2023年06月07日更新

死者蘇生シナリオ【奇跡の対価】

  • 難易度:★★|
  • 人数:1人~上限なし|
  • プレイ時間:1時間(ボイスセッション)

“愛しい人を生き返らす”
 
そのような奇跡と引き換えになる対価は、愛しい者に関する何かだと、探索者はまだ気づいていない。
 
※ソロシナリオです。

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ストック

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形式 クローズド
推奨技能 目星、図書館、心理学
推奨人数 1人
推定時間 30分~1時間
 

【背景】

"死んだものを生き返らせる"
 そのような自然の摂理に逆らうことをするのなら、それ相応の対価が必要だろう。なにも失うものがなく、ただ生き返らせるなんてつまらない。
 奇跡と引き換えの対価は、人間が大切としている思い出……記憶そのものを奪ってしまおう。と、ニャルラトホテプは考える。
 心臓のない彼(彼女)を見たとき、探索者はどのような行動をとるのか。クローンから心臓を抉る?それとも、自分の心臓を抉りだす?
 
 ……はたまた、佇むことしかできないのだろうか。
 

【条件】

・大切な人を何としてでも生き返らせたいという気持ち。
・何を失っても構わないという気持ち。
・過去に大切な存在を失っている探索者。
 ※KPは何かを失う可能性があることを、必ずPLに伝えること。その条件を飲むことができないのであれば、このシナリオを回すことはお勧めできない。
 

【導入】

 探索者は、夢を見ている。薄暗い部屋に佇み、芝居がかった口調で探索者に語り掛けてくる男。顔はよく見えないが、時折、瞳が赤く光った。美しい声を響かせ、男は探索者に問いかける。
 
「死人を蘇らせてみたくはありませんか?愛しい彼(彼女)にもう一度会いたくはありませんか?私の手をとれば、必ず生き返らせてあげられます。
……あぁ、勿論それなりの対価は頂きますが、内容は後程考えることにしましょう。
さぁ、どうしますか?
この機会を逃せば、2度目はありませんよ……。」
 
 探索者が男の華奢な手を取ると、男は心底愉しそうに笑い、そして消えていく。同時に探索者の意識も闇に飲まれるようにして、ぷつりと途絶えた。
 

【部屋1】

 目を覚ます。そこは、汚れの1つもない、真っ白な壁で四方を囲んだ無機質な部屋。照明はないが、なぜか明るい。
 北に扉が1つ、東には小さな本棚、そして探索者の足元には薄汚れた紙が落ちている。周囲を見渡すと、そこには人が倒れていた。
※RPを開始してください。
 
・人
 僅かに呼吸をしており、ただ眠っているだけということがわかる。そして、探索者が彼(彼女)の顔を覗きこんだとき、探索者は目を見開く。彼(彼女)は、探索者の大切な存在である(名前)に瓜二つであった。彼(彼女)は確かに死んだはずなのに、と背筋が粟立ったが、久しぶりに見た(大切な人の名前)に涙が出そうになった。
<Sanc0/1>
 
起こす→声を掛けると、静かに瞼を上げる。緩慢な動作で身を起こし、探索者の顔を見ると
 
「おはようございます。私は(大切な人の名前)様から作られたクローン、NO.114です。
名前はございません。私はただのコピーです。」
 
と抑揚のない声を発する。
 声音は確かに本人の物だが、感情は一切感じとることができなかった。
※話しかけても「私はクローン、ただのコピーです。」の一点張りで会話にならない。
 
・紙
 文字が書かれている。
読む→『そこにいるクローン、あなたの大切な人にそっくりでしょう。
あなたの好きなように使えば良いんですよ。』
裏→『偽物の分際で、彼(彼女)は強がりで、少しばかり優しい。』
 
・本棚
 くすんで汚れた本が一冊と、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語の辞典が入っている。どれも単語から日本語に訳すことができる。汚れた本の表紙には、なにも書かれていない。捲ってみると、色々な話が纏められた雑誌のようなものだ。
 
