩が受けていたのは「陵墓から聞こえる少女の声の調査」。陵墓に赴き、依頼を遂行するPC達が見たのはノスフェラトゥの眷属『ブラッドサッカー』。そして、その魔物の攻撃に必死で抵抗する蛮族を連れたローブ姿の人物。その背後には守られるように、負傷した後輩冒険者が倒れていました。
 探索するべき場所と、探索の能力。そこから導かれる状況の推察。時間経過とともに犠牲者が出る緊張感の中でPC達は冷静に依頼を遂行できるのでしょうか?
※NPCとしてディアボロの少女が登場します。シナリオフックとしてもご利用いただけると思います。
※「ある冒険者たちの話(仮)」内の14話目を単話として再構成したものです。
※PDFでもアップしています。そちらの方が見やすいかもしれません。
 

●adobe PDF

ソードワールド 2.5 『陵墓に響く声』
 

●内容

○ギルド支部/2階受付
 『遺跡の陵墓に夜な夜な、少女の笑い声が響く』
 そんな噂が最近、町に広まっていた。埋葬や死に際の未練などで、陵墓にアンデッドが沸くことは少なくない。冒険者にとっても馴染みのある依頼内容。戦闘ならまだしも、調査だけなら危険性も低いため、駆け出し冒険者にはよく回ってくる仕事の一つだった。今回も例によって、調査依頼が駆け出し冒険者に回っていたのだが…。
 「どうやら、彼らがまだ帰って来ていないみたいなんです」
 依頼を受けるために受付カウンターを訪れていたあなた達。その前で、あなた達を担当する受付嬢が心配そうにしていた。
 「行き違いならいいんですが…。よければ皆さん、彼らを捜索してもらえませんか?」
 と、あなた達に提案する。
 「不測の事態が起きていた場合、低レベルの冒険者さんだと被害が増えてしまう可能性があるんです」
 「その点、皆さんなら安心してお任せできますし…。探索の技術も信頼できます。どうでしょうか?」
 
 「ありがとうございます! 早速手続きを始めますね」
 あなた達の了解を得ると、すぐに事務手続きを始める受付嬢。手を動かしながら、説明を続ける。
 「ご存じかもしれませんが、念のためにもう一度説明しますね。今回は捜索依頼になります。対象のいち早い発見と保護が目的になります」
 「もし死亡していた場合でも、日が浅ければ蘇生による穢れの蓄積は少ないと聞きます。ですので、持てる技術を使って早急に彼らを救い出してあげてください」
 そこまで告げて手を止めた受付嬢。出来上がった依頼書と、もう一つ別の依頼書を並べる。
 
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 「こちらが今回の捜索依頼のもの。もう一つが、失踪した冒険者さんたちが受けていた依頼です。こちらは任意になりますが、余裕があれば遂行して頂いて大丈夫です。住民の皆さんも、困っていますから」
 並んだ依頼書を示しながら、説明する。最後に
 「くれぐれも気を付けてくださいね。皆さんのお帰りを、お待ちしています!」
 そう送り出してくれるのだった。
 

●状況

 ・クルファド遺跡/陵墓はサンバスから北東に少し(30分ほど)行った場所。
 ・捜索対象の冒険者は『サナ』『ガウーフ』『ツェトカ』『バオ』の4人パーティ。平均3レベル。
 ・救出できた人数によって報酬が増加。1人につき1000G。
 ・事前の調査では低レベルのアンデッドのみが確認されている。
 ・【聞き込み判定:8】「怪しい影を見たんだよ! ローブを着たやつが夜、墓をうろうろしてんだ!」
 ・【聞きこみ判定:10】「そういえば最近、お供え物が食べられることが増えたの。動物の仕業かしら?」
 ・サンバスにいる数少ない高レベル冒険者は、目下の脅威であった“奈落の魔域”が最近になって破壊されたため、一時的に“奈落”から出現する魔物と人族が争う最前線に行っている。
 

