2023年06月07日更新

赦してなんて言えない

  • 難易度:★★|
  • 人数:2人~3人|
  • プレイ時間:2~3時間(ボイスセッション)

探索者が追うのは、世間を賑わす指名手配犯。悪逆非道の限りを尽くすその男の真実を知ったとき、探索者はどのような選択をするのであろうか?
 
推奨技能 目星、聞き耳、図書館
準推奨技能 信用、医学、戦闘技能

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ストック

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背景

妻と娘という最愛の家族がいたが、妻の不倫をきっかけに離婚。階段を転げ落ちるように、男の精神は荒み、自暴自棄になっていく。行き場のない妻への憎悪から、男は犯罪を繰り返す。
初めて人を殺した日、男は古びた書店へたどり着いた。悲しくも、偶然その場に居合わせたイゴーロナクの祭司に”グラーキーの黙示録”を渡される。その書物に目を通してしまった男は、徐々にイゴーロナクに体を蝕まれていくのであった。
  
辻井 律(つじい りつ)32歳 男
孤児院出身。幸せを手にいれることを夢見ていた。
イゴーロナクに憑依された。初登場は「ハロウィンシナリオ 迷子の宴」で、兄妹を轢き殺している。過去にも感情任せで何人か殺しており、万引き、窃盗などといった犯罪を繰り返している。
STR9 CON10 POW5 DEX14 APP11 SIZ14 INT5 EDU13
San25 幸運25 アイデア25 知識65 耐久12 MP5 DB0

イゴーロナク
ルルブp207参照

NPC
綾川 琴 (あやかわ こと) 28歳 女性 探偵
辻井律の実の妹。孤児院出身。
兄が離婚をきっかけに豹変したことを不審に思い、独自に調査を始める。
その後、知り合った探索者たちと共に調査をしていく。
結婚しているため、名字は違う。探索者に実妹と知られてしまったら、嫌われてしまうかもしれない。という不安から言い出せなかった。
STR8 CON11 POW11 DEX12 APP11 SIZ14 INT11 EDU19
San55 幸運55 アイデア55 知識95 耐久13 MP11 DB0

内藤 奨(ないとう しょう) 20代くらい 男性 古本屋店員?
ニャルラトホテプ。またお前か。

※探索者は知り合いという設定だと進めやすいと思います。また、NPCの綾川とは知り合って半年です。

導入(一日目)

11月中旬、秋も深まり肌寒く、日が沈むのがはやくなった。午後20時30分、探索者と友人はファミリーレストランにおり、テーブルを囲んでいる。辺りはすっかり暗くなっているが、そんなことはお構い無しに、人々は街を行き交っている。
なぜ集まっているかというと、探索者は今、友人の頼みでとある事件を追っている。その犯罪者は世間を賑わせており、指名手配までかけられている有名人だ。犯罪者の名前は”辻井 律”。今一番新しい犯罪は、兄妹の轢き逃げ事件であることを探索者は知っている。
そこで探索者は、辻井 律の行方を追うべく、明日の捜査の予定を企てているのであった。
※軽くRPを挟む
 
綾川は、探索者に明日の予定を提案した。
 
「辻井が訪れたことのある場所の情報を仕入れることができたの。そして奥さんと子供の居場所も。明日はそこに行ってみない?」
 
探索者が了承すると
 
「明日に備えて、私はもう帰るね。明日の11時に、ここに集合で。」
 
と言い、お金を置いて綾川は店を後にする。
※RPを済ませたら二日目に進む。
 
ファミリーレストランにて集合(二日目)
※持ち物の確認をしてください。
待ち合わせ場所に向かうと、綾川はもう来ており、人数分の珈琲を片手に探索者を待っていた。 探索者の姿を視界に捉えた綾川は、手を振っている。
 
