2023年06月07日更新

靴は揃えられた

  • 難易度:★★|
  • 人数:1人~4人|
  • プレイ時間:1時間(ボイスセッション)

7月の半ば。
探索者は、床の固さと服が体に貼りつくような不快感で目を覚ます。
そこは、学校の教室のような場所。
教室の中央にぽつりと立つのは、花瓶が置かれた机。
真っ赤に輝く夕陽に、探索者はどこか寂しげな印象を受けたのだった。
※短時間。ソロでもいけます。
※1/9 マップ画像を加えました

6152

29

ストック

0

コメント

・推奨技能 目星、図書館、聞き耳
・推奨人数 1人~4人
・推定時間 1時間~
  
'画像'
↑手書きマップ
 
【背景】
いじめと虐待を苦に自殺を図った少年、六条 新。
しかし、この状況を面白がったニャルラトホテプによって、死ぬ瞬間に体を乗っ取られ、自殺未遂で終わってしまう。
 
「自分を苦しめたやつらが憎くないか?」
 
という囁きをきっかけに、少年は復讐を始める。
最初はいじめっ子だけに向けられていた憎悪も、傍観していた同級生、見て見ぬふりの教師、……人間全体に向けられていくようになる。
だが、親は殺せなかった。どうしようもなく憎いけれど、いつかは愛してもらえることを信じていた。
 
1日、1週間、1ヶ月、と少年は復讐心を募らせつつも、疲れを感じるようになっていく。
日を追うごとに募る虚無感。
最初は満たされていた心も、いつからか満たされなくなった。
ただ、ニャルラトホテプが楽しむために、支配される日々。頭の中で反芻する怨嗟の声。
窮屈な思いから
 
“あのとき死ねていれば、こんな思いをせずに済んだのに”
 
という思考に変化していく。
 
このような日々を終わらせてくれる人を、少年は待つことにした。
その一人目が、どうやら探索者だったようだ。
 

NPC

六条 新(ろくじょう あらた)
15歳 男 中学生
str11 con6 pow11 dex13 app10 siz15 edu9
ニャルに乗っ取られた少年。自我は残して支配されていたため、時折自由に行動することもできた。自殺ができないよう呪われており、支配から逃れられる日を待ち望んでいた。
 

【導入】

7月の半ば。
床の固さと服が体に貼りつくような不快感で目を覚ます。体を起こし、周りを見渡せば、ここが学校の教室であることがわかる。
(多人数の場合は、周囲を見渡したときに、自分以外にも人がいることに気が付く)
電気はついておらず、薄暗い教室に夕陽が差し込み、探索者を照らしている。
床には中央に花瓶の置かれた机が1つ。それ以外の机は足が折れていたり、粉々になっていたりと、無造作に散らばっている。
※RPを開始してください。
 
・電気
スイッチを押すと、蛍光灯が灯る。
薄暗い教室が明るくなった。
 
・花瓶
萎れた黄色の花が活けられている。花瓶に水は入っていない。
微かに甘い香りがする。
[知識・博物学 -30]
この花の名前はチグリジアであることがわかる。
[知識-40]
花言葉は”私を愛して””私を助けて”であることを探索者は知っていた。
 
無造作に散らばる机
折れて尖った木が剥き出しになっており、注意して触らないと怪我をしそうだ。
[目星]
重なる机に埋もれるようにして、本があるのを見つける。
(DEX*3に成功で取れる。失敗で木片で怪我をするが取れる。HP-1)
 
本→かなり分厚い植物図鑑だ。花言葉までかかれている。全ページフルカラーで、かなり長い間使われているが、大切にされていたのだろう、本はほとんど傷んでいない。
[目星]
掠れているが、裏表紙の下に字が書かれている。
[母国語-20]
六条 新(ろくじょう あらた)と書かれている。
 
[図書館]
本を捲っていると、折れ曲がった付箋がついているページを見つける。
 
読む→花名:チグリジア アヤメ科トラユリ属に分類される球根植物。
開花時期は6月から8月、花色は赤を基本とし、オレンジ、ピンク、黄色、白などがある。
大きく、美しい花だが、この花は短命である。一日花と言い、朝に開くと午後にはしぼんでしまい、たった一日の間しか開花しない。
花言葉:私を愛して、私を助けて、鮮やかな場面、誇らしく思う
 