●備考

○クルファド遺跡
 街道沿いの開けた草原に位置し、南には森がある。南西部には、この遺跡調査のために作られたベースキャンプが元になってできた宿場町・サンバスがある。遺跡周囲にはいつしか墓石が立ち並び、陵墓となっている。サンバスにあるギルド支部による定期的な見回りも、その陵墓に赴く人々の安全確保と、ある種偶像化された遺跡を清潔に保つため。四角い箱に平たい四角錐を乗せ、その四角錘の屋根を数十本の柱が支えたような見た目。上から見ると正方形。内部は左右対称のシンプルな構造で、ロの字の廊下に囲われるように正室があるのみ。正室へは、南側にある遺跡の入り口からグルっと廊下を進み、北側に回った入り口から入る。かつては大型の魔動機が警備していた遺跡も、今は祭壇が残っているのみ。噂によれば、その祭壇は地下迷宮へ続く階段の入り口になっているらしい。
 

●捜索

○クルファド遺跡/陵墓
 準備を整え、夜。あなた達は陵墓にたどり着いていた。
 墓石が並ぶ、開けた陵墓にはこの時間でも動く影がある。どの影も目的なく歩いているように見えた。
 ※捜索できそうな場所は5か所。《陵墓/北・東・南・西》の4か所と《陵墓中央/遺跡》。
 ※現在PC達はサンバスから遺跡に来たので陵墓の南西部にいる。
 ※夜間の探索。夜目が効かない場合、判定にマイナスの修正。
 ※無事救出できた人数によって経験点と報酬が増加。最初の30分以降、おおよその経過時間が30分ごとに1人戦闘不能(最大3人)。
 
 
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○クルファド遺跡/陵墓・スタート地点
 【探索判定:9~】現在地から陵墓・西に向けて数人の足跡が続いている。
 【探索判定:11~】その足跡は真新しい。
  →【見識判定:10~】失踪した日よりも後のもの。つまり、昼にここを弔問した人たちのものだろう。
 【探索判定:13~】確かな技術と知識から、冒険者のものと思われる足跡が4人分、南に続いている事を発見する。
 
○クルファド遺跡/陵墓・南
 【聞き耳判定:11】風に乗って薄っすらと、東の方から声が聞こえた。
 【探索判定:8~】最近ついたと思われる地面の抉れや墓石の傷を見つける。
  →【見識判定:10】最近ここで戦闘があったのではないか。
 【探索判定:10~】真新しい傷のついた、倒れている墓石を発見する。
  →【腕力判定:15】そこには血痕があった。
 【探索判定:13~】確かな技術と知識から、冒険者のものと思われる足跡が中央に向けて3人分続いているのを発見する。 (※もしスタート地点で足跡を追えていた場合、『足跡追跡判定』でも代用可能。)
 
○クルファド遺跡/陵墓・西
 【聞き耳判定:8~】近くでうめき声がする。
 【探索判定:8~】墓石の影から「『ゾンビ』(Ⅰ)P.457」が(PC数体)這い出てくる。(※レベル次第で戦闘を省略)
  →傷の手当や敵の増援の警戒などで対処に時間をとられる。追加で10分経過。
 【探索判定:10~】足跡を2集団分見つける。一つは陵墓を出るように西へ。もう一つは北へと続く。
  →【見識判定:10~】どちらも失踪した日よりも後のもの。昼にここを弔問した人たちのものだろう。
 【探索判定:12~】人族のものではない、小さな足跡がいくつもあることがわかる。どこに行ったかはわからない。
  →【魔物知識判定:6】これは「『コボルド』(Ⅰ)P.437」たちのものだ。
 