「みんな準備はできてる?」

探索者がうなずくと、綾川は

「まずはこの古本屋から行こうと思うんだけど、良い?」

と探索者に確認をとる。

古本屋

探索者たちが目指す古本屋は、道がいりくむ複雑な路地にあった。知る人のみぞ知る、といった表現が相応しい、暗く、小さな店である。看板もない。
 
綾川は道中
 
「辻井がこの店の袋をもっていた、という情報があったの。」
 
と教えてくれる。
すりガラスと木造のドアがあり、中からほのかに明かりがみえる。
 
コンピューターor図書館で古本屋の情報を得ることができる
内藤 久(ないとう ひさし)という、年老いたお爺さんが一人で営業している。という情報をてに入れる。
 
開ける
扉を開けると、古い紙とインクの香りが探索者の肺を満たす。壁には本棚がいくつも置かれており、どの棚も本でいっぱいだ。人の気配が全くないが、ストーブがついており、明かりもあることから、きっとどこかに店員はいるのだろう。
レジ台と思われるカウンターの奥には扉がある。
 
カウンター奥の扉
『関係者以外立ち入り禁止』とかかれた紙が貼られている。
鍵がかかっているため、入れない。
 
カウンター
新聞や栞が挟まれた本など、あまり整頓されていない。
 
新聞 読む
『悪質ひき逃げ事件。犯人の名は”辻井 律”(つじい りつ)32歳。男性。過去に殺人の前科あり。未だに逃げ続け、逮捕されていない模様。
被害者は兄妹で、兄”有馬 瑠衣”(ありま るい)16歳。妹”有馬 瑠歌”(ありま るか)14歳。
目撃者によると、車は100キロ以上のスピードで信号無視をし、交差点へ突撃。
そして何よりも不思議なのが、兄妹の死体が”何処にもない”こと。
大量の血痕のみを残し、体はどこかへ消えていた。
生きてる可能性は無く、即死で間違いないとの結果がでている。
事件の真相を追う。』
記事はここで終わり、下には兄妹の顔写真が出ている。
 
カウンター 目星
カウンターの下には、本を入れる袋があった。月に向かって何かが吼えているような絵が印刷されている。
 
本棚 目星
どの本棚も隙間なく本が収納されている。だが、隅におかれた本棚には隙間があり、一冊分の本がなくなっていた。ほこりの積もり具合から、大分時間が経っていることがわかる。
 
探索者が本棚を調べていると、背後から声をかけられる。
 
「何かお探しですか?」
 
音もなく突如現れたのは、黒いエプロンをした若い男。白い肌に長いまつげ、女性のような中性的な顔立ちをしている。恐らく店員だろう。
 
店員への質問
お名前は?→「内藤 奨(ないとう しょう)といいます。」
辻井律を知っているか?→「あぁ、最近有名な指名手配犯ですよね。知っています。何ヵ月も前に一度、ここに来ているはずです。」
何か買っていったか?→「何の本だったかは覚えていませんが、確かあなたがみていた本棚にあった本ですね。」
その日、他に誰かいたか?→「そうですね。彼ともう一人男性が。フードを被っていたので顔は見えませんでしたが、なにやら話しているようでした。」
ここを営業しているのはお爺さんでは?→「私の祖父なのですが、もう体も思うように動かせなくて……。時々こうやって、私も手伝っているんです。」
 
店から出る
聞き耳
扉が閉まるその瞬間、店員の男がふっと微笑み。
 
「知りすぎてはいけないことが、世の中には沢山あるんですよ。お気をつけて。」
 
と小さく呟いたのが聞こえた。
 
※再び扉を開けると、男の姿は消えており、カウンターの椅子に老人が座っていた。
老人に男について聞いても、そのような人は知らないし孫もいない。と言われる。
Sanc0/1
 
妻と子供がいる場所に向かう
綾川は
 
「次は辻井の家族だった人たちの調査をしよう。数年前に離婚して、今は新しい夫と娘の三人で暮らしてるみたいね。」
 
というと、妻と娘の写真を探索者に見せる。
妻だった女性は、目鼻立ちがはっきりしており美人である印象をうける。娘も母親に似ていて、利発そうな顔をしている。
 
「こっちの女性の名前は神谷 詩乃さん。30歳。娘さんの名前は神谷 鈴さん。5歳。奥さんの不倫で辻井とは二年前に離婚しているの。」
 
綾川連れられてやってきたのは立派な家が多く立ち並ぶ、閑静な住宅街だ。少し離れたところには、植木に覆われた公園がある。
 
公園
近づくと、ブランコを漕ぐ音が聞こえる。昼間ということもあり、子供が遊んでいるのかもしれない。
聞き耳
ブランコを漕ぐ音しか聞こえない。一人しかいないのだろうか。
 