右にガラス窓が付いた引き戸が1つ、そして緑色の大きなボードが壁に埋め込まれている。
右の引き戸→紙が貼られている。『結末を迎えるのなら、この戸をくぐれば良い。』
鍵は掛かっていない。
[聞き耳]風が吹く音が聞こえる。屋外に繋がっているのかもしれない。
 
ガラス窓→真っ暗で、少しの光すら見えない。
 
[目星]
戸の近くに紙切れが落ちている。
読む→『僕の宝物の本、誰かに隠されて、無くなっちゃった。
両親から貰えた、唯一の物だったのに。』
※ゴミ箱から見つけたメモと同じ筆跡である。
 
ボード→新聞のスクラップが画鋲で留められている。
読む→内容は、ここ数ヶ月間多発している行方不明事件についてだった。
××中学校に在籍する生徒、教師などが日ごとに姿を消しているというものだ。
だが、最近は学校に在籍するものが全員姿を消した後は、住んでいる地域が全く違う所の人間が消えたりと、もはや無差別になりつつある。
[アイデア]
探索者はこの事件を聞いたことがあった。
また、この行方不明事件で、一番最初に姿を消したのは3年A組の六条 新(ろくじょう あらた)であることを知っていた。
 

鍵付きの窓がある。眩しすぎる夕陽が探索者を照らす。
鍵を開けようとしても、異常に固く、開けることができない。
※壊すことも不可能
[目星]
窓の外を眺めていると、突如夕陽が遮られる。
暗くなった視界に広がったのは、真っ逆さまに落下する少年。
死人のような表情の少年は、確実に探索者を見つめていた。
少年は重力に従って落ちて行き、底の見えない闇へと沈んでいった。
Sanc1/1d3
 

西

黒板、教卓、スピーカー、時計、ゴミ箱など、普通の教室にあるものが置かれている。
黒板→チョークで文字が書かれている。
『どうすることが、彼を救うことに繋がると思う?
殺すのか、自殺を許すのか……それとも、生きるべきだと叫ぶのか。』
[アイデア]
※ゴミ箱から少年が書いたメモ紙を見ていた場合
黒板に書かれている字とゴミ箱で見た字は筆跡が違うと気づく。
 
教卓→教卓の上には、生徒名簿と思われる黒いファイルが数冊置かれていた。
3年A組、生徒40名、担当教師4名。3年B組……1年、2年……。
六条 新(ろくじょう あらた)と書かれた名前の欄を除き、全ての名前に赤色の横線が引かれている。
 
スピーカー
ノイズがなっている。
低く唸るような音は、呻き声にも聞こえる。
 
時計
4時30分を指している。
時計の針は1mmも動かず、止まったままだ。
 
ゴミ箱
丸められた紙屑が1つある。
開く→「疲れてしまった。僕はもう復讐なんてしたくない。
何度屋上から飛び降りても、気が付くと、もとの場所へ戻っている。死ぬことができない。なんてひどい呪いだ。
死ぬことを誰かに許してもらうか、殺してもらえないと、僕はいつまでも死ねないのか……。」
 

白い壁に大きく文字が書かれている。
読む→『希望を知るから絶望するのだ。
それなら最初から、夢なんて見なければ良い。』
[アイデア]
※黒板の文字を見ていた場合、同じ筆跡だとわかる。
 

エンディングへ向かう

・戸をくぐった
ガラス越しに見えたのは闇だったが、戸を開けると、夏の香りがする突風、そして目を開けてはいられないような眩しさに襲われた。
再び瞼を上げれば、そこに広がるのはオレンジ色に染まった、寂しげな屋上。
そして、綺麗に揃えられたローファーがある。
一切フェンスが無い屋上のふちには、学ランを見に纏い、こちらに背を向ける少年がいた。
 
声を掛ける→少年は声を掛けられると、頭髪を風になびかせながら、ゆっくりと振り返る。少年の背後には、どす黒い影がまとわりつくように蠢き、不定形モヤが異様な存在感を放っていた。
 
「待ってました」
 
少年の口許が、愉しそうに歪む。
 

エンディング分岐

・条件 少年を殺した
風にあおられながら、静かに微笑む少年は無抵抗だ。少年を軽く押すと、支えを失った体はいとも簡単に宙へ放り出される。
 
少年は探索者を見つめ、唇を微かに動かす。少年の口角は、僅かにつり上がっていた。
 
「__人殺し」
 
少年の背後でうねる不定形なモヤが消え、少年の体は重力に従って、闇の奥底へと音もなく落下する。
これから死ぬというのに、何故か少年は満足げで、穏やかで、先程とはまるで別人のような、実に人間らしい表情をしていた。
 