○クルファド遺跡/陵墓・中央
  遺跡の入り口にあった警備用の魔動機「ドルン」が壊されている。
・遺跡入り口付近
 【聞き耳判定:11】風に乗って遠く、東の方から声が聞こえる。
 【探索判定:9~】陵墓の中央にある遺跡。その入り口に、遺跡内部に続く血痕を見つける。
 【探索判定:10~】入口に設置された警備用の罠に解除ではなく破壊された跡がある。
・遺跡内
 廊下には土のついた足跡がある。奥に向かったようだ。
 【聞き耳判定:5】音が反響しやすい遺跡内で音はしない。
 【探索判定:10】よく見れば足跡は行って、帰っている。
  →【見識判定:8】つまり中に入った人はもう外に出ているのではないか。
・正室内
 正室の入り口奥、祭壇付近に新しい戦闘の跡がある。またその付近に少し大きな血痕がある。
 【見識判定:10】点々と続いていた血痕がここで止まっていることから、ここで治療が行われたのではないか。
 ※もしここで祭壇に【センス・マジック】などを用いた場合、反応がある。それは祭壇の下にある地下迷宮への入り口をふさぐために施されている、魔法的な封印に反応している。迷宮内は探索され尽くしているためもう用はなく、魔物が住み着かないように封印されている。
 
○クルファド遺跡/陵墓・北
 【聞き耳判定:11】風に乗って遠く、東の方から声がする。
 【探索判定:9~】爪のある足跡が一つ。またたくさんの小さな魔物の足跡を発見する。どちらも最近のもの。
  →【魔物知識判定:6】小さな足跡は「『コボルド』(Ⅰ)P.437」たちのものだ。
 【探索判定:11~】魔物の足跡に近い場所にある供え物が食べられている。
  →【見識判定:8】ここにコボルドたちが食べ物を探しにやってきたのではないか。
 【探索判定:12~】最も新しく、深く刻まれた足跡が東に続いている。爪の持ち主を追うように小さな足跡(コボルドのもの)が続く。
 
○クルファド遺跡/陵墓・東
 あなた達のが陵墓の東側に差し掛かった時、女の子の声がする。交易共通語で、
 「そのまま進めばここを抜けられます。はやく逃げてください! ここは私たちが押さえますから!」
 そう叫んでいる。どうやら緊急事態が発生しているようだった。
 
 あなた達が声のした方へ行くと、先ほどの声の主と思われる丈の長いローブで全身を隠した人物が武装した蛮族(【魔物知識判定:6】「コボルド」)とともに、魔物と応戦していた。そしてローブ姿の背後に庇われるように、人族の冒険者たちが[3-(経過した時間による犠牲)]人いる。その体には応急手当の跡があった。
 「そうは言っても! そいつは…ツェトカは俺たちの仲間なんだ!」
 彼らの目線の先には生気と理性を失った魔物(【魔物知識判定:12】「『ブラッドサッカー』(Ⅱ)P.412」)がいる。
 「早く、逃げてください! もう時間がありません! 私たちじゃ、とても敵いません!」
 ローブの少女がそう言っている間にも、前線で応戦するコボルドたちは数を減らす。残りは3体ほどになっていた。
 
 そこでようやく、彼らはあなた達に気付く。
 「その恰好…冒険者?!」
 あなた達を見て驚くローブの少女。夜でしかもローブを羽織っているため、その表情はわからない。
 「助けてくれ! なんか変な人にあって、急に襲われて…そしたら仲間があんな風になっちまって!」
 一方庇われていた冒険者たちの説明も要領を得ない。わかることとしては、彼らが捜索対象の冒険者達であること。彼らに相対していた魔物もあなた達に気付く。
 「ディアボロを、殺す! 力を…血を! ――私を、殺して!」
 一瞬、苦悩に満ちた表情を浮かべた魔物。しかしすぐに憤怒の表情を浮かべると、ピンチを悟ったのか、懐から小さな石を取り出す。それを勢いよく地面に叩きつけ、砕く。するとそこからチリチリと電気をまといながら発行する不思議な生物が飛び出してきた。その様子を確認すると、ローブの少女はコボルドたちを下がらせ、
 「私たち負傷した彼らを治療します! 皆さんには足止めをお願いしていいですか?!」
 と治療薬らしきもの(【見識判定:12】〈救難草〉)を手に負傷者のもとへ駆けて行く。
 
 「血を…力を! 殺す、殺す!」
 不思議生物とともに、アンデッドとなってしまった元冒険者が襲い掛かってくるのだった。
  ➡前衛:「『プラズマスフィア』(Ⅲ)P.388」(PC数)体
   後衛:「『ブラッドサッカー』(Ⅱ)P.412」1体 ※〈剣のかけら〉6つで強化。
 ※自陣後衛に『負傷した冒険者』『ローブの少女』がいる。『負傷した冒険者』は1点でもダメージを受けると戦闘不能になる。戦闘後には『ローブの少女』はいなくなる。
 