雑誌[図書館]
探索者はとあるページで手を止める。
読む→「臓器くじ」
 公平なくじで健康な人をランダムに一人選び、殺す。 その人の臓器を全て取り出し、臓器移植が必要な人々に配る。
その下に、文が書き加えられていた。
 
「どんな理由があろうとも、こんなことは許されない。許してはいけない。奪われるものの立場を考えていない。例えコピーであっても、私たちだって生きている。痛みだって感じられる。NO.113」
文字は乱れている。
 
辞典[図書館]
Memory(メモリー):記憶
Speicher(シュパイヒャー):記憶
bons souvenirs (ボンスヴニール):色鮮やかな記憶
ВОСПОМИНАНИЕ(ヴァスパミナーニエ):思い出
 
・扉
 白いスライド式の扉だ。鍵は掛かっていない。
 また、白いボードがあり、そこには人間の頭部のイラストが書かれている。その頭部の中で、文字が書かれている。
 
・白いボード
読む→memory, Speicher, bons souvenirs, ВОСПОМИНАНИЕ
と書かれており、これらの文字は上から線が引かれ消されている。
[知識-30か、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語]
どれも”記憶”や”思い出”という意味
 

【部屋2】

 先程の部屋より薄暗い。北に扉が1つあり、西には棚がある。東の壁には大きく文字が書かれていた。
 
・棚
2つ折りになった紙がある。
読む→『そのクローン、あまりにも似すぎだと思わないかい?何故だと思う?
 
……それはね、彼(彼女)の心臓を使っているからさ。』
 
 読み終わると、クローンが探索者に話しかける。
 
「私は、この心臓を持ち主に返すべきだと考えております。私は死にますが、この心臓はそもそも私のものではありません。あなたは、どうするのですか。」
 
 表情は相変わらずで、淡々と喋る様子に人間らしさは微塵もなかった。
 
[心理学]
 クローンから発せられた言葉は、少し震えており、強がっているように感じられた。
 
・東の壁の文字
 薄暗くても分かるような、鮮やかな赤色で書かれた文字。
 
読む→『なにもしなくたっていい。傷つくのは自分だけだから。
自分の心臓を差し出してもいい。誰も傷つかないから。
クローンの心臓を抉りだしてもいい。君は幸せになれるから。』
 
・扉
スライド式のドアには、貼り紙がある。
読む→『この先で、(探索者の名前)を待つ。』
馴染みのある、彼(彼女)の筆跡だ。
 

【部屋3】

開ける→扉を開けると、室内はよりいっそう暗さを増していた。だが、部屋の奥には白く光る扉があり、この暗闇の中で存在を主張している。
 部屋の中央には微かに照明がついており、大きな椅子に腰かける人の姿があった。遠目からでもはっきり分かる。あれは(大切な人の名前)だ。
 
・大切な人
 彼(彼女)は目をつぶっており、微塵も動かない。それもその筈、心臓が納められている左胸の部分はぽっかりと穴が開き、椅子の背もたれが見えていた。乾いた血液は衣服を広範囲に渡って汚す。失われた体温、青ざめた肌。
 やはり、彼(彼女)は死んでいるのだと、再確認する。<Sanc0/1d2>
 彼(彼女)は、手に磨き抜かれた鋭利なナイフをもっている。
 
・白く光る扉
文字が浮遊している。
読む→『怖じけ付いたのなら帰りなさい。いつもの日常が繰り返される世界へ。』
 

エンディング分岐

・条件 自分の心臓を与えた
 ナイフを握りしめ、それを自身の胸へ、躊躇うことなく突き立てる。痛覚はあるようで、あまりの痛みに呼吸を忘れる。傷口が熱い。荒く呼吸をする度に、鉄臭い液体は溢れ続ける。
 テープを千切るような、分厚い布を切り裂くような音が聞こえるが、探索者は構うこと無く肉を刻む。《sanc1/1d2》
 柔らかく、脆すぎる人間の体からは、あっという間に脈打つ心臓が切り離されていた。身体中を血にまみれさせ、彼(彼女)のもとへと醜く這おうとする。
 だがその頃には、探索者の意識は無く、手のひらで脈打つ心臓の音だけが不気味に響いていた。
 