探索者が公園へ足を踏み入れると、数々の遊具が目に留まる。人気はほぼ無いに等しい。だが、ブランコだけは動いており、そこには一人で遊ぶ小さな女の子の姿があった。
 
女の子
探索者が写真でみた少女、神谷鈴と瓜二つ。
 
話しかける
探索者が話しかけると
 
「だれ?」
 
と不審がる。
※信用に成功すると、会話をしてくれるようになる。
 
お名前は?→「かみやすず、ごさい、だよ!おにいさん、おねえさんは?」
※父親のことを聞いても、彼女は今の父親の存在しか知らない。
辻井律を知っている?→「怖い人でしょ?ママは、この人の名前を聞くと、いつも嫌そうな顔をするの。」
 
探索者が神谷鈴と会話をしていると、背後から
 
「娘に、なにかご用でしょうか。」
 
と、先程写真でみた神谷詩乃が訝しげに探索者を見ている。
 
「ここら辺で見かけない方々ですね。もし、辻井の知り合いなのでしたら、早急にお引き取りください。そして、私たちに関わらないでください。」
 
娘の手を握ると、探索者から一歩、距離をおく。
 
※探索者が上手くRPできないようなら、NPCを使ってRPするとよい。
 
綾川は
 
「私たちは、辻井の行方を追っている者です。そのために情報を集めていまして。もし、何か知っているなら、教えていただくことはできませんか?」
 
信用が振れる 成功
探索者から不信感が消えた神谷詩乃は、情報を教えてくれる。
 
「もう彼とはニ年前に別れていますが、辻井 律は夫でした。その彼から、明後日の夕方に会いたい。と手紙が送られてきているんです。
ですが、私は会う気などありません。呼び出された場所は、ここからずっと離れた廃工場跡です。その日、そこに行けば彼を捕まえられると思います。」
 
それだけ伝えると、軽く会釈をし、娘の手を引いて帰っていった。
 
信用 失敗
探索者に嫌悪感を露にして、娘の手を引くと、その場から立ち去った。
 

帰り道

住宅街からの帰り道、辺りはもう大分暗い。綾川は探索者に話しかける。
 
「実は昨日の夜、家に帰ったら、封筒が投函されてたんだ。私の名前だけで、相手の住所は無し。切手も貼ってなかったの。」
 
と鞄から取り出したのは、A4サイズの茶封筒。
たしかに綾川の名前しか書かれていない。
 
「気持ち悪いな、って思いながら開けてみたら、地図と書き込みがあって……。
ほら、ここ見て。辻井律の家101号室って書いてある。」
 
そこには、赤いインクで囲まれた地図の一部と書き込みがあった。
 
「このまま、家の場所だけ把握しておかない?探索はまた明日ってことで。」
 
地図を頼りにしながら、綾川に着いていくと、そこにはひと気の無い小さなマンションがあった。相当古いようで、風を受けるとぎいぎいと情けない音をたてている。
ぽつりぽつりと点きはじめた街灯に照らされたマンションは、少し不気味だった。
 
「この地図の写真、送っておくから、明日はここに10時集合で良い?」
 
綾川はそう提案し、探索者に地図を送り終えたことを確認すると帰ってしまった。
 

マンションにて集合(三日目)

10時、いつも集合時間より前に来ている綾川の姿が見えない。
電話やメールをしても、返答はなかった。
 
マンション
人はどうみても住んでいないようにみえる。周囲には雑草が生えており、手入れも全くされていない。
 
101号室
“辻井”と手書きでかかれた表札がある。扉には鍵がかかっていなかった。
 
扉を開ける
扉を開けると、中はひどく暗かった。電気をつけようとしても、止められているのかつかない。また、放置されたゴミは酷い悪臭を放っている。
玄関右側には、カーテンのような布がかけられている。
※ライトを使わないで目星-20
 