●戦闘後

 「ようやく、この苦しみから…」
 女性の声で呟いたアンデッドの魔物はついに、灰となって消え去るのだった。
 
 振り返ると、しっかりと傷がいえた冒険者たちが転がっている。ローブの少女と蛮族たちの姿はない。どうやら戦闘中に姿をくらましてしまったようだった。新たにアンデッドが沸くかもしれない。放置するわけにも行かず、あなた達は後輩冒険者たちを連れてサンバスにあるギルド支部へと帰還するのだった。
 
 その後、後輩冒険者を医務所に連れて行き、後輩冒険者に頭を下げられまくったあなた達。冒険者になった時から、覚悟は決まっていたとしても。仲間を一人失った悲しみはそう簡単に受け入れられるものではないだろう。それでも彼らはあなた達に感謝を述べた。
「傷ついた俺たちを、苦しんでいたツェトカを助けてくれて、ありがとうございました」
と。その先へ進むために。悲しみさえも糧にして、冒険者は前に歩みを進めなければならないのだろう。弱き人々、大切な人々に同じ悲しみを背負わせないために。
 
○サンバスギルド支部/2階受付
 「こちらが今回の報酬です!」
 後日。あなた達は受付で報酬を受け取っていた。
 「無事…とは言えませんが、彼らが戻ってこれたようで良かったです。皆さんでなければ全滅、なんてことにもなっていたかもしれません」
 あなた達に依頼して良かった、そう受付嬢は笑った。
 「先に聞いた彼らの話では、陵墓の南側から少女の声を調査していると、変な人? に遭遇。その人にツェトカさんが襲われ、様子が豹変。仲間である彼らを攻撃した。ひとまず遺跡内に逃げ、応急手当するも、追いつかれ逃走。東側に逃げたところで捕まるも、ローブの少女と蛮族に遭遇。なぜか助けてくれた…とのことでした」
 「お墓の声…状況から見て、おそらくそのローブの女の子だと思われますが…。何者だったんでしょうか? よければ、皆さんからも詳しく聞いていいですか?」
 
 あなた達が説明すると、
 「ブラッドサッカー…であれば。彼らが出会ったのは、おそらくノスフェラトゥと呼ばれる、上位の蛮族ですね」
 「もし、そうなら早急にギルマス達に帰って来ていただく必要がありそうです」
 ノスフェラトゥ。ヴァンパイアや吸血鬼とも言われる高レベルの魔物。彼らは血を吸って殺した相手を眷属にできる。その眷属がブラッドサッカーだった。
 「他の冒険者を眷属にしなかったのはなぜでしょう…? 何か思惑があるのでしょうが…不気味ですね」
 と所感を述べる。その間も、経緯を記す報告書への記載を忘れない。
  報告にあったローブの少女も気になります。助けられた冒険者さんたちによれば、連れていた蛮族に『リラ様』と呼ばれていたようですが…皆さん、聞き覚えはありますか?」
 
 「そうですか…。人族にもなつきやすいコボルドですが、一応蛮族です。それを従えていたことも気になります。近隣のギルドに同じ名前の冒険者がいないか確認しておきますね!」
 報告書を手早く作成し終えた受付嬢は居住まいを正す。そして、
 「こほん、それでは改めまして。この度はお疲れさまでした! 救いを求める手に応える皆さんの協力に感謝するとともに、その気高いあり方を我々一同、心より尊敬します。今後のさらなる活躍を期待していますね!」
 どこか誇らしげに、あなた達を激励するのだった。
 
➡報酬と経験点(2000+(救出した冒険者)×500+(判定での1ゾロ数)×50+(倒した魔物のレベル合計)×10点)を得る。
 

●マスターシーン(必要なければ描写しなくていいです)