まるで、『僕と一緒だ』とでも言いたげな、「人殺し」という言葉は、探索者の耳の奥にこびりつき、絶えず繰り返す。
復讐心から人殺しを始めた少年を、探索者は自身の手で殺した。
 
だが、探索者はどうしようもなく醜い復讐の連鎖を断ち切った。これは紛れもない事実だ。
 
__同時に、晴れて人殺しとなってしまった探索者自身の手が、二度と取り去ることができない汚れにまみれたことも、紛れもない事実なのだ。
 
その後、猛烈な眠気に襲われた探索者は、意識を手放す。
再び意識を取り戻すと、そこは何度も見慣れた自室。
夢だったのだろうか、とも思うが、探索者の手は、少年を押したときの感触、温度、制服の手触りが、気持ち悪いほど鮮明に覚えていた。
【ハッピーエンド(メリーバッドエンド?)】
報酬 san回復1d10
少年に植物図鑑を渡した san回復1d3
 
・条件 少年に自殺を促した
にたにたと不気味に笑う少年の背後には、黒い不定形なモヤが蠢いている。
探索者が自殺を仄めかす言葉を発すると、その黒いモヤは色が薄まり、やがて空気に溶け込むようにして消えてしまう。
少年は先程とは変わって、不気味な笑みではなく、少し影のあるような、悲しげな笑みで、探索者を見つめていた。
 
夕陽で赤く染まる少年は、口を開く。
 
「__やっと死ねると思うと、僕は幸せだよ。」
 
探索者と目を合わせながら、少年は一歩、後ろへ下がる。その動作は、真っ逆さまに落ちていくことを表していた。
少年の体が、ぐらりと傾く。
突風が吹き、前髪の隙間から覗かせた少年の瞳は、涙で濡れている。
ひどくゆっくりに見えたその一連の様子と、心の底から幸せそうに笑う少年から、探索者は最後まで目を離すことができなかった。
 
暗闇の奥底へ飲み込まれるようにして少年は、その短すぎる生涯を終える。あまりにも呆気なさすぎる生涯だ。
夕陽は、少年の揃えられた靴と取り残された探索者を照らし続けた。
 
その後、猛烈な眠気に襲われた探索者は、意識を手放す。
再び意識を取り戻すと、そこは何度も見慣れた自室であった。
夢だったのか?と目を瞑れば、細部まで鮮明に思い出すことができる少年の最期。
ふと窓を見やれば、あの時と同じ真っ赤な夕陽が差し込んでおり、あまりの眩しさに探索者は目を細めた。
【トゥルーエンド】
報酬san回復1d6
少年に植物図鑑を渡した san回復 1d3
 
・条件 少年に「生きろ」などと説得した
少年の背後には、くすんだ色をしたモヤが蠢いており、少年は不気味に口角を吊り上げている。
探索者は少年に希望を持つよう、この絶望から少年を救いだすべく、懸命に声をかける。
いつのまにか、不定形なくすんだモヤと少年の不気味な笑みは消えていた。
 
少年は探索者に問いかける。
 
「__僕は人殺しだ。意味もなく命を奪って、殺して、蹂躙したほうが多い。
現実の世界では、誰も僕を求めてくれない。必要とされていない。居場所がないんだ。
……それでも、もう一度やり直せるって、生きるべきだって、あなたは言うの?」
 
探索者の返答を聞き届けた少年は、年相応の笑みを浮かべると、風に吹かれ、崩れるように消えていった。
 
その後、猛烈な眠気に襲われた探索者は、意識を手放す。
再び意識を取り戻すと、そこは何度も見慣れた自室だ。
点けた覚えのないテレビが、喧しくニュースを報道している。
ふと目をやると、そこに写る少年に、探索者は見覚えがあった。思わず、音量を上げる。
 
「××中学校行方不明事件に巻き込まれていたと思われる少年が、今日の夕方、突如現れ、家で遺書を残したあと、自室で首を吊り、自殺を図ったようです。
遺書も公開されています。
 
『今日出会った人に諭されました。
生きるなんて、もう嫌だ。疲れた。と思っていたけれど、その人は懸命に声をかけてくれて、初めて生きてみるのも悪くないかなと思えました。
存在を肯定してもらえたように感じたんです。
 