玄関 目星
女性ものの靴が一足、綺麗に揃えられて置かれている。
アイデア
綾川が履いていたものだ。
 
カーテンの先
カーテンを取り除くと、その先は物置だった。ごみしか詰められておらず、空気は湿っており、かび臭い。
 
廊下
ライトで照らすと、赤黒い大きな足跡が続いていた。すっかり乾いてしまっているが、探索者はその足跡から鉄臭さを感じる。
 
トイレ
水が流れない。水道は止められている。
 
脱衣所
脱衣所には、服が脱ぎ散らかされていた。
目星 服には乾いた血液が大量にこびりついている。
Sanc0/1
 
風呂
蓋がされている。
開ける
浴槽にどす黒い水が貯まっている。濁っていて、とてつもない悪臭に目眩がする。
その水に浮く塊があった。探索者は見てしまう。
水分を含み、もはや原型をとどめぬそれは、死体だ。
顔の損傷が一番激しく、皮膚はめくりあがり、白い骨が露になり、抜け落ちた頭髪が虫のようにまとわりついている。
思わず目を背けたくなるような惨状。胃の内容物が上へ押し上げられるような不快感を探索者は感じる。
Sanc1d2/1d3
医学 死後一ヶ月は経っている
 
リビングに続く扉
開ける
薄暗い。ゴミ、タバコ、食べ散らかした食品などが混ざった臭いがする。腐った食べ物にハエが集り、やかましく回りを飛び回っている。
甘ったるいような、酸っぱいような、形容しがたい臭いに探索者は思わず噎せる。
家具は必要最低限のものしかなく、生活感が感じられない。
 

カーテンが閉められている。隙間からは日光がうっすらとさし込んでいる。
 
引き戸
鼻腔にまとわりつく生臭いような、鉄臭いような臭いがする。
 
目星
扉の下から、液体がつたっている。
探索者が見てみると、それは薄暗い部屋の中でもわかるほど、真っ赤で鉄臭い。じわり、じわりと赤く床を染め、探索者の足元まで及んだ。
理解したくないのに、一瞬で理解してしまう。これは間違いなく、血液であると。
Sanc1/1d2
 
引き戸 開ける
戸を開け、薄暗い部屋をライトで照らす。そこに広がるのは一面の赤、赤、赤。床は血液で満たされ、歩く度にべちゃりと不快な音がする。赤の中心には探索者の見知った顔、綾川琴が腕や手足を投げたし、力なく横たわっていた。
Sanc1d2/1d3
 
綾川
苦悶の表情を浮かべており、頬には涙のあとがある。薬指につけた指輪は血に染まり、身体中に噛みつかれたような傷痕がのこっていた。
常に温かった彼女の手は、その面影もなく冷たくなっている。いつも身に付けていた鞄を大事そうに抱えている。
 
医学
死んでいると確信する。
傷口は化膿している。また死体を見て、襲われたのは昨日の夜であるとわかる。
 

いつも綾川が使っていた鞄。
中には鉛筆とノートが一冊入っていた。
 
ノート
少し血がついてしまっている。
血でへばりつくページをめくると、そこには日記が書いてある。
日付から、探索者が綾川と出会うより前から書かれていることがわかる。
『×月×日 兄さん。
あなたはいつも、失ってばかりだ。
 
×月×日 兄さんはやはり、何かに体を乗っ取られている?
優しかった兄さんを、私は取り戻さなければ。
 
×月×日 兄さんが手に入れた本、それはきっと、人間が読んではいけないものだったのだろう。
いまだに所在がつかめない。
 
×月×日 友人と共に捜査をすることにした。皆、とても良い人ばかり。
だからこそ、もし皆に何かあったら、と思うと怖い。
 
×月×日 私は今日、兄さんが手に入れた本に目を通す。それでもし、私の身に何かがあった場合、皆はその本を読んではいけない。
私は、兄さんが何をきっかけにここまでおかしくなってしまったのか、知らなくてはいけない。
だから、危ないとわかっていても、私はこの本を読むことにする。』
一行分の空白、そして文字が書かれている。
『皆が無事、この事件を解決することを願う。』
 

赤く染まった紙袋をみつける。
月に向かって吼えるなにかの絵が印刷された袋だ。
厚みがあることから、中身が入っている。
 
中身
表紙にかかれている文字を、探索者は読むことができない。
(グラーキーの黙示録 ルルブp108)
 