声が聞こえる。視界は真っ暗だ。
 
「あなたは、自身の命を差し出したのですね。素晴らしい自己犠牲です。
 
おめでとうございます。彼(彼女)は再び、この世に蘇りました。
 
……対価の件ですが、あなたからは彼(彼女)の記憶を、彼(彼女)からはあなたの記憶を奪わせて頂きます。
 なぁに、互いを知らない二人に戻るだけです。誰も傷つかない、幸せな世界です。
 
目覚めれば、あなたたちは全てを忘れている。
 
よかったですね。
 
__生き返って。」
 
 笑う(大切な人の名前)の姿が、泡のように弾けとんだ。
 
 自室の寝具の上で、目を覚ます。夢を見ていたようだが、どんな夢だったかうまく思い出せない。いつもの事だと特に気に止めなかった探索者だが、視界は何故か滲んでいく。
 
 ぽとりと落ちた温かな滴は、探索者の服に小さな染みをつくり、広がる。
 
__探索者は泣いていた。
 
 どうして泣いているのか、わからなかった。どうしてこんなに心臓が痛いのか、わからなかった。
 形容しがたい感情が押し寄せ、探索者を混乱させる。
 
 探索者は不意に溢れだした涙を、ただ拭うことしかできなかった。
《ハッピーエンド》san回復 2d3
 一生互いのことを思い出すことはないだろう。また、巡り会うことも二度とない。
  
・条件 扉から帰ることも、心臓を抉ることも、なにもしなかった
 探索者は、自身の心臓を抉りだすことも、クローンから心臓を抉りだすこともしなかった。
 眠っているかのように目をつぶる(大切な人の名前)を見つめ、立ち尽くす。彼(彼女)に魅入られてしまったかのように眺めていると、突如、探索者は強烈な眠気に襲われ、床に倒れるようにして眠りに落ちてしまう。
 
声が聞こえる。
 
「あなたは何もしなかったのですね。それも1つの選択です。
 
彼(彼女)はもう、息を吹き返していますよ。あなたがやらなかった代わりに、私がクローンから心臓を抉りましたので。
 
そして、対価ですが……(大切な人の名前)さんから、あなたに対する記憶を頂きました。彼(彼女)はもう二度とあなたを思い出すことはありませんし、あなたと巡り会うこともありません。
 
良いじゃないですか。
 
__傷つくのは、願ったあなただけでしょう。」
 
 探索者の名前をしきりに呼ぶ、(大切な人の名前)の声が聞こえた気がした。
 
 自室の寝具の上で、目を覚ます。夢とは思えないような現実味を帯びた体験だった。
 あれがもし、現実なら……。と、探索者は彼(彼女)へ連絡を取ろうとする。
 だが、そこに(大切な人の名前)は無かった。何度探しても、見つからなかった。探索者の身の回りからは、彼(彼女)に関するものが、全て消滅していた。
 
__もとから、(大切な人の名前)なんて人物は、存在していないとでも言うように。
《トゥルーエンド》
クリア報酬 san回復1d3
クローンを傷つけなかった san回復1d3
※写真、連絡先等、大切な人に関する情報は全てを抹消されている。それは、相手も同様である。
  
・条件 クローンから心臓を抉った
 一歩、また一歩と距離を確実に縮める探索者。クローンは、逃げることも叫びだすこともせず、静かに探索者を見つめていた。
 探索者はナイフを握りしめて、思いっきり振りかぶり、それを(大切な人の名前)に似た、彼(彼女)の胸へ突き立てる。
 大切な彼(彼女)と瓜二つの体を切り裂いていると思うと、気持ち悪さと辛さで胃が押し上げられ、今にも胃液をばらまいてしまいそうだった。辺りは濃密な血液の生臭さで満ちており、探索者の気分を悪化させるには十分すぎる。
 ナイフが骨を掠めるたびに、ナイフが柔らかな肉を削ぐたびに、クローンの体温が奪われていく。
 クローンは顔色1つ変えことなく、心臓が抉られていく様子を眺めている。人間と同じく痛覚はあるはずなのに、呻き声の1つもあげないクローンに、探索者はまた気味が悪くなった。《sanc1d2/1d3》
 体から切り離しても、脈を打ち続ける不気味な心臓を抱え、彼(彼女)のもとへ行こうとしたとき、抗うことの出来ぬような眠気に襲われた探索者は、心臓を大事そうに抱き締め、そのまま意思を手放してしまう。
 