でも、無駄だった。駄目だった。所詮、気がしたに過ぎませんでした。
家に帰ったところで、色がまばらな汚い痣が増えていくばかり。
一般的な家庭のように、温かな食事が待っていることもありません。
一人でいると、学校での嫌な記憶を思い出してしまいます。
さっきも、居なくなった僕を心配してくれるかなと思いましたが、顔を見るなり殴られてしまったので、口のなかが鉄の味でいっぱいです。
 
やりなおそうにも、学校のみんなは僕が殺してしまいました。
関係のない人を拐って、殺し続けたのも僕です。
僕は笑えないのに、あの人たちは楽しそうに笑ってる。それがどうしようもなく、憎くて、痛くて、悲しくて、羨ましかった。
 
生きることが窮屈です。
生きなきゃいけない、生きるべきだ、死んではならない、諦めるな、という言葉の羅列で呼吸ができません。皆口を揃えて馬鹿みたいにこう言いますが、本当にこの言葉が正しいのでしょうか。
 
希望を持って絶望してしまうくらいなら、最初から希望を知りたくなかった。教えてほしくなんかなかったです。
 
贅沢かもしれません。でも、もし生まれ変わることが許されるのなら、食卓を家族で囲める程度の、温かい家庭に生まれてみたい。
 
一度目は自殺も人生も失敗してしまったけれど、次は成功するといいな。』
警察は少年と事件の関係を探り、また、少年は劣悪な家庭環境に置かれ、いじめなどがあったのではないか、ということを調べていくようです。……」
 
ニュースキャスターの声が遠退いていく。
掠れた血が付着する遺書を見て、探索者は理解した。自分自身が発した言葉がきっかけで、少年の命を奪ってしまったことに。
少年にとって希望となる筈だった言葉が、自殺という形の最悪な結末に繋がってしまった。
 
__あのとき確かに、少年は生きようとしたのに。
 
と、探索者はテレビの前で一人、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
【バッドエンド】
報酬san回復 1d3
少年に植物図鑑を渡した san回復 1d3
後遺症:自分の言葉のせいで、少年を自殺に追いやってしまった。という気持ちから、極度な人間不信を発症。人との会話を避けがちになり、いままで好意的だった人間など、全てを含め、信じることが出来なくなる。どこにも頼れる人がいない、という不安状態から1ヶ月毎にsanc1d2/1d3が発生。
※精神病院にかかることで、この後遺症は取り除くことができる。病院にかかっている場合、sancは発生しない。
※入院期間は2d6か月。その期間中は、この探索者を使用することは出来ない。
 
【解説】
少年はこの支配から解放されることを望んでいる。
だが、自殺では死ねないようニャルに呪われているため、”殺してもらう”という方法と、”第3者から自殺を仄めかす言葉を発してもらうことで、支配から逃げる”の2通りしかない。
説得は、最初は希望を持つことができるが、現実に戻ったとき、やはり自身の居場所は無いということを再確認させられる。
希望を持ったあと、絶望を叩きつけられ、ついに正気じゃいられなくなった少年は自殺を図ってしまう。
だが、"生きても良い"と言って貰えたその瞬間、少年は今までの人生で、一番幸せなときだった筈だ。
 
トゥルーエンドのモヤが消える様子は、ニャルの自殺阻止ループの支配から解放されたことを表している。死んだら面白くなくなる、という理由でニャルは呪いをつけた。
バッドエンドのモヤが消える様子は、探索者の口から発せられる説得の数々を、聞いていられなくなったニャルが何処かに消えただけ。邪神に人間の気持ちは一生わからない。
バッドエンドの自殺は、少年の意思で行うので、ニャルはあまり関係ない。(事の発端はニャルだが)
クローズドサークルから出てしまえば、ニャルの呪いも解けてしまう。=自殺できるようになる。
 
【あとがき】
軽い気持ちでシナリオを書き始めたら、案の定暗い話になりました。最近意図せずとも、全て物語がバッドになっていく気がする。
おかしい。もっと明るくて、短いシナリオを書く予定だったのに……。
テストプレイの結果は、第1弾がバッドエンド。取り憑かれたように「なんで……」とつぶやく友人が印象的でした。本当に優しいですね。みなさん。
第2弾はトゥルーエンドで結末を迎えました。ソロにも関わらずさくさくで良いRPでした。
 
次はハッピーらしいエンディングが書けると良いなと思っています。
何か疑問点などありましたら、お気軽にご連絡下さい。
【靴は揃えられた】を閲覧、プレイ、ありがとうございました。

09cc5f48 18d8 4294 931f 97681bd5e996

Post Comment

ログインするとコメントできます。