本を読む
見たことのない文字の羅列。探索者はいくら目を通しても理解することができない。
また、この本に目を通した瞬間、背筋が凍るような、暗闇に引きずりこまれるような息苦しさと恐怖を感じる。これは、人が容易く読んで良いものではない。探索者は直感的にそう思う。
※グラーキーの黙示録を読んだ者は、イゴーロナクとの戦闘の際、イゴーロナクから攻撃を受ける
Sanc1d6/2d6 クトゥルフ神話技能+15
 

テープで貼り付けられた家族写真。父親、母親、そして抱かれている赤ん坊の三人。
刃物のようなものでズタズタに切り裂かれており、顔の部分には画鋲がいくつも突き立てられている。
(辻井家の写真)
 

カーテンが閉められているため、薄暗い。
 
ベッド
血が飛び散っている。枕元にはサイズの違う指輪が2つ置いてあった。
 
指輪
指輪の内側には”Ritsu Shino”とかかれている。
 
毛布をめくる
拳銃が一丁置いてある。硬質でずっしりと重い。弾が一発だけ入っている。
知識 人を殺傷するのに充分な口径であること、そして本物であることがわかる。
 
テーブル
引き出しが一つついている。
中には、ぐしゃぐしゃになった写真と、ノートが入っていた。
 
写真
ばらばらの年齢の少年少女が写っている。
目星 辻井と綾川の面影をもつ子を見つける。また、その二人は手を繋いおり、仲がとてもよさそうにみえる。

アイデア
探索者はこの写真がとられた場所をテレビや雑誌などで見ており、知っていた。ここは、孤児院だ。
 
写真 裏
「幸せになりたい」
と書いてある。文字の大きさはまばらで、小学生が書いたような字だ。
 
ノート
使い古され、所々汚れている。
 
読む
一番最初の日付は、二年以上前のものだ。
『×月×日 俺の何が駄目だったのだろう。 とっくの昔から、妻の一番は俺ではなかったのか。愛していたのは、俺だけだったのか。
 
×月×日 離婚後、妻は娘を連れて出ていった。やっとの思いで手に入れた幸せは、あっけなく壊れてしまった。
 
×月×日 悲しい、という気持ちから、憎しみに塗り替えられていった。心が黒く、性格が歪んでいくのがわかった。気がつけば、俺は犯罪に手を出した。もう、どうなったってよかった。
 
×月×日 初めて人を殺した今日、古本屋にたどり着いた。本なんか読まないのに、その日は何故か立ち寄った。そこで出会ったフードの男に本を渡され、断る気にもなれず受け取ってしまった。少し、読んでみよう。
 
×月×日 本は見たことがないような文字で書かれていて、俺には理解できなかった。だが、読んだ日から記憶が飛ぶようになった。自分が自分ではないような感覚。殺せと囁く声が聞こえる。罪悪感、なんて感じない。
 
×月×日 頭の無い、太った白い男が現れる。夢の話しだ。手の平には口を持っていて……。
 
×月×日 憎しみの元凶を殺そう。何故、今までそうしてこなかった?明後日、廃工場跡に呼び出す手紙も出した。愛しかった詩乃、鈴。待っててくれ。』
最後の日付は、今日の日付けの1日前だ。
 
物置
引き戸が数センチほど開いている。
 
開ける
そこは物置だった。だが、物が溢れんばかりに詰め込まれており、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような有り様である。
子供用の玩具が多くしまわれており、少し触っただけで、雪崩が起きそうだ。
 
物と物の間に革の手帳が挟まっている。
アイデア これは綾川が使っていたものだ。
※Dex×3で雪崩を起こさずに取り出せる。失敗だと耐久地-1
 
綾川の手帳
『私なりに調べ尽くしたデータを記しておく。いつ、私が死んでも良いように。
恐らく、兄が接触してしまったのは、悪行と背徳の邪神、イゴーロナク。
イゴーロナクは、悪事が露呈すると、憑依した人間から姿を現す。姿を現した後は、憑依した人間の体を完全に乗っ取ろうとする。その前に呪文<悪行の退散(オリジナル呪文)>を唱えるか、憑依されている人間を殺す必要がある。
また、イゴーロナクに噛まれた部位は、自然治癒することはない。傷は化膿し、絶対にふさがらない。』
<イゴーロナク ルルブp207>
 