声が聞こえる。
 
「あなたはクローンから心臓を抉りましたか。愛するもののためなら手段を選ばないのですね。あなたが手を汚したおかげで、彼(彼女)はすでに、息を吹きかえしています。
 
では、対価を頂きましょうか。
私があなたから貰うのは、(大切な人の名前)に関する記憶の全て。彼(彼女)はあなたの事を覚えていますが、それでは可哀想なので……二度と巡り会えないようにしておきました。
 彼(彼女)のことを覚えていられるのも、目が覚めるまでです。
 
……幸せじゃないんですか?
 
__彼(彼女)と同じ世界を、再び生きれるようになったのに。」
 
 高らかな笑い声と共に、探索者の意識は薄れていく。目覚めたくない、忘れたくないと懸命にもがくが、抵抗は虚しく、何の意味もなさなかった。
 
 真っ暗な世界の中、(大切な人の名前)は探索者に手を伸ばしている。彼(彼女)は探索者の名前を呼びながら、泣いていた。
 
 自室の寝具の上で、目を覚ます。夢を見ていたようだが、どんな夢だったかうまく思い出せない。だが、いつもの事だと特に気に止めることなく、探索者は普段の日常を繰り返す。
 
__蘇らせたいと願うほど愛しかった、彼(彼女)の存在など忘れて。
《バッドエンド》クリア報酬 san回復1d3
  
・条件 白く光る扉をくぐり帰った
 扉をくぐると、光は一層強くなり、目を開けていられないほどの眩しさになる。どれほどの時間が経ったのだろうか。再び目を開けると、そこは自室の寝具の上。カーテンの隙間からは朝陽が差し込み、朝を迎えたことを告げる。
 きっと、会いたいという気持ちから見てしまった只の夢だろう。
 そう自分に言い聞かせ、探索者はいつもの日常へと戻っていく。
 
__彼(彼女)のいない、いつもの日常へ。
《ノーマルエンド》クリア報酬 san回復1d3

【あとがき】

 シナリオプレイ、閲覧ありがとうございます。
 実は私、死者蘇生シナリオが苦手でして。死をひっくり返して生き返らすなんていう大業なことをするのなら、何か失うものがなければならないと思っていますし、
円満に終わるなんてあってはならないとまで思っています。(円満に終わらせろよ!と友人に怒られましたが、気に留めてません)
 そこで私は、代償として愛するものに関する記憶を奪わせていただきました。記憶がなくなっても、同じ世界に存在できることを幸せと感じれるか。死んでいても、永遠に記憶の中で行き続ける方が幸せと感じれるか。少々難しい話ですね。
 
 テストプレイの結果は1回目がバッドエンド。忘れてしまったら元も子もないだろう。というのが、友人の言い分でしたが、本当にそうでしょうか?探索者の一番の望みは愛する亡き人を生き返らすこと。それは叶えられています。こんなの酷いというのはおかしな話です。
 見事に生き返った探索者は忘れられて不幸かもしれませんが、二度と会えずに済むようしてあります。探索者が再び傷つかないように。
 2回目はハッピーエンド。そもそもクローンを起こさなかったですね。それがハッピーエンドに繋がったのかもしれません。2回目に協力してくれた友人は、これはハッピーエンドだと納得してくれましたが、すこし悲しい。というのが本音だそうです。
 ハッピーエンドだって、とっても救われていると私は思うのですが。第三者目線からだと辛いのでしょうか。1回目に協力してくれた友人には、全部バッドエンド。と言われました。そういった反応もあるんですね。面白かったです。
 やはり、このシナリオは賛否両論分かれると思うので、PLとよく話し合ったうえで行ってほしいと思います。

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