 ある日。ローブ姿の少女の前には死にかけのコボルドたちがいた。
 「ゴハン…タベモノを…」
 拙い汎用蛮族語で語られる言葉。それと同じ言語を少女は流ちょうに話す。
 「これ、食べますか? あの肉串には負けるけど…。おいしいですよ?」
 差し出された手には森で獲った大きな果物が乗せられている。コボルドたちは夢中でそれを平らげた。
 「カンシャ。ナマエ…?」
 「これは…『リンゴ』だと思います。アルがくれた本の知識ですが…」
 自信なさげに答える少女。しかし、コボルドは少女を指さし、問いかける。
 「あ、私ですか? 私はリラです」
 そう言ってローブをとり、顔をさらす。青黒い肌。折れて小さくなってしまった角。額にある宝玉をきらめかせて笑う少女。その姿、そして優しさに魅せられるようにコボルドたちは立ち上がった少女の後を追う。
 「一緒に来てくれるんですか?」
 その問いかけに、コボルドたちはうなずく。
 「…そうですか。ちょうど私も、誰かと一緒に『食事』というものをしたかったんです…」
 そう照れ笑いする。
 「じゃあえっと…い、行きましょう」
 こうしてしばらく。時々、倒れたコボルドや、虐げられたコボルドたちを助けながら少女たちは過ごす。本で得た知識を頼りに、昼は冒険者の亡骸から武器と防具を、森では果物や野草を調達。夜は、コボルドたちと不思議な形をした石が集まった場所で食べ物を拾って生活するのだった。
 そんなある日の夜。石の近くで食べ物を拾っていると、遠くで声がした。様子を見れば、魔物に襲われているようだ。恰好から人族の冒険者だと分かる。その時、少女の頭に浮かんだのは、おいしい肉串をくれた人族たちの笑う姿。あの輪の中に、彼らがいたかもしれない。恩は返さなければ。しかし、自分一人では時間稼ぎすらかなわない。
「一緒に…来てくれますか?」
コボルドたちに問う。彼女の決意を汲むように、あるいは当然のように。コボルドたちは手にした武器を鳴らす。その姿に笑みをこぼし、少女は駆けだす。たとえ自分が人族にとって敵であっても。たとえ相手が自分より強くても。感謝の気持ちや感情のない、ただの魔物に成り下がるわけにはいかない。角が折れ、迫害された自分を拾ってくれた、気高い竜に応えるために。動けない冒険者に振り下ろされようとするその手を、少女ははじき返すのだった。
魔物の相手をコボルドたちに任せ、その間に応急手当の心得がある少女が治療にあたる作戦はしかし、うまくいかない。武装してもコボルドたちの能力が上がるわけではなく、治療する余裕がない。少女はすぐに作戦を変える。治療ができないなら、せめて逃げてもらわねば。人族に分かるように、少女は交易共通語で叫ぶ。
「そのまま進めばここを抜けられます。はやく逃げてください! ここは私たちが押さえますから!」
 
 治療を終え、彼らの無事を確認した少女。終始、彼らからは自分の姿が見えなかったはず。しかし状況が落ち着けば、そうはいかないだろう。助けに来た冒険者はまだ戦っているが、幸い倒すことが出来そうだ。それを確認し、残ったコボルドたちに撤退の声をかける。「はい、リラサマ。」作戦前と変わらない信頼で、自分の指示に従ってくれる彼ら。その同胞を自分の作戦で殺してしまった。――今は、その時ではない。感情をこらえて、近くの森へ駆ける。森に着くと、コボルドたちに警備を指示して遠ざけ。大きな木のうろに隠れて。少女は静かに涙を流す。どうしても、こらえきれない嗚咽。その声を聞きながら、コボルドたちも静かに。主を守るために。警備にあたるのだった。

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ご覧いただいて、ありがとうございます。 見てみた・プレイしてみた感想や誤字脱字の報告を頂けると幸いです。 たまにシナリオに手を加えることがあります。 言葉足らずで不明なところは気軽に質問してください。 adobe のPDFは、見るだけは可能だと思います。もし不都合があれば教えてください。別のアップ方法を調べてみます。   ストックありがとうございます。それを励みにシナリオを作成していけたらと思います。

https://www.pixiv.net/users/60483311

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