悪行の退散(オリジナル呪文)
イゴーロナクを人間から引き離す呪文。一回につき、1d6のMPを使用。
また、唱えるごとにsanc1d3/1d6が発生。取得には1d3時間要する。
イゴーロナクと呪文使用者のpowを対抗させ、成功すると追い出すことができる。
何人でも加勢することが可能。
 
事の真相を知った探索者が取れる行動はどちらか1つ。
辻井の悪事が露呈することで、イゴーロナクは姿を表すだろう。
そこを狙って退散の呪文を唱えるか、辻井を殺すかのどちらかの選択をすることになる。
では、探索者に問いかける。
"妻の心ない行動によって何もかもを失い、イゴーロナクに支配され、ただ平凡な幸せを願っていた彼を探索者は殺すのか?"
"自暴自棄になり、その結果、人を殺めるような人間に堕落した彼は、まだ更生させる余地があると探索者は思うのか?"
よく、考えて選んでほしい。
※この選択でエンディングが分岐します。
 
四日目
夕方 廃工場跡
夕日に染まった廃工場跡は、静かで寂しげだった。肌に吹きかかる風が冷たい。探索者の影がぐっと伸びた先には、猫背の男が背を向けて立っている。恐らく辻井だろう。
頭髪は長い上にだらしなく、白髪が多くまじっていることがわかる。
 
近づく
人の気配に気がついたその男は、ぐるりと顔を探索者の方へ向ける。伸びきった頭髪の隙間から見える瞳は血走っており、焦点が合っていない。
肌は青白く、生きている人間とは思えないような風貌であった。明確な殺意と憎悪を宿した瞳は、探索者を舐めるように見る。
 
「だれだ?俺が呼び出したのはお前らではない。すぐに失せろ。」
 
低く唸るような、掠れた声が響く。
 
辻井との戦闘
1、 悪行の退散の呪文を使用するには、まずイゴーロナクを出現させる必要がある。辻井が今までやってきた犯罪を突き付け、イゴーロナクを出現させよう。
2、 <悪行の退散>を使うのなら、辻井のINTとPOWが全て無くなる前に成功させなければならない。
3、 グラーキーの黙示録を読んでいる探索者は、イゴーロナクの標的になる。
 
探索者が辻井の悪事の数々を口にだす。すると、壊れた人形のような、不気味な動きを見せる。
焦点の合わない目でじっと、探索者を見つめると、男の体は次第にぶくぶくと膨れあがっていく。まだ完全に乗っ取られているわけでは無さそうだ。
化け物、としかいいようがないその見た目に寒気がする。
Sanc1/1d2
※人間からイゴーロナクに完全に変身したのを見た
Sanc1/1d20
 
エンディング分岐
条件 <悪行の退散>の呪文が成功した。
白熱し、醜く膨れた体が萎んでいく。体が元に戻ると、辻井は膝から崩れ落ち、地面へ叩きつけられた。
久しぶりに取り戻した正常な意識、上手く体を動かすことができずにいる辻井は混乱しているようで、上手く呼吸ができていない。
怯えるような目付きで探索者を見ている。喘ぐように絞り出された声は悲痛でだった。
震える手を伸ばして付かんだのは、懐に隠していたナイフ。辻井は、そっと刃を首元に当て、ぼそりと呟いた。それは、探索者にもよく聞こえる声だった。
「……俺は、赦されてはいけない。赦して、なんて……言えない。」
 
そう言い残すと、何の躊躇いもなく、そのナイフを真横へなぐ。
肉が裂ける音、血管が引きちぎれる音、ごぽりと溢れだす鉄臭い液体。一瞬の動作は、男の命を終わらせるのに十分すぎるほどだった。
男は、自分が知らずに積み重ねてきた罪の重さに直面し、耐えきることができなかった。
本当にこれが最善の選択だったのか。
温かな夕日の姿はどこにもなく、青白い月明かりと肌を刺すような寒さだけが残た。
Sanc1/1d2
 
バッドエンド 「赦されてはいけない男」
クリアボーナス san回復1d6
クトゥルフ神話技能+3
グラーキーの黙示録を読んだ クトゥルフ神話技能+15
 
条件 辻井を殺した。
醜く膨れ上がった体が萎んでいく。体はもとの大きさへと戻っていき、辻井の体は重力に従い地面に叩きつけられた。
濁り、血走った瞳は極限まで見開かれている。ほぼ自我などなかったに等しいだろう。
半開きになった口元からは唾液がこぼれ、顔を汚していた。
辻井の体からは、赤く、ぬめりけのある温かな液体が止めどなく溢れ、辺りには生臭さと鉄臭さが充満していた。
探索者は殺した。数々の犯罪を犯し続け、ありとあらゆるものから命を奪った人だったものの命を。その事実はいつまで経っても消えることはなく、嫌というほど探索者につきまとう。
だが、同時に探索者は、これから奪われるはずだったかもしれない命を守った。その事実も確かであることに変わりない。
自分がとった行動は果たして正しかったのか。眩しいほど明るかった夕日はすっかり沈み、冷たい闇と静寂が探索者を包み込んでいた。
ハッピーエンド 「終止符」
クリアボーナス
San回復1d10
クトゥルフ神話技能+3
グラーキーの黙示録を読んだ クトゥルフ神話技能+15
 
条件 呪文を唱えることも、殺すこともせず、また、グラーキーの黙示録をよんだ。
辻井の体が完全に取り込まれる。頭部のない太った裸の化け物が姿を現した。その化け物は探索者よりずっと巨大で、両手の平にある濡れた口が、ぱっかりと開き、鋭い牙がぬらぬらと唾液で光っていた。
一歩、また一歩と近づく白熱した巨体。その化け物の手はゆっくりと、そして確実に探索者へと伸ばされる。恐怖により、動くことのできない探索者は、自身に伸ばされるその手の平を、恐怖に満ちた眼差しで、じっと見つめることしかできなかった。
ロストエンド 「補食」
 
解説
時空列
三年前 辻井律と詩乃が結婚、娘の鈴を授かる。
二年前 妻の不倫をきっかけに離婚。軽犯罪を重ねるようになる。
一年前 綾川が兄の異変に気付き調査を始める。
半年前 兄がグラーキーの黙示録を手に入れる。綾川が探索者と知り合う。指名手配がつく。
数日前 兄妹轢き逃げ事件
現在 共に探索開始
大体このような時空列になっています。
 
綾川は何故死んだのか?
イゴーロナクは、グラーキーの黙示録を一頁でも読んだ人間に干渉できるようになるため、二日目の夜、辻井の家に単独で侵入した綾川は黙示録を読み食い殺されました。
彼女もきっとこれを読んでしまったら無事ではいられない。という可能性をわかっていながらも、兄がどのようにしておかしくなっていったのかが知りたい。という欲求が勝ってしまったため、死んでしまう形になりました。
イゴーロナクにとっても、邪魔にしかならない存在なので消してしまいたかったのだと思います。
 
妻は何故辻井から離れていったの?
辻井はもともと、優しく、真面目な性格の男です。自身が孤児ということもあり、誰よりも寂しさを知っており、愛情に飢えていました。感受性の豊かな、極めて穏やかな人間です。
ですが、彼の取り柄はそこだけだ。と妻は思ったのでしょう。若いときはよかったのでしょうが、いざ結婚してみると、世間にはもっと条件のよい人間がいたことに気づいてしまった。これが離れていった原因になります。
 
ポストに投函された封筒
ニャルラトホテプが物語を進展させるために与えたヒントです。不可思議なことが起これば原因は大体こいつです。でも今回はあまり登場していません。
 
あとがき
また友人に「後味わるいわ!馬鹿か!」と怒られてしまいそうなシナリオが誕生しました。イゴーロナクを使ったシナリオは、いつか書いてみたかったので満足です。噛まれた傷が治らないとか怖すぎですね。
話の主軸となる犯罪者は、”迷子の宴”というシナリオに少し関係のあるキャラとなっています。興味のある方はぜひプレイしてみてください。(ハロウィンシナリオですが……。)
テストプレイの結果はバッドエンド。友人たちは、まだ更正させる余地があるとかんがえたのですね。人間らしい友人の姿が見れて私は楽しかったです。
質問等なにかありましたらお気軽にご連絡ください。

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